2-2城郭都市プロセディオ
森を東に進む3つの影。
家を出てから30日。錬金に使える薬草等の素材を取りながら、のんびり歩いていると、森が無くなり平原に出た。それから歩いて2日。高い城壁を視界にとらえた。
あれが『城郭都市プロセディオ』か?
城門には列が出来ていた。並ぶために近づくと、列に並ぶ人間たちが騒ぎだし、城門から兵士たちが駆け寄ってくる。
「君は何者だ」
近づいてきた3人の兵士。少し上等な鎧を着ている兵士が声を掛けてきた。
「旅人です」と答えると「その姿で旅人?では後ろにいる魔物は君の従魔か?」と聞かれた。頷くと、「そうか。首輪もしているようだから問題はないか…一つ忠告だ。知っているかもしれないが従魔がしたことは主人がしたこととして罰せられる。注意するように」
それだけ言うと「他の兵士に戻るぞ」と声を掛けて城門の方へと戻っていく。
「『ライ』、『アイシャ』。影に入ってくれ」
都市の中を3mの狼と虎が歩いていたら目立つし、要らぬトラブルを引き寄せる可能性がある。従魔達が影に入ったところで最後尾に並ぶ。
それから1時間後。城門前で先程の兵士から「従魔はどうした?」と聞かれたので、影に入ってもらったと答えると「影に入った?そうか…」と不思議そうにしていたが特に何も聞かれずに3日間有効な仮身分証を受け取り、都市に入る。
ここで『城郭都市プロセディオ』について説明する。
シルバ大森林にアンピオ湖から王都まで流れるラージ川の近くに作られたイレミア皇国の最も西に位置する都市。
イレミア皇国西部において2番目に大きな都市である。
西のシルバ大森林からとれる木材と魔物の素材等を都市の北側に流れるラージ川使ってイレミア皇国最大の消費地である皇都に物を運ぶことができるため著しい発展を遂げた。
しかし、15年前の皇都陥落により最大の消費地であった皇都がインヴァザオ帝国に占拠された。今は西部公爵のいる都市に物資を送りそこから北部、そして東部に運んでいるらしい。
都市内部は中央にある領主の城から東西南北に真っすぐのびる大通りを基軸に東は都市に住む住民が多く暮らす住宅地。西は魔物や薬草、木材を扱う各種ギルドや冒険者を主な客とする安い宿屋や量の多い食事を出す飲食店、大量の木材を使用する鍛冶場や工房が多い。北はラージ川を利用するために作られた港から各種輸入品や新鮮な魚介類があるため商店や高級な飲食店が多く。南は親を亡くした子供、生活に生きず待った者が最後にたどり着く場所。俗に言うスラムである。
閑話休題
俺は西の大通りを歩きながらオーク串を焼いていた屋台の男性にフォンテイン・ウィスダムさんについて訊ねた。
「お前さん最近来たのか。ウィスダム様といえばこの都市周辺を治める領主様だよ。ほれ、あそこに城が見えるだろう。あの城におられる。だが余所者が簡単に会える方じゃないぞ」
まさかアレクじいちゃんの友人が領主だったとは思わなかったが、とりあえず行ってみることにした。
屋台の男性にお礼とオーク串を3本購入した。
オーク串3本のうち2本は人目の付かない所で影から顔を出した従魔達に渡した。
(塩胡椒が効いて美味いな)
シンプルな味付けだが肉が新鮮なのかとても美味しかった。
オーク串を食べながら再び西の大通りに戻り、領主の城に向けて歩き始めた。
◇
「止まれ!貴様何者だ」
城の周囲にある堀に架けられた橋を渡ると城門の前にいる2人の兵士がこちらに槍の穂先を向ける。
「私はアレク・レイスの孫、シン・レイスと言います。祖父の友人であるフォンテイン・ウィスダム氏に会いに来ました」
「アレク・レイス?どこかで……『さすらいの魔術師』!?」
マスクを取って兵士に用件を伝えると兵士の1人が「しばし待て」といって城の中に入っていく。それから30分ほどして戻ってきた。
「失礼した。ウィスダム様の下へ案内しよう」
それから兵士に連れられて城の一室へと案内された。
兵士は扉をノックしてから「シン・レイス殿をお連れしました」と部屋の中に声を掛けた。
扉が内側から開かれ、中から侍女らしき女性が俺を招き入れた。俺が入ると扉が閉められる。
どうやら兵士は入ってこないようだ。部屋には天蓋が付いたベッドが置かれ、そこに少し前髪が後退した白髪の老人がベッドの上で起き上がっていた。
(この人がフォンテイン・ウィスダムさんか?)
