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平穏無事な生活がしたい  作者: misuto
第2章学園編
22/33

2-8入学式


「ここは…」

「主、起きたのですね!」


横を見るとライが丸まった状態で顔だけこちらを向いている。

俺が起きたことに気が付いて、尻尾を振りながら近づいてくると、頬をなめ始めた。

布団から右手を出して、ライの頭を撫でる。


(いつベッドに入った?)


昨日家から寮の部屋に転移をして…


「目が覚めたみたいだね。おはよう、シン。今日は入学式があるから、そろそろ起きないと朝ご飯を食べる時間が無くなってしまうよ」

「おはよう、エル」


声がした方へ目を向けると男性用の学生服を着ているエルが立ってこちらを見ていた。

そうだ。転移した時に…


「早く起きよう?」

「…そうだな」


これ以上昨日の事を思い出すのはやめよう。急がないと朝ご飯が食べられないからな。

決してエルの笑顔に危険を感じたからではない!

学生服に袖を通して、食堂へ降りるとカルロスとジェスはすでに席に座り、朝食の黒パンともやしスープ、もやしのサラダを食べていた。


「お、久しぶりだな。おはようシン、エルに感謝しろよ。お前が起きるまで待つと言っていたからな」

「カルロス君。余計なことは言わないようにね」

「はい!」


カルロスが突然起立をして返事をしたので食堂中から注目を集めてしまうことになり、慌てて周囲に「お騒がせしました」と謝っている。

エルに「そうなのか?」と聞くと顔を赤くしながら顔を合わせようとしないので「ありがとう」と言ってカウンターで朝食を受け取り、カルロスとジェスがいる席の対面に座った。


「シン、おはよう。1ヶ月近くいないようだったがどこか行っていたのか?」

「おはよう、ジェス。学園の推薦状を書いてくれた人に合格したことを報告しに行っていた」

「なるほど。無事帰ってこられて良かった」

「ありがとな」


それから、エルが俺の隣に座って朝食を取ってから、部屋に戻り、綿の袋に文房具を入れたところで、エルが質問をしてきた。


「シンはバッグを貰ってないの?」

「バッグ?」


どうやら希望者には手提げバッグがもらえるよだが、申請がいるらしい。

その他、試験合格日の翌日から必要な人は申請すれば学園推奨の体操服等を支給してくれるらしい。あとで学園の購買に申請に行くか。

今日はどうしようもないので綿の袋を肩に掛けてエルと一緒に部屋を出る。

隣の部屋にいるカルロスとジェスにも声を掛けて寮を出て校舎に向かっていると、同じGクラスの学生服を着た緑髪の少女が黄色の学生服を着たDクラスの少女3人に囲まれていた。


