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001 【扉絵】──あとで塩でも撒こうぜ
──ここに勤めて四人目か。次はわたしの番かもね。
呉葉は目の前で繰り広げられる甚だ不快な騒動を、燃え盛る焔の如き目で睨め付けながら、心の中で呟いた。
「あいつは発達障害者だ!」
「今すぐ、クビにしてしまえ!」
発達障害者だと罵声を浴びせられた痩身の男性は、翌週、特例子会社へと転籍させられた。
彼は送別会どころか、離職の挨拶すらさせてもらえず、その日の夕方、夕闇の空に紛れて一人で会社を出ていった。
「これで、職場がよくなるな」
「いなくなってくれて、よかったぜ」
「あぁ、清々したわ」
「あとで塩でも撒こうぜ」
そんな罵詈が、障害を持たない社員の口から、怒気とともに衝いて出る。
“塩を撒くって何なんだ。あの人が、そんなに迷惑をかけたのか!”
と、呉葉は憤り、影ながら痩身男性のことを憐れんだり、謂われのない不浄扱いを嘆いたりして、発達障害者の悲惨な人生を想った。
──────呉葉もまた、発達障害者だったからだ。