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平穏無事な生活がしたい  作者: misuto
第2章学園編
30/33

2-16中央大陸大会③


「いよいよ決勝戦ね。カオルはどっちが勝つと思う?」


茜色の空の下、闘技場の観客席に座るサラは隣に座るカオルへ声を掛けた。

これから行われる魔術の部決勝戦。勝ち進んだのはシンとエイサー教授。

エイサー教授は試合をする前から優勝候補として見られていたが、シン(ジン講師)についてはほとんどの観客が決勝まで残るとは予想していなかった。

決勝までに行ったシンの試合は2回。そのどちらもあっけない試合だった。

初戦は4属性を使う混合(ハーフ)種族(エルフ)(エルフ族・人族)のエルビスというロンドベル学園の講師。シンが試合開始と同時に接近したがエルビスは<火属性魔術:火矢>を放ち、シンが水を纏わせた杖で迎撃したことで水蒸気によって視界を奪われ、立ち止まったところで<複合魔術(土・時空):落とし穴>に落ちて、止めとばかりに落とし穴の中に<水属性魔術:水球>を落とされ水没した。

しばらく様子を見ていたエルビスが落とし穴の中を確認するため近づいたときに落とし穴から突然現れた手に両足の足首を掴まれて落とし穴に引きずり込まれて、落とし穴の水が光ったら白目を向いたエルビスが浮上してシンがあがってきたことでシンが勝利した。

2回戦目は会場に使われている石を使い巨大ゴーレムを作り出したフェイト聖教学園の神官講師ムントに対してシンは重力魔術を巨大ゴーレムにかけた。

巨大ゴーレムは自重に耐え切れずに崩壊。崩壊に巻き込まれたムントは気絶したことで勝敗が決した。

カオルは会場で対峙するシンとエイサー教授から視線を外し、サラに向けて「聞かなくてもわかるだろ」と笑みを浮かべた。


「そうね。私もそう思うわ。でもエイサー教授が持っている杖を見ているともしかしたらッて思ってしまうのよね」

「そうだな。エイサー教授からはそれほど魔力を感じないがあの杖からはこれだけ離れていても強い魔力を感じる。これまでの試合も杖が魔術を行使して、エイサー教授はただ杖を持っているだけの存在に思えた」

「ええ、エイサー教授は10属性の魔術が使えるらしいけど、あの杖の力かもしれないわね」


エイサー教授の持っている杖には色の異なる10個の玉がはめ込まれている。

エイサー教授が10属性の魔術を使用できるのではなく、あの杖が10属性を使用しているように思えた。

しかし、そんな杖は聞いたことがない。


「これまで表舞台で杖を使わなかったのはそれを知られたくなかったからかもしれないわね」


サラの推測は正しく。エイサー教授が持つ杖の存在はこれまでサクティ公国が全力で隠していた。今回エイサー教授を魔術の部に出場させたのは今日各国に知られたとしても問題ないとサクティ公国は判断したからだ。そんなことを知る由もないサラはただ杖についての感想を述べるだけに終わった。


「それはわからないが、エイサー教授が決勝までの3試合で10属性を使っていたことは確かだ。勝敗は変わらないだろうが、苦戦は免れないだろう」

「そうね。だけどジン先生が持っている杖があの『七宝具』で、その力を最大限引き出すことが出来るとしたら心配いらないわ」


周囲にホープン学園の生徒もいるためシンの名前を出さないように心がけているサラはカオルの言葉に頷きながら、会場で開始の合図を待つシンに目を向ける。

シンの右手には先端に動かすと色の変わる玉、各所に見たことのない金属で加工された杖が握られている。

サラはシンが持っている杖と同じ特徴を持つ杖についてある文献で読んだことがあった。


『七宝具』:杖・剣・槍・手綱・弓・戦棍・?の7種類の形があり、それぞれ特別な力を有していると言われている。


もしも、文献通りの力が本当にあるのなら、そして使用したのなら勝敗は一瞬で決まるはずだ。しかし、これまでの試合では文献にある力は使われていない。使わないのかそれとも使えないのか。まさか自分の杖の事を知らないはずはないと思うけど…。

魔術の部は武術の部で禁止されていた魔術が無制限に使用できる。

そのため魔術の部では時折死ぬ可能性がある魔術が使用されるため、シンが死ぬことは考えられないが怪我を負う可能性はある。

「怪我がありませんように」と祈っていると審判の「はじめ!」という声と共に試合が始まった。



「はじめ!」


観客席の一角に設けられた審判席から審判が試合開始を告げた。

魔術の部では審判が魔術に巻き込まれて死亡する事故が過去にあったことから、魔術の部だけは審判は観客席の一角に設けられた審判席から仕事をすることになっている。

試合開始と共にシンはエイサー教授へ向けて駆けた。

エイサー教授の身体は枯れ木のように細い。接近戦に持ち込み一気に勝敗を決する作戦だったがシンの思惑通りにはならなかった。

エイサーが右手に持っている杖でトンっと石の地面を突くと杖を中心に会場は氷の世界へと姿を変えていく。

<複合魔術(水・風・時空):氷結世界>

1つの空間を切り取り、別の世界に作り替える魔術。魔術の中でも最高クラスの魔術だ。

人族では特殊スキルや称号を持っていなければ越えることが出来ない【魔術LV.Ⅴ】を遥かに超えた【魔術LV.Ⅹ】が必要で、しかもそれが水・風・時空の3属性必要な魔術を発動できる人族は中央大陸ではエイサーを含めて3人しかいない。

