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平穏無事な生活がしたい  作者: misuto
第2章学園編
27/33

2-13公都サクティへ

投稿が遅くなり申し訳ありません。

今後は1週間から2週間を目安に投稿したいと思います

学園都市ホープン 学園長室

入学してから早2か月半の月日が過ぎたある日。

学園長から呼び出しを受けた。


「残念じゃがシン君には1人で行ってもらうことになった」

「そうですか…」

「これが1人分の支給額じゃ」


学園長がテーブルに置いた袋からジャラッと音が聞こえた。袋の中身はわかっているのでそのまま懐にしまうと学園長は「入り口に馬を用意しておる。道中に必要な物も積んでおるから使ってくれ」と言って腹を抑えながらからため息をついた。

ため息をつく理由がわかるため肩を落とす学園長には同情してしまう。

今日は本来なら大会開催国であるサクティ公国へ馬車で移動する予定だった。

しかし、1ヶ月前にサクティ公国内で盗賊の動きが活発になっていると情報を受けて、馬車移動について生徒の保護者から反対の声があがった。

そして、保護者から転移が使える魔術士を雇うように要請された。

A・Bクラスの生徒の保護者には有力者が多いため要請を断ることが出来なかった学園長は急遽第1皇子あてに手紙を送り、皇国に支援を求めたが返ってきた答えはノー。

理由は「帝国と戦時中のため金を出せない」と書かれていた。

その話を選手の保護者と講師に伝え、冒険者を雇って安全を確保する案を提案したが答えはノー。現在学園都市にいる護衛につけることが出来る最高ランクの冒険者がCランクであることが保護者には安心できなかったらしい。ただ全額学園が負担するのはできないため長い話し合いの末、費用の半分を学園が負担することで話がまとまった。

全員馬車移動であれば1人当たり片道銀貨20枚で済むところを転移が使える魔術師を頼むと生徒の場合は学生割引を利用して片道1人当たり金貨2枚。講師は往復割引を利用して往復1人当たり金貨10枚。

馬車移動であれば全額学園が負担してくれるのに対して多額の自己負担が伴うため俺は断ったのだが考えを同じくして馬車移動を選ぶ者はいなかった。

子供を思うA・Bクラスの保護者達は殆どが裕福な家庭出身、そうでない場合も学園から多額の補助金をもらっているため金貨2枚は大した出費ではないようだ。

また、A・Bクラスを教えている講師は1流冒険者や教養が高い裕福な家庭の講師ばかりのため金貨5枚は自腹で支払うことが出来る。

だとしても、俺からしたら旅が出来て講義からも解放され、旅の間の費用は全て学園負担でなおかつ講義をしないのに給料がもらえる。

こんな機会になぜ金を払ってまで魔術師を雇わなければならないのかと思ったが優等生や優秀な講師はそう思わなかったみたいだ。

俺はどうも金持ちの価値観がわからない。

最初は馬車を用意していたが、俺しか使わないため馬に変更された。

必要な物の受け渡しは終わったが最後に1つだけ落ち込んでいる学園長には悪いが確認しなければならない事がある。


「ところで、シンについての手続きは問題ありませんか?」


今回大会に出場するに際しGクラス在籍のシンについてどうするか学園長と話し合いを行った。


「すでに休学申請書は受理済みじゃ。シン君は親族の葬儀に出席するため一時故郷に帰るということで関係各所には連絡しておるから心配はいらん」


その結果出した方法が休学。

学園の規定で止む負えない事情がある場合休学出来る制度がある。

休学中は単位が足りないことによる退学はないが講義に出ないため単位の付与がないため単位が足りなければ進学することができない。

その場合は同じ学年で再度授業料等を払う必要が出てくる。

そのためGクラスの生徒は滅多に使うことはないが俺の場合大会に出場すれば卒業出来るため単位や進学について考慮する必要はない。

休学申請書を学園長に出した後はその他必要な書類は全て学園長に作ってくれた。

すでにジン講師という架空の人物をいるかのように記した虚偽の書類を作成しているためか「いまさら1つや2つ増えたところでたいしたことはない」と堂々と虚偽文書を作ると宣言する学園長に複雑な心境を抱いたがその時は何も言わなかった。

これで心配事はなくなったため部屋を後にする。

校舎の入り口付近にある植木に括られている馬に跨った。

学園の入り口まで馬に揺られて進んでいると「ジン先生!」と夜間講義に参加している生徒達が入り口の前にいた。

夜間講義に出席している生徒には今日大会に向けて出発するため明日からの講義が開かれないことを伝えていたがまさか講義を抜け出してきたのか?