侍女に案内されベッドの傍に置かれた椅子に座る。
「君がアレスの孫か。確かにその杖はアレクの物だ。この世に二つとない…世界樹と神鋼、七色宝珠で作られた杖。久しぶりにいいものを見た。ところで、アレクは今どうしておる」
アレクじいちゃんから貰った杖を懐かしそうに見るまなざしはどこか寂しさを感じさせた。
「アレクじいちゃんは1ヶ月前に死にました」
「死んだ!?…アレスが死んだのか」
驚き、肩を落としたウィスダムさんに「どう生き、そしてどんな死に方をしたか教えてもらえんか?」と聞かれたので俺が知っているアレクじいちゃんのことを全て話した。
そして最後に家の机に置かれていた封がされた手紙を渡した。
手紙を読み終えたウィスダムさんはそっと手紙を閉じ、目頭を押さえた。
「君には感謝しなければならない。アレスに穏やかな死をさせてくれてありがとう」
ウィスダムさんは涙を流しながら感謝された。それから、アレクじいちゃんの事を色々聞かせてくれた。
アレクじいちゃんも幼いころに家族を全員、山賊に殺されてから、独学で魔術を修め、復讐を果たすと長いさすらいの旅をしていた。
同じところに長くても1年はいなかった。その間に救った者達は数知れず、しかし、同時に多くの欲深い者達にその力を欲されるようになった。
最後にここに来た時、「もうどこへ行っても安らげるところはない」とこぼしていたそうだ。俺が拾われたのはその後だろう。
話を終えたウィスダムさんから「これから予定がないなら『学園都市ホープン』に行ってみんか」と言われた。
「手紙に書いておった。シン君に友達を作らせてあげることが出来なかったことが心残りだと。アレクは友達がほとんどいなかった。シン君には自分とは違う道を歩んでほしいと書いておる。儂でよければ後見人になろう。どうかな?学園に通ってみんか」
学園か…転生前の高校では嫌な記憶が多かったがアレクじいちゃんの最後の気持ちを無碍にするわけにはいかない。俺は葛藤の末、ウィスダムさんに「よろしくお願いいたします」と答えた。
話が終わり、夜になっていたので、城に泊まるように言われた。
お言葉に甘えてふかふかのベッドがある部屋で1泊させてもらった翌日の朝。朝食を頂いてからウィスダムさんの部屋に行くと、ウィスダムさんから学園都市宛ての推薦状とウィスダム辺境伯家の公認手形を受け取った。「その手形があればイレミア皇国内の手続きを簡素化できる。良かったら使ってくれ」と渡してくれた。
その後、今日から60日後に入学試験が行われること。東部公爵領にある『学園都市ホープン』へは港の船でラージ川を下り、西部公都から北部公爵領を通って、向かうコースを勧められた。
しかし、俺は皇都を通る最短ルートにすることにした。「皇都周辺は帝国支配しておる」と言われたがダンジョンの生活で多少の危険は慣れている。「ルートを変えるつもりはありません」と答えると、「シン君は間違いなくアレクの孫だよ」と言われた。
ウィスダムさんから俺が森暮らしをしていたことを心配して「金は持っておるのか?」と聞かれたが「大丈夫です」と答える。
<アイテムボックス>にはイレミア皇国皇貨300枚、白金貨約3万枚、金貨約10万枚、銀貨と銅貨が数十枚入っている。家にあった硬貨もあるが、ほとんどはゴキブリとワームを殺して手に入れた硬貨だ。ダンジョンで手に入れた金貨等がこの国の硬貨であるかについて疑問だったがアレクじいちゃんがこの国について説明してくれた時に理由がわかった。
イレミア皇国。
千年前にこの大陸全土を支配していた超大国の成れの果て。800年前に崩壊し、国土をほとんど失い、大陸のちょうど中央だけが残った。しかし、残った国土には西の大森林から豊富にとれる木材や魔物の素材。北に点在する多種の鉱山地帯からとれる鉱石。東にある複数のダンジョンから手に入る良質な魔石や香辛料等。さらにラージ川の豊富な水により作られる大量の農作物。これら豊富な資源があった事と西のシルバ大森林、北はホリア連合王国、東をサンクティ公国、南はインヴァザオ帝国という西以外は3つの国に国境が接している地理的特性を利用して、交易の中心として息を吹き返し、発展してきた。