アレクに魔術を教わっていたシンは使用された魔術を知っていた。そのため、凍った地面に触れる寸前。【空中歩行】のスキルによって空中を足場にすることで触れれば凍ってしまう地面から逃れ、息をすれば肺まで凍るような冷気を【全属性耐性】と黒竜甲冑の温度調整機能によって耐えた。

空中を足場にしてエイサー教授へ接近するシンだったが嫌な予感が頭をよぎり、咄嗟に横へ飛んだ。

ザシュッ。

鮮血が凍てつく世界に舞い、瞬時に固まり地面へと落ちていく。

鎧を斬られただけでなく、右上腕に出来た傷口は【自動回復】によってすぐに塞がり、黒竜甲冑の自動修復機能により斬られた箇所は元へ戻った。しかし、一瞬でも冷気に触れた箇所は凍傷にかかったような痛みとは別に身体が焼かれるような激痛がシンを襲うがそれは一瞬の事ですぐに治まった。

しかし、シンは痛みを感じた瞬間。右腕を詳細鑑定してそこに記載されている内容を見て絶句した。


(まさか。殺す気か?)


先ほどまでいた場所には自らの血によって赤くなったことで輪郭を現した円錐状の氷の棘。その棘にも右腕に激痛をもたらした『白死花の蜜』という1本の花からとれる蜜でドラゴンを殺すことが出来る猛毒が記載されていた。

透き通るような氷で作られた棘。血で赤くなっていなければ確認することも困難であっただろう必殺の攻撃を見て頬を冷や汗が流れる。


(この状況はまずいな)


この氷の世界はエイサー教授が作り出した。つまり、相手の手のうちにいることになる。

かすった程度であの激痛だとしたらまともに受ければ意識を失う可能性がある。


(どうにかこの状況を打開しないと)


シンが状況の打開のため策を考えようとした矢先、無数の氷槍が下から飛んできた。

内心舌打ちをしながら【立体移動】【空中歩行】のスキルを駆使して、氷槍を避けていると視界に一瞬だがエイサー教授を捉えた。


(やはりあの杖に秘密がありそうだ)


一瞬ではあったがエイサー教授が持っていた杖にはめ込まれている玉の内、水・緑・紫・青・透明の5つが光を放っていた。

エイサー教授を選手控え室で鑑定した時のMPは平均的な人族と同等。また、使用できる魔術も土属性しかなかった。本当に学園長から聞いていた通り10属性が使えるのか疑問に思っていたがエイサー教授の持つ杖を鑑定したときにもしかしたらと考えていた。

エイサー教授の持つ杖の表示内容は全て『?』で、神スキルの詳細鑑定を使っても読み取ることが出来なかった。

だが、杖に秘密があることが分かっても現状反撃をする一瞬の隙を作ることが出来ない。

黒竜甲冑の自動防衛機能も手伝い、躱し続けることが出来ているが一向に攻撃の手が止むことはなく徐々に氷槍の数が増えて躱すことが困難になっている。


(どうにか一瞬でも動きを止めることが出来れば…くそ、間に合わない!)


真上からも氷槍が降ってきたため捌ききれなかったシンに数本の氷槍が突き刺さる。

全身を駆け巡る激痛。突き刺さったままの氷槍から身体に侵入する猛毒に身体を蝕まれては回復する終わらない連鎖にシンは意識を失いそうになりながら地面へ向けて落下を始める。地面に落ちれば全身が氷漬けにされて、さらに氷槍に貫かれればシンでも死ぬ可能性があった。


(生きたいか?)


ゆっくりと遠ざかっていく茜色の空を見ながら誰かがシンへ語り掛けた。


「お前はだれだ?」


頭に直接語り掛けた声からの答えはない。先ほどの質問に答えないと答えが返ってこない気がしたので答えを口にする。


「死ぬ気はない」

(だが、このままだと死ぬかもしれないぞ)

「そうだな」


痛覚が麻痺したのか槍がささったままなのに痛みを感じない。怪我を負っているとは思えない程冷静に話せている。先ほどまで激痛を感じていたのに、だがこの感覚を知っている。今では遠い昔の事のように思えるが以前もこうして刺されて死んだことがあった。あの時も死ぬ直前は痛みを感じなかった。


(生きたいか?)