「ジン先生、見送りに来ました。1人ですか?」

『そうか。ありがとう。他の選手や講師は転移の使える魔術師を雇うらしい。まあ、気ままな1人旅を楽しむつもりだ』


エルの質問に筆談で答える。

エルは<不運(極)>を奪ってから理不尽な失敗がなくなったと喜んでいた。

試しにAクラスの生徒に挑んだらどうだと聞いたら「そんな!僕なんかがAクラスの人に勝てるわけないよ」と否定するため、「そんなことはない。エルなら十分可能性がある」と勝てそうな相手を伝えると「今度挑んでみる」と言っていた。


「いいですね。俺もいつか世界中を旅してみたいです!」


元気よく話すカルロスは最初に会った時よりも筋肉がついてごつくなっている。

テイン講師のプロテイン効果だろうか?

筋力と頑強がGからFに上がっている。

着実に強くなっているのを見ると同級生としてまた講師としても嬉しくなる。


「転移の使える魔術師を雇うとはA・Bクラスの生徒は金持ちですね」


メガネを外して拭きながらつぶやくジェス。まあ、言いたいことはわかる。

学生割引があると言っても金貨2枚を出すなんてアルバイトをして学費を稼いでいる生徒から見ればうらやましい限りだ。

ジェスはこの数か月の間に<毒属性魔術>を使えるようになった。

魔術のレベルは上がっていないが<複合魔術(水・土・毒):毒沼>を使える。

これからも頑張り続ければもっと出来ることが増えるはずだ。


「ジン先生、大会頑張ってください」


エル達とは反対側から声を掛けられたので顔を向けると緑髪の混合(ハーフ)種族(エルフ)(人・エルフ)の少女エルトリアが恥ずかしそうに顔を赤くしながら見上げていた。

あがり症と軽度の対人恐怖症を持っていたエルトリアだったが俺を含めて数人に対してはちょっとぎこちないが普通に話せるようになった。

魔術に関しては<森の呪い>が消えて最初は力の制御が出来ずに悪戦苦闘していたがいまではほとんど問題なく魔術が使えている。それにともない自分に自信がついてきたので後は時間が解決してくれるだろう。


「ジン先生、一緒に行けなくてすまない」

「説得はしたけど無理だったわ」


生徒達と2、3話していると最後にカオルとサラが声を掛けてきた。

2人とも気落ちした表情をしている。今回最も馬車移動に反対したのが2人の親族だった。帝国との戦時中に皇族が他国に移動するのだから当然だ。

盗賊の話がなくても2人が馬車で移動することはなかったかもしれない。


『気にするな。またサクティ公国で会おう』


2人が親族を説得しようとしていたのは知っているが立場を考えれば首を縦に振らせることはできないだろうと思っていた。

元気づけるために馬上から頭を撫でたのだが顔をまっ赤にして怒らせてしまったが最後には笑顔で送り出してくれたので夜間講義の生徒に見送られて学園を後にした。

学園を出てから石で舗装された道を進み門に到着したら、カタリナさんがいた。


『どうした?』

「ジン先生をお見送りしようと思いまして、学園の入り口には夜間講義の生徒は集まっていた為こちらで待っていました」


そういうことか。確かに夜間講義の後に個人講義をしていることは誰にも知られていない。

夜間講義の生徒と一緒に見送りをしたらどういう繋がりか疑われてしまうからカタリナさんなりに気を使ったわけか。


「ジン先生、大会頑張ってください。応援しています」

『ありがとう。大会が終わった後にでもAクラスの生徒に挑戦してみると良い。いまの君なら勝てるだろう』


カタリナさんは個人講義によって自身の新たな力を使いこなせるようになっている。

いまの実力ならAクラスの相性が良い生徒には勝つことが出来る。

今年は学園長が特例を出して大会終了まで大会出場者への挑戦は禁止されていたが大会が終われば挑戦できる。是非ともカタリナさんには勝利してもらいたい。


「はい!その時はジン先生も見に来てくださいね」

『わかった』


カタリナさんに見送られ、学園都市ホープンを出発し、一路会場があるサクティ公国公都サクティへ向けて馬を走らせた。



シンが学園を出発した同刻。


サクティ公国 サクティ魔導学園 

講師専用の部屋。

部屋には壁一面に書物が並び書棚の前には見た目から何に使うのかわからない古い奇妙な形をした壺や置物が多数置かれている。しかし、どれも丁寧に磨かれているためか綺麗な骨とう品として部屋に彩りを与えている。

