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平穏無事な生活がしたい  作者: misuto
第2章学園編
17/33

2-3学園都市ホープン

冒険者ギルド 城郭都市プロセディオ支部


「ようこそ、本日はどのようなご用件ですか?」


冒険者ギルドは赤レンガ造りの地下1階地上2階建ての建物。扉を開けると右に冒険者ご用達の格安食堂。左に受付カウンターが並んでいる。

そして、目の前にいるのが緑の髪をポニーテールにしている受付嬢。

「登録と」「では、ギルドの端に据えている水晶に手を置きましたら登録できます。下の取り出し口から認識票が出ますのでお忘れなく」と言われた。笑顔だが、「早くしろ、後ろが詰まっている」と言われているように感じた。冒険者ギルドの朝は混むようだ。今も俺の後ろにずらりと人が並んでいる。少し接客に問題があるように思ったが、言っても仕方がないので、ギルド端に設置された水晶が鎮座している台に向かう。

水晶に手を置くと微量の魔力を取られた。1分程待つと取り出し口に鉄製の認識票が出てきた。取り出し口の蓋を開けて認識票を取り出す。首にかけるためについている鎖の先にある認識票には『G』と書かれている。冒険者ギルドのランクはG~SSSまでの10ランクに分かれており、ランクは冒険者ギルドへの貢献度合いによって規定の条件を満たせば上がる。また、冒険者ギルドと提携している店を利用すると一律5%割引を受けられる。

昨日の『まんぷくドラゴン』も提携店であることを後で知り、おしいことをしたと後から気が付いた。

認識票にはもう一つ『シン・レイス』と書かれていた。これは魔力を取られる際に少しだけ細工をした結果である。

認識票に魔力を流すとステータスが表示された。他人に見せるときは魔力を流す際に見せたくない項目を指定すると表示されないようにできる。


名前:シン・イレミア・レイス

種族:人間

職業:なし

能力値

HP :SS

MP :SS

筋力:S

頑強:S

俊敏:SS

器用:S

精神:S

運 :SSS

武術スキル

【剣術LV.Ⅲ】【短剣術LV.Ⅲ】【刀術LV.Ⅹ】【柔術LV.X】【槍術LV.V】【薙刀術LV.Ⅲ】【偃

月刀術LV.Ⅲ】【弓術LV.V】【砲術LV.Ⅹ】【格闘術LV.Ⅴ】【斧術LV.Ⅶ】【盾術LV.Ⅲ】

魔術スキル

【火属性魔術LV.Ⅹ】【水属性魔術LV.Ⅹ】【風属性魔術LV.V】【土属性魔術LV.V】【雷属性魔術LV.V】【光属性魔術LV.V】【闇属性魔術LV.Ⅹ】【毒属性魔術LV.V】【時空魔術LV.Ⅹ】【重力魔術LV.Ⅹ】【無属性魔術LV.V】【付与魔術LV.Ⅹ】【従魔術LV.Ⅹ】【奴隷魔術LV.Ⅹ】【契約魔法(回数制限:1回)】

技能スキル

【鍛冶LV.Ⅹ】【錬金LV.Ⅹ】

生活スキル

【清掃LV.Ⅳ】【料理LV.Ⅲ】

特殊スキル

【自動回復】【再生】【状態異常無効】【アイテムボックス】【立体移動】【空中歩行】【全属性耐性】【翻訳】【異世界言語】【異種族言語】【オートマタ創造】【武器兵器創造】【魔術創造】【スキル創造】【潜在能力発掘】

神スキル

【詳細鑑定】【心理眼】【神速】【未来予測】

称号

【転生者】【踏破者】【超人】【神殺し】【龍殺し】【竜殺し】

加護

【運命神の加護】【救済神の加護】


魔力を流すとステータスが表示された。認識票の誰でも見える名前場所に『イレミア』と言う名前を消す細工をした。俺が皇子だった期間は6ヶ月しかない。残りの期間はアレクじいちゃんと過ごした。だから俺の名前はシン・レイスだ。

しかし、イレミアを消そうとしても消すことが出来なかったので仕方なく、表示した名前には残っている。

能力値はG~SSSの10段階。鍛錬とスキルによってきまる。<詳細鑑定>を使った場合は数字で表示されたことから、冒険者ギルドカードの表示は簡素化されている。

【契約魔法(回数制限:1回)】は皇族だけが1度だけ使える魔法。過去の英雄、神獣等を呼び、契約をすることで力を得る魔法だが、契約の際に提示される条件を受け入れないといけない。

