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平穏無事な生活がしたい  作者: misuto
第2章学園編
19/33

2-5オークション

日にちが開いてしまい申し訳ありません。

ホープン学園 学園長室


ドーンと扉が蹴破られ、「じじい、これはどういうことだ!」とソフィア君がまなじりをつりあげながら、1枚の紙を握りしめ、執務机に座りのんびりお茶を飲んでいる儂に詰め寄った。


「ソフィア君。扉は手を使って開ける物じゃ。足で開ける物ではない」

「そんなことはどうでもいい。これはどういうことだ!」


バンッと机に叩きつけられるように置かれた紙には『シン・レイス試験結果』と一番上に書かれてある。その下には、『筆記100点・魔力測定0点・体力測定0点 合計100点 合格』

と書いてあり、筆記の各科目の点数、体力測定の項目ごとの得点が記載されている。


「ほお、彼は合格できたか。よかった。よかった」

「そこじゃねえ、よく見ろ。あいつの体力測定の結果が0点。あたしとやりあえる実力を持っている奴がだぞ!」

「ふむ。確かに0点は不自然じゃ。しかし、すでに決まってしまったことじゃ。彼ならすぐにAクラスに移れるじゃろう。それと、君がAクラスの担当なのは変わらんぞ」

「な!?あたしはまだ何にも言っていないぞ!?」


年の功によるものか。儂はソフィア君がここへ来た理由を正確に理解していた。

それからいくら言葉を重ねても自身の願いが叶わないことを察したソフィア君は入ってきた時の顔そのままに学園長室を後にした。

「やれやれ」とため息をついて後ろ姿を見送った儂は開いたままの扉に向って「ホセ君入ってきたらどうだね」と声を掛ける。


「学園長にはばれていましたか」

「まあ、年を重ねればわかるようになる」

「難しいと思いますよ」


ホセ君は苦笑しながら入室し、開けっ放しであった扉を閉めた。

儂とホセは対面になるようにソファーに座るとホセ君が脇に挟んでいた。封筒から1枚の紙を机に置いた。


「今回の試験の損害額です」


置かれた紙には今回壊れた器具と水晶玉の損害額が記載してあった。


「白金貨10枚」

「はい、レンタルしていたブース1つが使い物にならない程、破損していました。先方から「あなたの学園では化け物でも飼っているのですか?」とお言葉を頂きましたよ。何とか保険ですみそうです」