「あんた、Gクラスでしょ。よく堂々と学園を歩けるわよね」

「ほんっと、なんであんた達みたいな底辺がいるのかしら」

「才能ないんだからさ。学園からいなくなったらどうなの?」

「そんな、折角入れたのに…」


大人しい性格なのか囲っている少女達にうまく言い返せないでいる。


「ひどいやつらだな」

「全くです。試験内容に受験者の人格も入れるべきでしょう」

「ちょっとやめさせてくるよ」


エルが少女の下へ行こうとしたが、その前に少女達の間に白い学生服を着た集団が近づいた。


「あなた達、朝から騒がしいわよ」

「誰よ!他人が口を……」


白い集団の先頭に立ち、少女達に話しかけた蒼天のような瞳と右の揉み上げを編んでいる絹のような金髪をした16歳前後の少女。

Dクラスの少女は突然話に割り込んできたので怒声を吐きながら声がした方を振り向いた。そして、誰に口答えをしたのかを知り、サーッと顔から血が引いている。


「何かしら」

「いえ!先ほどは失礼なことを申しました。申し訳ありません!」


Dクラスの少女達が「失礼します」と頭を下げながら足早に去っていった。


「大丈夫?」

「はい、ありがとうございました!」

「そう、よかったわ。また言われているようなら私のところに言いに来なさい」

「そ、そんな。恐れ多いです」

「ふふ、それじゃあね」

「はい、本当にありがとうございました!」


1人の女医者が多数の女医者や看護師を連れて行くように移動する姿は周囲を圧倒していた。


「かっこいいな~」


隣にいるエルが先ほどのAクラスの少女を見て、乙女のような視線を向けている。

うん?その件の少女が蒼天のような蒼い瞳でこちらを見て動きを止めている。

あ、近づいてきた。それに続くように白い集団がこちらに近づいてくる。


「あなた、名前は?」

「おいカルロス。聞かれているぞ」

「なに!(わたくし)、カル「あなたではないわ」…ですよね…」


カルロスが花壇の前で体操座りをしながら花と話し始めた。

さすがに悪いことをしたか…

カルロスから目の前にいる少女へ視線を戻すとまっすぐこちらを見ていた。


「人に名前を聞くときは自分から言うべきではないか?」

「貴様!サラ様にむか「やめなさい」…はい」


後ろにいる犬耳の少女が激高したがサラと呼ばれた少女に止められ、大人しくなった。


「失礼しました。私はサラ・イレミアと申します。以後お見知りおきください」

「「「「「サラ様!」」」」」


サラが頭を下げるように自己紹介をした為、後ろにいた犬耳の少女も含めて全員が驚きの表情を浮かべている。あまり目立つようなことはしてほしくないのだが…


「これで、名前を教えてもらえるかしら」

「シン・レイス」

「そう、シン。これからこの学園に通う同じ生徒ですから仲良くしましょう。そろそろ入学式が始まるからまた今度話しましょうね」


それだけ言うと、サラがお供を連れて校舎へ歩き出した。


「呼び捨てで読んで良いとは言っていないのだが…」

「そこじゃないだろ!どういうことだ。なんでサラ様がシンの名前を聞くのか説明しろ!」

「そうだね。突然名前を聞くなんてとても興味深い」

「シンてめえ。なんでさっき俺に振った!」


エルが胸倉をつかんで説明を求められ、ジェスが興味深そうな瞳で俺を見つめ、カルロスが立ち直ったのか戻ってきた。

俺が知るか!と思いつつも、だんだんエルの手が上にあがり首を絞められている為、声を出せない。ジェスは置いといて、カルロスには悪いことをしたと思う。

エルの追求は予冷がなるまで続いた。



予冷がなり、全力疾走をして、なんとかGクラスの教室に間に合った。

汗だくの俺達は空いている席に座り、ハンカチで汗を拭っているとガラガラッと担任となる先生が入ってきた。


―ポヨン


教室に入ってきたのは20代前半の女性講師。水色の長い髪を自然に伸ばし、くびれたウエストと大きなお尻。そして、歩くたびに揺れる胸。ベージュのスーツと白いワイシャツでは抑えきれないため、深い谷間が教室にいたほとんどの男子生徒の視線を釘付けにしていた。

女性講師は教壇に立ち、見ている者の心を落ち着かせる優しい笑顔で「皆さん。おはようございます~」と間延びした声の挨拶をした。

教室にいた生徒全員が挨拶を返すと、「私はリーナ・ブラウンといいます。これから皆さんの担任になりますので、よろしくお願いしますね~」と自身の自己紹介を行う。

この講師の話を聞いていると力が抜ける。それに、先ほどの名前。ブラウン性ということはもしかして…


「はい!先生質問があります」

「なんでしょ~」


早速カルロスが手を挙げた。カルロスも気になったのだろう。


「先生は彼氏いますか!」


ガタンッと机に突っ伏してしまった。カルロスとはまだ数日しか話していないが、何となく性格がつかめてきた。一緒の部屋に住んでいるジェスはあきれ顔、エルを含めて女子生徒からはケダモノを見る目。他の男子生徒の反応は先生の答えに期待するもの、どうでもいいと読んでいる本に視線を落とす者等様々だ


「ごめんなさい~。プライベートの事はお答えできません~」

「そんなああ」


肩を落とすカルロスを隣に座る男子生徒が「ドンマイ」と肩を叩きながら励ましていた。

その後、講演やイベントで使われる講堂へ移動する。

講堂にはすでにGクラス以外の生徒と保護者・親戚等が座っていた。Gクラスが最後に入場し、Fクラスの生徒の後ろの席に座っていく。


各クラスの構成はA=10人、B=20人、C=40人、D=80人、E=100人、F=120人、G=135人のピラミッド型になっている。基本的に得点が高い者から順に枠が埋まり、最後にFクラスに入れなかった者達がGクラスへと入ることになる。