特殊スキルの【オートマタ創造】【武器兵器創造】【魔術創造】【スキル創造】【潜在能力発掘】はダンジョンの25階層機械の国にいた最初の5人が残した宝玉が無くなっていたので取り込んだのかもしれない。

ダンジョンでは創造系スキルは魔力がないと使えず、【潜在能力発掘】は他者にしか使えなかった。

神スキルは賭博神との勝負により手に入れた元は商業神と戦神のスキル。

【未来予測】は賭博神を殺した時に得たのだろうか?内容は使用する魔力量に応じて未来を見ることが出来るが費用対効果の悪いスキルだ。あの時はこれを使ったのだろう。

転生前に俺の弁護をしてくれた運命神と救済神が加護をくれている。この2人には感謝してもしきれない程の恩がある。いつか返す機会があれば返そう。

ステータスの確認が終わったが、受付にはまだ人が多い。本当は登録と魔物の素材買取をお願いしたかったが仕方がない別の日にしよう。

冒険者ギルドを後にしてから、商業ギルドで情報を記録している水晶を購入した。


(移動中に見よう)


皇都を通るルートだと歩いて40日。時間はあるのでゆっくり見て行こう。

ギルド巡りは終わり、時間は昼前ちょうどいい時間になった。

次に南のスラム街に足を向ける。


「すみません」

「はい、少々お待ちください!…どなたですか?」


訪れたのはスラム街にある孤児院。なかに入ると紅色の長い髪をした18歳前後のシスターが奥から現れた。不審者に思われているのか訝しげに見つめられる。

黒い甲冑に黒いローブを羽織った男が来れば、当然の反応か…


「シスター、どうしたの?」

「うわ!?なんか黒い人がいる!」

「かっこいいな~」

「何言っているのよ、どう見ても怪しいでしょ!」

「食べ物くれないかな?」


シスターが現れた場所から10歳にも満たない子供たちが出てきた。

最後のこの要望を叶える。黒い穴から、黒いものを取り出して、少しぽっちゃりした男の子に差し出す。

「何、食べ物くれるの!」とシスターと他の子供達が制止するよりも早く駆け寄ってきた。

男の子は差し出したおはぎを食べて「甘い!こんなおいしい食べ物初めて。おっちゃん、ありがとう!」と言ってあっという間に食べ終えた。一応転生前を合わせれば30代前半。おっちゃんと呼ばれても仕方ないのか?

「もうなくなちゃった」と肩を落とす男の子にもう一つ差し出すと…消えた。


「食べ物を分けて頂き、ありがとうございました。本日はどのようなご用件ですか?」


おはぎを食べている子供に「立って食べてはダメよ」と叱った後、俺の前に着て頭を下げたシスターに今回ここへ来た目的をつたえる。


「本当ですか!?ありがとうございます。すぐに他の孤児院にも伝えますので、広場を使って頂けますか?」


シスターは子供達に内容を伝えて他の孤児院に知らせるようにと言付けしている。

俺は孤児院前の広場を使っていいと言われたので、長机と踏み台を設置してから<魔法の寸胴鍋>を取り出し、魔力を注ぐ。

画面に表示された鍋料理の内、野菜と肉が多く入っているポトフを選択。

他にも使うことがなく大量に余っている乾パンをパーティー用の皿に出して『一掴みまで』と張り紙をする。

そのころには孤児院に多数の子供たちが木製の皿を持って集まっていた。


「本日は炊き出しをして下さるとお聞きしました。ありがとうございます。私はこの都市の孤児院をまとめておりますサンティーナ・オペロスティンと申します。ティーナをお呼びください」

「先ほどは名前を言わず申し訳ございません。この孤児院を担当しておりますマリアです」


黒い髪に白髪が混じり始めたシスターが先ほどのシスターを伴ってやってきた。

自己紹介をされたので、こちらも「シン・レイス。シンと呼んでくれ」と名乗り、準備が出来たので、子供達を並ばせて欲しいと頼んだ。

「何か手伝えることはありませんか?」とマリアさんに聞かれたため、皿に乾パンが無くなりそうになったら補充してもらうように頼む。乾パンを不思議そうに見ていたが1つ食べて「美味しい」と言っていたので、日本では非常食でもこの世界では十分な食事になるのかもしれない。