「嫌な役割をさせてしまったのう」

「仕事ですから」


紙を手に取り、内容に目を通し、「儂。やめようかな」とこぼすと、「ダメです」と即座に切り返されて肩を落とす。

儂は<直感>スキルを持っている。それが警鐘をならしている。

『損害はこれからもっと膨らむ』と。

ホセ君はそれから今回のブース破損事件についての報告を行い、学園長室を退室した後、儂は薬屋に胃薬を買いに部屋を出た。



「さて、どうするか」

「あんた。その黒い甲冑姿で店の前に立たないでくれ。客が怖がって来なくなる」

「店主10本だ」

「はあ…あいよ」


ここは北通りの屋台が並ぶ中、暴れ鳥の串焼きを売っている屋台の前で小さいサイズの従魔2匹を出して、立ち食いをしていた。

ここの屋台独自の塩ベースのたれで焼いた串焼きはうまい。2匹も気に入ったので、こうして一緒に食べている。

最近あまりかまってやれていないので、こういう機会に出来るだけかまってやらないとな。

寮の部屋が決まった日の翌日。俺は入学式までの間『城郭都市プロセディオ』に戻ってきていた。

目的はウィスダムさんに合格したことを報告とうちで扱っている商品を大量に買付けたいと言う商人との交渉。

商人との交渉については相手側が独占販売を求めてきたのでお断りした。俺がこの店を建てたのは金もうけのためではない。

今回の事で反省すべきことがある。『アイン』と『ヘレナ』はまだ起動して日が浅い。海千山千の商人とまともに交渉できるわけがなく。

俺に連絡をしてきた。これからも続くと困るので、どうしたものかと屋台で焼き鳥を食べながら考えている時だった。

1台の馬車が目に入った。馬車が運んでいるのは鉄の檻に入れられている人族。檻に入れられている者達は一様に下を向き、絶望した表情を浮かべていた。


「奴隷か…」

「ああ、あれか。3日後オークションが開かれる。そのオークションに出品される大量の商品が朝から運ばれている。15年前までは奴隷はいなかったが、第1皇子が奴隷制度を採用したことで、今じゃオークションの目玉商品らしいぜ」

「オークションか。どこで行われるか教えてくれないか」


屋台の店主にオークションの情報を聞いて、代わりに用意していた焼き鳥全て購入した。腐らせる心配がないので買い置きが出来るのは助かる。

お腹が膨れた2匹は影の中でお昼寝をしているので夕食時に改めて出そう。

オークションまで時間があるのでちょっと家に戻ってオークションへ出品する商品を作ってみよう。

家に戻った後はすぐに錬金部屋に入る。

今回作るのは『(ちょう)(やく)』と『脂肪燃焼薬』。

(ちょう)(やく)』:飲むときに長くしたいところを意識して飲むとその場所が1㎝長くなる。効果1日。

『脂肪燃焼薬』:脂肪の燃焼を促進し、健康的な身体を手に入れる。効果1日。

オークションには貴族や豪商等が多数参加するらしい。夜の営みやお腹が気になりだした人たちをターゲットにした商品だ。

早速作業を始める。『(ちょう)(やく)』に使うのはシルバ大森林の奥地に生えているゴム草と心草。ゴム草は伸縮性のある硬い草。近づいたものを転ばして、伸びて身体に巻きついた後に絞め殺し、殺した魔物から養分を抜き取る草。心草は獲物の心を読み取り、獲物が望む幻覚を見せている間に養分を抜き取る草。シルバ大森林には危険な草が多いが出来る薬は有用なものが多い。

硬いゴム草をナイフで削り、すり鉢で潰しながら、水を加える。薬を作るために必要なゴム草のエキスは水溶性なので、水にエキスが溶けたところで、水だけをビーカーにいれる。次に少しあぶった心草を同じようにすり潰して、ゴム草のエキスが溶けた水に入れてかき混ぜれば出来上がり。

素材以外はあまり手間がいらない薬だ。

『脂肪燃焼薬』はゴム草が乾燥したオークのレバーに代えるだけで簡単に出来る。

この日試験管に入れた『(ちょう)(やく)』×100本、『脂肪燃焼薬』×100本が完成した。

その後オークションの前日夕方までオリハルコンの剣・ミスリルの槍・アダマンタイトの戦斧を1本ずつ作る。最後に全ての商品に鷹・薬瓶・剣が書かれた紋章を刻印する。

最近店の商品を転売・偽造する者達が現れたので、転売抑制と真偽が分かるように刻印をするようにしている。

刻印が終わり、オークションの受付に出品申請を行った。

代わりに入場資格者証の紙を受け取り、家に戻る。



オークション当日 

オークションは夕方から行われるため、従魔達と朝に鍛錬、昼に孤児院へ行く。


「あ、おっちゃんだ!」


以前炊き出しを行った孤児院に入ると少しぽっちゃりした男の子がこちらに駆け寄ってきたので大福を取り出すと…消えた。

「おっちゃん。ありがとう」といって近くの椅子に座り食べ始める。マリアさんの言いつけを守っている。

「「「「ジ―――」」」」奥にある扉から8つの瞳がこちらを凝視している。その中の4つは小さいサイズの従魔達をロックオンしている。『ライ』は昔の記憶がよみがえったためか雷の如く、影へと避難。『アイシャ』は空のように広い心で受け入れるようだ。

