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平穏無事な生活がしたい  作者: misuto
第2章学園編
23/33

2-9夜間講義


『時間になったので、これから夜間講義を始める』


ソフィアさんの相手を講義開始直前まで付き合い。講義開始直前のため受講生が集まったタイミングで、前回同様、剣を折ったら泣き出すし、あやすと、「年下のくせに子供扱いするな」と言って走り去ってしまった。

まあ、それは横において、受講生に筆談ではあるが話しかけたが誰からも返事がない。

どうしたものかと考えていると「ジン先生、俺にもあの技できますか!」とカルロスから聞かれたので『君の頑張り次第だ』と答えておいた。

「俺もあの技を覚えてあの人を惚れ直させる」と宣言しているカルロスに惚れていた人がいたのか?と喉から出そうになったが何とか抑えた。


『まずは、ペアを組んで試合をしてもらう。何度か対戦相手を変えながらしてもらうつもりだ。今日はそれを見て、今後参加したときに各個人に適した講義内容を考える。全力で取り組むように』


一部Aクラスの2人が混じっているが、他はGクラスの生徒。

つまり、一度でも昼間の講義に行けなかった者は夜間講義に来るはずなので、これからの事を考えて最初は実力と資質を見極める。


「ジン先生、質問してもよろしいでしょうか」

『なんだ』

「ジン先生とは戦えますか」


質問してきたのはAクラスのカオル。なぜAクラスの生徒が夜間講義などに参加するかは不明だが、受講生としてきた以上相手にしない訳にはいかない『講義内容による』とあいまいな答えを返した。「わかりました」と言っていたが納得してくれただろうか?


試合開始早々問題が生じた。

Aクラスのカオルとサラのあまりにもレベルが違う試合により、他の受講生が手を止めて見学している。

仕方がないと被害がないように注意しながら、そのまま2人の試合が終わるのを待つことにした。



カオルの速さと咲良の技がぶつかり合う。雷を纏ったカオルが高速で近づき、居合によりサラを斬るが直後にサラの身体が土に変わり、崩れる。カオルがすぐさま後方へ飛ぶと先ほどまで立っていた場所に氷の槍が複数突き刺さる。

着地したカオルを囲むように地面から何体ものサラが現れ、攻めかかるがそれを全て、一瞬で切り裂く。サラの人形がいなくなるとカオルを包むように周囲に毒々しい霧が発生した。

すると、小さな黒い穴が無数に出現し、霧を吸い込んでいく。

霧が無くなるとカオルは刀を横に一閃する。天から無数の光の剣が落ちてくるが一か所だけ、剣が空中の何もないところで弾かれた。

そこへ一瞬で移動したカオルは刀を振り下ろす。

ドスンと地面になにかがぶつかった衝撃で陥没する。

陥没した場所に突如サラが姿を現した。空中を蹴ることで勢いよく降下し、止めを刺そうとするカオルを横に転がることで避けるサラ。

カオルが地面に着地した瞬間、地面から土の槍が襲い掛かるがカオルは華麗に避ける。

2人の間に距離が出来た。そして、再びぶつかり合うために接近したところで、俺は腰の黒竜刀と<アイテムボックス>から魔鉄製の剣を取り出して、介入した。

ガキンッと2度音が鳴り、刀と薙刀をそれぞれ受け止めて動きを止める。


(あれ以上続けられるとどちらかが死んでいたぞ)


途中から当たれば死ぬような攻撃を連発していた。さすがに講義中に一度でも死者を出したら、たとえ生き返らせても責任を問われかねない。俺が介入したことで2人は武器を引いてくれたので、俺も黒竜刀を鞘に納めて、空中に文字を書く。


『2人の試合は終了。十分君達の実力はわかった。というよりも、2人の戦い方はすでに完成しているように思う。これからそれを伸ばしていけばいい』

「先生には遠く及びません。これからもよろしくお願いします」

「ジン先生。これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」


うん?教えることはないと言ったつもりだが、どうやら2人はそう取らなかったようだ。

自主練でいいと伝えようとしたところで、「ジン先生!次は俺の試合を見てください!」とカルロスが間に入ってきたため、「ジン先生。また明日もよろしくお願いします」「そろそろ帰らないと他の者に気が付かれるので失礼しますね」と帰っていった。

結局2人には伝えることが出来なかったな。

その後、試合を見ながらメモを取り、今後の夜間講義に来た者にはメモした内容を元に講義を組み立てることにした。それにしてもカルロスのやる気が高いのはわかるがエルもやる気が高いのはなぜだろうか?