そんな部屋で2人。黒いローブを羽織った男と枯れ木のような老人がソファーに座って話し合いをしていたが「それでは失礼します」と話が終わったのか男は席を立ちあがり、老人に礼を述べてから退室するのを黙って見送った老人は視線を先ほど渡された紙へ向けた。


「…長かった」


老人のつぶやきはこれまでの人生を振り返っての一言。

老人の名前はエイサー。サクティ魔導学園古代史の教授である。

エイサーは小さい頃から考古学者として世界中の古代遺跡を調査していた。

30歳を越えたあるとき、地盤が崩落したことによって見つかった古代遺跡に隠されていた中央に削られたような跡がある世界地図が描かれた石板と杖を発見したことによりエイサーのその後の人生を決定づけた。

杖にはビー玉程度の大きさをした11個の丸い窪みがあった。

そして石板には窪みに入れるための宝玉のある場所に赤い点が描かれていた。

その地図を頼りにエイサーは世界中を周り10個の宝玉を集めることが出来たが最後の1つ、無くなっている大陸中央にあるはずの宝玉を見つけることが出来ずにいた。

時が経ち、年によって体力が落ち身体が細くなり、顔の皺が増え、髪が全て白くなった頃。

ようやく探していた宝玉のありかを突き止めたがすでに宝玉は発見され、個人の力ではどうしようもない場所に保管されていた。

絶望したエイサーであったが当時のサクティ公国公王がエイサーの事を知り協力を申し出た。

協力する代わりに条件を出されたがエイサーはその条件をのんだ。

そして、宝玉を手に入れるためにサクティ魔導学園古代史教授に就任した。

あれから4年。ようやく待ちに待った時が来た。

紙には中央大陸大会知識の部副賞として『火玉』と記載されている。


大会の副賞は各国が1つずつ出すことになっている。

副賞が大会の賞品として妥当であるかの判断は集まった副賞の管理責任を負う開催国に与えられている。

これにより開催国は欲しいものを副賞として各国に出させることが出来ると同時にどの部門にどの副賞を当てるかの決定権もある。

これを利用してイレミア皇国から『火玉』を出させた。


「ようやくこれで…」


エイサーは立ち上がり、大会に向けての準備のため部屋を出て行った。



「問題ないようだな。通っていいぞ」

「ありがとうございます」


サクティ公国の剣に蛇が巻きついた紋章が描かれた甲冑を着ている騎士から冒険者ギルドの認識票を返却され、関所を無事通過。

ホープンを出発して7日。ようやくサクティ公国の領内の土を踏んだ。


「主、今日はどのあたりまで行かれるのですか?」

「何事もなければ夕方ごろには村に着くはずだからそこで宿をとる」


俺の前に座るライに今日の予定を伝える。

サクティ公国内ではいまも盗賊・山賊が活発に動いていると移動途中に立ち寄った商業ギルドで聞いた。

毎年この時期の大会の開催国では人の往来が増加するため動きが活発になるのはよくあることらしいが今年は例年にないほど盗賊・山賊の数が多く、それに伴い被害件数も多い。

なかには討伐に向かった騎士団を敗走させる程の実力を持った盗賊もいる様なので移動中は注意が必要と商業ギルドの掲示板に書いてあったが黒い甲冑を着た男を襲う盗賊が果たしているだろうかと考えて、あまり警戒はしていない。