そのため、イレミア皇国の通貨は大陸共通通貨として使用されている。
現在は皇都周辺と南部公爵領がインヴァザオ帝国。残った皇国領を第1皇子が旗頭に帝国以外の周辺2か国が支援する形で均衡を保っている。
閑話休題。
イレミア皇国の硬貨は大陸共通通貨としてこの大陸ではどこの国でも使えることが理由だろう。当時の俺は食べられない、戦闘にも使えないと思っていたが、転生後も考えたアイテムだったのか。あの『賭博神』はダンジョンクリアをさせないようにしていたことを考えると『慈愛神』が設定していたのだろう。
話が終わり、ウィスダムさんに感謝と別れを言ってから城を後にした。
◇
まずは各ギルドへの登録だ。
ギルドに登録すると関係する各店から割引を受けることが出来る。登録するのには条件を満たす必要があるが、条件を満たせるギルドへ出来るだけ登録しよう。
それに、ギルドカードは身分証になる。
まず入ったのが北の大通りにある商業ギルド。
一番割引を受けられる店が多い。それに情報を買いやすくなる。俺が知っている情報はアレクじいちゃんから聞いた15年前の情報だ。今では色々と変わっているだろう。
石造りの3階建ての商業ギルドの店内は騒がしかった。
「おい!まだ手続きは終わらないのか」
「そろそろ出ないと納期に間に合わないから早くしてくれ!」
「少々お待ちください今順番にしておりますので…」
受付前のテーブルから受付票と申込用紙を取り、申込用紙を記入する。
(世界中の情報を閲覧したいから白金ランクだな)
申込用紙に名前と希望するランクを記入後に受付番号を呼ばれたので受付へ向かうと
「えっと、冒険者の方ですか?え!その姿で商人の申請ですか!?も、申し訳ありません。取り乱してしましました。白金ランクでの申請でよろしいですか?わかりました。それでは申込金白金貨3枚をお納めください。…確認いたしました。少々お待ちください」
受付につくと、新人らしい赤いショートヘアーの受付嬢が黒い甲冑に黒いローブを着ている為だろう。冒険者と勘違いした。
受付に申込用紙と申込金を渡すとカード発行の為、席を離れる。仕事はしっかりと出来るらしい。
商業ギルド。
世界中にある商人が集まって作られた商人のための組織。それが商業ギルドである。
商業ギルドは天人族が住む天空大陸以外の6つの大陸をブロックとして分けて運営している。ギルドでは手に入れることが出来る情報の質と量によって4つのランクに分けおり、
白金:世界中の情報
金 :登録ブロックの情報
銀 :訪れた商業ギルドがある国及び周辺国
胴 :訪れた商業ギルドがある都市及びその周辺
の情報が閲覧できる。
もちろん上位のランクの者が下位のランクの情報を入手することは可能。
その分申込金及び毎年の更新料が白金:白金貨3枚、金:白金貨1枚、銀:金貨30枚、銅:金貨10枚必要となる。
閑話休題。
しばらく待っていると「お待たせしました」と戻ってきた受付嬢から白金製のカードを受け取り、商業ギルドを後にした。
◇
次に向かったのは同じ北大通りにある魔術ギルド。魔術書はこのギルドを通さないと購入してはならない決まりになっている。過去に通さずに販売した者がいたが翌日には川に浮かんでいたらしい。ギルド内は静かで皆ローブを着て顔を隠している。俺もローブを着ているため、このギルドの雰囲気に溶け込んでいた。
魔術ギルドは魔術が使える者なら誰でも登録することが出来る。魔術ギルドのランクはG~SSSの10段階。ランクの決定権は魔術ギルドの評議会にある為、功績があるから上がるわけではない。ランクによって購入できる魔術書の範囲が異なる。
俺にはアレスじいちゃんに教えてもらったことやタブレット端末に入っている魔術書で十分だ。俺が欲しいのは魔術ギルドカードを持っていると本屋で割引を受けることが出来る。本屋の割引はランクに関係なく一律2割引き。さらに魔術ギルドは申込金・更新料全て無料。読書好きの俺としてはなんとしても取っておきたいカードだ。