途中適度に休憩を取りながら受講生にはいつでも帰っていいと言っているのだが、帰る者がいなかったため、結局午後11時まで授業をしなければならなかった。



ホープン学園 学園長室


儂はいま、孫のリーナとソファーに座りながら対面しておるのじゃが…


「学園長~。聞きたいことがあります~」

「リーナや。何が聞きたいのかの?」


儂は知っている。こういう時のリーナはかなり怒っている。何に怒っているかはわからぬが素直に答えるが吉じゃ。昔これで「おじいちゃんなんて嫌い!」と言われた時の衝撃は今でも忘れることが出来ん。

「これを見てください~」と儂とリーナの間ある机に『シン・レイス試験結果』と書かれた1枚の紙が置かれる。


「…これがどうかしたかの」

「魔力測定の結果が0点なのはほんとですか~」

「……数字は嘘をつかん」


なぜリーナがシン君の試験結果を持ってきたかわからぬが、ここは言わぬほうがシン君のためになるという直感がする。

孫にジッと見つめられておじいちゃんは孫に隠し事をしている後ろめたさから心が締め付けられるが、友人の孫のためにもここはこらえる。


そんな時だった。


ドーンと扉が蹴破られ、「じじい、これはどういうことだ!」と折れた剣を片手にソフィアが(まなじり)をつりあげて、学園長室へ押し入ってきた。

儂に折れた剣を持った状態で足早に近づいてくるソフィア君を後から追ってきたホセ君が慌てて止めるために抱き着いたが、「どこ触ってんだ!」と胸に手が触れてしまったため壁まで吹き飛ばされ、ドンッと叩きつけられ、バタンッと倒れて動かなくなった。


(使えぬ奴じゃ)


儂が命の危機にさらされそうなときにあっさりと意識を失ったホセ君にため息をつきながら、隣に立ってこちらを見下ろしているソフィア君に「どうしたのじゃ」と顔を向けると、そこには折れた剣の切っ先があった。

ツーと頬に汗が流れる。


「じじい、この剣がどんな剣か。あんたにはわかるよな」

「魔剣じゃ。それも質の良い…」

「素手でおられた」

「なに!?そんな馬鹿な事が「シンの魔力測定の結果は0点だよな」…そうじゃ。それがどうした」

「シンは魔力を使っていた。それもこれまで見たことがないくらい膨大な魔力だ」

「………」


ソフィア君の話を聞いてリーナからの視線も強くなったことを感じた。

しかし、友人の孫を売るわけには「隠し事をする。おじいちゃんなんて嫌いです」ボソ。

シン君すまん。儂は孫に嫌われることに耐えることはできん。


「わかった。明日シン君をここへ呼び、彼の口から聞くことにしよう」


せめてもの情けとして彼自身の口から説明をさせるとしよう。

それで何とかこの場をおさめて、部屋を出て行ったリーナとソフィア君を見送った後、途中から意識が戻っているにも関わらず、意識を失ったふりをしていたホセ君に「そろそろ起きたらどうじゃ」と声を掛けた。

