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平穏無事な生活がしたい  作者: misuto
第1章ダンジョン編
11/33

1-10(20-24階層)

望月少年達が出発してから2日後。


「終わったか」


黒巨人達が自決したことを確認した。

これで望月少年達が黒巨人と遭遇することも巨人に襲われる可能性も無くなった。

この国も巨人が発見されないことから城壁の修繕と各区画の住民の帰宅を許可した。

城の右側には多種多様な資源を採掘出来る洞窟がある。現在洞窟から24時間体制で鉱石や石材を採掘している。

採掘された資源を洞窟の近くにある溶鉱炉や石の加工場に運び、加工された資材を城壁に運んでいるため、道は常時照らされ、城門に荷馬車が絶えることがない。

避難していた住民が居なくなり静かになるかと思ったが、むしろうるさくなった。

望月少年達が出発してから1ヶ月後。

朝ホテルを出発し、第5城壁まではロードバイクで移動。

そこからは装甲車に乗り換えて移動したので当日に21階層へ降りる階段に到着した。


「よし、いくぞ」


2人に声を掛けて階段を降りた先は円形闘技場。

視線の先、篝火が焚かれた円形闘技場の中央には体長3mの獅子が座っている。

最後に降りた薫が階段を降りると階段が消えた。

21階層は試練が開始されると上への階段が消えるようになっている。

次に20階層と続く階段が現れるのは試練を1つクリアか死んだときのみ。

また、一度上がれば再び最初から試練を受け直さなくてはならない。


「ふむ。3人だけか」


獅子は俺達を確認するとゆっくり立ち上がった。

試練の内容は複数ある中からランダムで決まる。

今回決まった試練内容は決闘。相手は獅子。


(獅子か。面倒な相手になった)


決闘で選ばれる魔物は複数種類存在する。なかでも一番面倒で時間のかかる魔物が獅子。

獅子の身体は刃物を通さず、矢を弾き返し、魔術も効かない。爪は鋼鉄をバターのように切り裂き、噛まれたら食いちぎられる以外に道はない。唯一効くのは衝撃だけ。

最も攻撃方法が限定される魔物だ

条件に合う武器の中で最も強力な武器を取り出す。

タウロスが残した長さ2mもある巨大メイス。


「2人は下がれ」


有効な攻撃手段がない薫と咲良には闘技場の端へ移動してもらう。

薫と咲良は自分たちが今回の魔物相手では足を引っ張る可能性を理解して素直に闘技場の端へ移動する。別れ際に


「わかった。気をつけて」

「危なくなったら、止めても行くからね」


と言われた。戦ってみないと相手の力量は判断できない。しかし、2人に心配をかけないためにとりあえず頷いて獅子が待つ闘技場の中央へ足を向けた。


「よく来た。だが、3人とは少ない。それに戦うのはお主1人か?舐められたものだ。本当に1人で良いのか?3人同時でも一向にかまわぬが…」

「俺一人で十分だ。2人は手を出さない。だから2人には攻撃するな」

「ほお、これは愉快。儂に1人で十分と言った者はお主が初めてじゃ。良かろう、後ろの2人が儂に攻撃せぬ限り攻撃はせぬ。しかし、お主が敗れた時には結局戦うことになるぞ」

「そうはならないから掛かってこい」

「面白い。ならば、自らの行動を悔いるが良い!」


獅子が言い終えてから瞬きする間に口を開いた状態で目の前に現れた。

口に並ぶ鋭い牙が信をかみ殺そうと迫り来る。


「ぐふっ」


しかし、獅子は横からの衝撃によって吹き飛ばされた。

吹き飛ばされた獅子の頭は混乱していたが類まれなる身体能力を駆使して空中で華麗に姿勢を整え、着地を決めた。


「貴様、なに…がふっ」


殺そうとした相手に何をしたのか問おうとした獅子の左頬をメイスがめり込み、顔が右を向く。あまりのでき事に獅子は思考停止に陥ったが今度は鼻頭を強打され、あまりの痛さに悶えた。その後何度もメイスによって殴打された獅子はようやく思考が追いつき、全力で逃走した。