何事もなく進み夕方ごろには関所から一番近い村に到着した。

人口100人程の村。夕食を作っているのか各家の煙突からは煙が出ている。

村に入って村の中を散策したが特に目に付くようなものはない。

することもないので暗くなる前に宿屋に向かった。

宿屋は2階建てで1階に食堂、2階に2人部屋が1部屋、1人部屋が2部屋。

1人部屋は1泊2日朝・夕食付きで銀貨1枚。

今回渡された旅費が銀貨20枚であることを考えると痛い出費だが馬車を置くところと馬の食事代も含まれているため仕方がない。

食堂に入るとすでに先客がいた室内にも関わらずローブを着た大人と子供。

子供が「お母さん」と向かいに座る大人に言っていることから2人が親子だろう。


「わあ、見てお母さん。小さな狼さんだよ!」


子供の方がライを見て駆け寄ってきた。その際に顔を隠していたローブがはだけた。

大きな(せん)(りょく)色の瞳、肩の辺りで切りそろえた(せん)(りょく)色の髪、将来美人になると思わせる可愛らしい顔をした8歳ぐらいの少女。

だがそんな綺麗な瞳や髪よりも注目したのは少女の額には小指の先ほどの大きさをした(せん)(りょく)色の石。

(せん)(りょく)色の瞳と髪。そして額に(せん)(りょく)色の石。以前読んだ『世界の少数民族大全』の中に同じ特徴を持っている民について書かれていた。

その民は<緑光の民>と呼ばれ、樹や植物と話をすることが出来るだけではなく、彼らが作る薬は他の者が作る薬と比べて効果・効能が高いらしい。しかし、人里離れた森の中で暮らしているため人里に降りることは滅多になく、彼らの薬が世に出回ることはほとんどないため彼らが作る薬は『幻の妙薬』と言われている。

そんな<緑光の民>が2人でさらに一方は子供を連れて人里の宿に泊まっている。

少女の特徴を見て、昔読んだ本の内容を思い出していると足元にいるライから「助けてください」と念話で呼びかけられた。

下を見ると少女に撫でられ、どうしてよいかわからず困り顔をしているライがいた。


「こら、やめなさい」


俺が少女に声を掛けるよりも早く母親が少女をライから遠ざけた。


「すみません。うちの子が勝手に」


母親は顔を隠していたローブを下ろし、顔を見せて謝った。


「気にしていません。顔を上げてください」


顔を上げた母親の顔は少女が大きくなったらこうなるのだろうなと思える整った顔をした20代前半の女性。女性の額には親指の先程の大きさをした(せん)(りょく)色の石が輝いている。


「騎士様?」


母親に抱き寄せられて少女が初めて俺に気が付いたようにキョトンとした表情でこちらを見上げている。少女はどうやら俺の格好を見て勘違いをしたようなので訂正する。


「騎士ではないよ。俺は冒険者だ」


少女と目の高さを合わせるために膝を曲げてからこの格好で一番しっくりくる自分の職業を伝える。


「冒険者?聞いたことあるよ。何でも屋でしょ!」

「!?申し訳ありません」


少女は笑顔で冒険者について話したが母親が慌てて謝った。

冒険者に“何でも屋”と言うと不快に思う者もいるらしいので母親は慌てたのだろう。

冒険者の仕事は客観的に見れば街のどぶ掃除から魔物の討伐まで依頼内容は多岐にわたるため“何でも屋”と言っても間違いではない。

それに俺は冒険者と名乗ったが依頼を受ける側より出す側の仕事をメインにしているため、少女の言葉には全く気にならない。むしろその通りと同意をしてしまうほどだ。

母親に気にしていないと手で示した。


「君の言う通りの何でも屋だ。何かしてほしいことがあれば依頼を出すといい。もちろん報酬は貰うけどね」


少女の言ったことは間違いではないがボランティアではないため念のため報酬が必要なことを伝えた。

少女は「わかった!」と元気よく返事をしてくれた。

その後母親に連れられて部屋へ戻る少女を見送り席に座ると待っていたかのように料理が運ばれてきた。


「お待たせしました。コギと根菜の炒め物と芋スープです」


料理をテーブルに並べて奥へと戻る女性を見送り、視線を並べられた料理に向ける。

これはなかなかインパクトがあるメニューだな。

ゴクリ。目の前に並べられた料理を見て喉がなる。

目の前にいるのは虫。

虫と言っても生きてはいない。しっかり調理された虫だ。

肉の代わりにコオロギのような虫『コギ』を使った炒め物とじゃがいもと芋虫の入った芋スープ、パンが並べられている。

商業ギルドの情報ではこの辺りでは有名な虫料理らしいが、絵と実物では受ける印象が全然違う。

覚悟を決めて黒いコオロギのような虫にフォークを突き刺し口に運ぶ。


(あ、意外とうまい)


一度素揚げにされているのかパリッとした食感がいい。

初めて虫を食べたがこれなら問題なく食べられそうだ。

やはり、食事はその国の食べ物を食べるべきだな。

芋虫もクリーミーで美味しい。


(主、僕にもください)


膝の上に座っているライが物欲しそうな目を向けてくるため、フォークに刺さった芋虫を口元に持っていく。パクッと頬張り咀嚼して呑み込んだライは「美味しいですね」と念話を飛ばしてくる。