それから、並んだ子供たちの皿にポトフを注ぐ。注がれた子は横に移動して、踏み台に乗り、小さな手で乾パンを一掴みして近くの地面に腰かけて食べ始めた。


「美味しい!」

「こんなにお肉が入ったスープ初めて」

「このパン。サクッとして美味しい」


美味しそうに食べる子供たちを見て、やってよかったと思う。

アレクじいちゃんが世界を旅していた時にしていたことを真似てみた。

俺と同じように親を亡くした子供たちに温かい食事を食べさせてあげることが出来た。

全ての子供達にスープが行き渡り、お代わりもしていいと言ってからは、何回も魔力を注ぐことになった。

数時間後。子供達のお腹が満たされ、各孤児院に帰ってから、誰もいない広場で従魔達と鍋の残りを食べているとマリアさんが近づいてきた。


「今回炊き出しをして頂き、ありがとうございました。シンさんはいつからこの都市に来られたのですか?」

「昨日だ。近日中にはこの都市を離れる」

「そうですか。また、いつでも遊びに来てくださいね」


マリアさんには「考えておく」と答えてから孤児院を後にした。

孤児院を出る際にマリアさんと孤児院の子供達が見送りをしてくれた。



「いらっしゃいませ」


ここは北大通りにある不動産屋。恰幅の良い壮年の男性店主が応対をしてくれた。

要望を伝えて、物件を探してもらう。


「この物件はどうですか。前に住んでいた鍛冶師と錬金術師の夫婦が無くなってから1年前に売りに出されていまだ買い手がついていない物件です。ご要望の作業部屋もありますし、一人で暮らすには問題ないかと。石造り地下1階地上2階建ての2LDK。店舗が併設されています。地下に倉庫と錬金部屋、1階に鍛冶部屋があります。水洗トイレと脱衣場付きのお風呂場がついておりますのでシン様のご要望がすべて揃った物件だと思います。ただ、鍛冶と錬金の道具がありませんので一から用意して頂かないといけないこと、北と東の両方の大通りまで少し歩かないといけないため通常の同じ広さの物件よりもお安くご提供できます。本来白金貨8枚の所、お客様は商業ギルドのギルド員。2割引きして白金貨6枚と金貨6枚でどうでしょう」

「物件を見せてもらっても?」

「もちろんです。この後お時間はございますか?」


頷くと、店の奥から物件の鍵を取ってきた店主が他の店員に「出てくる」と声を掛けてから「それでは行きましょう」と紹介してくれた物件へ案内してくれた。

北大通りから東へ歩き始めて30分。石造り2階建ての建物に到着した。周囲は似たような住宅が並んでいる。

店主が鍵を開けてもらい、中へ入ると店舗スペース。両側に据え付けられた棚には何も置かれていない。少し埃が溜まっている。定期的な掃除はされていないようだ。

奥に進むとLDKのスペースがあったが、椅子や机など調度品は何もない。


「水や火を出すために魔石を使っておりますので魔力を補充すればすぐに使用することが可能です」


店主が台所の説明の際にこの家にいた夫婦が色々改装しているため、魔力を補充すれば使える魔道具が多数備え付けられていると話してくれた。

LDKの奥には脱衣場付きの風呂場と水洗トイレ。2階と地下に行くための階段。一番奥に鍛冶部屋。2階に上がると部屋が2つ、部屋の床は木の板が使われている。最後に地下を案内された。降りて左に錬金部屋。右が倉庫。驚いたのは全ての場所に空調設備が据え付けられていたことだろう。

物件を見て、購入することを決めた。一度不動産屋に戻り、売買契約書を書いてから代金を支払った。物件の鍵と権利書を受け取り、その日のうちに領主の城へ行き、物件の名義変更を行う。