「ぜえぜえぜえ。な…なかなか、やるではないか。し…しかし、この程度で…儂を倒せたと思うなよ。貴様には特別に儂の真の姿を見せてやろう」


全身で息をしながら、信を睨みつける獅子。

鋭い牙の一部は折れて、ダメージが蓄積したことで足は立っていることも辛い状態にありながら獅子の意地なのか決して弱音を吐かない。

信は獅子に歩いて近づきながらこの状況で獅子が次にどんな行動をとるのか興味を抱いた。

獅子が「はああああああ」と全身に力を入れると獅子の全身が輝きだした。

濃橙色の(たてがみ)が毛先まで金色に変わる。


「これが儂の本当の姿。スーパーライオン!この姿になって負けたことは1度もない。儂の本当の力をグフッ」


全身から光を放つ金の鬣をした獅子の脳天に信は容赦なくメイスを振り下ろした。

重力によって攻撃力を増したメイスは獅子の頭蓋を割り、脳までも叩き潰した。

本当の力を見てみたくはあったが敵が油断している時に攻めた方が打撃を与えられるため、無意識に攻撃をしてしまった。

獅子が姿を消して、22階層への階段が現れたので試練を無事クリアできたこと理解した信は回収されたアイテムを確認する。

黒い箱。なかに入っているのは白の文字盤と金の縁をした懐中時計。

<時の懐中時計>::こめた魔力量により時を越えることも遡ることもできる。

とても興味深いアイテムだが今回のアイテムも使用することはできなかった。

21階層のアイテムの特徴として試練を受けた全員にアイテムが与えられること。

薫と咲良も同じアイテムを手に入れたようだ。そして、使えない。

あまり考えても仕方がないので、各人で手に入れたアイテムをアイテムボックスやポーチに入れて、休みをとった。



「撃て!」


22階層は地下に建造された巨大な寺院。

寺院に入るためには巨大な門をくぐらなければならず、門には2体の金剛力士像が守っている。

俺達が22階層へ降りるとすでに戦闘が始まっていた。

高さ8mの金剛力士像2体と望月少年と30人の仲間達が現在交戦中。

10人の近接装備の少年達が金剛力士像を足止めし、離れたところからロケットランチャーや大砲で金剛力士像にダメージを与える戦い方をしている。

すでに金剛力士像達の上半身はいたるところが凹み、もう少し頑張れば倒せる状況まで追い込んでいる。


「勝てそうね」

「まだわからない。同時に倒せるかどうかが勝敗の分かれ目になるな」

「今から攻撃に参加するのはさすがに無粋だ。この近くで観戦しよう」


戦況を分析する咲良と薫に戦場から離れている階段付近での観戦を提案する。


「待機組は負傷した者と交代で突入!衛生兵は負傷した者の治療を急げ!」


足止め組と砲撃組の間に立って指揮する望月少年の指示で金剛力士像の金錍に吹き飛ばされた少年を衛生兵の少女が後方へ下げ、空いた穴に新たに待機していた少年が入る。

負傷した少年には衛生兵の少女が防犯バッグから薬瓶を取り出し、飲ませる。

少年の傷が治っているので少女が取り出したものはポーションだろう。

治療の終わった少年は簡単な食事と休憩を取っていつでも動けるように待機組に入る。

その間にも後方ではロケットランチャーと大砲の砲撃音が続いている。


「望月さん!ロケットランチャーが弾切れです!」

「わかった。大砲組を手伝ってくれ!」

「了解!」


ロケットランチャーを撃っていた少年が大砲組を手伝いに行く。


「撃て!」


“ドンッ”音と共に徹甲弾が撃ちだされ、金剛力士像の胸にとうとう風穴を開ける。

金剛力士像から赤い血が飛び散り、ドスンと風穴を開けられたときの姿勢のまま倒れた。


「うんんんんんん!」


もう一体の金剛力士像が倒れた友を見て叫ぶ。

しかし、倒れた金剛力士像はその叫びに答えることなく金錍を残して消えた。

友を失った悲しみに生き残っている金剛力士像は涙を流す。

そして、友の残した金錍を左手に持ち、右手に持った独鈷杵と共に友の敵討ちを始める。

これまでの苦戦が嘘のように足止め組を吹き飛ばし、吹き飛ばされた少年達は壁に叩きつけられてこと切れる


「金剛。友の仇を取りなさい!」


咲良は金剛力士像に『金剛』『力士』と勝手に名前を付けて、拳を握って友を失い悲しみの中で戦う金剛力士像を応援していた。

別に望月少年と仲が良いわけでも恩があるわけでもないので、どちらを応援していいが、応援している金剛がこちらに攻撃してくるようなら倒さないといけないことを理解しているのだろうか?