閑話休題。


全員が揃ったため、入学式が始まった。

最初に学園長の「新入生諸君。入学おめでとう」から始まるありがたいお言葉が終わり、次に講師の紹介が行われた際にソフィアさんが獲物を狙う目でこちらを見つめていた気がするが気のせいだろう。

生徒会長の祝辞の際に壇上へ上がった男子生徒は『ローエン・イレミア』という鋭い目と銀色の髪をしたカリスマ性を感じる少年だった。

次に新入生代表挨拶のために壇上に上がったのは1月前広場であった少女。『カオル・イレミア』と名乗った少女の挨拶が終わり、入学式は閉会した。


入学式が終われば、新入生は解散。各自自由にしてよいことになっている。保護者・親戚等が来ている新入生は学園から出て都市内の飲食店で食事をするなど思い思いの行動をしている。

俺は誰も来ていない。まあ、親族はいるがこれまでまともに話したことはないし、俺の顔は知らないだろう。


「ところで、エルは誰か来ていないのか?」

「僕のところは誰も来ていないよ」


一緒に寮へと帰るエルに訊ねると寂しそうに下を向いて答えたので、これ以上は聞かなかった。

途中学園の購買にバッグの申請をするとその場で渡された。時間があったためついでにテストの結果の詳細について受付に聞きに行くと『シン・レイス試験結果』と書かれた紙を渡され、そのまま部屋に戻った。



入学式の翌日。1時限目

今日は受講申請用紙の書き方と提出期限について先日と同じ教室でリーナ講師から説明を受けた。

配られた紙には多数の講義が書かれているが、Fクラス以上しか受けられない講義は黒く塗りつぶしてある。殆ど選択肢がなかった。


「講義は選択制になっています~。黒く塗りつぶされていない講義を選択して受講して下さいね~。それと~、日中に受講できない人や単位が足りなくなった人は夜間にも講義をしていますからそちらに随時登録してくださいね~」


90分の講義を1回受講すると1単位が付与される。夜間講義は例外的に授業料を稼ぐために日中働く生徒の救済という意味合いが強いため、1時間2単位が付与され、1日午後6時から11時までの最長5時間行うことが出来る。1年間の最低取得単位は600単位、卒業までの3年間に必要な単位は2000単位。遊び惚けている学生などは学年末目前になって600単位に届かないことに気が付き、夜間講義にどっと押し寄せるのが恒例行事らしい。

途中でクラスが変わった場合は変わったクラスの講義が選択可能になる。その際やめる講義があれば、事前に申請すれば次回以降受講する必要はなくなり、それまでの単位は取得済みとして処理される。

閑話休題。


「質問よろしいでしょうか」


ジェスが手をあげると「どうぞ~」と許可が出たので質問した。


「黒く塗りつぶされていない講義の年間取得可能単位が600単位。これでは選択と呼べないのではないですか?」

「そうよ~。だから早くクラスを上がれるように頑張ってね~」


つまり、最初からGクラスの生徒に選択権は与えられていない。

今日から14日間は選択可能な講義を見学できるようになるがGクラスには関係がない。

ここで、講義終了の鐘が鳴ったため、次の講義に向けて移動を開始する。

2時限目『武術基礎』。男女で更衣室に別れ、白のTシャツ、緑のズボンの学園推奨の体操服に着替えてから屋外訓練場に集合した。


「よく来た!俺は武術基礎を担当するプロ・テインだ!いいか!お前たちは今どん底にいる!つまりは!上がるしかないということだ!」


屋外訓練場には全身日焼けして、筋骨隆々、タンクトップ姿の30代前半スキンヘッド男がブーメランパンツを履いて、立っていた。

なぜ、いちいち言葉を区切るときにポーズを決めるのかは不明だ。


「まずは、そのひ弱な身体を俺のように、健康的な肉体につくり替える!」


「遠慮します」とは言えない独特の雰囲気を醸し出しながら、ポーズを止めて、腰に手をあてながら、胸筋をピクピク動かすのは、やめてもらいたい。


「今日はこのグラウンドをひたすら走れ、以上!水分補給はプロテインのみ許可する」


スタートライン近くに設置されたテーブルには大量の紙コップが並べられている。紙コップには手書きでバニラ味・イチゴ味・バナナ味・ココア味等が書かれている。


(あれが全てプロテインなのか!?)


