第7話:正義の地雷系女子は、血の海の中で微笑む
休日の午後の大型ショッピングモール。吹き抜けの広場は、ガラスの割れる爆音と自動小銃の乾いた連射音によって、一瞬で地獄絵図へと変貌した。
重武装したテロリストの一団が突入してきたのだ。逃げ惑う群衆、泣き叫ぶ子供たち。
そんな混乱の真ん中で、私は買い物の紙袋を持ったまま、ひとり静かに佇んでいた。
「きゃーっ! たすけてっ!」
「おい、そこの女! 動くな!」
テロリストの一人が、震える親子に銃口を向けようとしたその瞬間――私はお気に入りのベレー帽の位置を整え、意図的に大きな足音を立てて前へ踏み出した。
「大丈夫……! ここは、私に任せてっ!」
可憐で、健気で、どこか儚げな地雷系女子の声。
逃げ惑う人々が一斉に私を振り返る。スマホのカメラを向け始める者、息をのむ者。
そう、これで舞台は整った。ここからは、私の「承認欲求」を極限まで満たすための最高のショータイムだ。
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太もものホルスターには、冷徹に敵を排除できる銃が収まっている。
けれど、そんなものをスマートに使って無傷で勝ってしまったら、ただの「強いヒーロー」で終わってしまう。私がなりたいのは、限界まで身を削り、泥を啜りながら人々を守る、「儚くも過酷なヒロイン」だ。
だから私は、あえて銃を使わない。
それどころか、洗練された殺し屋としての格闘技術すら封印し、あえて素人のような拙ない動きで突撃した。
「舐めるな、ガキがぁ!」
ドシュッ!
前に出た私の身体に、テロリストの放つ猛烈な銃弾が吸い込まれていく。
高速で回避するのをやめ、急所だけをわずかにずらしながら、あえて正面から弾丸を受け止めた。
肩を、太ももを、腹部を、連続して銃弾が穿つ。
衝撃で私の華奢な身体が大きく跳ね、鮮血が舞った。ブラウスが破れ、傷口から勢いよく赤が吹き出す。
「あっ……ぐうぅ……っ!」
激痛。前世の痛がりな自分が脳内で狂ったように絶叫する。
血の止まりにくいO型の肉体から、容赦なく命が零れ落ちていく。だが、神様から貰った『酷使耐性』と、私の歪んだ性癖、そして何より「みんなに見られている」という強烈な承認欲求が、その地獄のような痛みを極上の快楽へと変えていく。
「化け物か!? なんで倒れねえんだ!?」
怯む敵に対し、私は華奢な足で必死に地を蹴り、最小限の力で泥臭く組み付いた。
スマートな投げ技ではなく、自分の身体を投げ打つような愚直な体当たり。相手のナイフが私の脇腹を深く抉るが、私はその激痛を噛み殺し、執念だけで男の首元を締め上げた。
一撃もらうたびに血を吐き、身体中に新しい「穴」を開けられながら、泥臭く、泥臭く、一人ずつテロリストを物理的に押し潰していく。
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最後の一人が倒れた時、ショッピングモールには静寂が訪れていた。
広場の真ん中に立っているのは、体中穴だらけで、服はズタボロ、金髪ボブの毛先まで血に染まった一人の少女。
血の海の中にぽつんと立ち尽くす私の姿は、あまりにも痛々しく、同時に神々しいまでに綺麗だったはずだ。
周囲から、ぽつり、ぽつりと歓声とすすり泣きが漏れ始める。
『あの女の子、一人で……』
『自分を盾にして守ってくれたんだ……』
『写真……動画……SNSに上げなきゃ……!』
無数のスマホのレンズが、血塗れの私に向けられる。
「可哀想」「すごい」「可愛い」「助けてくれた」――溢れかえる無言の称賛と視線が、私の全身の傷口から染み込み、脳を麻酔のように痺れさせていく。あぁ、たまらない。これよ。この瞬間のために、私はこの身体を壊したの……!
駆け寄ろうとする警察や人々の声を背に、私は崩れそうになる足を執念で支え、冷徹な仮面を被り直した。
「……みんなが無事で、よかった」
血を拭った唇で、儚く、どこまでも健気に微笑んで見せる。
そして、差し伸べられる助けの手をすり抜け、私は振り返ることもなく、足跡として血の軌跡を残しながら、夜の街の闇へと姿を消した。
明日には「街を守った謎の地雷系ヒーロー」としてネット記事やSNSが埋め尽くされるだろう。
路地裏の冷たい壁に背を預け、激痛と失血で霞む意識の中で、私は手鏡に映るズタボロの自分を見つめ、今日一番の恍惚とした笑みを浮かべた。