「現状だと彼らが勝てる可能性は五分五分だな」


薫はどちらにも偏ることなく、冷静に戦況は把握をしている。

現状金剛はあと少しで倒せる所まで追い込んでいる。

数は減り始めているが望月少年達にはまだ余力がある。

このまま止めをさせるかどうか。まだわからない。

『金剛』は両手にそれぞれ金剛杵を持ち、周囲を取り囲む敵を攻撃しながら、飛んでくる砲撃もダイヤモンド製の金剛杵で弾き返すというまさに無双状態になっている。

金剛力士像は片方がいなくなると残った方が強化される。

さらに片方が残した金剛杵も持てば、さらに強化されるので、同時に倒すか残った金剛杵を渡さないようにしなければならない。

友の残した金錍を持ってからすでに5人の少年が死亡。

現在は待機組を全て投入して戦線を維持している。

しかし、徐々に数を減らされて直接金剛と戦っていた少年達が全滅。

それでも金剛の怒りは収まらない涙を流しながら憤怒の表情を浮かべて大砲組に襲い掛かる。

これで終わりか。

誰もがそう思った中、1人だけ金剛の前に立ち塞がった勇者がいた。

大量のダイナマイトを身体に巻き付けた望月少年である。


「貴様と刺し違えても仲間を守る!」


望月少年は「うおおおおおお」と叫びながら金剛へ突撃する。

望月少年を死なせてなるものかと大砲組が必死に金剛へ砲撃をして仕留めようとするが金剛杵に砲弾を弾かれて仕留めるとこが出来ない。

そんな中、一瞬の望月少年から注意が逸れた間に接近することに成功した望月少年は『金剛』の右足にしがみついた。


「さよならみんな。君達は生きろ」


望月少年はズボンのポケットからライターを取り出し、ダイナマイトの導火線に火をつけた。導火線は次第に短くなり、ダイナマイトに到達した瞬間。

22階層の隅々まで聞こえる爆発音が響き渡った。


「咲良!」

「わかってる!」


爆風がここまでやってきた。咲良の風を操る力で防げたがまさか望月少年が自爆を選ぶとは予想外だった。

何とか大砲にしがみついて爆発を凌いだ大砲組の少女達は望月少年の名前を口に出して泣き叫ぶ。

爆心地では土煙が待っているため視界が悪いが、“ドンッ”と何かが地面に突き刺さったような音が聞こえた。

少しずつ薄れる土煙。

爆心地には金剛力士像のアイテム金剛杵だけではなく、金剛自身も立っていた。

望月少年の身を挺した自爆によって片足を失っているがいまだに生きている。

先ほどの音は失った片足の代わりに金剛杵を地面に突き刺した音だったのだ。

そして、金剛は再び歩き出す。友の残した金錍を失った片足の代わりに使いながら。

大砲組は呆然と金剛を見上げる。

その表情にはすでに戦意は感じられない。

だが、大砲組は幸運だった。望月少年の身を挺した自爆は無駄ではなかった。

失った足から流れる血の量は金剛が立っていることもできない量に達した。

立っていられなくなった金剛は重力に従い、地面に向けて身体を倒す。

しかし、大砲組は不運だった。金剛が倒れた場所が砲弾を置いている場所。

金剛が倒れた衝撃によって砲弾は爆発。周囲にいた大砲組は爆発に巻き込まれて全滅した。

再びさらに爆風を防いでもらってから、出していた椅子やテーブルをしまってから戦いが終わった戦場へ赴いた。


「う…う、うん」


戦場での生存者は金剛のみ。しかし、今にも死にそうな状態だ。

金剛を見殺しにして引き分けとすることもできるが、いま金剛を殺すのは惜しい。

俺はまず死なないように上級ポーションを金剛の身体に振りかける。

ポーションの効果は下級=軽傷、中級=重傷、上級=危篤状態の者を治す効果がある

振りかけると効果が弱まるがそれでも支配が終わるまでは生きるだろう。

金剛の額に<常闇戦斧>をあてる。黒い液体が徐々に金剛の身体を黒く染め始める。


「何なりとお命じ下さい」


傷が癒え、失った片足も再生した金剛は俺の前に片膝を突いた。


「では、命じる。寺院内の敵を倒せ」


金剛は命令を聞いて2本の金剛杵を持って寺院の中へと入っていく。

それを見送ってから事が終わるまで観戦することにした。

門を入ってすぐの場所に観戦用のテーブルや椅子、飲み物や軽く摘まめる物を用意して寺院の中央にある広場で行われている戦いを観戦する。