「そりゃあ、生きたいさ。まだまだ行ったことがない場所や食べたことがない料理、他にも色々したいことがたくさんある」

(ならば、私の名前を呼べ。そして、これからは私をアイテムボックスの肥やしにしないことを約束しろ)

「…お前はだれだ?」


アイテムボックス?声の主はアイテムボックスに入れていた物だというのか?

シンは今一度、この声が誰なのか訊ねた。


(お前の右手に握られているだろう)


右手?

右手には杖が握られている。祖父から譲り受けた大事な杖が…


(さあ、私の名前を呼べ。アレクの孫よ)


杖から頭の中へ『七宝具セブンヴィ―ル』についての情報が流れ込んでくる。

彼女の願いを知ったシンはその名前と共に彼女の願いを叶えることを約束する。


「約束しよう。セブンヴィ―ル」


呟いた瞬間。右手に握っている『七宝具セブンヴィ―ル』は光を放ち、杖から剣へ姿を変えた。そして光がシンを包み、突き刺さっていた氷槍を溶かし、飛んでくる氷槍も光に触れた瞬間消えてなくなった。

シンが着地すると光に触れた凍った地面は元の石の地面へと戻った。シンを包み込んでいた光は消えることなくシンの身体を守るように光を放ち続けている


「なんじゃ。あれは…」


視線の先には息絶え絶えなようすのエイサー教授が杖に寄りかかりながら目を見開いて立っていた。魔術攻撃も止んでいる。

攻撃の手が止まった瞬きするほどの間。シンは【神速】を使用した。

エイサー教授の目の前に移動したシンは【神速】と同時に使用した【未来予測】によって、杖から魔術が発動される未来が見えたためエイサー教授の右腕を斬り落とし、胸倉をつかむと剣の切っ先をエイサー教授の首元に添えた。


「降参する」


か細い声ではあったが首元に添えられた剣を見つめながらエイサー教授が降参を宣言したことで勝敗は決した。

審判からジン講師の勝利宣言が出るまで少し時間を要したが、無事試合が終了した。右腕が切り飛ばされた直後に<氷結世界>は消滅し、元の石の地面に戻ってから救急隊員がエイサー教授へ駆け寄ったが治療を断り、杖を拾ったエイサー教授は自分で右腕は治した。

そして、剣を杖に戻し、身体を包んでいた光が消えてから会場を去ろうとするシンの背中に声を掛ける。


「お主はいったい何者だ」


シンは一度足を止めて空中に文字を書き残してその場を後にした。


『ただの新米講師ですよ』


シンの言ったことは正しい。講師になって4ヶ月にも満たない新米講師。しかし、先ほどの試合を見ていた者でそれを信じる者はいなかった。だが、それ以上追及しても答えが返ってこないだろうと思ったエイサーも会場を後にした。

こうして魔術の部、そして中央大陸大会全試合が終了した。

残すは表彰式のみ。表彰式は闘技場で行われるため、大会職員が会場に入り、準備に取り掛かった。



(おい、セブンヴィ―ル)

(なに?お兄ちゃん)


試合会場から着替えのために闘技場にある選手控え室へ戻る途中、右手に握っている『七宝具セブンヴィ―ル』に話しかける。セブンヴィ―ルの言葉は直接頭に聞こえるので、喋らないでも話が出来ると思い実行したら無事話をすることが出来た。出来たのだが、突然『お兄ちゃん』というものだから、立ち止まってセブンヴィ―ルを折ろうと両手で握ると。


(ま、待て。冗談ではないか。無言で折ろうとするとはなんと乱暴な奴じゃ!?アレクはそんな…いや、奴にも酷い扱いをされたのう。よいかレディーにはもっと優しくせぬか!)


焦った声で懇願したので今後はしないことを約束させてから話を再開する。


(それで、どうして今頃になって話しかけてきたのか教えてもらえるか?)

(お主は先ほど(わらわ)の事をしたであろう。一度所有者が変わると50年間は所有者以外持つことも出来なくなる。あそこでお主に死なれては困るのだ。それに、森を出てからというものお主は(わらわ)をアイテムボックスにしまったまま数回しか出さなかったではないか!新たな所有者の事を知ってから名前を教えようと思っていたら今回お主が死にそうになるのでまだ判断できない状況ではあったが仕方なく名前を教えたのだ。こうなっては仕方ないが約束は守ってもらうぞ)


セブンヴィ―ルの言う通り、これまで戦闘で使うことは今回の魔術の部までなかった。

杖を使うほどの状況はこれまでなかったし、こうして話しかけられない限り、まさか意思を持っているとは想像もできないだろう。


(ああ、約束は守る。これからはアイテムボックスに入れて放置することはしない)

(それならよい。主、これからよろしく頼むぞ。)


