第5話:致死の毒には、撃ち抜いた自傷を
「チッ、また増援……っ!?」
路地裏の闇から現れた二人組の男。彼らが構えたのは、通常の硝煙を上げる銃ではなかった。微かな空気の破裂音と共に、私の華奢な首筋に鋭い衝撃が走る。
――麻酔銃。
注射針から強力な昏睡薬が急速に血管へと流れ込んでいく。普通の人間、いや並の暗殺者であっても一瞬で意識を刈り取られるほどの即効性。私の視界が急激に歪み、膝がガクガクと震え出した。
「おい、効いたぞ! 動きが止まった!」
「へへ、どんなに強くても、眠っちまえばただの小娘だ……」
男たちが勝ち誇ったように近づいてくる。けれど、彼らは致命的な計算違いをしていた。
神様から貰った『酷使耐性』があるとはいえ、私は常に、体中穴だらけの肉体が発する猛烈な激痛とリアルタイムで戦い続けているのだ。脳を揺るがすような激痛の嵐に比べれば、麻酔薬がもたらす眠気など、心地よい微睡みにも満たない。
「……眠る? 私が?」
溢れそうになる睡魔を、脇腹の裂傷を自ら強く指で抉ることで強引に掻き消す。脳が弾けるような新しい痛みが神経を駆け巡り、歪んでいた視界が一気にクリアに引き締まった。
前世の私なら失神していたかもしれないその激痛が、今の私にとっては最高に冷徹な覚醒剤だ。血塗れの金髪ボブを揺らし、私はふらつきながらも不敵に微笑んでみせた。
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「な、なんだって……!? 麻酔が効いてないのか!?」
驚愕する男が、今度は実弾の拳銃を狂ったように連射してくる。
私は最小限の動きで弾道をずらしたが、一発の弾丸が私の左の二の腕を深く貫通した。その瞬間、傷口から焼けるような異様な痛みが広がる。
――神経毒。弾頭に致死性の毒物が塗られていたのだ。
血の止まりにくいO型の私にとって、毒が全身に回るスピードは人一倍早い。数分もすれば心臓が止まる。手元に解毒剤はない。
「あはっ……本当に過酷。でも、対処法なら簡単よ」
私はためらうことなく、右手に握った自分の愛銃の銃口を、いま毒弾が貫通したばかりの『左腕の傷口』へと直接押し当てた。
「おい、何を――」
ドンッ!!
至近距離での爆音。私は毒に侵された部位ごと、自分の腕を自分の銃で綺麗に撃ち抜いた。
火薬の熱が傷口を焼き、毒素が含まれた肉片と血液が、新たな弾丸と共にまとめて向こう側へと吹き飛ぶ。
「ぐっ……あ、あああああっ……!!」
さすがに声が漏れた。骨を削り、肉を焼き千切る自傷の激痛。前世の私なら精神が崩壊していただろう地獄の苦しみだ。けれど、執念で悲鳴を噛み殺し、それを艶やかな吐息へと変える。
「……これで、毒のついた肉は綺麗になくなったわ」
硝煙が立ち上る、完全に抉れて「さらに大きな穴」が空いた左腕。そこから流れる鮮血を、私はお気に入りのリボンで丁寧に、そして力強く縛って止血する。
自分の身体を自ら撃ち抜く狂気と、それを冷徹に実行する圧倒的な美学。
ボロボロになり、自らの血でスカートを真っ赤に染めながらも、私の青い瞳は一点の曇りもなく敵を捉えていた。
「さあ、私の可愛い身体をここまで追い詰めてくれたご褒美よ。……死んで?」
恐怖で引きつった男たちの顔を見つめながら、私は残った右手で、ゆっくりと引き金に指をかけた。