金剛は両手に握る金剛杵を振るい取り囲んでいる数多の石英で作られた石兵を薙ぎ払っていた。


「阿形。なんのつもりだ!なぜ味方である我らを攻撃する!」

「やめなさい。こんな…如来様のお怒りを買いますよ!」


指揮官らしき金色の仏像たちが、金剛の反乱に戸惑い、必死に止めるように説得している。だが、金剛は止まらない。

次第に数を減らす石兵。このままでは全滅すると判断した一面八臂の仏像が金剛の前に現れた。金剛よりも一回り大きい身体。どう見ても金剛よりも格上だった。


「阿形よ。その肌の色はなんだ。裏切るというのなら我自ら成敗してくれる」


仏像が振り下ろした1本の剣を『金剛』は金剛杵を交差させて受け止めた。


「なに!?」


振り下ろされた剣が黒く染まり始めたことに驚く一面八臂の仏像。

本能的に危機感を覚えて、金剛杵から即座に離したが剣が黒くなっていくのは止まらない。そして、柄まで黒くなると今度は指、手と順番に黒くなり始めた。


「どういうことだ!」


黒くなった箇所の感覚がない。まるで自分の手ではないように感じた一面八臂の仏像は切り落とそうとするが黒くなった剣で防がれた。

さらに『金剛』が攻撃してくるためその対応に追われてついには肩、胸までも黒く染まった。そこからは早かった。ほどなくして、全身が黒く染まった一面八臂の仏像が石兵を襲い始めた。


「金剛はよくやっている。あとは階層主が出てくるまでにどれだけ仲間を増やせるか」

「階層主は全ての仏像が倒されたら出てくるのだったか。確か不動明王と書いてあったな」

「ああ、これまでの階層主の事を考えると今回は勝てるかどうか。見てみないとわからない」

「そこよ。金剛!軍荼利、何をしているの。そこはフォローに入りなさい!」


俺と薫が階層主の事で話をしている最中に咲良は金剛と新しく支配した仏像(軍荼利と名付けられた)に指示を飛ばしている。

敵は金剛達に集中してこちらには見向きもしないのでこうしてのんびり観戦をすることが出来ている。

その後次第に仲間を増やしてとうとう広場に黒い仏像以外いなくなった時、地震が起こり、中央にある寺院から台座に座る30m程の仏像が姿を現した。



「出たな。不動明王」


金剛は現れた不動明王を見ながらとうとうこの階層最強の存在と対峙して、武者震いしていた。


(まさか。こんな日が訪れるとは)


周りに目を向ける。同じように不動明王に剣を向ける仲間。

『軍荼利』

『金剛夜叉』

『大威徳』

『降三世』

『大元帥』

『毘沙門天』

自分よりも格上の存在とこうして肩を並べる時が来るとは想像もしていなかった。

不動明王の座る台座が浮かびこちらに近づいてくる。


「私が先陣をきる。皆も後からついてこい!」


毘沙門天が最初に不動明王に斬りかかった。それに続くように一斉に不動明王を攻撃する。


「なんと愚かな者達よ。身の程を知るが良い」


不動明王は台座を立体的に動かすため、こちらは思う通りに数の有利を生かせない。


「不動明王。覚悟!」


大威徳の乗っている牛が不動明王に突撃し、上に跨る大威徳は矛を突き出した。


「甘い」

「ぐはっ!」


矛を不動明王は三鈷剣ではじき、大威徳の首を三鈷剣で刎ねた。


「なんと!」

「その程度の実力で不動明王に勝てると思ったか」

「がはっ」


降三世が不動明王の持つ羂索に捕まり、大元帥に向って投げ飛ばされて、降三世の身体を受け止めることになった大元帥は降三世ともども吹き飛ばされた。大元帥と降三世が吹き飛ばされたダメージで動けない所に不動明王が上空から三鈷剣で2人の頭を串刺しにした。


「やはり、強い」


大威徳、大元帥、降三世。自分よりも格上の存在が次々倒された。

この階層最強の存在の強さを目の当たりにした金剛は震えが止まらなかった。

7体の中で最も自分が弱いことを知っている。

そんな自分にできる事は何か。


「そうだな」


左手にある金錍を見つめる。友が残してくれた武器。

それが自分に勇気をくれる。


「不動明王、覚悟しろ」


友と共に最強の敵と戦う。これほど心躍る戦いがあるだろうか!