セブンヴィ―ルとの話を終えて、選手控え室へ戻り、破けた服や下着を交換してから選手控え室を出ると部屋の近くで待っていたカオル、サラ、リムの3人が駆け寄ってきた。

3人は優勝したことについて祝いの言葉をかけてくれてくれると次に怪我の心配をされた。

その後、表彰式の後に行われるパーティーのこと等について話をしていると表彰式がはじまる時間になっていたので会場へ向かった。



「新人の部優勝 イレミア皇国ホープン学園。代表カオル・イレミアに賞金と副賞を授与する」


一段高い舞台には新人・一般・武術・知識・魔術の各部の優勝国の代表と優勝者が並んでいる。彼らと対峙するように立つのは開催国サクティ公国公王アンビティウス・サクティ。

その後ろには大会の職員が賞金や副賞の授与の手伝いとして控えている。

各国の王侯貴族や代表者、生徒、講師、その他観客が見守る中、賞金が入った革袋と副賞が手渡される。

副賞は持てない程大きい場合は車輪が着いた台に乗せられて渡されるが今回カオルが受け取った副賞は<癒しの甕>という魔力を流すと軽度の傷を治すことが出来るポーションを生み出す両手で抱えられる大きさの甕だった。

その後一般の部の賞金と副賞をサクティ魔導学園の代表が受け取り、シンの番となった。

シンは武術・魔術の2つの部で優勝しているため、まとめて渡された。


(結局、国に渡すのに優勝者が受け取る意味があるのか?)


受け取ったのは獣剣フェロジータスと魔力移譲が出来るようになる指輪だった。

賞金と共に受け取り、元の位置に戻ると最後の知識の部優勝者エイサー教授が魔術の部で使っていた杖を持って公王アンビティウスの前に移動した。賞金の次に手渡された副賞は小さな箱。開かれた箱の中央には赤色の玉が鎮座している。

エイサー教授が持っている杖にはめ込まれている玉と色違いの玉。エイサー教授は自然な表情で受け取り元の位置に戻る途中、突然箱から赤い玉を取り出し杖にある窪みにはめ込んだ。

なぜ突然そんなことをするのか会場にいる大半の者が理解することが出来ず、エイサーの手からすべり落ちた箱と賞金が入った袋からこぼれでた金貨が舞台に落ちる音が響く中、公王アンビティウスだけが焦った表情でエイサーに掴みかかろうとする。しかし、公王アンビティウスの手がエイサーの肩を掴む前にエイサーは持っている杖で舞台をついた。

その時、会場にいる全ての者が目を閉じた。

杖が舞台に触れた瞬間発せられた光は公都の城門を警備している騎士も見ることが出来るほどの光だった。

光がおさまり、会場にいる者が目を開けた時、エイサーは膝を突いて拝むように正面に立つ白い人型に頭を下げていた。人型の顔はのっぺらぼうのように人であればないとおかしい器官がついていなかった。


『お前が封印を解いたのか?』


頭に直接響いてくる声。人型の顔の部分がエイサー教授を向いていることから今の声はエイサー教授へ掛けられた言葉だとシンは思った。


「はい、左様でございます。魔術の神、魔神様。どうぞ、あなた様の杖にございます」


エイサーは頭を下げた状態で持っていた杖を魔神と呼んだ存在に捧げるように差し出した。


『そうか。よくやってくれたね。顔をあげていいよ。お前には特別に対価無しに願いを1つだけ叶えよう』


杖を受け取り、ご機嫌になったのか声を弾ませた魔神は『1つだけ願いを叶える』と言った。その言葉にエイサーは顔をあげてまっすぐ魔神を見つめながら願いを口にしようとした時、それを遮るように公王アンビティウスが魔神の前に膝を突いて話し出した。


「お待ちください!俺もあなた様の封印を解くために協力いたしました。どうか『うるさい、黙れ』」


魔神の怒気がこもった声に「ひぃ」と怯えた声を出した公王アンビティウスは口を閉ざした。


『矮小な人風情が誰の許可を得て発言している。今日は機嫌が良いから見逃してやる。下がれ』


腰が抜けたのか。へたりこんだ公王を勇敢な騎士が駆け寄り、両脇を抱えて引きずりながら魔神から離れていく。

魔神は公王から興味を失ったのか。再びエイサー教授を見下ろした。


『邪魔者がいなくなったから、今一度聞くよ。願いはある?』

「はい、私の願いこの世界誕生のから現在までの歴史を知ることです。どうか私の願いを叶えていただけますよう。伏してお願い申し上げます」


深々と地面に額を擦りつけるように願った内容は普通の人間では考えられないような願いだった。


『そんなことで良いの?望めば、世界を手に入れる力だってあげるけど』

「私はだれかを支配することも強大な力も望みません。私が望むのは唯一つ。時と共に失われた歴史でございます」

『………わかった。その願い叶えてあげるよ』


魔神は杖をエイサーへ向けて願いをかなえようとしたが、その前にエイサーが言葉を続けた。


「それともう一つお願いがございます」

『欲張ってはダメだよ。願いは1つだけ。もう1つ願いがあるなら今度は等価の対価をもらうよ』

「私の願いはこれから起こる歴史を見ることです。対価としてあなた様に私の身体を差し出します」


エイサー教授の言葉に会場にいる者全員が信じられない者を見る目でエイサー教授を見つめていた。


『あは、ははははははは。面白い。面白ね、君。そんな願いを口にしたのは君が初めてだ。いいよ、その願い叶えてあげるよ』

「ありがとうございます」


魔神の杖から光がエイサー教授へ放たれた。

ドサッ。

光が止んだ時、エイサー教授は力なくその場に倒れた。顔からは生気があるようには見えない。死んだのか?


