第10話:路地裏の王国と、歪んだ血のスパルタ
「いい? 相手が警察でも、親でも、あなたの自由を奪おうとするなら……重心を崩して、ここを狙うの」
深夜のコインパーキング。私の周りには、真剣な眼差しで私の動きを見つめる地雷系女子たちが集まっていた。
私が教えた「護身術」は、一般的な身を守るための技術ではない。
殺し屋としての洗練された体捌きと、自分の身体を痛めつけることすら厭わない狂気をベースにした、「相手を躊躇なく無力化するための最短ルート」だ。
彼女たちはもともと、家庭環境や学校に居場所がなく、深夜の街を彷徨っていた少女たち。
私の過酷で容赦ない指導に悲鳴を上げながらも、体中を痣だらけにして食らいついてきた。
「ルナちゃん、こう……!?」
「そう、上手いじゃない」
数週間もすると、彼女たちの身に付き始めたのは単なる技術だけではなかった。
どんな相手にも怯まない冷徹な鋭い視線と、傷つくことを恐れない狂気。私という存在をロールモデルにしたことで、彼女たちはただの繊細な少女から、誰も手出しできない「夜の街の脅威」へと変貌を遂げていた。
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その効果は絶大だった。
深夜の歌舞伎町、夜遊びする娘を引きずり戻そうと現れた過保護な父親が、少女の細い腕を強引に掴もうとした時のことだ。
少女は私が教えた通り、最小限の動きで相手の関節を極め、一瞬で父親を地面に膝をつかせた。
「な、なんだ……この力は……!?」
「私に触らないで。ルナちゃんに教えてもらったから、もうパパの思い通りにはならないよ」
補導しようと近づいてくる警察官たちも同様だった。
複数人で囲もうとしても、少女たちは私の身体能力の片鱗を再現するように、最小限のステップで間合いを外し、警察官の喉や関節へ容赦なく牽制の指先を突きつける。
「おい、やめろ! 危険だ!」
「手を出したら、その太い腕、折れちゃうかもよ?」
血の滲む包帯を巻き、どこか冷徹な笑みを浮かべる少女たち。
その背後に見え隠れする私の影と、彼女たちの本気の狂気に圧され、警察官すらおいそれと手出しができなくなってしまったのだ。
大人たちの支配から完全に脱却した彼女たちが選んだのは、家へ帰ることではなく――私と一緒に街で生きることだった。
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「ルナちゃん! 今日の寝床、あっちのビル裏の風が当たらない場所取っておいたよ!」
「これ、コンビニで買ってきた! ルナちゃんのお気に入りのタピオカ!」
路地裏のダンボールとビニールシートの上。
私は相変わらず、深夜の戦闘で負った脚の貫通傷と腕の重傷を抱えたまま、冷たいコンクリートに座り込んでいた。
前世の私は、学校に友達一人おらず、誰からも必要とされない陰キャの男子高校生だった。
事故で死んだ時も、誰にも惜しまれなかったような人間だ。
それなのに――。
今、私の周りには、私を狂信的に慕い、私の真似をして少し傷だらけになった可愛い地雷系女子たちが、寄り添うように集まっている。
「ルナちゃんと一緒なら、路上生活も全然つらくないよ」
「うん。ルナちゃんが街のルールだもんね」
彼女たちは私の膝に頭を預けたり、傷だらけの私の体を気遣うように抱きついてくる。
太ももの貫通傷に彼女たちの体が触れるたび、脳を焼き切るような激痛が走り、私は心の中で甘い悲鳴を上げた。
(あはっ……痛い……! でも、なんて素敵なの……)
体中の穴という穴から走る激痛。冷たい路上での過酷なホームレス生活。
そして、私を「カリスマ」として崇め、共に夜を明かす少女たち。
前世では想像すらできなかった「友情」や「居場所」が、まさかこんな歪んだ形で手に入るなんて。
「みんな、ありがと。……でも、夜風は冷えるから、もっと近くによりなさい?」
私は可憐に微笑み、彼女たちを華奢な腕で引き寄せた。
体中ズタボロの私が中心に座る、路地裏の小さな王国。痛みに震えながらも、私の心はこれまでにない温かさと恍惚感で満たされていた。