金剛の正面からの突撃に不動明王は羂索を用いて捕まえようとした。

金剛は左手に持つ友が残した金錍を突き出した。

羂索は金錍を捕まえ、金剛を捕まえることはできなかった。


(あと少し)


あと数歩で三鈷剣の間合いに入る瞬間。

金剛は右手に持つ独鈷杵を不動明王に向けて投げた。

「なに!」驚きの声をあげながら不動明王は三鈷剣で独鈷杵をはじいた。

しかし、それこそが金剛の狙いだった。


「友よ、しばしの別れだ。すぐに俺もそちらへ向かう」


左手に握っていた友を手離し、不動明王にタックルを食らわせた。


「ふん、こざかしい真似を貴様如きの攻撃など痛くもかゆくもないわ」


金剛のタックルを受けても不動明王だけでなく、その下にある台座もビクともしなかった。


「そうだ。俺ではあなたには勝てない。だが、俺は一人ではない!」


不動明王が動きを止めたところで軍荼利、金剛夜叉、毘沙門天が3方から突撃する。


「貴様!」


金剛の考えを理解した不動明王は何を憤怒の表情をさらに険しくした。

だが、動けない不動明王は左右と後方から全身を貫かれたことで、口から血を噴き出す。


「貴様ら、よくも不動明王に傷を負わせ、あまつさえ殺そうとするとは許さぬ。貴様らも道連れにしてくれようぞ!」


不動明王は最後のあがきとして羂索で四方にいる4体を捕らえて逃げられないようにした。そして、断末魔をあげながら爆発した。



「死ぬかと思ったわ」

「階層主が死ぬとき爆発するとは書いていなかったはずだが…」

「いや、よく見ると一番下に小さい文字で「怒らせすぎて爆発注意」と書いてあった」


突然大爆発。寺院は跡形もなく消えている。

咄嗟に結界石を出して結界を張らなければ巻き添えで死んでいたかもしれなかった。

今回得た教訓は細かい所までしっかりチェックしようだ。

建物が綺麗になくなった22階層には23階層への階段だけが残されていた。



「ここが24階層か」


階段を降りた先は荒野だった。荒野の先には白い雲の海に石橋が架かり、橋の先には島が見える。

空には隼が飛び、こちらを時折見下ろしている。

攻撃してくる様子はない。

後ろを見ると咲良と薫が階段から降りたところだった。

最後尾の薫が24階層の荒野に足を踏み入れた直後。降りてきた階段が下から上にまるで最初からなかったかのように消えた。


(これで後戻りはできない)


橋の先にある島に設置されている24階層への階段に辿り着けなければ死ぬしかない階層。


「信、あれは偵察だろう。倒さないのか?」

「いや、生かして仲間を呼んでもらった方が橋を渡る前に倒せるから効率が良い」


先ほど飛んでいた隼が橋の向こうの島へ仲間を呼びに行くのを止めるか薫から提案されたが止めた。橋を渡る途中に攻撃されるよりも渡る前に仲間を引き付けて襲ってくれた方が対応しやすい。