受付に行くと用紙に名前と使える魔術欄に<光属性:光球>と書いて、受付嬢に小さな光球を見せて手続きが完了した。渡されたのは黒字で五芒星が書かれた白いカード。
そのカードを持って今度は北大通りにある本屋に向かい気になる本を籠に入れて会計をしてもらう。
「合計白金貨2枚の2割引き、白金貨1枚と金貨9枚になります」
この世界の本は高い。たった100冊で白金貨2枚もするのだから。
イレミア皇国の銅貨は日本円にすると約100円の価値がある。
換算比率は皇貨1枚に対して白金貨:100枚、金貨:1,500枚、銀貨:75,000枚、銅貨7,500,000枚となっている。
閑話休題。
店員に代金を支払い、本を<アイテムボックス>にしまってから、次は西大通りへ向かう。
西にはシルバ大森林がある為、そこからとれる木材や魔物の素材を扱う冒険者ギルド、鍛冶ギルド、錬金ギルドは西大通りに設置されている。
北大通りから一番近い錬金ギルドに入ると、ツンッと薬品の臭いがする。
空調が効いていないのか、空調が追いつかない程臭いを出しているのか。
臭いの原因について考えている間に緑色の服に白衣を羽織った受付嬢が座っている受付に辿り着いた。
「薬草の買取ですか?それともポーションのご購入ですか?」
無表情の受付嬢は俺の事を冒険者と勘違いしていたのか「登録をしたい」というとピクッと眉毛を動かせた後に申込用紙を差し出した。
申込用紙を提出すると次に青い付箋を渡された。付箋は持つと途端に赤くなった。
受付嬢は「<錬金>スキルがあることを確認しました」といってから奥へ消えた。
<錬金>スキルをなぜ俺を持っているのかについては恐らくクリア時に持っていた<錬金道具一式>が関係しているのだろう。
受付嬢が1枚の葉っぱが描かれた緑色のカードを持って戻ってきた。
「こちらが錬金ギルドカードです。錬金ギルドにお売りになられたポーションや薬に応じてポイントがたまります。ポイントがたまると葉の数が増えます。1枚ですと割引はありませんが10枚になると9割。施設の設備利用料が割引されます。それと錬金ギルドの素材購入時にカードを提示されますと一律定価の3割引を受けられます。是非ご利用ください」
俺は内容よりも声のトーンは一定で機械が喋っているようだったが、これだけ話せることに驚いていた。「何か?」と何も言わないので不審に思われた為、早々にカードを受け取り、奥にある素材の販売所へ行くことにした。
ポーションなどを作っている場所をさらに奥に進むと薬草や動物の部位等が並ぶ販売所と言うより倉庫に辿り着いた。
並んでいる商品を一つ一つ<詳細鑑定>によって良し悪しを調べながら購入する物を選んでいく。籠に入りきらない程の商品を会計に持っていくと線の細い錬金ギルドの職員が合計金額を計算しながら話しかけてきた。
「あなた何者ですか。どれも品質の良いものばかり選んでいる。ベテラン職員でも見分けるのが大変なのにたった1時間ほどでこれだけの商品を見分けるなんて信じられません」
時間を気にしていなかったが職員は俺が販売所に入ってからの時間を調べていたようだ。
暇なのか?客がほとんどいない販売所を見て思った。
錬金ギルドカードを提示してから代金を支払い。錬金ギルドを後にする。
次に訪れたのは鍛冶ギルド。金槌を使って金属を叩く音が店先まで響いている。
鍛冶ギルド内はとても清潔に保たれている。音さえなければと思いながら受付に向かう。
受付には黒い髪と肌をした背の低い少女が座っていた。少女は元気な声で「いらっしゃいませ」と言ってから錬金ギルドと同じ内容を口にした。申し込みの際に<鍛冶>スキルの確認をされたがこちらも問題なかった為、無事鍛冶ギルドカードを手に入れた。
鍛冶ギルドカードを持って販売所に着くと、多数の魔石と鉱石、燃料となる薪等が並んでいた。錬金ギルド同様に<詳細鑑定>をした商品を購入する。