「お気づきでしたか」とホセ君は何事もなかったかのように自然と立ち上がり、服についた埃を手で払い落しながら対面のソファーに座る。


「学園長は彼が素直に話すと思いますか?」

「話さん可能性もあるのう。ホセ君、念のため測定用のブースを1つ借りといてくれるか」

「…次は保険の適用はありませんよ」

「…その時はその時よ。ほほほ…はぁ」


ホセ君が退室した後、儂は薬屋に胃薬を買いに部屋を出た。



「シン、お前誰かに振られたのか!」


俺と機嫌の悪いエルが食堂で朝食を受け取り、席に座ると対面に座って朝食を食べていたカルロスが食堂全体に聞こえるほどの大声で叫んだ。

その瞬間、バッと食堂にいた生徒全員がこちらに振り向いた。

俺が「違う」と答えると「だよな」「勇者が現れたかと思ったが…」「ちっ、面白い話題かと思ったら」など文句を言われながら食事に戻っていく。


「じゃあ、なんで頬が腫れてんだ?」

「…色々あった」

「色々って「早く朝食食べよ?」はい!」


カルロスの追及に言葉を濁した俺へ、さらに追及しようとしたカルロスはエルの言葉に背筋をピン伸ばして返事をすると一心不乱に朝食を食べだした。


遡ること1時間前。

俺は夜間講義が午後11時まで続いたため、自身の鍛錬をする時間が取れなかった。

そのため、早朝の鍛錬の時間を長くして部屋に戻ってきたのだが…ちょうどシャワーを浴び終え、部屋で何も着ないで、頭を拭いているエルに遭遇した。

その時つい「お前は狙っているのか?」と聞いてしまった。すると「そんなわけないだろ!」と殴られたわけだが、神龍甲冑を着ていた俺はほとんど痛みはなく、黙って受けた。

気が済むまで殴らせると「シンの馬鹿ああ」と泣きながら脱衣場に戻るのを見送る。

甲冑から学生服に着替えていると、服を着たエルが出てきたので、「さっきは悪かった」と謝るより、エルの握りしめた拳が俺の頬に届くのが早かった。

ちょうどズボンを穿こうしていたところだったのでうまく回避できなかった俺は壁まで吹き飛ばされて、その衝撃により意識を失った。

その後意識を取り戻すと正座をさせられ、今後このようなことがないように戻る時間なども事前に知らせるように取り決めをする。

ということがあった。


食事を食べ終え、部屋に戻り、鞄を持って登校する。

朝からひどい目にあったがそれからは何事もなく、『魔術基礎』『武術基礎』『一般常識』の順に授業が終わった。1時限目『魔術基礎』の時にリーナ講師を見たとき嫌な予感がしたが、その後何もないので気のせいかと『一般常識』の授業が終わり、図書館に行き、昨日のメモから各個人の講義内容について考えるために教室を出た時だった。