橋の手前に到着した頃には橋の上空に空を覆うほどの隼が待機していた。


「よく来たな。俺はこの23階層の階層主隼人。挑む者達よ。見事この橋を渡り切ってみろ」


隼の先頭で滞空している男がこちらを見下ろしながら話しかけてきた。

男は人の身体をしているが隼の頭と翼を生やしている。

身体を守る物は腰に巻かれた1枚の白い布、武器は右手に握られた1本の槍。

橋を渡ろうとする者達に上空から無数の隼が襲い掛かるこの階層はいかに隼の攻撃を防ぎつつ橋を渡り切り、階段に辿り着くかが重要となってくる。

防御を取れば速度が落ち、速度を取れば防御が疎かになる。

また、橋を一定期間渡らない者には荒野にいる鷲が襲い掛かってくるため23階層へ降りた瞬間から生きるか死ぬかの戦いが始まっている。


「薫、やってくれ」

「わかった。下がってくれ」


だが、こうして橋を渡るのを目の前で待ってくれているのなら、渡る前に倒してしまえばいい。

薫が前に立ち、天光剣を抜いて、光の剣で空に無数に浮かぶ隼達を切り裂いた。

危険を察知して逃げた隼もいたがたった一振りで、何百匹の隼がアイテムとなった。

白い雲の上に落ちていく無数の輝き、23階層の魔物が残すアイテムは宝石。


「信、出来るだけ回収するのよ」


男の俺はあまり興味がないが、女性はそうではない。23階層で手に入るアイテムを知ってから薫と咲良に出来るだけ手に入れるように指示を受けている。

落ちていく宝石の下に黒い穴を作ることでアイテムボックスに回収する。

目が良くなったおかげで、多数の宝石を回収できたが、さすがに雲へ落ちるまでの短時間に全ての回収は不可能だ。


(だから、そんな残念そうな顔をするな)


雲の中へ消える宝石を悲しそうに見つめる薫と咲良。

手に入る物よりも手に入らなかった物を大きく見てしまうことはよくあるが、それでも7,8割回収したことは褒められてもいいと思う。

別に褒められたいわけではないが…

上空にいる隼達が薫の次の攻撃を止めるために突っ込んでくる。

しかし、咲良が起こした風によって吹き飛ばされて、こちらに近づくこともできない状況だった。

そして、再び薫が剣を振るおうとしたところで隼人が「待って、話し合おう!」と交渉を持ちかけてきた。


「どうする?」

「とりあえず、話だけでも聞いてみよう」


薫が剣を振るかどうか聞かれた。

階層主から交渉を持ちかけられたのは初めてだ。

どんなことを口にするのか聞いてみようと思い、薫に剣をおさめるように伝えた。



隼人は一振りで多数の部下を殺した剣が鞘に収まるのを見て安堵した。

だが、ここで隼人は悩む。


(なんとかあの攻撃を止められたが、何を話せばいい)


攻撃を止めるため咄嗟に話し合いを持ちかけた隼人は特に今後の計画をしていたわけではなく、現在進行形で頭をフル回転していた。


(このままだとあの攻撃が再開されてしまう。こちらは何の攻撃もできずに全滅。それでは階層主の名折れ、この3人の内1人だけでも倒さなくては。そうなると決闘か?1対1の決闘なら勝てる可能性がある)


隼人は飛ぶことができない。哀れな甲冑少年と2人の少女を見ながら勝てそうな相手を選ぶ。


(黒髪少女はダメだ。あの剣を使われたら勝てない。金髪の少女はさっき風を操っていた。そんな相手では飛べることは有利にならない。むしろ危険だ。そうなると甲冑少年か防御力は高そうだが、あんな重そうな格好をしている奴だ。俺の動きについてこられないだろうから時間を掛けてダメージを与えれば勝てるか)


考えがまとまった隼人は甲冑少年を指さしながら提案を口にする。


「貴様に決闘を申し込む!」

「断る」


隼人の提案に即答で返されたことでしばしの静寂が23階層に訪れた。

「はっ」と驚きのあまり思考停止状態になっていた隼人は意識を現実に戻してから問いかける。


「なぜ断る!」

「こちらに何のメリットもないからだ。このまま続ければ無傷で勝てるのにどうして受けなければならない。それに、そもそも何をかけての決闘だ」


二の句を言えない程の正論だった。

話し合いを持ちかけたのは隼人側。そして、相手に不利な戦いをさせようというのに何の対価を払わずに受けてくれるはずがない。


「くっ。貴様が勝ったら俺達はお前たちを攻撃しないことを約束しよう。それでどうだ」

「話にならない。別に攻撃してくればいい。こちらは全滅させるつもりでいるからな」


甲冑少年は嘘を言っているようではない。本心からこちらを全滅させるつもりなのだとわかり隼人は凍り付いた。そして、実際にそれを出来るだけの力があることは先ほど証明されている。


(どうする。どうすればいい)


必死に相手が乗ってくる条件を考える隼人。

そんな時、隼人の頭にある光景が思い出された。


(そうだ。少女達が先ほど部下が残す宝石を見て残念そうな顔をしていた。甲冑少年は動かせなくても一緒にいる少女達を動かせば…)