「時間が経つのは早いな」
鍛冶ギルドを出た頃には日が落ち、都市の通りには明かりがともっている。
そういえば昼食を食べていないことを思い出した。従魔達は何も言ってこないがお腹を空かしているだろう。
冒険者ギルドに行くのは明日にして食事と宿屋を探そう。
ちょうど目の前にあった宿屋兼食堂『まんぷくドラゴン』と書かれた看板を見つけたので、店内に入った。
店内はすでに人で溢れていた。座れるところを探していると「いらっしゃいませ。お1人様ですか?」と両手にジョッキを持った女性従業員が声を掛けてくれた。
頷くと、あちらの席にどうぞと店の一番奥にあるテーブルを示した。
お礼を言ってから席に向かう。4人が座れる丸テーブルに1人座ると、小さいサイズになった『ライ』と『アイシャ』が影から出てきた。2匹を持ち上げ、それぞれ右足と左足の太腿に乗せる。甲冑の太腿部分が変形して、2匹が座りやすいようになった。
「あれ?お客さん従魔なんてお連れでしたか?」
先ほど席を教えてくれた女性従業員が注文を取りに来てくれたようだ。
従魔の持ち込みは大丈夫か聞くと、「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
注文後に宿の空室について聞いたところ、1人部屋が空いているといわれた。
「1泊したい」と伝えると。「部屋の鍵は料理と一緒にお持ちしますね」といって女性従業員が厨房へ向かうのを見送り、ペットボトルに入った水とコップ、皿を2枚取り出した。
この世界のほとんどの場所では飲み物は有料。日本のように店で飲料水を無料で飲むことはできない。
30分ほど従魔達と戯れていると料理が運ばれた。
「お待たせしました!ハーブ暴れ牛のビーフシチュー特盛です。パンはお代わり自由です。足りなくなったらいつでも仰ってください!」
俺の目の前にぐつぐつと溶岩のように熱せられた鍋の中に肉と野菜がこれでもかと入ったビーフシチューが置かれた。「これが部屋の鍵です。鍵に書かれている番号と同じ番号の部屋が2階にありますので食後にご確認ください。それではごゆっくりどうぞ」と女性従業員は席を離れて行く。
「さて、食べるか」
新たに取り皿を2つ出して、2匹の分を取り分ける。「熱いから気負着けろよ」と言った傍から『ライ』がはふはふと口の中で大きく角切りにされた肉を転がしている。
一方『アイシャ』はしっかりと息を吹いて冷ましてから、ちびちび食べていた。
2匹が食べる様子を確認してから、俺もビーフシチューを食べ始める。
ハーブ暴れ牛とはハーブ以外食べない2m級の牛だ。ハーブを食べていると温厚で飼育がしやすい牛と言われているが、その力は武装した大柄の男も吹き飛ばす程に強く、ハーブを食べないと暴れだし、周囲に多大な被害が出るので管理が難しい牛である。しかし、その肉質は柔らかく、噛むほどに旨味が口いっぱいに広がり、それをハーブの香りが引き立てる。一頭で金貨8枚もする高級牛である。
閑話休題。
ビーフシチューを食べる前から漂うハーブの香りに心が落ち着く。
次にビーフシチューを口に入れると口の中に広がる肉と野菜の旨味がしっかりと溶け込んだスープ。噛む必要がないほど煮込まれた肉と野菜。呑み込んだ後残るかすかなハーブの香りが再びスプーンをビーフシチューへと導いていく。
危ない。一緒に持ってこられたパンを忘れるところだった。籠に山盛りで入れられている黒パンを1つとり、ビーフシチューに浸して柔らかくしてから口に入れる。絶品のビーフシチューが染み込んだ黒パンも美味かった。
食事が終わり、自分たちが出した食器は<洗濯袋大>に入れる。2匹を影に戻ってもらい。
女性従業員に声を掛ける。宿と食事代金を支払うと渡された鍵に書いてある部屋の扉を開けた。ベッドと机、椅子が置かれていた1人用の部屋だった。
甲冑内で歯磨き、洗身洗髪を終わらせているので、武器の手入れと読書をしてから、甲冑を脱ぎ、久々にベッドで眠った。
お読みいただきありがとうございました。