手招きをすると近寄ってきた。少年達は大福、少女達は『アイシャ』。

少年達は仲良く座って食べている。少女達は『アイシャ』を抱き、撫でる光景を眺めていると、奥からマリアさんが現れた。


「来てくださったのですね。なかでお茶でもどうですか?」

「お誘いはありがたいが、先に炊き出しをするから、他の孤児院の子供達を集めてもらえるか?」


その後前回と同様に炊き出しを行い、他の孤児院の子供達が帰った後にマリアさんに誘われて孤児院の中でお茶をご馳走になることにした。

子供達にはボーロが入った袋を「仲良く食べるように」と言って1つ渡す。

お菓子を渡した時に少女達が「マリア様は独身だよ」「ずっと私達のために働いて行き遅れてしまったの」と言っていたが、俺にどうしろと言うのか?


「今回も高価な物を頂いて、すみません」

「気にしないでくれ」


この世界ではまだ卵や砂糖は貴重なため、お菓子は高価な物が多い。

俺が渡したのはダンジョン内のスーパーにあった1袋108円のお菓子。俺はそれほどお菓子を食べないため、<アイテムボックス>の肥やしにならずに済むので助かっている。

それよりも少女達の言葉が頭から離れずに、その後の会話もぎこちないものになってしまった。

艶のある紅い髪に、均等の取れた身体。優しい笑顔をする女性だ。貰い手はいくらでもいるだろうにもったいないと思う。

そろそろ時間だ。お茶のお礼を言ってから孤児院を後にした。



オークション会場に到着した。

入り口の傍に座っている。黒いチロリアンハットを被った男に入場資格者証を見せると2匹の蛇が絡まったような絵が描かれ、『108』と入札時に上げる木の板とオークションのスケジュールと出品される商品、ルールが記載された紙を渡され、入場した。

空いている席に座り、会場内を見渡すと前方には一段高いステージが設置され、その中央に商品を置くための大きな台座が設置されている。

台座の真上ある天井には大きな魔石が発光し、薄暗い会場において台座がより見やすいように工夫がされている。

俺はタイミングが良かったのか、ちょうどオークションが始まり、ステージの中央、台座の隣に黒いタキシードを着た中年男性が現れた。

男性が司会進行役らしく会場全体を見渡してから腕を広げ、会場全体に届くだろう大きな声でオークションの開始を告げた。

「皆様。ようこそお越しくださいました。本日も世界中から集められた名品や珍品を数多く取り揃えてございます。本日も最後まで存分にお楽しみいただき、欲しい商品をその手にお入れください。それでは参りましょう。最初の商品はさる貴族がなくなく手放したサーベルタイガーの毛皮から、まずは金貨5枚から始めましょう!」

「金貨6枚!」

「金貨8枚!」


司会の男性が商品の紹介を始める台座の上にシンが森で狩ったことがある2m級の巨大なサーベルタイガーの毛皮が置かれてオークションが始まったが最終的に白金貨1枚金貨5枚で落札された。


(2m級であの値段だとすると俺が持っている3m級のサーベルタイガーの毛皮はいくらになるのだろうか?)


そんなどうでもいいことを考えながら次々に出てくる商品に鑑定を使い知識を増やしながら鑑定により表示される適正価格を参考に安いものは落札する。


「これで素材関連は終了です。次は武器・アイテムに移ります。今回は予定していた商品とは別に急遽出品された商品もございます。お手元のパンフレットにないのでご注意ください。それでは始めましょう!最初の商品は『(ちょう)(やく)』!飲むときに長くしたいところを意識して飲むとその場所が1㎝長くすることが出来ます。…お気づきになった方もいるようですね。そうです。女性との夜の営みの時に、短いのは辛いですよね。それを解決することが出来ます。1本でなんと1日効果があります。さらに!飲んだ分だけ長くなるのです。それが何と100本セットになってご提供!さあ、男を見せたい方々はこぞってご入札ください!それでは白金貨1枚から始めます」