公認手形を見せたことで手続きがスムーズに進み、夜になる前に領主の城を出ることが出来た。

購入した家に戻ると2階の1室に入り、まずはガンツさんから貰った2体のオートマタを取り出し、起動した。

俺は短剣を使って人差し指を少しだけ斬ると溢れる血を2体のオートマタの舌につけた。

つけ終わると<自動回復>により傷は自然に治っていく。

舌についた血から生体情報を読み取ったオートマタは主人を記憶し、動き始める。

立ち上がった2体のオートマタ。黒髪ショートヘアのオートマタに『アイン』、金髪ロングヘアのオートマタに『ヘレナ』と名前を登録した。


「ご主人様、名前を頂きありがとうございます。何なりとお命じ下さい」

「ご主人様、これからよろしくお願い致します」


2体には侍女用の服と掃除道具を渡し、着替えてから各部屋の掃除するように命じた。

2体が掃除をしている間に俺は鍛冶部屋・錬金部屋・倉庫に<時空魔術:空間拡張>を使うことで元々の部屋の数百倍の広さまで拡張する。

拡張後、鍛冶部屋には<鍛冶道具一式>から溶鉱炉と鋳造設備が入っている製品製造工場、個人用の鍛冶道具。錬金部屋には<錬金道具一式>から大型洗浄機や鍋・抽出機等が入っている製品製造工場と個人用の錬金道具を取り出した。

どちらの工場にも魔力タンクと原料タンクを備えた大型貯蔵庫が据え付けられている。

タンクを補充して貯蔵庫にあるタッチパネルを操作するとタンクに入れた物に応じて完成品、中間製品、加工原材料を作れる。

完成品はそのまま使っても問題ないが品質は普通。才能の有無は関係なく作ることができる。

中間製品は途中から錬金術師が手を加えなければならないので錬金術師の才能が多少関係する。錬金術師が有能であれば同じものでも良質なものができる。

加工原材料はインゴットや生の薬草を乾燥して、干し草にするなど、ほとんど手が加えられていないため、錬金術師の才能が大きくかかわってくる。才能が高ければ高いほど完成した物の質は上がる。


今回は全て完成品にする。鍛冶部屋では(はさみ)や包丁。錬金部屋ではポーションから薬、美容化粧品、石鹸等。これらを売り、売上の一部を孤児院に寄付できるようにすれば、一度限りの善意で終わることがない。2体のオートマタに店の管理を任せて、<オートマタ創造>により、数体の戦闘用オートマタを作れば問題ないだろう。

タンクと倉庫へ素材となる原料の補充はオートマタに硬貨を渡して買い出しに行かせればいい。魔力補充は定期的に<時空魔術:転移>を使って戻ってくればある程度放置してもいいだろう。

食事をとり、休憩を挟みながら準備が終わり、今日は久々の風呂に入ってから眠った。



翌日の朝。ウィスダムさんに会いに行く。

現在、業務のほとんどを息子さんに任せているらしいのですんなり会うことが出来た。

「まだおったのか」と呆れられたが「今日出る予定です」と伝えた。

そして昨日孤児院で炊き出しをしたことを知っていたらしく、感謝をされた。

今日来た目的は出立の挨拶だけではなく、領主の許可がいる営業許可証を発行してもらうためだ。ウィスダムさんに「店の利益の9割を孤児院に寄付したい」と伝えるとすぐに発行してくれた。

今後の税金についても免除してくれるように話を通してくれるようだ。

俺としては手続きのために戻らなくてよくなるのでありがたい。

寄付については月に1度領主の城へ店のオートマタが持っていくことを取り決めた。

あとはオートマタに指示をしておけばいい。

用事が終わり、部屋を後にするため立ち上がった際に「いつでも来なさい」と言ってくれた。「また来ます」と答えて、家に戻ってきた。

『アイン』と『ヘレナ』へ今後の事について指示をした後、緊急時の連絡手段として、<複合(雷・時空)魔術:電子メール>を覚えさせた。さすが、ガンツさん曰く「子供を作ること以外何でもできる」だけはある魔術も覚えた。

だが、なぜ魔術が使えるのか不思議だった。聞いてみると、2体は電気と魔力のハイブリッド型で、空気中の魔力を取り込んで活動することが出来るからと説明してくれた。

これで安心して『学園都市ホープン』へ行けると港へ向かう。



西部公都ボガート。

西部公爵領はラージ川の水を使った大規模な穀倉地帯と城郭都市プロセディオ等からラージ川を使って送られてくる大量の木材と魔物の素材を皇都まで運ぶ際の中継地として発展をしてきた。現在も皇都が帝国の手に落ちてからは北部公爵領を通って各地へ送っているため皇国の中でも特に裕福な場所である。

そんな西部公爵領の中でも西部公都ボガートは頭2つ分くらい裕福な者達が集まって商いをしている。皇都に元々いた商人たちの約半数は西部公爵領へと避難して商売をしている。