その後追加料金を払って虫料理を堪能してから部屋へ戻った。



翌早朝。まだ薄暗い時間帯に俺は目が覚めた。いつも起きる時間より少し早いが起き上がり、寝るときに脱いだ甲冑を着てから木の窓を少し開けて外を覗くとタイミングを同じくして物が壊れる音と悲鳴が村中から起こった。

各家を襲っている者達は手入れがされていない革の胸当てと手には剣や槍などの武器を持っていた。服装からして恐らく盗賊か山賊だ。

まだ日が昇る前の時間帯のため村人はなすすべなく捕らえられ、村の広場がある方角へ引きずられていく。

宿屋も例外ではない下の階から悲鳴が聞こえる。

俺は甲冑の能力を使い隠れたタイミングで階段を駆けあがってきた盗賊達が部屋のドアを蹴り開けた。

誰もいないと思った盗賊は蹴り開けたドアをそのままに別の部屋にむかう。

少しすると口論がする声が聞こえたが最後に「ついてこい!」と盗賊達に連れられて昨日会った(せん)(りょく)色の瞳と髪を持つ母親だけ(・・)が廊下を歩いて行くのが見えた。

盗賊が宿屋からいなくなったタイミングで廊下へ出ると俺は2人部屋へ入る。

ベッドが2つ並んでいる部屋には1人部屋にはない物を入れるための箱が置かれていた。

子供1人なら何とか入る箱。姿を見えるようにしてからゆっくりと箱のふたを開けると(せん)(りょく)色の2つの瞳と目が合った。


「冒険者のお兄ちゃん?」


少女の声は震えている。恐らく母親が盗賊から守るために隠したのだろう。

口論だけですんなり連れて行かれたのは時間を掛けることで盗賊の目が箱に行くのを防ぐためか。

箱から飛び出てきた少女は俺にしがみつく。よほど怖かったのだろう。身体が震えている。

しばらく頭を撫でながら少女が落ち着くのを待っていると震えの納まった少女は身体を放し、顔を上げて俺の目を真直ぐ見る。その瞳には何かを決意しているように思えた。

少女はズボンのポケットから(せん)(りょく)色の石を1個取り出した。

少女の手の平にある石の特徴と同じ石について読んだことがある。

たしか名前は<緑光石>。

<緑光の民>が死ぬと額からとれる石で、その美しい緑の輝きと希少性によって観賞用として王侯貴族等の好事家の人気が高く、また石を砕いて薬に混ぜれば薬の効果・効能を劇的に上げることが出来ることから錬金術師にも人気があるため闇市場では高値で取引されている。

ただ無理やり取ろうとすれば石はにごり輝きが失われるだけでなく薬への効果もほとんどなくなることから昔は盗賊などに襲われ殺される<緑光の民>が多かったと本で読んだことがある。

少女は「お父さん、ごめんなさい」と石を愛おしそうに撫でた後、一度目を瞑り覚悟を決めたのかゆっくり目を開けて俺に差し出した。


「冒険者のお兄ちゃん。これでお母さんを助けてください」


なるほど。その石が報酬と言うわけか。

少女にとって手の平にある<緑光石>は父親の石か。

死んだ父親の石よりも生きている母親を助けることを選んだ少女の思い。

応えないわけにはいかない。


「…わかった。その依頼受けよう」


(せん)(りょく)色の石を受け取り、俺は部屋を出る。少女もついて来ようとしたが依頼主を危険にさらすわけにはいかないためライを護衛として少女には部屋で待っていてもらう。