「白金貨2枚!」

「白金貨3枚!」

   :

   :

(ちょう)(やく)』は想像以上に値を上げ、最終的に白金貨10枚で上質な服を着た杖を突いている老人に落札された。落札すると「よっし!」と年甲斐もなくガッツポーズをして喜んでいる。あの年になってもやるつまりかと元気すぎる老人を見て思った。

その後も『脂肪燃焼薬』は白金貨3枚で肉が詰まって膨らんだ身体をしている女性が落札し、武器はオリハルコンの剣→白金貨10枚・ミスリルの槍→白金貨5枚・アダマンタイトの戦斧→白金貨6枚で落札された。思いのほか高く売れたのでホッとしていると最後に奴隷の番になり台座の上に首輪をつけた奴隷が上がるようになった。


(交渉と算術のスキルを持つ者が欲しい。最近上流階級の執事やメイドも来るようになったから礼儀作法もあったらいいな)


一人一人鑑定してステータスを見ていたが武術スキルやたまに魔術スキルを持っている者はいたが接客やお金の計算ができる奴隷はいなかったので、今回はあきらめようと思った時、最後に台座に上がった16歳前後の少女は、俺が欲しいスキルを全て持っていた


名前:ルシア・アンジェルス

種族:天人族

年齢:16

職業:天術師LV.Ⅴ▽

能力値▽

HP :A(48000)

MP :S(73000)

筋力:B(1130)

頑強:B(1010)

俊敏:A(4140)

器用:B(2720)

精神:B(1010)

運 :A(3030)

武術スキル▽

【槍術LV.Ⅴ】【空戦術LV.Ⅴ】▽

魔術スキル▽

【天候魔術LV.Ⅴ】▽

生産スキル▽

【裁縫LV.Ⅰ】

生活スキル▽

【礼儀作法LV.Ⅴ】▽

特殊スキル▽

【統治LV.Ⅱ】▽【算術LV.Ⅲ】▽【交渉術LV.Ⅲ】▽【武装化-】▽【飛行-】▽【暗記-】▽【速読-】▽【描写-】▽

称号▽

【天空の戦乙女】▽

加護▽

【天空神の加護】▽

装備▽

汚れたシャツ▽

汚れたパンツ▽

履歴▽


<詳細鑑定>を使うと能力値が数値として表示される。また、▽はそのスキルの内容を知ろうとすると見ることが出来る。

穢れを知らない真っ白い髪に金色に輝く瞳。傷一つないきめの細かい肌に均等のとれた身体。そして街を歩けばほとんどの男が振り返るような端正な顔立ちをした美少女。

奴隷という印象を受けない凛とした佇まいをしている少女に会場からどよめきが起きた。

しかし、俺には無理をしているように見えていた。

少女の履歴を見るとどこか俺に似ている気がした。

スキルや履歴を見る限り非常に優秀な人材だ。求める水準が高いためかこれまで見た人の中で求めているスキルを全て満たす者はほとんどいなかった。この機会を逃すといつ手に入るかわからない。

<スキル創造>によりスキルを作ることはできるが内容によっては1つ作るのに膨大な魔力が必要になる為、あまり使いたくない。


(あとは話してみないとわからないな)


今の性格や人としてどうかについては話してみないとわからない。

考えている間に、彼女が台座に上がり、司会の男性は残る体力の全て使い切る勢いで声を張り上げた。


「本日お越しになられた皆様は本当についています。本日最後の商品は…なんと天人族。ほとんど見ることのない天に浮かぶ天空大陸。正式名称はシエル大陸に住む天人族はある地方だと見ることができただけで幸せになれるといわれています。それを我々はある理由から手に入れることができました。……それでは皆様!天人族を手に入れるまたとない機会です。こぞってご参加ください!それでは白金貨10枚からのスタートです!」


「白金貨11枚!」

「白金貨12枚!」

   :

   :

