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000 Epigraph
『これから将来、五年十年と経つて、稀に皆さんが小学校時代のことを考へて御覧なさる時に──。
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――あゝ、あの高等四年の教室で、瀬川といふ教員に習つたことが有つたツけ――。
あの穢多の教員が素性を告白けて、別離を述べて行く時に、正月になれば自分等と同じやうに屠蘇を祝ひ、天長節が来れば同じやうに君が代を歌つて、蔭ながら自分等の幸福を、出世を祈ると言つたツけ。
――斯う思出して頂きたいのです。
私が今、斯ういふことを告白けましたら、定めし皆さんは穢しいといふ感想を起すでせう。
あゝ、仮令私は卑賤しい生れでも、すくなくも皆さんが立派な思想を御持ちになさるやうに、毎日其を心掛けて教へて上げた積りです。
せめて其の骨折に免じて、今日迄のことは何卒許して下さい。』
斯う言つて、生徒の机のところへ手を突いて、詑入るやうに頭を下げた。
『皆さんが御家へ御帰りに成りましたら、何卒父親さんや母親さんに私のことを話して下さい。
――今迄、隠蔽して居たのは全く済すまなかつた、と言つて、皆さんの前に手を突いて、斯うして告白けたことを話して丁さい――。
――全く、私は穢多です、調里です、不浄な人間です。』
島崎藤村『破戒』より──。