宿屋を出るとすでに周囲には盗賊はいない。耳を澄ますと村にある広場の方からたくさんの声と息をする音が聞こえる。


「さて、仕事だ」


俺は姿を隠し、両手の籠手を剣状にして広場へ向かって駆けた。



「バンドの奴らまだ戻ってこねえのか」

「頭、バンドの奴らが行った場所はここから遠いんですからもう少ししたら来ますって」

「まあいい、バンドの奴が戻ってきたらすぐにずらかるぞ。大丈夫だとは思うが最近騎士団の奴らの動きが速くなってるからな」


広場には70人程の村人と30人程の盗賊。

広場の中央に集められた村人は周囲を取り囲む盗賊を怯えながら見ていた。

ここに連れてこられるまで抵抗した者や反抗的な目や行動をした者は容赦なく殺されていくのを見て村人は誰もが口を閉ざし、盗賊達と目を合わせないために下を向いた。

村人たちの前に立つ大柄な盗賊頭は村長の家から見つかった金貨を指で上に弾きながら近くにいた部下にいら立ちをぶつける。


「頭!いい女と馬がありやした」

「戻ったかバンド。早く来い、ずらかるぞ!」


話題に出ていたバンド達が戻ってきた。

バンドと呼ばれた男の後ろには部下4人と縄で括られた村人5人と(せん)(りょく)色の髪をした女が1人、それと馬が1頭。


「ほお、よくやった。この美人は高く売れるだろう。それに馬まであるとはな。これはうまい酒が飲めそうだ」

「でしょう。いやあ、俺も最初見たときは驚きました」

「それにしても見たことねえ髪の色だ。それに額の石はなんだ?宝石のようにも見えるが…」

「触らないでください!?」


盗賊頭は目の前まで連れてこられた(せん)(りょく)色の髪をした女の額についている石に手を伸ばすと女は触れられないように伸ばされた手を弾いた


「てめえ、何しやがる!」


自分の行動に抵抗され、いら立った盗賊頭は女に向って拳を振り上げる。

その時、広場にいる村人はその後に起こることから目を背け、盗賊達は女が傷物になって後で楽しめないことに肩を落とした。そんな中、女は目をとじて訪れる痛みに耐える心の準備をした。

しかし、拳が振り下ろされることはなかった。

代りにゴトリッと何かが落ちる音が聞こえた。そして、顔に何か温かいものが飛んできたので目を開けるとそこには首のない盗賊頭が血を噴き出しながら立っていた。

何かが足に触れているようなので視線を下に向けると…盗賊頭と目が合った。

余りの驚きに絶句しているとまたゴトリッと音がした。そして足元にバンドと呼ばれた男の首が転がってきた。その首とも目が合ったところで女は気を失った。



(しまった。刺激が強すぎたか)


気絶した少女の母親を広場の端に寝かせながら先ほどの事を反省していた。

シンが広場に辿り着いた時、少女の母親が殴られそうになっていた。

そのためすぐに男の首を刎ねたが母親の近くにいたもう一人の男が腰の剣に手を掛けようとしたためその男の首も刎ねたのだが母親には刺激が強すぎたのか気絶してしまう事態となった。

崩れ落ちる母親を慌てて抱き留め、広場の端に移動し、怪我がないことを確認したシンは未だに広場で固まっている盗賊と村人に目を向ける。

彼らは一様に今起こった事態に頭がついてこないでいた。

2人と盗賊が突然首を失い、それを見て気絶した女性が突然浮かび広場の端へと移動する。

こんな摩訶不思議な出来事を理解することは普通の人にはできない事だろう。

しかし、シンにとってそんな事情など知った事ではない。

早く終わらせるために手近な盗賊の首から刎ねていく。

首が落ちて転がり、血を噴きあげながら倒れる体。そして黒い穴に取り込まれる仲間の死体を見て盗賊達は目の前の光景は理解できなくても自分たちが置かれている状況は理解できた。そこからの対応は様々だった。

剣を抜いて振り回す者、逃げ出す者、その場で膝を折り誰ともわからない相手に命乞いする者等様々。

だが、一様に『死』という刃が盗賊に訪れた。

まず逃げ出す者から死んでいき、最後はその場で命乞いをする者が地面に横たわった。

盗賊に等しく死が訪れた後、広場には血の一滴まで盗賊はいなくなり、いつもと変わらない広場だけが残った。

盗賊が殺されて、黒い穴に取り込まれる光景を見ていた村人は自分の目が信じられないのか何度も目を擦って確かめている。

そんな中、広場の端にいた女性が消えていることに気が付いた者は誰もいなかった。



宿屋の2人部屋に戻るとベッドの上に座り、憂い顔の少女がライを膝に乗せて撫でていた。

姿を見せると少女の膝の上に乗っていたライが起き上がり、駆け寄ってきた。


(主、戻ったのですね。お怪我はありませんか?姿は見えませんが手に持たれている者は少女のサンの母親ですか?)