「シン君~」と恋人を迎えに来たかのように優しい笑顔を浮かべて手を振りながら走ってくるリーナ講師。

走れば当然一部が激しく揺れるわけで、「神が降臨された!」と祈りのポーズをとり、涙を流すカルロス。

そこで、「カルロス、リーナ先生が呼んでいるぞ」とカルロスを防波堤に使うことを思いついた。


「え!?リーナ先生。俺もリーナ先生の事が「シン君~」違うじゃねえか!」


カルロスをリーナ講師に向かわせている間に逃げようと考えていたが、途中でリーナ講師に阻まれた。

それから、カルロスと問答している間にリーナ講師の接近を許し、右腕を左腕と胸でホールドされる。


「シン君ちょっとついてきてくれるかな~」

「…理由をお聞きしても?」

「シン君の測定結果について確認したいことがあって~、ついてきてくれるかな~?」

「……はい」


腕が胸に包み込まれている。無理に抜こうとすると後が怖い。

どうやら図書館に行くのは中止せざるをえないようだ。

恐らく聞かれるであろうことなどを考え、今できる対策を取る。

周囲にいる生徒に見送られながら、俺は学園長室へ連行された。



「シン君。すまん。儂にはどうしようもなかったのじゃ」


懺悔するように謝る学園長。

対面に座る学園長がなぜここへ連れてきたのか簡単な説明をしてくれた。

要は試験結果とかみ合わないことについて俺自身の口から説明しろと。

俺の右隣リーナ講師、左隣にソフィア講師が座っている。

正面に座る学園長の斜め後ろにはなぜかホセ講師が立っていた。


「もし、話せんようなら再測定を行うのでついてきてくれるかのう」

「わかりました。話しましょう」

「ほお、話してくれるか」


俺がすんなり話すとは思っていなかったのか学園長室にいる全員が驚いているが、再測定をして以前のように測定器を壊したら、試験の時に俺が壊したことがばれてしまう。


「これをご覧ください」


俺は冒険者ギルドの認識証を取り出し、ステータスが他の者にも見えるように開示した。


名前:シン・レイス

種族:人族

職業:なし

能力値

HP :E

MP :E

筋力:F

頑強:G

俊敏:F

器用:E

精神:F

運 :G

武術スキル

【刀術LV. Ⅲ】【柔術LV. Ⅲ】

魔術スキル

【闇属性魔術LV. Ⅴ】

生活スキル

【清掃LV.Ⅰ】


これが表示されているステータス画面。皆一様に驚きと戸惑いの表情をしている。


「こんなはずはない。このステータスでどうやってあの時のように動ける!」

「それは恥ずかしながら装備が良かったからです」

「魔術を使えないはずじゃないのかな~」

「俺は魔術が使えないとは言っていません。魔術測定の結果が0点と言ったのです」


両隣からの追及をかわす。正面にいる学園長とホセ講師は何も言わない。

未だに両隣の2人は納得していないようなので、ここは懐柔策を取ろう。


「ソフィア講師。昨日剣を折ってしまったことを謝罪します。その代りと言っては何ですが、こちらを差し上げます」


まずは腰につけておいた<アイテムポーチ>から取り出した1本の剣をソフィア講師に差し出した。


「これは…本当に貰っていいのか?」


剣を鞘から抜いた瞬間に漏れる青い光。貴重なミスリル製の剣には水の属性を付与している。昨日折ってしまった魔剣には<強靭性上昇>が付与させていたがさすがにリーナ講師に連行されている最中に作ることが出来なかった。そのため、昔作った物を差し出した。

俺が頷くのを確認して「わかった。これ以上は聞かない、だが、時間があるときに私の稽古相手になってもらう」と言われた。懐柔に成功したのだろうか?

面倒事が増えたような気がするが、とりあえずはソフィア講師の追及を躱せた。

今度はリーナ講師だ。


「リーナ講師、以前魔術を使用したことは申し訳ありませんでした」

「やっぱりあれはシン君だったのね~」

「そのお詫びと言っては何ですが、以前使用した魔術。リーナ講師にお教えしたいのです」

「本当に教えてくれるの~」

「もちろんです」

「ありがとう~。それなら許してあげるね~」


ポフッと俺の顔を自らの胸に引き寄せ、抱きしめるリーナ講師。

最初はその柔らかさと優しい匂いに癒されたが、次第に息が出来ないため必死にもがく。その際、色々なところに触ってしまったため、甘い吐息がリーナ講師から漏れる。

その時ピキピキピキバキッゴトと何かが壊れる音と硬い物が落ちる音が聞こえると抱きしめる力が弱まり、抜け出すことが出来た。

音がした方へ向くと学園長が手を濡らした状態で俯いていた。目線を下げると割れた湯呑の破片が散乱し、なかに入っていたお茶が下に引いてあったカーペットを濡らしている。


「リーナ、ソフィア講師。話は終わったようじゃし、席を外してくれんか」


小さな声だったが、部屋に良く響いた。

リーナ講師とソフィア講師は「シン君、また今度魔術教えてね~」「また、稽古の時に呼びに行くから死ぬなよ」と言って退席した。


「学園長。私も使う必要が無くなったブースを「君は残りなさい」…わかりました」


ホセ講師も部屋を出ようとするが学園長に止められた。というより学園長の人柄が少し変わっているような…

リーナ講師とソフィア講師が出て行くと、学園長は懐から鉄製の灰皿と紙で出来たたばこを取り出した。灰皿を目の前の机にドンッと置き、たばこを銜えて指先から出した小さな火でたばこの先に火をつける。

そして一気に吸った後にフーッと天井に向って煙を吐いた。


「シン君。君にいくつか質問がある」


これまでの穏やかな話し方ではなく、ドスのきいた声になっている。

閉じているように見えていた細い目も今は眼光の鋭い瞳を覗かしている。


「なんでしょう」

「なぜ偽のステータスを見せた」


学園長はきがついたようだ。ここに来るまでに<隠蔽>と<改竄>の2つのスキルを創造した。

<隠蔽>によりもとのステータスを隠し、認識証では見えないようにした後、<改竄>により認識証の情報をGクラスにいてもおかしくない生徒の情報に書き換えた。


「なぜ偽だと思ったのですか?」

「魔術スキルの中に<時空属性魔術>が入っていなかっただろう」

「なるほど、盲点でした。しかし、言うつもりはありません」

「…そうか」


学園にステータスを申告しなければならない義務はないので、これ以上の追及はできない。

言えば、どこからその情報が洩れるかわからない。例えアレクじいちゃんの友人でも言うつもりはない。


「次が最も重要な質問だ。リーナの事をどう思っている」


学園長がたばこを灰皿に押し付けて消した後に、こちらの瞳をまっすぐ見つめて聞かれた内容に?が頭の中に浮かんだ。どうして最も重要な質問がリーナ講師の事?


