第2話:包帯とリボンと、歌舞伎町の冷たいコンクリート
激しい抗争の夜が明け、私はいつもの寂れた廃ビルの屋上にいた。
「よし……これでよし、と」
手鏡で確認しながら、血に汚れた金髪ボブの毛先を丁寧にコームで梳かしていく。昨晩、マフィアの男たちに囲まれて戦った代償は小さくない。お気に入りのピンクのブラウスは引き裂かれ、露出した肩や脇腹には、何かに深く抉られた生々しい「穴」がいくつも穿たれていた。
激痛で指先が震える。けれど、私の『酷使耐性』はその痛みを極上の甘美さへと変換する。
「あはっ……本当に酷い有様。でも、だからこそ愛おしいわ」
ピンセットを使い、傷口の奥深くに入り込んだ銃弾の破片や異物の破片を、一本ずつ丁寧に抜き取っていく。ピンと張り詰めた静寂の中、肉が微かに蠢く音が響く。消毒液をたっぷり染み込ませた綿棒で傷口を拭うと、脳が焼けるような劇薬級の刺激が全身を駆け巡った。
それでも私は、お姫様がドレスを整えるように上品に、そして女性らしく丁寧に、自らのズタボロな肉体を労わっていく。白い包帯を傷口に優しく巻き付け、最後に可愛いリボン結びで留める。
どれだけ無残に壊されようとも、私は私を世界で一番可愛い女の子として扱い続けるのだ。
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手当てを終えた私は、夜通しの戦闘による疲労と失血の限界を迎え、賑やかな繁華街の路上へと流れ着いていた。
現在の私の家は、この冷たいアスファルトの上。過酷なホームレス生活こそが、私の理想のシチュエーションを完成させる最後のピースだった。
「ん……眠い……」
リボンやフリルがボロボロになった地雷系の服を身にまとったまま、私はとあるビルの壁際にぽつんと座り込む。周囲を行き交う人々は、血の滲む包帯を巻いた金髪の少女を怪訝そうに見るが、関わり合いを恐れて誰も声をかけてこない。
コンクリートから伝わる容赦のない冷気が、酷使された筋肉の熱を奪っていく。地べたに直接足を投げ出し、スカートの裾が泥で汚れようとも気にしない。スマホを握りしめたまま、カクンと首を傾げて深い眠りに落ちていく。
少女が一人、深夜の路上で完全に無防備に眠る。それがどれほど危険で、過酷なことか。
時折、私の財布や体を狙って近づいてくる不届き者の気配がする。だが、彼らはまだ知らない。この眠り姫の仮面の下で、超人的な身体能力を秘めた殺し屋の牙が、いつでも彼らを返り討ちにする機会を窺っていることを。
薄れゆく意識の中で、私は自らの境遇に狂おしいほどの悦びを感じていた。
体中穴だらけで、ボロボロで、行くあてもなく路上で眠る最高に可愛い女の子。あぁ、前世の私が憧れた理想のヒロインに、私は今、完璧になりきれている――。




