第4話:華奢であるための自傷と、最小限の舞踏
超人的な身体能力を発揮するためには、本来ならそれに見合った強靭な筋肉が必要だ。
けれど、ゴツゴツとした筋肉の鎧をまとうなんて、私の美学が絶対に許さない。前世の私が夢見た「とびきり可愛い女の子」は、どこまでも華奢で、折れそうなほど繊細なラインをしていなければならないのだ。
だから私は、あえて筋肉を増強させるような肉体強化を拒んでいる。
その代わり、限られた細い筋肉の出力を極限まで高め、無駄なエネルギーを一切削ぎ落とした「最小限の動き」で戦う道を選んだ。
夜の廃工場。私を包囲したのは、大柄な男たちで構成された武装集団だった。
彼らが振り下ろす鉄パイプや重い拳が、容赦なく私の身体へ迫る。普通の殺し屋なら、大きくバックステップを踏むか、力で受け流すだろう。けれど、細い足で大きく跳び回れば無駄に筋肉がつき、シルエットが崩れてしまう。
「ふふ、そんな大振りじゃ、風を浴びせるだけよ」
私は、ひらりと翻る黒のミニスカートの可動域だけを使い、最小限のステップで軸をずらす。
動きやすさを重視して選んだミニスカは、私の太ももの動きを一切邪魔しない。ただ、避けるのは本当に「最小限」だ。
ゴンッ!
避きれなかった硬い拳が、私の華奢な脇腹にめり込む。
内臓が押し潰されるような衝撃と、肋骨がきしむ激痛。神様から貰った『酷使耐性』がなければ、その場で悶絶して動けなくなっていただろう。けれど、私はただの「痛がりな男の子」ではない。執念で痛みを美しい微笑みへと変え、肉体をあえて「攻撃を受け止めるクッション」として機能させる。
「痛い……。でも、これであなたの位置は固定されたわ」
攻撃を「受ける」ということは、敵の身体が私の至近距離で完全に静止する瞬間を作るということだ。
華奢な体で大振りの攻撃を避けるために体力を消耗するくらいなら、あえて肉体で一撃を受け止め、その反動を利用してカウンターを叩き込む方が、圧倒的に効率が良い。
ボタボタと口元から血を流し、脇腹に酷い青あざを作りながらも、私の動きは冷徹そのものだった。
密着した敵の喉元へ、ミニスカの裾から抜き放ったナイフを最短距離で突き刺す。無駄な予備動作は一切ない。ただ、肉体のバネを最小限に解放するだけで、男の巨体が崩れ落ちた。
「化け物め……動きが最小限すぎて、次の行動が読めねぇ……!」
怯む次の敵に向けて、私は返り血を浴びた金髪ボブを揺らしながら、ゆっくりと歩を進める。
体中に打撲と切り傷を作り、血に染まりながらも、私の四肢はどこまでも細く、折れそうなほどに美しいまま。
余計な筋肉を削ぎ落とした華奢な体だからこそ、傷を負った姿がこれ以上ないほどに映える。ズタボロになりながら、最小限の洗練された動きで大男たちを蹂躙していくこの瞬間、私は間違いなく、世界で一番美しく、過酷なヒロインだった。