『じゃあ、君の身体。対価としてもらうよ』


白い人型がエイサー教授の身体に入っていく。そして、全てが入った時、エイサー教授の身体が光を放ち、次第に身体が小さく、若くなった。

光が止むとそこには10歳前後の金髪の少年が立っていた。服も仕立てられたようにぴったりの物。少年の手には先ほど魔神が持っていた杖が握られていた。

少年は何度も自身の身体の色々な場所を触って感触を確かめ、一通り確認を終えると突然声を出して笑い始めた。


「はははははは、僕は運がいい。封印から解放された直後に身体を手に入れることが出来るなんて。封印される前に失った体と比べたら脆弱だけど、時間を掛ければ大丈夫だろう」

「魔神よ。どうか、俺の願いもかなえてくれ」


ご機嫌な様子の魔神にまたもや公王アンビティウスが駆け寄り、膝を突いて嘆願した。

先ほど腰を抜かしていたのにもう治ったのか。それとも魔神が少年の姿になって近寄りやすくなったのかもしれない。

先ほど公王アンビティウスに対して怒気を込めた声で下がらせた魔神は、今度は不機嫌そうな顔にはなったが下がらせることはしなかった。


「お前か。先ほど話に割り込んできた者が僕に何を願う。この身体を手に入れて、貴様が僕の封印を解くために多少なりとも力を使ったことが分かった。聞くだけ聞いてやる。ただし、忘れるなよ。願いには等価の対価が必要だ」

「わかっている。俺の願いは世界。世界を手に入れる力が欲しい」

「世界を手に入れる力?はははははは。全く久々に自由になったと思ったら実に面白い奴が多くなったね。お前は神にでもなるつもりかい?ふふふふ、いいよ。相応の対価を払うならその願いかなえよう」


魔神が公王の言葉に笑う間に会場にいる各国の騎士は剣に手を掛け、いつでも公王に斬りかかる。又は守るために移動する。いつでも命令があれば飛びかかれるように移動を始める各国騎士とそれを戸惑いながらも阻止しようとするサクティ公国の騎士との間に緊迫した状況が発生していたが、公王はそんなこと等関係ないと魔神の言葉に答える。


「どんな対価を支払えばいいのか。教えてくれ!」

「そうだな。神になりたいと同等の対価か…」


魔神は対価を何にするか考えているのか顎を手で撫でながら公王から会場へと視線を向ける。そして、俺を見た瞬間動きを止めた。


「お前はいったい何者だ」


魔神が俺を見つめながら質問してきた。数時間前にも同じ質問をされたので、全く同じ答えを書くと「ふざけるな!」と怒り出した。


「お前から発せられる臭い。知っている、知っているぞ。以前もお前と同じ臭いを持つ者をどこかで会った記憶がある。どこだったか………そうだ。神界だ。僕と仲の良かった神を殺した女と会った時にした臭いと同じだ。お前、誰かは知らないが神を殺したな。神を殺した大罪人。よくも僕の前におめおめと顔を出せたな。あの時果たせなかった神の仇としてお前を殺してやる。死ぬがいい!」


突然怒り出した少年は杖の先端から視界を埋め尽くすほどの巨大な火球を放った。

シンは火球の大きさから本能では【神速】を使って回避すべきと警鐘を鳴らしているが、避けたら間違いなく後方にいるイレミア皇国の関係者が座る席が巻き込まれる。それはサラやリムが巻き込まれることを意味していた。


(逃げるわけにはいかないよな)


杖を両手で持ち正面に立てる。そして、水の障壁を発動しようとした…しかし、魔術が発動されない。


「はははははは。まさか防ごうとしたのか?だけど残念。僕は魔術スキルの属性魔術の管理権限を持っている。つまり、属性魔術のスキルを与えること。そして、なくすこともできる。お前がどんな属性魔術を使おうとしたのか知らないが、お前が持っていた全ての属性魔術スキルは無くしてある。そのまま、塵も残さず死ね!」


魔神の説明に状況は呑み込めた。懇切丁寧な説明のおかげで動揺せずに済んだ。

それなら別の方法を使うまでだ。


(セブンヴィ―ル)

(主よ。わかっておる)