俺は城郭都市プロセディオから港を1つ経由して出航から2日後の昼に西部公都ボガートへ到着した。明朝西部公爵領の最も皇都に近い港町ガービン行きの船に乗る、港町ガービンからは船が出ていないため陸での移動となる。

最近は『ライ』と『アイシャ』が交互に影から出て、俺の隣を歩くようになった。

従魔達曰く、「つまらない」から。影の中を2匹で遊ぶには何もないため、外に出て色々な物が見たいといわれた。2匹同時だと通行人などに迷惑になる為「どちらかなら」と許可を出した。

今日は『ライ』が隣を歩いている。通行人からは奇異又は恐怖の目で見られている。一部獲物を狙う目をしている者もいるが関わってこない限りこちらから手を出すつもりはない。

昼食後に西部公都を周り、西部公爵領各地から集められた野菜や果物を購入していた時だった。青果店の前で商品を鑑定していると後ろの通りに豪華な馬車が止まった。

中から出てきたのは脂ぎった顔にお腹がズボンのベルトに垂れている15歳前後の少年だった。

「この犬はお前のものか」と聞かれたので頷くと、「僕に献上することを許す」と言われたので「断る」と答えた。


「貴様、この方をどなたと心得る!恐れ多くも次期西部公爵様であらせられるぞ!」

「だからどうした」

「だからどうしたかだと!次期西部公爵様が献上を許すと言っておられるのだ。畏まって譲るのが普通であろうが!」


少年の後ろから同年代のこちらは線の細い少年だった。もう1人、体格の良い黒く日焼けした少年がいたがこちらは何も言わず無表情でこちらを見ている。

突然少年達に買い物の邪魔をされて機嫌が悪いのに従魔であり、家族でもある『ライ』を渡せとはこいつ殺すか?

だが、ここで殺人を犯すと学園への入学にどう影響するかわからない。どうしたものか…

いまも線の細い少年がわめいているが、正直どうでもいい。

ここで買い物をする気が無くなったので立ち去ることにしたが、これまで無表情で見ていた少年が目の前に立ち、剣を振り下ろそうとしたので、少年の懐に入り、両手を挟んで捻じりながら倒した。

呆然と倒れる少年達を置いて、店を離れる。

買い物を続ける気分ではなくなったので、従魔達もくつろげる大きめの部屋がある宿を探して泊まった。



買い物をした翌日の早朝に出航した船に乗り4日。港町ガービンに到着した。

ここからは陸上での移動になる。そして、東に行けば帝国が支配する皇都周辺。あまりいい噂は聞かない。村が帝国軍に突然襲われ、略奪や高額な金銭を要求する等やりたい放題らしい。この周辺にも皇都周辺から逃げてきた住民が多くいるそうだ。

港から出て町の中を歩くと、活気のない町には通行人はまばらだ。

そして通りを歩く全員が下を向いて表情が暗い。

早く町を出ようと歩を速めた時だった。町の入り口付近から鐘が何度も鳴らされる。

道を歩いていた者が早足に建物の中に入ろうとするのでその中の1人を捕まえて理由を聞いた。どうやら、境にある町はたびたび帝国軍が来ては何かしら要求をするらしい。

そして、要求がかなわないと町に火を放ち、町の者を奴隷として連れて行く。

手を放し、お礼を言おうとしたが、走り去ってしまった。

町の入り口付近に馬に乗った騎士が近づいてくるので、隣にいた『ライ』に影に入るように命じて、俺も近くの物陰に隠れてみていると町全体に聞こえる声で話し出した。


「我々は帝国軍イレミア皇国方面所属第13独立騎士団である。この町は我ら第13独立騎士団が包囲している責任者は前に出ろ!」


町の中央から薄汚れた服を着た老人と数人の男達が騎士の前まで駆け寄り地面に額をこすりつけるように座った。


「私がこの町の町長ベルトルートでございます」

「遅い!呼ばれたのならすぐにこい。お前が町長か。貧相な格好で騎士の前に立つとは恥ずかしくないのか!まあいい。用件を伝えるイレミア皇国金貨100枚又はこの町の女全員どちらか好きな方を差し出せ。以上だ」