値がどんどん上がっていき、「白金貨25枚!」と俺が買った家の3倍以上の値段まで上がっていた。いまは所々に金を使った豪華な服を着たオークのような男とミスリル製の鎧を着た青年が争っている。

かなり高額だが、優秀な人材を獲得するために金を惜しむつもりはない。

俺は『108』と書かれた木の札を上げる。


「「おお、なんと現在の倍額!白金貨50枚が出ました!これは当オークションが始まってからの最高額です。さあ、他にいませんか?いませんね。それでは白金貨50枚で落札です!」


さすがに争っていた男達も値が倍になり、あきらめて手を下した。

豪華な服を着たオークのような男が睨んでいたが、気にせず落札品の受け渡しのため会場の一室(いっしつ)に向かった。



会場の一室(いっしつ)に通されて椅子に座って待っていると、金髪を後ろでまとめた壮年の男が入ってきた。壮年の男の後ろには落札した天人族の少女が続く。その後ろから首輪をつけられた男達が落札した商品を部屋の一角に並べて行く。

壮年の男性は「リベルと申します」と名乗り、対面の椅子に座った。


「それでは商品をお持ちしました。落札総額は白金貨53枚と金貨8枚ですが、お客様の出品された商品の落札価格合計白金貨34枚を差し引きまして、差額白金貨19枚と金貨8枚となります」


提示された金額をテーブルに置いた。

リベルは「失礼します」といって硬貨の真偽を確認した。


「間違いなく全て本物であると確認が出来ました。それでは、今回高額で落札して頂きましたので、奴隷の首輪をつける必要のない、奴隷紋を使用する奴隷契約をさせて頂きます。」


奴隷術が使える者は希少なため、普通の奴隷契約は奴隷の首輪をつけることで装着者の指示に従うようにしている。一番の違いは、奴隷の首輪を使用する奴隷の場合、首輪が壊れれば服従させることができなくなる。しかし、奴隷紋の場合、紋のある場所を()いでも服従させることができる。

閑話休題。


部屋に入ってからずっと俺を見つめていたルシアにリベルからシャツを脱ぐように命じられる。

ルシアは躊躇いなく、シャツを脱ぎ、絹のような肌をした綺麗な裸体を見せる。

リベルはルシアの心臓がある場所に手を置くと魔方陣が現れた。

魔方陣の中には無数の小さな文字が回っている。

魔方陣が現れるとリベルは懐からナイフを取り出し、差し出す。


「魔方陣にご自身の血をつけてください。それで契約は成立です」


俺は差し出されたナイフは使わずに自分の短剣で右の人差し指を少し切る。指の先に血があふれ出すが、気にせず、ルシアの胸にある魔方陣に押し当てる。すると魔方陣は赤い光を放ち、胸に吸収されるように消えた。同時に奴隷の首輪が外れる。


「これで奴隷契約は終了となります。彼女は無期限の犯罪奴隷の為、解放期限はありませんのでご安心ください。それではお疲れ様でした。外はだいぶ暗くなっておりますので気を付けてお帰り下さい。またのお越しをお待ちしております」


契約が終了してから並べられていた商品を<アイテムボックス>にしまっていく。

その間にリベルが奴隷の男に命じて持ってこさせた。女性用の白いワンピースと靴を「サービスです」と渡されたのでルシアに着させてからオークション会場を後にした。



私は目の前を歩く男を見ながら、これからどうなるのだろうと考えていました。


オークション会場を出てから「シン・レイス」と名乗った男の声は若いように感じましたが、物腰は落ち着いています。30代くらいでしょうか?