杖が剣に姿を変えるとシンの身体が光を放ち、上段に構えた剣を振り下ろせば剣に触れた火球は真っ二つになって人が座る場所から逸れて、会場の壁に当たり、爆発を起こした。


「へえ、お前面白いことしたな。どうやって僕の攻撃を斬ったんだ?」


魔神は先ほどとは別のまるで子供がおもちゃを見る様な目をして聞いてきたがシンは魔神の問いに答えることはなかった。


「ははは、無駄だよ。面白い剣だけど。神を傷つけることなどできないよ」


【神速】を使って一瞬で接近したシンはセブンヴィ―ルで斬りつけたが魔神の身体に出来た傷は瞬く間に塞がり、斬りつけたことがなかった事のように魔神は平然としている。

逆に魔神から0距離で魔力の塊をぶつけられたシンは会場の壁まで吹き飛ばされた。


「人は弱いね。もっと神との格の違いを認識しないと。……この痛みはなんだ?なんで僕が痛い思いをしないといけないんだよ。ちょっとお前どういうことか説明しろ」


めり込んだ身体を強引に引き抜いて、地面に立ったシンは魔神の問いに答えることなくセブンヴィ―ルを左手に持ち、空いた右手でアイテムボックスから1本の刀を引き抜いた。


「まだ、攻撃するというのか?馬鹿だなあ。でも、どうしようか。痛みの原因がわからないとこっちから攻撃できないじゃないか」


愚痴をこぼす魔神に再び【神速】を使って一瞬で近づき、刀で魔神の左肩から斜めに斬りつけた。

しかし、今回は傷口から赤い血が噴き出し、傷口が塞がる様子はない。

だが、シンが思っていたよりも神スキル【神速】の影響は大きかった。神の力を人の身で行使するには限界がある。【詳細鑑定】に比べて身体に直接影響する【神速】はシンの身体を使用するたびに壊した。身体が壊れる度に【自動回復】【再生】によって治してきたが短時間に何度も使用したことで治るのが追いつかなかったのだ。それにより、魔神が負った傷は賭博神のように両断するまでには至らなかった。

斬りつけたシンは手ごたえから殺せていないとわかり、もう一度刀を振り下ろそうとしたが空を切った。


「痛い、痛い、痛い。どうして、どうして神である僕がたかが人ごときに傷つけられないといけない。お前、どうして神である僕を斬ることが出来る!?」


転移によってから会場の壁際へ移動した魔神が傷口を塞ぐため魔術をかけながらシンを睨み、吠えているが、シンは何も言わずに魔神の方へ身体を向けた。

そして、今度こそ息の根を止めるため足に力を入れたところで、サクティ公国の騎士とフェイト聖教国の聖騎士が魔神を守るように立ち塞がった。


「公王の命により、魔神様を殺させるわけにはいかん」

「神を殺した大罪人はここで死んでもらう」


先頭に立つ他の騎士より一頭上等な鎧を着たサクティ公国の騎士とフェイト聖教国の聖騎士が剣を抜くと、後ろにいる騎士達が皆、同じように剣を抜いて構えた。


『そうだ。あの男を殺せ!あの男を殺した者に魔神である僕が何でも願いをかなえてやろう!』


魔神は焦っていた。封印から解放されて身体も手に入れて、浮かれていた。以前侮っていた人に封印されたにも関わらず、そのことを忘れて、相手の事を知ろうともせずに襲い掛かり反撃にあった。

魔神の言葉は会場から逃げようとする者達だけでなく公都いた者達全員の頭の中に直接届いた。

静寂が会場を支配した。

神が何でも願い事を叶える。甘美なその響きは多くの者達の心を動かした。特に権力者たちに。


「魔神よ。いまの言葉確かに聞いたぞ。サクティ公国の勇敢なる騎士達よ。そこにいるジンという男を捕らえよ。殺していなければどんな状態でも構わん」

「フェイト聖教国に忠誠を捧げた聖騎士諸君。神の言葉である。その男を生きたまま私の前に連れてこい」


サクティ公国公王とフェイト聖教国の司教の言葉によって、シンの前に立ち塞がっていた騎士達が一斉に襲い掛かる。

それだけではない。会場にいた者達。各国の騎士や講師、生徒に至るまで武器を抜いてシンへ襲い掛かった。襲い掛かった者達の中にはイレミア皇国の騎士やホープン学園の講師、生徒もいた。


「いいぞ。人同士で殺し合え。僕は傷を治すためにここを離れるけど約束は守る。その男を殺した者の願いをかなえてやろう」


魔神はいくら魔術で治しても元に戻る傷にイラついていた。

治すにはもっと適した場所と十分な時間が必要だと考えた魔神は転移してこの場を離れることを決めた。

魔神が魔術を行使するそぶりが見えたシンは再度【神速】を使用する。立ち塞がる騎士を避けるため、【立体移動】【空中歩行】を使用して魔神の斜め上から斬りかかる。

瞠目してシンを見つめる魔神に刀が触れる寸前。魔神の転移が間に合い刀は空を切った。

ドンっと地面を抉る程の勢いで着地したシンはその場で片膝を突いて吐血した。血を吐くことを予測した黒竜甲冑はマスクの口の部分が無くし、遮るものが何もない血は地面を紅く染める。

