2-1転生
「ハァハァハァ」
いま俺は騎士に抱えられている。
騎士が着ている白い鎧は自らの血により赤く染まり、顔色も青白い。
それでも俺を必死に逃がそうと馬を駆けている騎士に感謝していると。
―バタン
騎士が馬から落ちた。合わせて抱えられている俺も落ちる。
騎士の鎧が緩衝材の役割を果たしてくれたので俺は無事だが、騎士は無事ではないようだ。
俺は『賭博神』とのブラックジャックで手に入れた<詳細鑑定>を使用した
<詳細鑑定>:生き物に対してステータス・経歴・潜在能力。物に対してはステータス・用途等。魔術・魔法に対しては術の内容・構成・対処法を見ることが出来る。
<詳細鑑定>により見た騎士のHPは0。死んでいる。ここまで命がけで逃げてくれた騎士に哀悼の意を表して黙とうをする。
その間も降り注ぐ冷たい雨が俺の頬と包んでいる布を濡らし体温を奪っていく。
俺の影から従魔である白銀の毛並みをした子狼『ライ』と白い子虎『アイシャ』が出てきて俺の体を温めようと自らの身体を寄せる。
従魔達に感謝しながら、生後6ヶ月で死にそうになっている自分の人生を振り返った。
◇
転生した先はとある歴史ある国の第4皇子。皇子なので生きて行くには困らないと思う反面、上の兄達に狙われる可能性もあるので、成人したら皇位を返上して城を出ることにしていた。兄達に命を狙われるなどごめんだ。
のちにそんな心配をする必要はなくなるとはこの時は思いもしなかったが。
それから6ヶ月後。父や母はとても優しい人だった。これなら安心して成人まで暮らしていけると思った矢先に、隣国のインヴァザオ帝国が攻め込んできた。
歴史があり、皇族の血を持つ者だけが使える特殊な魔法と精強な兵を持っていた皇国は数の力と呼吸を合わせるように起こった親族の南公爵が反乱したことにより滅亡。皇帝であった父と第3王妃であった母は死に、第1王妃は第1・第2皇子と第2皇女を連れて父である北部公爵のもとへ逃亡。第2王妃も第3皇子と第1皇女を連れて叔父である東部公爵のもとへ逃亡。そして俺は近衛騎士に連れられて西部公爵領へと逃がされたのだが、護衛の騎士は次々と倒れ、残った最後の騎士もいま倒れた。幸いなことに追手を振り切ってくれたので殺されることはない。いや、この寒い中、凍え死ぬより殺された方がましだろうか?
「生きておるか?」
俺の視界に影が落ちた。白い髭に白い髪。ローブを着た初老の老人が見下ろしていた。
「騎士の方は死んでおるようだの。赤子の方は…生きておるようじゃ」
老人は屈んでから騎士の首に手をあて、死亡を確認した。
「お主達、この赤子を助けたい。離れてくれんか」
老人が俺を持ち上げようとしてくれたようだが、傍に居た従魔達が威嚇して触れられないようだ。
(『ライ』、『アイシャ』威嚇をやめろ。この人は俺を助けようとしている)
心の中で話をすると2匹は威嚇をやめたが、老人への警戒は止めない。
「ふむ。こんな状況で泣きもせんとはしっかりした子じゃ。これからは儂の子として育てようかの」
抱きあげられた後、雨が降り注ぐ中を老人は俺を抱えて歩き始める。
老人の周囲に張られた透明な膜が雨を弾いている。この老人は何者だろう?