テイン講師はスタートラインにたち「早く並べ!」とせかす。授業参加者(Gクラスしかいない)全員がスタートラインについたことを確認すると「いいか!いまお前たちの隣にいるのは共に走り切る仲間だ。どちらかが倒れたら、もう一方が担ぐか肩を貸して走れ!」ハンドガンのようなものを取り出し、空に向ける。俺の隣にはエルがいる。しかし、Gクラスは奇数のはずだが?


パァンと空砲と共に一斉にスタート


テイン講師は全員がスタートしたことを確認するとテーブルの横にあるパイプ椅子に腰かけ、片手に『50kg』ダンベルを持ち、筋トレをしながら、もう一方の手にイヤホンを握り「全力で走れ!骨になっても走らせてやるから死ぬ気で走れ!」と発破をかける。

いや、死んでも走らせる気かあんたは!

本当に1時間全力で走らせるつもりなのか。途中で手を抜いていると判断した者には男ならダンベルが、女性には防犯用のカラーボールの中身がプロテインになったプロテインボールが飛んでくる。

途中で力尽きて倒れた者は隣を走るもう1人が担ぐか肩を貸して運ばなくてはならないが、

共に力尽きたらテイン講師が近寄り「お前達はまだプロテインが足りん!」と意識がもうろうとする中、強引に飲ませ、その後、口にテープを貼り、吐き出せなくしてから、自らが前と後ろに担いで走る。気分が悪い状態のときにプロテインを流し込まれ、吐き出すこともできずに胃の中をシェイクされる生徒を見て他の生徒は恐怖し、何度転んでも起き上がった。

テイン講師は走りながらどこからともなくダンベルとプロテインが入った蓋つき容器を取り出す。

彼はスキルに<倉庫(筋トレ道具・プロテイン限定)>を持っているのでどれだけ持っているかは不明。

1時間経過。鐘の音と共に武術基礎は終わった。最後まで立っていた者はほとんどいない中、エルは最後まで走り切った。少し疲労が見えるがまだ限界ではないようだ。


「カルロス。よく耐えたな」

「テイン先生。俺やりましたよ。最後まであきらめず走り切りました!」

「うむ。頑張った君に秘蔵の高級プロテインをあげよう」

「あざーす!」


1人で走ったのはカルロスだったか。

テイン講師から受け取った高級プロテインを腰に手をあて、豪快に飲んでいる。

ムキムキになったカルロスを見るのは(正直見たくはないが)そう遠くないかもしれない。


午前中の講義が終わると昼食。

昼食は主に3パターンに別れる。


1.お金がある者→学園の学食(有料)

2.お金がない者→寮の食堂(無料・授業料に含まれている)

3.その他→弁当


俺達は寮に戻ってもやし料理を食べていた。5号館の食堂の料理には大抵もやしが入っている。

エルとジェスは野菜たっぷりモヤシ炒め、俺とカルロスは山盛りもやしラーメンを選択した。


「あんたのご飯何盛だい」

「乙女盛りをお願いします」

「…そうかい。はいよ、乙女盛り」

「ありがとうございます」


恰幅の良い食堂のおばちゃんはエルの正体について何か勘づいたようだが、何も言わなかった。それから、ジェスは並、俺とカルロスは特盛を注文した。

席に座ると、カルロスがエルに「それだけだと、午後持たないぞ」と声をかけると隣にいたジェスがカルロスの頭を殴り「いてえな」と振り向いたところに「少しは察しろ」と言われ、「腹が痛いのか?」と見当違いの勘違いをしたが皆スルーした。ジェスも何かしら勘づいたようだ。


そんな一幕もあったが何事もなく昼食は終わり、3時限目の教室へ向かう。


3時限目『魔術基礎』。黒いローブを着たリーナ講師。ローブで胸の部分が隠れてしまっている為、カルロスが「神がお隠れになった」とあからさまにため息をつき、Gクラスの女子から冷たい目を向けられている。

初回の講義は魔術の基本中の基本である。体内の魔力を感じ取ること。

教室内にいる者は皆、一様に目をつむり、瞑想している。

しかし、武術基礎で身体を酷使して疲れが残っている者や瞑想するため目を瞑った影響で眠る者もあらわれる。

だが、寝てしまった者は「きゃあああ」と悲鳴が起きる。いまの声はエルだな。周りがみんな目をつむっていたからよかったが、一歩間違えれば正体がばれるぞ。

リーナ講師は優しい見た目に反して酷いことをする。眠った者には過去にしてしまった恥ずかしい出来事を思い出させる魔術を使っている

少し試したいことがあったので、眠ったふりをしていると魔術をかけられた。

<闇属性魔術:術返し>:自身への魔術を吸収し、倍にして返す魔術。自身の魔術レベルの方が低いと倍のダメージを受ける。により自身の魔術を倍にして味わうことになったリーン講師は「きゃああああああ」と悲鳴をあげた。さすがに教室にいた生徒も驚いて目を開ける。