ふっと力が抜けて倒れそうになる身体を左手に持つセブンヴィ―ルを垂直に地面へ突き刺すことで倒れることを防いだシンだったが、動きを止めている間に魔神のいなくなった会場では残った者達が扇状に包囲を完成させた。

包囲した者達が見る限り、満身創痍のシンであったが、包囲をした彼らはシンの試合を見て実力を知っている。そのため、最初に攻撃した者は殺されるかもしれないと及び腰になって、誰かが動くのを待っていた。

その間に少しだけ回復したシンは立ち上がり、壁を背に包囲する者達へ身体を向けた。

ほんの数分程の静寂。しかし、立っている者には数時間立っているように錯覚する時間が過ぎたが1人の混合(ハーフ)種族(ジャイアント)の男が静寂を破り、シンへ向かって行き、メイスを振り下ろした。

男の名前はブレーク。武術の部一回戦でシンの計画を狂わせるきっかけを作ったロンドベル学園の講師。


「死ねえええええ」


ブレークが振り下ろした渾身のメイス。『壊し屋』の2つ名にふさわしい渾身の一撃をシンは左に避けるとブレークの腹部に蹴りを食らわせて包囲する者達の方へと吹き飛ばした。ブレークの巨体に巻き込まれて包囲の一部にほころびが生まれた。

シンがここで一気に出入り口へ駆ければこの場を脱することが出来たかもしれない。

しかし、身体を動かそうとした瞬間。全身に激痛が走った。未だ治っていない状況でブレークの巨体を全力で蹴り飛ばしたことで何とか動けるようになった身体に再び大きな負荷がかかったことが原因の痛み。すぐに痛みは治まったが激痛によって止まった一瞬の間に様々な魔術攻撃が飛んできたことで脱出の機会を逸した。

石槍をかわし、土槍をいなし、火槍や水槍、風刃等はシンの身体に触れると消滅した。

『宝剣ツヴェイヴィ―ル』:所有者を魔術攻撃から防ぐ能力を有する。代わりに所有者は魔術を一切使うことが出来なくなる制約を受ける。ただし、物理的な攻撃が伴う魔術は防ぐことはできない。

必要最小限の動きで魔術攻撃に対処したシンだったが魔術攻撃が納まった直後これまで包囲するだけだった者達が一斉に動き出す。

だが、彼らの間に雷が走り、シンへ斬りかかった存在を見て、彼らは足を止めた。


「カオル、どうしてお前が…」


カオルが振るった刀を両手の刀と剣を交差することで受け止めたシンはカオルだけに聞こえる声で話しかけた。声から動揺が伝わってきたカオルは苦笑しながらシンだけに聞こえる小声で答える。


「シン、これからサラが会場全体に霧を発生させる。それに乗じて逃げてくれ」


カオルの言葉に合わせたかのように会場全体に突如霧が発生する。

包囲していた者達は表彰式で聞いたカオルの苗字から皇族であることを知っている。

もしも皇族を傷つけでもしたらと攻撃に二の足を踏んでいた。そんな彼らに追い打ちをかけるように発生した霧は彼らの攻撃を完全に止めるには十分な効果を発揮した。


「だが、そうなったらお前の立場はどうなる」

「心配するな。その時は今ある肩書を目いっぱい使うまでだ。それより、あまり時間がない。急いでくれ」


時間がないとは恐らく会場全体に発生させている霧を維持できる時間の事だろう。

この会場にいる全員を殺すつもりであればどうとでもなる。しかし、その中にはカオルやサラ、リム等の生徒や学園長などの知り合いもいる。全員殺す選択ができない以上、逃げるしかない。


「すまない」


こんなことをして周囲から何も言われない訳がない。それはカオルもサラもわかっているはず、それでもこうして動いてくれる2人に大きな借りを感じて謝った。


「好きでしていることだ。気にする必要はない…だが、もしもこの事で何か感じてくれるなら、今度は私達の事を忘れないでほしい」


それだけ言うとカオルは儚げな笑顔に涙を浮かべて後方へと飛んだ。

シンはカオルの言葉と別れ際に見せた表情から何かとても大切なことを忘れているような気がしてカオルがいなくなった方向に手を伸ばしたがすでにカオルは霧に隠れて姿を確認することはできなかった。


(いまはカオルとサラの気持ちを無駄にしたいために行動しよう)