「リーナ先生は立派な先生だと思います」

「そうじゃない。女としてどう思っている」

「?とても魅力的な女性だと思います」

「決闘だああああ」

「学園長。落ち着いてください!」


突然立ち上がり、叫ぶ学園長をホセ講師が羽交い絞めにする。


「シン君。リーナ先生の事は先生として尊敬しているだけ(・・)だよね!」

「?まだ3日しか見たことがありませんが、尊敬できる先生だと思います」

「ほら、学園長。そういうことです。シン君にとってリーナ先生は尊敬する先生と言うだけ(・・)です。落ち着いてください。それに騒動を起こすとリーナ先生に嫌われますよ」

「リーナに…嫌われる……」


ホセ講師の言葉に次第に落ち着いていく学園長。ポスンッと魂が抜けたように椅子に腰を下ろし、灰皿の中にある吸い殻を律儀にゴミ箱に移し、懐に入れると何事もなかったかのように元の位置に座る。

ホセ講師がすかさず、新しく入れ直したお茶が入った湯呑を目の前の机に置くと、学園長は湯呑を両手で持ち、一口飲んだ。

湯呑を机に置いた学園長は初めて会った時と同じく、目は閉じられていると思うほどに細くなり、穏やかに話し始めた。


「いや~すまんかったのう。少し感情が高ぶってしまったわい。ほほほ」

「そういうこともありますよ。それでは夜間講義もありますので失礼します」

「そうであった。引き留めて悪かったのう。……くれぐれもリーナに魔術を教えるときは節度を持った行動をするようにしなさい」


退室する直前に学園長からプレッシャーを感じたが気のせいだろうか?

呼び出しにより、退室したときには夕方になっていたので、今日は図書室に行くのを諦めて、寮に戻ることにした。



「俺は強くなりたい!そして、モテたい!」


後半が本音だろう。目の前に座るカルロスの目標を紙に書いていく。

昨日来ていた受講生にはステータスを見て本人の才能に合わせた講義内容を伝える。

今日来たばかりの受講生には昨日と同じように試合、試合後は自習にした。

試合後に俺は昨日来ていた受講生と個別に面談をする。

面談では自分自身がどうなりたいかを聞いてそれに合わせて講義内容を修正しようと考えている。

面談は屋外訓練場にある控え室に机と椅子を用意して行う。

面談は1人約10分程度。すでに3人終わり、今はカルロスと面談をしている。


『カルロス君。君は俊敏だが、他が低い。身体を鍛えることから始めよう』

「はい、ジン先生!頑張ります!」


元気は良く、なんでも前向きに取り組む姿勢から『武術基礎』でも頑張っているようだし、徐々に上がっていくだろう。

カルロスは俊敏:B、精神:Cと高いが、他がほとんどGのため、俊敏を生かした戦い方と鍛え方があっているのだが、本人は力が強いことに憧れを持っているので講義内容も筋力を上げる項目を増やそう。