騎士が町長を見下しながら、嫌らしい笑みを浮かべて要求を伝える。


「そんな。先月金貨10をお支払いしたばかり。それにこの町にこれ以上お支払いできるお金など…」

「ならば、この町の女を全員連れてくればよかろう」

「それこそこの町に滅びろと言うのですか」

「言い訳は聞かん!四半刻待つ。それまでに答えが出なければこの町は地図上から消えることになるだろう」


町長がなおも言葉を続けようとするが、それを無視して騎士は包囲をする軍に帰っていった。


「このままじゃこの町は終わりだ…」

「戦うべきだ!このままただ殺されるなんてごめんだ!」

「町長どうするつもりだ」


男達が町長に自分の意見を言っているが、町長はジッと目を瞑り「町の者を広場に集めなさい」と指示を出した。


そして町の広場に女子供を含めて町の全員が集められた。中には生まれたばかりの乳飲み子まで母親に抱えられて集まっている。俺も一番後ろからその光景を眺めていた。

広場の中央に作られた壇上に町長が立ち、集まった全ての者に聞こえる声で語りだした。


「集まってくれた皆に町の現状をつたえる。いま我々の町を帝国軍が包囲している。そして、金貨100枚かこの町の女全員の引き渡しを要求してきた」


「なんだと!」「帝国軍のやろう!」「そんな。子供が生まれたばかりなのに」と集まった人々が帝国軍の要求内容にそれぞれ反応を示す。


「我々はこれらの要求を飲むことはできん。じゃが、このままではこの町は滅ぼされてしまう」

「戦うべきだ!」

「そうだ。妻を帝国軍に渡すぐらいだったら俺は戦う」


町長の話の途中に戦を望む声が上がった。ただ殺されるよりは戦って死ぬと。

それは次第に大きくなり男達のほとんどが戦を望んだ。

女たちは暗い表情で俯き、子供はよくわからないのか不思議な顔をする者もいれば、男達の勢いに合わせて「戦だ!」と拳を上げている者もいる。


町長はそれを止めようとするが、隣になっている町長の息子が「戦の準備をしろ!」と男達に指示をだし男達が武器を取りに広場から家に戻っていった。

残された女子供もぽつりぽつりと家に戻っていく。


「あんたはどうするんだ」


広場にいた冒険者の男達が声を掛けてきた。


「このままだとこのいかれた連中の戦に巻き込まれる」

「まったく最悪な時にきちまったぜ」

「俺達は町の人間が戦っている間に逃げる予定だが、あんたはどうする?」


冒険者の男達が一緒に逃げないかと誘われたが断った。見ず知らずの相手と一緒に逃げる気にはなれなかった。男達がいなくなったところで俺もどうするか考えていると、後ろから裾を引っ張られた。

引っ張られた箇所を見ると緑髪をした狐耳の少女がこちらを見上げている。

毛並みに艶はなく、骨と皮しかないのではないかと言うくらい細い6歳前後の少女。

少女の目線に合わせて「どうした?」と質問すると「お兄ちゃんは冒険者さんですか?」

と聞かれたので頷いた。


Gランクではあるが冒険者である。


「このまちをたすけてください」


少女が震える両手を差し出した。手の平には表面が傷だらけでこの国の紋章がある部分がほとんどなくなっている銅貨が1枚。

涙を流してもう一度「このまちをたすけてください!」と言われた。

俺は少女の頭を優しく撫でた後、少女の手の平にある銅貨を摘み、何もなくなった手の平に笹に包まれた最高級米おにぎり3個を乗せた。

不思議そうに見つめる少女に「その依頼受けよう」と答えて、町を包囲している帝国軍騎士団へ向かって歩き始める。歩きながら黒竜甲冑の能力を使って自身の全てを隠した。そして、両腕の籠手を伸ばし剣状にする。町の入り口を出ると、黒い鎧を着た騎士達が槍を持っていたので一番近い者から殺していく。


(まずは1人目)


突然喉から血を流して倒れた隣人を見て、驚く騎士の喉からも血が流れる。


(2人目)