自己紹介以降。話しかけられることはありませんでした。

それから歩き続けて、オークション会場から見えなくなった人通りがない路地裏で、前方を塞ぐ複数の人影が見えました。

左右の家から出る光だけが照らした顔は先ほど私を落札しようとしていた豪華な服を着たオークのような男。後ろには革鎧を着た屈強な冒険者が2人。


「貴様、よくもわれの物を横からかっさう様な事をしてくれたな。いま、その奴隷を置いてここから去るなら見逃してやるぞ。もしも従わないのなら死んでもらうことになる」


私を奪いに来たようです。あの男の元に行かなかったことを安堵しながら見ていると、不敵な笑みを浮かべた男が右手を上げました。それを合図に後ろにいた2人の冒険者が剣を抜きながらこちらに近づいてきます。


「剣を抜いたからには死ぬ覚悟は出来ているだろうな」


前にいる私を落札したシン様が言いました。黒い甲冑に隠れて見えませんが、ゾクッと背中に冷たい汗が流れます。寒気でしょうか?声からマスクに隠された顔が笑っているように感じます。

冒険者達がそれを感じたのか足が止まりました。

しかし、男は気が付かないのか「何をしている早くその少年を殺せ!」と喚いています。

雇い主なのでしょう。冒険者達は嫌々ながら近づいてきますがどこか及び腰です。

シン様は冒険者達が目の前に来ても動きません。腰に差している刀?でしょうかを差しているのに自然体で手を下ろしています。

冒険者達は嫌な予感がしているようですが1人が剣を振り下ろした瞬間。

突風が発生しました。突然の事に目を庇ってしまったのは仕方のないことだと思います。

手を下ろすと首が胴から離れた2つの死体が転がり、黒い穴に吸収されています。

そしてさらに視線を遠くに向けると男の喉元に刀を突きつけているシンがいました。

少しの静寂の後に男は顔から脂ぎった汗がだらだらと流れ、ポスンっと尻餅をついて股間からは温かい液体がズボンを濡らしています。

シン様は刀を下げて男の眉間に持っていくと、「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」と悲鳴を上げながら少しでも離れようと太い手足を必死に動かし、距離をとりました。


「お前たちは俺を殺そうとした。直接手を出した男は正当防衛で殺したが、その指示をしたお前はどう落とし前をつけるつもりだ?」

「いま持っている物を全部渡す。だから命だけは助けてくれ!」


男は体につけていた宝飾品や腰のアイテム袋を乱暴に外して太い手足を必死に動かしお腹が地面に擦れて豪華な服がすれていることも気にせず、逃げるようにその場を離れて行きます。シンはそれらを動かずに黒い穴に取り込んでいきます。

黒い穴が全てを取り込み、先ほどまでの襲撃がなかったかのようになった路地裏で「ルシア、行くぞ」と声を掛けられ、茫然とその光景を見ていた私はハッとして早足で追いかけました。



「「お帰りなさいませ、シン様」」


店の扉を開けると『アイン』と『ヘレナ』が出迎えた。


「『アイン』、『ヘレナ』。これからこの店で一緒に働いてもらうルシアだ。仲良くしてやってくれ」

「ルシアです。これからよろしくお願いします」

「ルシア様。私は『アイン』と申します。これから一緒に頑張りましょう」

「私は『ヘレナ』です。何かわからないことがございましたら仰ってください」


お互いの顔合わせが終わり、夕食にすることにした。影から『ライ』と『アイシャ』が出てきたことにルシアは驚いていたが、2匹とも先ほどの戦いで出ないように言ったことで少し拗ねていた。しっかり撫でてやるとすぐに機嫌を直してくれたので助かった。

それから夕食を食べる前にルシアを風呂に入れる。ルシアが「奴隷がお風呂なんて」と言っていたが『アイン』と『ヘレナ』に強制連行させた。

ルシアが風呂から出ると、俺達は<飢えない食卓>に座った。

座るときに「奴隷が主人と食卓を一緒にするなんてありえません」とルシアは言って頑なに拒否したので命令した。

<飢えない食卓>から以前まんぷくドラゴンで食べた特盛ビーフシチューを出す。

「さあ、食べよう」


4人分出てきた。俺は特盛ビーフシチューを以前と同じように2匹分取り分けてから食べ始める。『アイン』と『ヘレナ』は食べないでもいいが味覚はある為、食事を楽しむことはできる。しかし、料理が絶望的だった。ガンツさんはロボットの味覚を設定していたらしく、隠し味に機械油を使われた時は吐き出して以後、食事を作らせていない。

そんな食事が不味くなる記憶を頭から追い出したところで、対面に座るルシアに目を向けると目の前のビーフシチューを見るだけで手を付けない。お腹の調子でも悪いのか?


