第6話:尊厳を踏みにじる、最悪で最高のゲーム
殺し屋としての任務を完璧に遂行し終えた深夜。血濡れのナイフを収めた私は、まだ満たされない狂気と欲求を抱えて夜の街を彷徨っていた。
任務で傷つくのは、いわば「仕事」。
けれど、私が真に欲しているのは、この完璧で可愛い「ルナ」という女の子の尊厳を、自らの意思で徹底的に踏みにじる背徳の戯れだ。
ターゲットに選んだのは、高架下の暗がりに溜まる、タトゥーに身を包んだ柄の悪い大男たち。
私はお気に入りのピンクのブラウスを少し肌が覗くように乱し、トタトタと危うい足取りで彼らに近づいた。
「ねえ……お兄さんたち」
鈴を転がすような甘い声。
男たちが振り返り、無防備で華奢な金髪ボブの少女を目にした瞬間、その瞳にギラついた下心が宿るのを見逃さなかった。
――パシッ。
次の瞬間、私は笑顔のまま、先頭の男の頬を思い切り叩いた。
「っ……んだと、ガキが!?」
「あはっ、手が滑っちゃった。……粗暴で馬鹿そうな顔してるから、ついつい叩きたくなっちゃって」
完全に挑発だった。
任務なら一瞬で首を跳ねる相手。けれどこれは、私の「遊び」だ。最初に手を出して大義名分を与え、彼らの暴力を全身で受け止めるための、最悪の自傷行為。
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「このアマ……ナメてんじゃねえぞ!!」
怒り狂った男の太い腕が振り下ろされ、私の華奢な顔面を激しく殴りつける。
ガツンッ!
視界が火花を散らし、美しい鼻筋から朱の血が吹き出す。口内が切れ、鉄の味が広がった。
続いてお腹へ蹴りが叩き込まれ、私の身体は小さく宙を舞って冷たいコンクリートへ打ち付けられた。
「あぐっ……ふうぅ……っ!」
激痛。前世の痛がりな自分が「やめろ!」と悲鳴を上げる。
けれど、神様から貰った『酷使耐性』と、私の歪んだ執念がそれを最高の快楽へと変えていく。
服が泥と血で汚れ、お気に入りのスカートが破れ、大事な女の子としての矜持もプライドも、泥靴で踏みにじられていく感覚。あぁ……素晴らしい。最高に可愛い私がいま、最低な男たちに理不尽に踏みにじられている!
「どうしたの……? 体が大きいだけで、女の子一人満足に壊せないの……?」
血を吐き出しながら、私はフラフラと立ち上がった。
足はガクガクと震え、体中が青あざと切り傷で「穴だらけ」のズタボロだ。なのに、瞳だけは冷たく、男たちを煽り続ける。
「この化け物……! まだ立つのかよ!?」
二人がかり、三人がかりで暴行が再開される。
鉄パイプが肩を砕き、ナイフが太ももを浅く裂く。私は一切反撃しない。超人的な身体能力を「攻撃」ではなく、「どれだけ殴られても倒れずに耐え抜く軸の維持」だけに集中させていた。
殴られ、蹴られ、血を撒き散らしながらも、絶対に倒れない。
膝をつきそうになっても、冷徹な殺し屋の意地と、歪んだ性癖の執念だけで、ゆらりと立ち上がり続ける。
「はぁ……はぁ……もう一回、来なさいよ。……それとも、疲れちゃった?」
不敵に微笑む私。その全身は血みどろで、見るも無惨な有様だった。
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数十分後。
高架下には、荒い息を吐きながら荒地に倒れ込む男たちの姿があった。
どれだけ殴っても、蹴っても、刃物を刺しても、その金髪の少女は壊れた人形のように立ち上がり、嘲笑ってくる。
「ひぃ……化け物だ……もう無理だ、殺しても死なねえ……!」
人間の限界を超えた怪異を前に、男たちの精神は恐怖で砕け散っていた。体力を使い果たし、恐怖で過呼吸を起こしながら、彼らは這うようにして逃げ出していく。完全に、自滅だった。
「あら……もう終わり? つまらないの……」
男たちが去った後、私は壁に背を預け、ズルズルと座り込んだ。
全身の痛みが、脈打つたびに脳を焦がす。
服はズタボロ、尊厳は微塵もなく、誰が見ても哀れで無惨な「被害者」の形をしている。
けれど、私の心を満たしているのは、狂おしいほどの達成感と恍惚だった。
手鏡を取り出し、血と泥に汚れた自分の顔を映す。
こんなに可愛いのに、こんなにボロボロ。自分自身の手で作り上げた、最高の哀れなヒロイン。
「ふふ……あははっ! 今日の私、今までで一番……惨めで、最高に可愛いわ……」
傷口の痛みを慈しむように抱きしめながら、私は夜の暗闇の中で、一人静かに悦びの吐息を漏らした。