それから突然仲間が死に、黒い穴に取り込まれていく光景に帝国騎士団はパニックになった。



港町ガービンを包囲する第13独立騎士団本陣


「そろそろ四半刻が経つな。町の様子はどうだ」

「どうやら戦うことを選んだようです」

「馬鹿な奴らだ。さっさと女を渡せばいいものを」


白いテントの中で酒が入ったコップを片手に豪華な装飾がされた鎧で肥満体を覆った中年騎士が木製の椅子に悲鳴を上げさせながら副官の報告を聞いていた。


「わかっていると思うが抵抗する者は殺してよいが、投降する者は殺すなよ」

「わかっております」


帝国軍騎士団では略奪を許可して士気の向上を図っている。

当初戦を始めたころはこれほど長引くとは思っていなかった為、騎士団内部でも不満が溜まっている。そのため、息抜きと臨時収入のために支配したイレミア皇国の領内とその周辺で重税や到底納得できない無理な要求をして反抗してきたらそれを理由に殺害と略奪、生き残った者を奴隷としている。

第13独立騎士団団長カイ―二も部下の息抜きと自らの楽しみのために西部公爵領との境にある町で次々と略奪をしていた。


「ご報告いたします!」


テントの入り口に騎士が現れ、片膝をついた。その息は荒く駆けてきたことがわかる。


「何事だ」


副官が騎士の様子を見てただ事ではないと思い、訊ねる。


「突然何者かによる攻撃によって味方が死んでおります!」

「報告は正確にしろ!何者かとは誰だ」

「姿が見えないのでわかりません!」


副官は指示を仰ぐためにカイ―二の方を向いた。


「副官、確かめて来い」


カイ―二は不快感が表れていた顔で椅子に座ったまま指示を出す。

「了解しました」と言って副官は報告に来た騎士を連れて現場に向かう。



カイ―二は首をボリボリ手でかきながら副官の報告を待っていると。


「カイ―二様。お逃げ下さい。ここにいては危険です」

「貴様はまともな報告が出来んのか!何を言っておるのかまるで分らん。この無能どもが!」


使えない副官にカイーニは小さな堪忍袋の緒が切れて剣を杖代わりにして立ち上がったところで副官の首が落ちた。


―コロン

―バタン


副官の首と身体が地面に転がり黒い穴に取り込まれていく。

「ひぃ」と無意識に悲鳴を上げていた。足に力が入らず尻が地面に着地する。股間の辺りからなま温かいものが服を濡らす。


「な、なにが…」


声が震える。得体のしれない恐怖に全身が震えている。

必死に見えない何かから離れるために後ろに下がるがとうとうテントの端まで来てしまっていた。


「何が欲しい。金か?地位か?それとも女か?私はこれでも帝国では伯爵の地位にある。望むものなら何でもかなえて…」


姿が見えない何者かに向って叫ぶ、もしかしたら助かるかもしれないと一縷の望みを込めて、しかし、望みが叶うことはなく、首を刎ねられたカイ―二の死体は黒い穴に取り込まれた。



最後に殺したのは帝国の伯爵と言っていたが、まあいいだろう。

とりあえず騎士団の物資及び他の町から巻き上げたのだろう財貨を回収した。

この町を包囲していた騎士団はいなくなったので少女からの依頼は達成したと考えていいだろう。


「『ライ』」

「ワン!」


影から出てきた『ライ』に乗り、『学園都市ホープン』へ向けて東に走り出す。


それから35日間皇都周辺で略奪をしようとした又はしていた帝国騎士団が忽然と姿を消す事件が多発した。『35日間の悪夢』と帝国騎士団を恐怖のどん底まで突き落とし、震え上がらせた事件により、帝国軍による略奪行為は鳴りを潜めたという。事件があった現場で白銀の狼や白い虎が目撃されたことから、神獣様が救ってくださったと神獣を信仰するところが現れたという。



港町ガービンを出てから51日。城郭都市プロセディオを出てから57日。

入学試験は明日。なんとか『学園都市ホープン』に到着した。

少し離れた小高い丘から見える『学園都市ホープン』は城壁に囲まれ、中央に巨大な時計台がある。

この都市の高等部に入学するために来たわけだが、皇都周辺で立ち寄った町の全てがどこかの帝国騎士団が襲っており、なぜかそのたびに子供に依頼されるという事態に、予定よりも大幅に遅れての到着になった。

従魔に対する学生の反応が未知数の為、『ライ』から降りて、少し不満そうな『ライ』をしっかりと可愛がって機嫌を直し、影に入るのを見送ってから1人で城門へ向かう。

城門の兵士に認識票を見せて、都市を囲む城門をくぐる。

学園を囲むように出来た都市。昔南部公爵が帝国の支配下になり、当時は大陸の知識の集大成と言われた『魔術都市へクサライ』から多くの魔術師や学者がこの学園都市に逃げてきたため、いまでは『魔術都市ホープン』と言う者もいる。

入学試験の受付をするために西の城門から都市の中央にある『ホープン学園』に入ると、学園の校舎の方から20代前半の水色の髪をした青年が駆け寄ってきた。


「お待ちしていましたよ。どうぞこちらに、試験の準備はできております」


青年に腕を引かれて校舎の中へ連れていかれている間、俺の頭は混乱していた。


(ウィスダムさんから何か連絡があったのだろうか?)


