35.潜入調査
食堂の閉まった夜更け過ぎ、絢斗とエミリオ、シーユウの三人の姿が通路沿いの休憩スペースにあった。三人は顔を近づけて、これから始める潜入調査の作戦会議をしていた。
「なあ、本当に行くのか?」
絢斗は不安そうな顔をエミリオに向けた。
「もう中央管制室で騒ぎを起こしてもらっているんだ。腹をくくれよ、絢斗」
いつまでも決心の付かない優柔不断さを責めるように、エミリオは絢斗の背中を押した。
「そうそう、思い切りが大事だよ」
シーユウの言葉を聞いても、絢斗の心には不安しか湧いてこない。
「シーユウ、監視カメラは大丈夫なんだろうな」
「任せて! 昨日の映像をループさせているから、中央管制室からはわからないはずよ」
「なんだ、シーユウ。やればできる子じゃないか!」
エミリオに頭を撫でてもらってシーユウも満更じゃない表情だ。
絢斗の心には不安しか湧いてこない。
「せめてレーシャを連れて行かないか?」
「何、馬鹿なことを言ってるんだ? 足手まといはシーユウだけで十分だろう。あまり人数が多いと見つかるぞ」
「そうそう、って私、役立つから! 超役立つから!」
シーユウが慌てて自分の有用性をアピールし出す。
――レーシャは俺らの誰よりも強いんだが……。
絢斗たちが物陰で作戦会議をしている内に、中央管制室の騒ぎを抑えるために救助要請が入ったようだ。食糧倉庫を監視していた者たちも二人を残して中央管制室に向かって行った。
「オープンセサミってとこだな」
エミリオが両手を掲げて呪文を唱える。
「いくらなんでも警備がザルすぎるだろう」
「監視カメラもあるからな。安心しているんじゃないか」
エミリオの意見は楽観的過ぎて不安しか湧いてこない。
「それにしても……、まあいい。残った奴らはどうする?」
「俺が柔術で締め落とせば解決だな」
「エミリオ、お前はいつ柔術を習った?」
「エブリキャストの映像でしっかり学習したからな」
エミリオの言葉がどこまで本気なのか、絢斗は深く突っ込むのを止めた。
「シーユウ、監視所の前を普通に通ってくれ。俺たちは死角に隠れて後ろから襲う」
「了解、隊長さん」
絢斗の指示に、シーユウはおどけて敬礼のまねをしてみせた。
「顔を見られないように袋を被せて縛り上げるか」
エミリオは口を開かない方が良い仕事をしそうだった。
監視の男たちは目の前を歩いて横切る女生徒を見て、最初は目の錯覚かと思った。あまりにも堂々と進入禁止エリアに入っていったからだ。声をかけるのも躊躇われたが、正気に戻った二人は慌てて後を追いかけようと部屋を飛び出した。
「あっ、おい、そこの!」
部屋を出ようとした男がエミリオの足払いで転んだ。後ろから追いかけていた男も、前の男に足を引っかけて床に転がった。
絢斗は床に転がった男の顔に袋を被せると、腕を極めて押さえつけた。隣のエミリオも手際良く無力化したようだ。足早に帰ってきたシーユウに、無言で後ろに回した両手を縛るように指示した。
騒がれても困るが、窒息死されても困る。袋の上から口をタオルで縛ると、袋に穴を開けて呼吸を楽にした。使われていない小部屋に二人を転がすと、監視所に戻ってゴム弾を撃ち出す銃を手に取った。
「これ、どうやって撃つんだ?」
「確か、ここらにセーフティがあったはず、ああ、ここだ」
絢斗の隣で破裂音が聞こえた。床を跳ねたゴム弾は広くない部屋の中を跳ね回った。思わぬ銃撃に身を伏せて回避する。しばらくして運動エネルギーを失ったゴム弾は床に転がった。
「シーユウ、お前は銃を持つな!」
「ごめんなさい、引き金がこんなに軽いと思っていなかったの」
エミリオはバツが悪そうに顔を伏せるシーユウから銃を奪った。危うく潜入の序盤でゲームオーバーになるところだ。死因がフレンドリーファイアではシャレにならない。
「それじゃあ、気を取り直して食糧倉庫を調べますか!」
エミリオの明るい声に導かれて、三人は監視所を後にした。
中央管制室の前に集まっていた学生たちはエインヘリャルとの対話を要求していた。時間を改めるように伝えても、学生たちは解散しなかった。クインは警備科に学生たちを抑えさせる一方で、彼らの行動に何か違和感が拭い去れなかった。
――夜討ち朝駆けでもあるまいし、こんな時間に抗議だと。何か別の意図を持っているに違いない。
クインの脳裏に閃くものがあった。食料の横流しを指摘されて慎也が反応を見せた際に、絢斗がこちらを窺う目だった。何か僅かな情報でも引き出そうと躍起になっている目だ。
――そういえば奴らは食糧の備蓄量についての証拠を探していたのだったな。
「おい、半数をここに残して、私に付いてこい。食糧倉庫に向かうぞ!」
クインは外からはうかがい知れないが、珍しく上機嫌だった。この指示が空振りに終わるならそれでも構わない。しかし、クインの勘が当たったときには、これまで悩ませてきた問題が一つ解決する。クインはギャンブルをしない男だったが、この直感に賭けてみたくなった。
――さあ、踊ってみせてくれ。それが私の掌の上であるなら楽しみだ。