心が締め付けられるような感覚を覚えたが、今は2人の気持ちを無駄にしないため、武器をアイテムボックスへ入れてから黒竜甲冑の能力を発動した。

姿を消したシンは包囲を脱して闘技場を後にする。その後、公都にある建物の屋根を飛ぶように移動して、公都へ入った時と同じ城門を抜けた。

公都が豆粒程度の大きさになるまでかけたシンは近くの森の中に入り、少し開けた場所に出て周囲に危険がないことを確認してから腰を下ろした。

<癒しの水袋>をアイテムボックスから取り出し、喉を潤してようやく一息ついたシンは黒竜甲冑の能力を解いた。


「ここまでくれば大丈夫だろう、ライ」

「主、身体は大丈夫ですか!?」


これまで影の中から何度も出ようと思ったが主の事を考えて必死に耐えていた。

ようやく、呼んでもらったライは本来の姿で影から飛び出して、シンへ顔を近づける。


「ああ、大丈夫だ。心配をかけたな」


兜を外し、近づいてきたライに笑顔を見せることで「大丈夫」ということを言葉だけでなく見せることで証明したシンはライの顔を撫でながら心配させたことを謝った。


「主、今後どうされるのですか?」


ライはシンの顔に自身の顔を擦りつけながら今後の事を訊ねる。

シンは顔をあげて無数の星が輝く夜空を眺めながら今後のことについて考えることにした。

狙われているのは黒竜甲冑を装備したジン講師という存在。今後は黒竜甲冑を装備した姿で日の下を歩くことはできない。少なくとも今回大会に出場していた5か国からは狙われる可能性が高い。つまり、ジン講師として学園に戻ることはできない。そして、ジン講師が学園に通うシンであることを知る者も少なからずいる。彼らの内誰かが話せばシン・レイス=ジン講師として狙われる可能性がある。生徒として戻ることもできない。


「またか」


今の心情が自然と言葉となって出てきた。

2度目の学生生活。今度こそはと過ごしたホープン学園での学生生活は理不尽な理由によって3ヶ月にも満たずに終わりを迎えた。

短いようで、それなりに楽しめた学園生活。友人や生徒と過ごした学園生活を思い出す。


「やめよう。考えても仕方のないことだ」


頭を振って、今後のことを考えることにする。感傷に浸っている時ではない。


「明日、公都へ戻るべきだろうか?」


自分自身へ問いかけるように出た言葉をすぐさま否定する。

いまから身体を回復してカオル達の下へ戻ったとしてどうなる。各国はすでに追手を出すために動いているだろうし、カオル達が囚われているとして助けてどうする。

俺と一緒に居ればカオル達も命を狙われるかもしれない。そうなってしまったら本末転倒だ。


「主、家に帰りましょう」


主を心配したライの言葉はシンにあることを気づかせた。


(そうだ。このままだとフォンテインさんにも迷惑をかけることになる)


シン・レイスが狙われることになれば真先に矛先が向かうのは学園に紹介状を書いたフォンテインさんだ。それにシン・レイスとして登録している商人ギルドや錬金ギルド、鍛冶ギルドの情報から家や店も危険に晒される可能性がある。そうなる前に今すぐ対策を取らなければならない。


「ライ、プロセディオへ帰る。頼めるか?」

「お任せください!」


これからすることを決めたシンはアイテムボックスから『宝剣ツヴェイヴィ―ル』を取り出した。


「セブンヴィ―ル、『宝綱フィアヴィ―ル』になってくれ」

(主よ。今回は仕方がなかったと思うが、約束を忘れてはいないだろうな)

「わかっている。だから、こうして出しただろう?」


拗ねたように話すセブンヴィ―ルに苦笑しながら手綱になったセブンヴィ―ルをライに装着する。


『宝綱フィアヴィ―ル』:装着した対象の能力を大幅に向上させ、対象と所有者は考えを共有することが出来る。ただし、所有者以外の者は対象に乗ることが出来なくなる。


『宝綱フィアヴィ―ル』をライの首にかけると形や大きさを変えて、まるでライのために作られたように見えるほど完璧な手綱に感心してから、シンは黒竜甲冑から神龍甲冑へ装備を変える。これから人目がある場所を移動する時は黒竜甲冑を装備することはないだろうなと残念に思いながらシンは黒竜甲冑をアイテムボックスへしまってからライに跨る。


「ライ、頼んだぞ」

「わかりました。振り落とされないように手綱をしっかり握っておいてください」


ライは全身から雷を発生させる。


「行きます」


その瞬間。焼け焦げた木々と炭化した草花を残してシンとライの姿が消えた。

大会最終日の夜から数日。サクティ公国公都周辺からイレミア皇国の城郭都市プロセディオ近辺までの様々な場所で雷が通ったような跡が目撃された。それがいったい何であるか様々な意見が出たが、十分な根拠を持った意見は1つもなかった。一部の地域では「神獣様が通られた」と祈りを捧げる者がいたと報告書を読んだイレミア皇国に駐屯する帝国軍の将校は報告書を鼻で笑って焼却処分する書類の中に入れた。


お読みいただきありがとうございました。

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