◇
5年後。シルバ大森林の奥深くにある山荘
俺が拾われた後、今いる場所まで歩いてやってきた。
周囲に人はいない。代わりに体長4m以上の熊や人と同じ大きさの昆虫等がいる。
ちなみに俺を拾ってくれた老人はアレクという。下の名前は教えてくれなかった。
俺はアレクじいちゃんと呼んでいる。俺は立てるようになってから毎日鍛錬をしている。
赤子の身体にされたのでまた1からのスタートだ。それでも身体にあった鍛錬用の武器がなかったのでアレクじいちゃんに魔術で頼んで作ってもらった。
アレクじいちゃんはこれまで世界中を旅して魔術を探求してきた魔術師らしい。
俺も重力魔術を使っていたがやはり素人に毛が生えた程度の実力しかない。
見せてもらった魔術はどれもすごいとしか言葉が出なかった。そこで、アレクじいちゃんに頼んで魔術を教えてもらうようになった。
ここで魔術について説明をしようと思う。
魔術とは自らの魔力を燃料にして、世界に自らの望む現象を発生させること。
魔術には火・水・風・土・雷・光・闇・毒・時空・重力・無の11属性が存在している。
11属性以外の魔術にも特殊魔術と呼ばれる固有の名前が付いた魔術も存在する。
それぞれの属性には<LV.Ⅰ>から<LV.Ⅹ>まである。<LV.Ⅹ>が最も威力・効果が高い魔術を使用することが出来るが<LV.Ⅴ>以上から習得が格段に困難になるので才能が必要のようだ。
魔術は努力次第で全ての属性を使えるようになることも特徴の一つだ。
魔術に似た現象を発生させる魔法もあるが、これは努力しても使えるようにはならない。魔法は世界中に含まれている魔力を燃料に出来るため、自らの魔力は消費する必要ないが特定の魔法を使うときしか燃料に出来ないので汎用性に欠ける。
閑話休題。
魔術で最初に習うのは、魔術の燃料となる魔力を知ること。
武術でよくする黙想によって身体の中にある魔力を感じることが最初の段階。
黙想は慣れていたので、1日で習得した。次に魔力を身体の中で高速移動させる。
この状態を無意識に維持することが出来れば<無属性:身体強化>を習得したことになる。
身体強化時に木の一本にデコピンをすると根元からへし折れたので、薪にした。
次に魔力を1か所に集めて球状にして打ち出す<無属性:魔力球>。これに属性を付与した物が火球や水球等になる。他に形を変えることで威力が変わる。試しに弾丸のような形にして回転させて撃ちだしたら気に穴が開いた。これは<無属性:魔力弾>としよう。
そこまで出来るのに1ヶ月。
アレクじいちゃんからは「お前には才能がある。もうちっと厳しくしても良さそうじゃな」
と言われた。
その翌日から起きたら常時<無属性:身体強化>を維持、寝るときには魔力を枯渇することになったのだが、少し問題があった。俺の保有魔力がアレクじいちゃんの予想以上あったため、習得する順番を変更し、魔術の多重発動を習うことになった。そして、寝る前に無数の<光属性:光球>が夜空を照らすようになる。
話していなかったが小さかった『ライ』と『アイシャ』も体長3mまで大きくなっている。
『ライ』は雷狼として、大地を雷の如く走れるようになり、『アイシャ』も天虎として、空を自由に走れるまで成長した。
家に入るときは昔のように小さくなってから入る。
アレクじいちゃんは「なぜ神獣を従魔にしておるのだ?」と首を傾げていたが子供らしく「知らない」と答えるとそれ以上話題にされることはなく。少し大きな狼と虎として接してくれるのでありがたい。
その後も魔術の修行は続き、属性魔法を習いだしてから、驚くべきことが分かった。
俺は最初から火・水・闇・時空・重力の5属性については<LV.Ⅹ>の魔術が使える。
また、特殊魔術を複数種類使うことが出来た
これにはアレクじいちゃんも驚いていたが「まあ、修行時間が短縮できたと思うとするかの」と好意的に受け取ってくれた。
ある程度魔術が使えるようになると狩りに連れて行ってくれるようになった。
そこで、魔術の練習と魔物についての説明をしてくれる。
魔物の狩り方、狩った魔物の解体の仕方や解体中は他の魔物に襲われる危険等の注意点を教えてもらう。
家に帰ると料理は俺が作る。家の家事は全て俺がしている。その間、アレクじいちゃんは何をしているかと言うとタブレット端末で本を読んでいる。
最初に見せたのが2年前。俺が隠れて読んでいたところを発見された。
「それはなんじゃ」と問われて、本を見ることが出来るアイテムと説明した。
使い方を教えると食い入るように見つめて、俺が使っていないときはいつも何かしらの本を読んでいる。本人曰く「この森の中での唯一の楽しみ」らしい。
確かになにもない森に棲んでいれば、その気持ちもわかる。俺もゲームがない田舎では鍛錬か読書ぐらいしかすることがなかった。そういえば今と大して変わらないな?