俺は当初ウィスダムさんに伝えていた日程を大幅に遅れて到着した。もしも、連絡がされているなら可能性があるが、それでも入学試験は明日のはずだが…


「連れてきましたよ。ソフィアさん!」

「やっと来たのか。試験官になってくれと言うから時間を空けたのに、受ける側が遅れてくるなんて何を考えている!」


なぜか連れてこられた場所は学園にある闘技場。向かい側にはソフィアという青色の髪をミドルヘアにしている20代後半の女性。黒い革服を着た女性は剣を肩に乗せてお怒りのようだ。


「それでは、試合を始めますね。相手を倒すか武器を失ったら負けです。くれぐれも殺さないでくださいね。ソフィアさん」

「おい、ホセ。なんであたしだけなんだよ」

「貴方の実力を知っているからですよ。あなた冒険者ランクAでしょう。今回来られた方はCランクの方ですよ。当然じゃないですか」


ホセと呼ばれた青年は俺とソフィアさんの間に立ち、試合の説明を始めた。


(Cランク?)


ホセさんの話した内容を否定しようとしたが、「試合開始!」試合が始まる方が早かった。


(速いな)


まだ腰の刀を抜いていないのだがソフィアさんは試合開始の合図と共に近づいてくる。Aランクらしいので、冒険者ランクで言えば上から4番目。人類最高峰の強さを持っているはずだ。


冒険者ランクはG~SSSの10段階あるが、主な判断基準は

S~SSSは化け物と一括りにされている。

A:人類最高峰

B:1流冒険者(プロ冒険者)

C:ベテラン冒険者

D:2流冒険者

E:3流冒険者

F:駆け出し

G:初心者

となっている。世界中でSS~SSSは現在存在しない。Sが数人。Aが十数人。殆どの者がBランク以下。そんなAランクの人物と戦えるのは貴重な経験と割り切ろう。


ソフィアさんの剣は速いが目でとらえられる速さだ。

左足を右足の後ろになるように引き、少し腰を落とす。左手を鞘に、右手を柄に、抜刀の構えを取り、剣が振り下ろされる瞬間。刀を抜いた。

キンッと折れた剣が宙を舞う。根元から折られほとんど柄だけの剣を振り下ろした姿勢で固まり、目を見開いているソフィアさん。

俺は抜いた刀を鞘に入れて、試合終了の合図を待った。

ホセさんもこちらを見て目を見開いて固まっている。

どうしたものかと考えていると、ホセさんより先に、硬直が解けたソフィアさんが、振り下ろした姿勢を解き、こちらをまっすぐ見つめた。


「お前何者だ。私の剣を受けられる者などほとんどいない。これだけの実力があってCランクだとふざけているのか」


ソフィアさんが折れた剣を持ちながら詰め寄ってこられた。

Gランクですと正直に答えたら殺されそうなので言わない。

詰め寄られている間に復帰したホセさんが慌てて間に入ってくれたので助かったがあのままだったら折れた剣で襲い掛かりそうだった。


「君はCランク冒険者ニコラスさんで合っているよね?」

「いえ、俺の名前はシンです」

「え!?」「はあ!?」


正直に答えると驚かれてしまった。そもそもの間違いはホセさんの側なので俺には関係ないだろう。そこへ、別の女性職員が闘技場に現れた。後ろに黒い鎧を着た壮年の男性を連れている。


「お取込み中すみません。本日教員試験を受けに来たニコラスさんと言う方がホセさんに合わせて欲しいと言われているのですが、ご存知ですか?」

「ホセさん。遅れて申し訳ありません。急用が発生し、遅れてしまいました」


頭を下げる男性をホセさんとソフィアさんは唖然としながら見ていた。


(さて、これからどうなる?)


この場にいる誰も動かない状況を俺は少し離れて1人見守ることにした。


お読みいただきありがとうございました。

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