静寂が支配する教室。表情は変わらないが顔をまっ赤にしたリーン講師がこちらを向いている。これはやってしまったかもしれない。

講義は一時中止。「シン君ちょっとついてきてくれるかな~」と教室の外へ連れていかれる。


「シン君~、君は魔術が使えるのかな~」

「リーナ先生。俺の魔術測定の結果は0点ですよ」


ここは試験結果を盾に追及をかわそう。

疑わし気な目をしているが嘘をついている証拠がないため「あとで確認しますね~。もし嘘ならお仕置きですよ~」とリーナ講師が言った時、背中にゾクッと寒気を感じた。

大丈夫のはずだ。嘘は言っていない。

教室に戻り、講義が再開されたがリーナ講師がずっと俺を見ていることが目を瞑っていてもわかった。


4時限目『一般常識』。担当は常に全身が震えている杖を持った老人コーモン・センス。綺麗に剃られた頭と仙人のように長い髭。『一般常識』の授業は毎授業ごとにプリントが配られ、それを生徒が順番に朗読するだけの授業。


俺達1年Gクラスの生徒は今日の『武術基礎』『魔術基礎』『一般常識』の3つの授業以外に夜間講義と休講日に行われる参加任意の講義にしか受講することはできない。

『一般常識』の授業が終わると他に授業がない。

仕事に行く者、自主練に行く者、自分の部屋に帰る者等様々だ。

エルとジェスは仕事、カルロスは自主練に行き、残った俺は学園の図書館に来ていた。


学園の図書館は地下2階地上3階建てのレンガ造り、壁は白く塗装されているため、光を反射してとても綺麗な外見をしている。

中に入るとずらりと並んだ本棚。本棚には隙間がないほどの書籍が置かれている。

メガネをかけた司書の女性に学生証を見せて、図書館にあるまだ見たことのない本を探しに回っていると、世界史のコーナーに『こうしてイレミア皇国は出来たⅠ』と背表紙に書かれた本を見つけた。これまで自分が生まれた国の歴史は知らなかったので興味を持った。

近くに置かれている椅子に座り、本を開くと、イレミア皇国が生まれる前のイレミア王国の時代から書かれていた。


『イレミア王国歴2083年。当時の第1王女であったレイ・イレミアが王宮の地下深くに封印されていた神龍の心臓に触れたとき、時代が動き始めた』


から始まってレイ・イレミアが女王になるまでの話が書かれていた。

本棚に並んでいたのは全10巻。読み終わった時には、夕方になっていたので、夜間講義前に夕食を終わらせるため図書館を後にした。


寮に戻ると、早速夕食を食べに食堂へ向かう。

まだ時間が早いため、何人か話をしている者はいるが食事をしている者はいない。


「あんた。もう夕食かい?」


食堂のおばちゃんもこの時間に食べる者は珍しいため、声を掛けられたが、頷くと理由は聞かずに特盛もやしカレーを出してくれた。


(もやしとご飯しか見えない)


お盆に置かれたカレーにはルーが見えない程のもやしが乗せられていた。

「たんとおたべ」と言ってくれたので、「ありがとうございます」とお礼を言ってから席に座り、ひとり特盛もやしカレーを食べ始める。

シャキシャキとしたもやしの食感を楽しみながら、ご飯を掬い食べ進めると、ようやくカレーのルーが見えてきた。ダンジョンでとれる香辛料を混ぜ合わせた東部公爵領名物のカレーを初めて食べたが中辛のようだ。

カレーを食べ終えると、部屋に戻り、黒竜装備に着替える。

講師をするときは顔を隠すように学園長から指示を受けている。また、声でもばれる可能性があるため、空中に文字を書いて話すようにと言われている。

非常に面倒だが、対価を受け取る以上、依頼主の注文を聞かなくてはならない。


部屋を出る際にこの姿を見られるわけにはいかないので転移を使って屋外訓練場入り口へ移動する。

夜間講義は講師が講義の7日前に登録した講義の場所と講義内容が学生に伝えられる。

夜間講義の担当講師は基本的に志願制。講師の中でしてもいいと志願した者が行うため、これまで志願者0名の時は行われることがなかった。今回常任講師として1名ついたことで常時夜間講義を受けることが出来るようになった。