サン?誰の事かと思ったが「サンの母親」と言っていたことから少女の名前だろうと推察する。そういえば昨日はお互いに自己紹介はしていなかったし、先ほど依頼を受けた時の聞く事はなかった。母親が起きたら改めて親子と自己紹介をしよう。


「冒険者のお兄ちゃん。お母さんは?」


サンちゃんが目の前まで来たがその表情は暗い。サンちゃんには俺一人で戻ってきたように見えているのだから当然だ。

サンちゃんの心配を早く無くしてあげるために先ほどサンちゃんは座っていたベッドに母親を優しく寝かせて、身体を覆い隠していた黒竜ローブを剥いだ。


「お母さん!?」


突然姿を現した母親を見てサンちゃんがベッドへ駆け寄った。

母親が息をしていることに安堵し、「お母さん、無事でよかった」とベッドの端に腰かけ母親に呼びかける。

俺とライは壁まで移動して、しばらく見守っていると母親がゆっくりと瞼を開いた。


「ここは…」

「お母さん、よかった。痛いところはない?」

「サン?…サン!?」


母親がガバッと体を起こし、サンちゃんを抱きしめた。サンちゃんも母親の背に手を回して再開を喜んでいる。


(良かったね、サン。お母さんと再会できて本当に良かった)


隣にいるライが号泣している。

一緒に居る間にサンちゃんと仲良くなったのか。自分の事のように泣いている。


「あなたは昨日の…」

「冒険者のお兄ちゃんがお母さんを助けてくれたんだよ」


一頻再開を喜んだ親子は次に壁に背を預ける俺の方へ顔を向けた。


「そうでしたか。助けて頂きありがとうございました。そういえば自己紹介をしていませんでしたね。私はアンと申します」

「娘さんの依頼を受けただけだ。報酬ももらっているから礼はいらない。俺の事はシンと呼んでくれ」


頭を下げる母親に頭を下げる必要はないと伝える。

だが、今後も2人だけで移動するなら同じことが起こる可能性がある。


「ところでお節介だと思うかもしれないが、どうして2人で旅をしている。今回はたまたま俺がいたからよかったが旅をしていればこれからも危険な状況はいくらでもおこるぞ」

「それは…」


俺の問いにアンさんは苦悩する表情を浮かべながら俯いた。

するとアンさんの代わりに隣で過去を思い出してつらそうな表情をするサンちゃんが口を開いた。


「私達の住んでたところに盗賊が来たの。それで…それで、お父さんも…村のみんなも殺されたの」

「サン…」


途中から涙を流しながら話すサンちゃんをアンさんが胸に抱き寄せる。

何かをこらえるように泣くサンちゃん。よほど辛い記憶だったと想像できる。


「私達に帰る場所は…もうありません。薬を売りながら旅をしてきましたが今日の事で反省しました。どこか安全なところで暮らそうと思います」


アンさんはサンちゃんの頭を優しく撫でながら決意を口にする。

しかし、安全なところだと人が多い街に住むことになる。

そうなれば<緑光の民>を知る者もいる。

街に住むということはそういった別の危険を背負うことにつながる。


(主…)


念話でライが話しかけてきた。見上げるライの顔から何を言いたいのかは大体想像がつく。


(わかっている。今回の報酬は依頼内容に比べて高かったからな。少しはサービスしよう)

(主、ありがとうございます!)


俺の答えを聞いて、ライが嬉しそうに尻尾を振っている。

そんなライから暗い表情を浮かべる親子に顔を向けて、ある提案をした。



「シン、おかえりなさい。そちらの2人は誰ですか?」

「ただいま。新しくこの店に住み込みで働いてもらうことになった。アンさんとサンちゃんだ」

「「よろしくお願いいたします」」


俺とアンさん、サンちゃん、ライは転移を使い城郭都市プロセディオにある家のリビングへ移動した。

俺が提案したのはアンさんとサンちゃんにプロセディオにある店に住み込みで働かないかと言った内容だ。衣食住はこちらの負担。給料も出す。

ちょうど使っていない俺の部屋が使われていないためちょうどよかった。

俺が学園を卒業して戻った時は増築すればいい。

店なら護衛もいるし、何より何かあったらすぐに駆け付けることが出来る。

ちょうどどこかに暮らそうと考えていた親子はこの提案に首を縦に振ってくれたため具体的な給料の話に移った。

最終的にアンさんに月銀貨20枚、サンちゃんには月銀貨1枚を支給することに決まったのだが決まるまでの過程でひと悶着あった。

アンさんは仕事内容や住み込みであるのにこの給料は高いと驚き、サンちゃんにも月銀貨5枚を支払うと伝えると「そんなにもらえません」と親子2人に断られた。

その後アンさんが「サンの分はいりません」と言われたが子供といってもただ働きをさせる訳にもいかない。そこでサンちゃんには報酬としてもらった<緑光石>を渡す代わりに月銀貨1枚にさせてもらった。