「食べないのか?」

「奴隷の私がこんな温かい食事を頂くわけにはまいりません」


そんなことを気にしていたのか。


「なぜだ?誰がそんなことを決めた。温かい食事を温かいうちに食べるのは当然のことだ。これから一緒に暮らすからにはルシアは俺の家族の一員だ。気にせずに食べろ。それとも、こんなことにも命令しないといけないのか?……お、おい。どうした!?」

「え、…すみません!?どうしたのでしょうね。涙が勝手に…」


突然ルシアが涙を流しだしたので驚いてしまった。

涙を拭うルシアに隣に座る『ヘレナ』が「どうぞ。お使いください」とすかさずハンカチを差し出した。ルシアは「ありがとうございます」とハンカチを受け取り、涙を拭い、次に差し出されたティッシュで鼻をかんだ。

気分がスッキリしたのか「いただきます!」とスプーンを持ってビーフシチューを食べだした。オークション会場で見たときから、どこか無理をしているように感じられたので、花が咲いたような笑顔を見ることが出来てホッとした。


食事が終わり、食卓から食器が消えた後。これからルシアにしてもらいたいことを伝えた。


「私にこの店の経営を任せて下さるのですか?」

「俺は来月から学園に通うことになる。店にはそれほど戻ってこられないからルシアに任せる」


ルシアにはこれから俺がいない間の店の経営を任せるつもりだ。起動したばかりの『アイン』と『ヘレナ』ではできないことが多いので、ルシアに任せた方が円滑に物事を進めることが出来る。

それから家の中を案内する。最後に2階の1室をルシアの部屋として行った後、ベッドや棚などの家具を設置し、なぜか<アイテムボックス>に大量に入っていた女性用の服や小物などを渡した。あとは…


「そんな!奴隷に給料なんて必要ありません」

「この金は自由に使っていい。店は7日の内2日は休みだから、何か好きな物を買えばいい」


俺は店の経営や日々の生活費以外に毎月金貨1枚を給料としてルシアに支払うことにした。

楽しみがないとやる気も出ないだろう。

それからルシアと別れて、日課の鍛錬等をしてから2階の自室に入り、ベッドに腰かけて今日の戦利品の確認をした。従魔達は小さいサイズになってベッドの上で丸くなっている。


(あとはドラゴンの心臓があれば作れるな)


オークのような男が置いていった袋には現金や美術品等の他にエリクサーに必要なものがほとんど揃っていた。後はドラゴンの心臓だが、この近くにドラゴンは生息していないので作れるのは当分先になるだろう。冒険者の2人の持ち物はたいして使える物はなかった。

戦利品の確認が終わり、<アイテムボックス>にしまったタイミングで扉がノックされた。返事をすると、扉が開かれ、先ほど別れたルシアが入ってきた。


ルシアは俺の前に正座したので、「どうした?」と訊ねると背筋をまっすぐ伸ばし両手を床につけ頭を下げた。


「シン様。これから精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」


それを言いにわざわざここに来たのか。


「こちらこそよろしく頼む。なにかあれば俺に言え。ルシアの立場は奴隷だが、一緒に暮らす以上。これからは家族だ。遠慮せずに頼るといい。それと様は要らない。シンでいい」

「……、シン様。いえ、シン。ありがとうございます」


顔を上げたルシアの表情は自然な笑みを浮かべていた。


お読みいただきありがとうございました。

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