カルロスの面談が終わり次に入室したのはエル。


「シン、よろしく」

「他に人がいる時はその名前でよぶなよ」


エルは俺の正体を知っている。他に誰もいないときはいいが、他に受講生がいる時に間違えられたときは焦った。


「わかってるよ。さっきはごめん」


本人も反省しているようなので本題に入る。


「エルはどんな自分になりたい」

「僕はいつも肝心な時に失敗するから失敗しそうになってもそれを跳ね除けられるようになりたい」

「そうか。それなら1つまじないをしよう。右手を出してくれ」

「まじない?」


俺は差し出された右手を左手で掴み、右手に持つ<アイテムボックス>から取り出した1本の黒の短剣を差し出された右手の人差し指に少しだけ斬るように動かした。


「まじないはこれで終わりだ。これで失敗することは減るだろう」


エルが説明を求める視線を向けてくるが説明はしない。

先ほどは黒の短剣によりエルのステータスにあった特殊スキル<不運(極)>を奪った。

エルのステータスを見る限りMP0以外はそれほど悪くない。

むしろ筋力:S、頑強:A。Aクラスにいても不思議ではない実力を持っている。

そして、特殊スキル<一撃入魂>:最初の攻撃を1ランク上の攻撃力まで引き上げる。

これによりエルの最初の一撃は筋力:SSの攻撃となる。普通の人間だと最初の一撃でミンチになってしまう。

エルの種族は混合種族(人族・巨人族)。ハーフであることがこの極端なステータスの理由だろう。

その後は黒の短剣を<アイテムボックス>にしまい。今日渡した講義内容を先ほどのなりたい自分に近づけるように若干の修正を加えて面談は終了した。


エルが退室すると次の受講生が入ってきた。


「ジン先生。よろしくお願いします」

『よろしく』


エルの次に入室したのはカオルだ。席に座ったカオルにこれまで通り『どんな自分になりたい』と聞くと、「背中を預けられる人と結婚したい」と答えが返ってきた。


(ここは結婚相談所ではないのだが…)


真剣な顔で答えられたので、こちらも講師として、真摯に聞かなければならないだろう。

それから背中を預けられる人という人間の具体的な人物像を聞くと、詳しい特徴や性格等の話を聞かされ、思い当たる人間が1人いたがありえないと切り捨てた。


「ところで、ジン先生。私の同級生に私が求めている人間がいる場合はどうすればいいでしょうか」

『お互いもっと知ることから始めるべきだ』

「そうですか…わかりました、頑張ってみます」


その後、講義内容についての話に移ると俺が直接指導しなければできない内容を逆に提案され、どちらが講師かわからないような話になり、最終的に「わかりました。これで手を打ちましょう」と終始主導権を握られる形で面談は終了した。

カオルが出て行き、ドッと疲れが押し寄せて来たがガラガラと扉が開いた先にはサラが立っていた。


「ジン先生。よろしくね」

『よろしく』


入室してきたサラからは講師に対してではなく、友達に話しかける様な気軽さで話しかけてきた。

心の中で首を傾げながらも、サラが席に座ったのを確認して、これまで通り質問をしようと空中に文字を書こうとした時だった。


「ジン先生。私、同級生に好きな人がいるわ」


俺は空中にあった手を下ろして、対面に座るサラを見つめる。


(ここは恋愛相談所ではないのだが…)


サラの真剣な表情を見て、講師として真摯に向き合わないといけないと姿勢を正す。


「日中は私の周りにはいつも人がいて、なかなか声を掛ける機会がないの。だから、いまだに自己紹介しか出来てないわ」


自己紹介しかしていない相手をなぜ好きになるのだろうか?一目ぼれと言う奴か?

というより、性格が変わっていないか?


「生徒がいる前で私が親しく話したら先生に迷惑がかかるでしょ?講師の中でもジン先生だけは別。本当の私を知ってほしいの」


俺が思っていることを察したのかいつもと違う理由を教えてくれたがどう答えればいいだろうか。


「それで、ジン先生に相談。私が好きな人に会うにはどうすればいいかしら」

『直接聞いて「日中は私の傍にいつも誰かが居るし、講義がある曜日の夜は仕事をしているの」手紙を書いたらどうだ』

「そうね。じゃあ、手紙を出してみるわ。返してくれるかしら」

『普通の男子は返すと思うぞ』


第2皇女からの手紙に返事をしないと後が怖い。普通の男子生徒なら返事をするだろう。


「それを聞いて安心したわ。もし返事が無かったら先生に責任、取ってもらうから」


誰に送るかもわからない手紙の返事が無かったら俺の責任問題に発展するのか?

まてまて、それはいくら何でも…


「後は今日貰った講義内容を見たけど、もっと先生が直接指導してくれる時間を増やしてくれるかしら」


話が講義内容に変えられ、先ほどの話はこれで終わりとして話を進められる。

それからの流れはカオルの時と同じく終始主導権を握られる形で面談は終了し、「それじゃあ、これからもよろしくね」と退室していくサラを見送った。

それからは、何事もなく他の面談は終了。カオルとサラは面談終了と同時に帰ったようだ。

今日面談ができなかった受講生には明日以降改めて講義に来た際に面談をする。

昨日と同様に午後11時まで生徒が残っていた為、今日も早く終わることが出来なかった。



お読みいただきありがとうございました。

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