「ルシア、俺はいまから作りたいものがある。鍛冶部屋にいるから2人に家と店の事を教えてやってくれ」

「承知しました」


ルシアは突然の事だったが特に驚くことなく対応してくれることに感謝しながら鍛冶部屋に向かう。途中地下から店の商品を持ったアインとヘレナにあったので挨拶を交わしてから鍛冶部屋で早速2人への祝いの品を作ることにした。


1時間後。


作りたかったものが完成したのでリビングへ行くと朝食が並べられていた。

そういえばまだ朝食を食べていない。

宿屋の料金に朝食代も含まれていたのでもったいないことをしたな。

いまから宿屋に戻って朝食を食べると折角用意してくれたルシアに申し訳ないため、宿屋の朝食は諦めてルシアが作った朝食を食べることにする。


「美味い。ルシア、腕を上げたな」

「シンがいつ帰ってきてもいいように日々腕を磨いていますから」


味噌汁が入ったお椀を置いて隣に座るルシアに感想を伝える。

ルシアが自ら作ったという自家製の味噌を使った味噌汁。

並べられている料理は昔ながらの日本の朝ご飯。

ご飯、味噌汁、焼き魚、野菜の漬け物。

漬け物もルシアが自らつけて作ったらしい。

向かいの席に座るアンさんとサンちゃんも「美味しい」と言って笑顔を浮かべる2人を見ながらようやく笑顔が見られたことに内心ホッとする。

いつまでも暗い顔をされるのは見ている方も辛いからな。

食事が終わり、アインとヘレナに食器の片付けを頼み、4人でお茶を飲み始めたところで先程作ったネックレスをアンさんとサンちゃんに手渡すことにした。


「さて、2人にはこの店に入った祝いとしてこれを俺から送ろうと思う」

「うわー綺麗!」

「こんな高価な物…よろしいのですか?」


俺が渡した物は銀の鎖で作ったネックレス。

アンさんのネックレスには何もついていないが、サンちゃんのネックレスには<緑光石>をはめ込める場所がある。

サンちゃんにそのことを伝えると嬉しそうにズボンのポケットから取り出した<緑光石>をはめ込む。


「着けてみてくれ」


俺が着けるように促すと2人は首にネックレスを着けて、何度も手で触りながら笑顔を浮かべてネックレスを見ている。

しかし、そのネックレスは唯のネックレスではない。


「アンさん、サンちゃん。その髪と瞳はどうしたの?それに額の石も…」


隣に座っているルシアが向かいに座る親子を見て驚きを露わにしている。

ルシアを見て親子は自身の髪に目を向けて驚きに目を見開く。

親子の瞳や髪の色はいま薄緑色になっている。そして、<緑光の民>の最大の特徴額の石を内容に見せるようにネックレスには<変身(軽)>と<魔力吸収>が付与されている。

ネックレスは空気中に漂う魔力と足りない分を着けている者から魔力を吸収しながら<変身(軽)>の魔術を行使する。

<変身(軽)>にしたのは<緑光の民>と周囲からわからなくすることが目的のため変身させるべき箇所が少なかった事、また(軽)にすることで普通の<変身>に比べて使用する魔力量が少なくなり着けている者へ殆ど負担が無くなるためだ。

これで外を自由に出歩くことが出来る。

もしも、お金が溜まってこの店をやめる時もこれがあれば<緑光の民>である為に襲われることはない。


「ありがとうございます。なんとお礼をすればよいか」


アンさんはこれまでの事を思い出しているのかこれからはローブを着て出歩く必要がないことが嬉しいのか目から一筋の涙を流した。


「シンお兄ちゃん、ありがとう」


サンちゃんはあまり良くわかっていないようだが、父親の石を見つめて満面の笑みを浮かべている。


「それじゃあ俺はこれから宿屋に戻る。アンさん、サンちゃん。何か必要な物があればルシア達に言うといい。それじゃあ行ってくる」

「何から何までありがとうございます」

「気を付けてね!」

「シン、気を付けて」

「「シン様、行ってらっしゃいませ」」


俺が出来ることはここまでこれからの事はルシア達に任せて、俺は公都サクティに向かうため宿屋にある俺が泊まっていた部屋に転移した。


お読みいただきありがとうございました。

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