俺の今の日常は起床→鍛錬→魔術の修行→(狩り)→鍛錬→魔術の修行→読書→就寝。
間に家事や武器の手入れ、日用品や保存食の作成等が入るがおおむねこんな感じだ。
「じいちゃん、シチューが出来たよ」
今日取った角猪と森に生えている山菜を使ったシチューをテーブルに置いた。
床に皿にいれたシチューを置くと影から『ライ』と『アイシャ』出てきた。
「さて、頂くかの」
アレクじいちゃんと俺、『ライ』と『アイシャ』。2人と2匹が食事を始める。
食事の時はじいちゃんがこの世界の事や旅をしていた時に見聞きしたことなどを話してくれる。
俺にとっての第2の人生。最初はどうなるかと思ったが、この人に拾われたことは幸運だった。
あのまま皇子として育っていたらこんなのんびりと過ごすことが出来たかわからない。
再び両親を失ったことは辛いがその分幸せになろうと思うことにした。
そんな生活が5年過ぎたある日の事だった。
15歳になった俺は高齢で横になることが多くなったアレクじいちゃんを家に残して、『ライ』と『アイシャ』を連れて日課の狩りへ向かう。
最近日に日に体力が落ちているアレクじいちゃんに『ワイルドベアー』という4mの熊を狩り、家に帰る。1人で狩りに行くようになってから<時空魔術:無限収納>ではなく、<アイテムボックス>にしまうようになった。<アイテムボックス>には自動回収と自動解体の機能がついているので、解体の腕がなまらないように最低限の解体はするがそれ以外は自動解体にしている。
アレクじいちゃんは教えたことが俺の役に立っているのを見るとき、うれしそうに笑うので見られている時は教わったことをするようにしていた。
家に帰ると、居間には誰もいない。
まだ寝ているのかと思いアレクじいちゃんの部屋に入ると机の上に2通の手紙が置かれていた。そして…ベッドに安らかな顔で眠っているアレクじいちゃんがいた。
「じいちゃん!」
俺は走り寄った。なぜならアレクじいちゃんが呼吸をしていなかったからだ。
それからどれだけ呼んでも返事はない。身体は冷たくなっている。
<アイテムボックス>から蘇生薬を取り出そうとしたが、途中で手が止まる。
先日の会話を思い出した「もし儂が死にそうでも何もするな。魔術や薬で永らえる命ではなく、寿命で死にたい」と言っていた。今ここで蘇生したら意思を無視することになる。
流れる涙を拭い、俺はアレクじいちゃんの身体を家の傍に埋め、墓標を立てる
『世界中の魔術を知る者 ここに眠る』
俺に出来るこれが最後のじいちゃん孝行だ。
俺、『ライ』、『アイシャ』が墓を見ながら一頻泣いた後に家の中に戻った。
机の上に置かれた2通の手紙。今朝はこんなものはなかったので俺が家を出た後に用意したのだろう。
2通のうち、封のされてない方を読む。
『儂の可愛い孫 シンへ
先に行く儂を許しておくれ。儂は幸せだった。シンに出会えてから儂の孤独な人生は終わり、穏やかな人生を送ることが出来た。ありがとう。
これまでに儂が知っていることは全て教えた。後は好きに生きなさい。もし人生で少し寄り道をしてもいいと思うならもう1通の手紙を『城郭都市プロセディオ』にいる儂の古い友人フォンテイン・ウィスダムという男に渡しなさい。色々と力になってくれるはずだ。
最後に儂はシンに隠し事をしている。だからシンが儂に隠し事をしていることを気に病む必要はない。お互い様なのだから。
これからの人生を強く生きなさい。シンの人生が穏やかで何事もないが笑顔で往けるような人生になることを祈っておるよ
アレク・レイス』
手紙の上に水滴が落ちる。アレクじいちゃんは最後まで俺の事を心配してくれていた。
雨の中、死を覚悟したときに拾ってこれまで育ててくれた15年間。
死ぬ前もこの世界で生まれてからも家族は誰かに殺されて、ろくな別れが出来なかった。
唯一死に顔を見ることが出来たアレクじいちゃんに俺は十分恩返しが出来ただろうか?
(これからの事を考えよう)
結論が出ることがない問いに対して頭を振ることで頭の隅に追いやる。
じいちゃんが最後に残してくれた場所に行ってみよう。そこに何があるかわからないけど、何かしら手に入る物があるはずだ。
家にある物は全て黒い穴を出して取り込む。
そして、30階層で手に入れた宝箱に入っていた
<黒竜甲冑>:黒龍をナノレベルまで細かくし魔力により思考能力を与えられた流体金属のような性質を持ち、受けた攻撃の50%を攻撃した相手に跳ね返す。装備者の意思により装備者の姿・気配・音・魔力・ステータス等全てを他者から隠すことが出来る。顔を覆うマスクの目の部分には黒龍の水晶体が使われているため硬くしなやかで魔力により暗視機能及びピント調整可能。温度調整・自動サイズ補正・自動修復・自動防衛機能が付いた意思ある甲冑。
<黒竜ローブ>:魔力を流すことで姿を消すことができる。また甲冑と同じく流体金属のような性質を持っている。
<黒竜刀>:黒龍の黒い牙を圧縮加工した刀身80㎝の打刀。長さ・大きさを自由に調整できる
を装備してから、アレクじいちゃんが先日くれた愛用の杖を持つ。この杖には見る角度によって七色に変わる宝珠が先端についている。
準備が整った。自身の魔力込めた魔石を家の中心に円になるように並べてから<時空魔術:完全結界>を家の周囲に張る。これで侵入及び攻撃は防げる。そして、術者以外に中に入ることもできない。後は空気中の魔力を吸収出来るように<無属性魔術:魔力吸収>を魔石にかけることで半永久的に結界を張り続けることが出来る。
「さて行くとしようか」
結界を出て後ろを振り返る。影から出てきた『ライ』、『アイシャ』と一緒にこれまでお世話になったアレクじいちゃんと家に感謝と別れを告げてから、食事の時に聞いていた『城郭都市プロセディオ』の方角に向って森を東に進む。
お読みいただきありがとうございました。