今日見た夜間講義の講師が記載された欄には『ジン』と俺の事だろう名前だけが記載されていた。今日、他の講師は夜間講義を行わないようだ。

今回の講義内容は模擬戦。戦うところを見て受講生の実力と資質を見ることにしている。

屋外訓練場に入るとすでに誰かが素振りをしていた。

講義開始まで、あと30分程時間があるはずだが…


「来たみたいだな」

「…なぜ講師であるあなたがいるのですか。ソフィア先生…」


素振りをやめて訓練場の中央に立ち、こちらに身体を向けたソフィア講師は以前とは違う赤い光を放つ剣を持っていた。

肉食獣が獲物を狙う時の目をして「さあ、再戦をしよう」とこちらに突っ込んできた。



僕は仕事が終わり、夜間講義へ行くため、部屋に戻ったけどすでにシンはいなかった。

夕食は職場が賄いを出してくれたから、早速動きやすい服に着替えて、屋外訓練場へ行った。

まだ、講義は始まっていないはずなのに剣がぶつかり合う音が入り口まで聞こえている。

訓練場に入るとすでに多くのGクラスの生徒が来ているけど、その中に「なんで?」と思う人物が2人いた。

カオル・イレミア様とサラ・イレミア様。どちらも試験結果1位・2位のAクラス。

夜間講義なんか受ける必要がない人たちだ。

他にいるのは全員Gクラスの生徒だ。ジェス君やカルロス、朝Dクラスの生徒に絡まれていた少女もいるけど、あの2人に全く意識を向けていない。

受講生の視線の先に目を向けると、冒険者ランクAのソフィア講師と黒い甲冑を着たシンが戦っていた。

ソフィア講師の赤い光を放つ魔剣とシンが持つ黒刀が何度もぶつかり合い火花を散らす。

2人の動きを目視することが出来ない。

ぶつかり合った一瞬だけ、姿を捕らえることが出来る。


(次元が違いすぎる)


これまで見たことがない戦いに魅了されていたが、2人の動きが止まった。

シンの方が指を動かし、空中に文字を書いている。


『そろそろ講義の時間になりますので終わらします』

「いいだろう。次でその鼻っ柱をへし折ってやる!」


シンが刀を鞘に納めて無手で、特に構えることなく待ち構える。

ただ立っているだけに見えるのにすごい重圧をシンから受けるのはどうしてだろう。

あれ?他の人達が震えてる。


「なんだよ…あの魔力の濃さは…」


観戦していた一人が震える唇を動かして呟いた。僕は魔力がないからわからないけど、もしかしたら他の人には違う光景が見えているのかもしれない。

ソフィア講師が動いた。その表情は真剣。少し焦りのようなものが感じられた。

バンッと空気が弾けるような音の後に突風が訓練場を襲った。唯の風じゃない魔力を含んだ風だ。各所で悲鳴が聞こえる。僕も必死に足を踏ん張って風に耐えるけど限界に近い。

「もう、ダメ」と思った時。風が止んだ。

顔を覆っていた腕をどけて、シンがいる方へ視線を向けると折れた剣を持つソフィア講師と両手を前に出しているシンがいた。


あ、ソフィア講師が折れた剣を見ながら両ひざを突いて泣きだした。

見下ろしているシンが頭をかいた後、片膝を突いてソフィア講師の頭を撫でだした。

ソフィア講師は右腕でゴシゴシと涙を拭ってから、シンの腕を払い除けながら何か言って、こちらに向って駆けだした。

僕はぶつからないように横へ移動すると、目元を赤くしたソフィア講師が先ほどまで僕がいたところを走り抜けて訓練場を出て行く。

受講生全員、無言でソフィア講師の走り去った方向を見ていると、先ほどまで戦っていたシンがこちらに近づいてきた。


『時間になったので、これから夜間講義を始める』


先ほどまでの事はなかったことのように講義を始めだすシンに誰も反応を示さない。

しかし、僕は先ほどの戦いを見てシンがこれからどんな事を教えてくれるのだろうと夜間講義に期待を膨らませていた。



お読みいただきありがとうございました。

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