これならいけると思った隼人は秘蔵の宝石を部下に持ってくるように指示を出す。

取りに行く部下を見送った隼人は再び甲冑少年を見下ろした。


「では、貴様が勝ったら秘蔵の宝石を渡そう」

「秘蔵の宝石?」


甲冑少年の食いつきはあまり良くないが両隣の少女達の食いつきは悪くない。

後は実物を見せればきっと食いつくはずだ。

少し待っていると白い箱の四隅を紐で結び、その紐を加えて飛んでくる隼達が見えた。


「これだ」


運ばれてきた白い箱から取り出したのは人の頭ほどの大粒のダイヤモンドが2つ。

少女が2人いるのでそれぞれ手に出来るように配慮した。


(よし、うまくいきそうだ)


少女2人と甲冑少年の間で話し合いが行われている。

内容はわからないが悪い話ではないだろう。そうして待っていると話し合いが終わったようだ。甲冑少年がこちらを見上げて口を開いた。


「断る」

「な、なぜだ!?」


そんな馬鹿なこれでもダメだというのか。まさか断られるとは思っていなかったので呆然としていると甲冑少年は言葉を続けた。


「お前が持っている宝石というのを全て持ってこい。それならば受けよう」

(調子に乗るなよ!)


隼人は内心で毒づきながら、それで決闘を受けるのであればとこの提案を受けることにした。


(勝てばいいのだ。いや、勝敗条件はどちらかが死ぬまで、武器は自分の所有物ということにすれば部下達も使うことが出来る)


この階層にある者は全て自分の所有物であることを逆手にとって、甲冑少年VS階層にいる者全ての構図にすれば勝てると考えていた。

しかし、一番戦ってはいけない相手が甲冑少年だったことを隼人が知るのは決闘が始まって間もなくの事だった。



(思いのほかうまくいったな)


信にとっては落ちていく宝石を回収するよりも戦いで手に入れる方が楽だった。

まさに隼人の提案は渡りに船というわけだ。

決闘の場所は荒野の中央に指定された。

勝利条件は相手を殺すこと。武器は自分の所有物ならば何を使っても構わない。決闘中に壊れた武器を交換してもいいという内容。もともと階層主は倒す予定だったので問題ないが、

武器についての内容に少し引っかかりを覚えた。しかし、うまく言葉に出来ないためそのまま受け入れることにした。

上空には隼と鷲が滞空しながら観戦し、薫と咲良は離れたところで観戦してもらっている。

それとは別にこちらが要求した宝石もこの場に持ってこられていた。


(まさか、あれだけあるとは思わなかったが…)


荒野に置かれた四十トンコンテナ。コンテナ一杯に宝石が入っているらしい。

先ほど見せられた宝石を秘蔵の宝石と言っていたがこれを見て秘蔵の量が多すぎるような気がした。


「準備は良いか」


視線を正面の隼人へ向ける。隼人の武器は変わらず槍1本。

こちらは刀を正眼に構えた


「ああ、いつでも来い」

「そうかい、なら行くぜ!」


隼人は開始の合図とともに上空へ飛んだ。

まっすぐ数百m上昇した隼人は槍を突き出しながら信が立っている場所へ急降下を始める。

音速を越える速さで迫る隼人。

信は急接近する隼人の攻撃を右へ飛んで避けた。

直後。地面が爆発するような音が荒野に響く。

俺が先ほどまで立っていた場所は衝撃によって抉られていた。


「俺の音速を越える武技『風突き』を避けるとはやるな。しかし、そう何度も避けられるかな」


折れた槍を投げ捨てると上空から落とされた新たな槍を受け取り、再び上昇しようとする隼人だったが急に身体が重くなり地面へ押し戻される感覚に襲われる。

必死に上昇しようと抗うがついには地面へ墜落した。

「グハッ」と背中から地面に墜落した隼人は肺から空気を一気に吐き出した。

この時になってようやく身体が元の重さに戻った。

隼人は全身に駆け巡る痛みに歯を食いしばりながら、槍を杖代わりにして立ち上がった。


「人間。いったい何をした…」


信を睨みながら先ほど身体が重くなった原因を聞く隼人。

しかし、求めていた答えではなく刃。

満身創痍の隼人に刀が振り下ろされる。隼人は階層主の中では腕力も身体の頑強さも低い。

唯一にして最大の強みである飛ぶことのできなくなった隼人は振り下ろされる刀で斬られれば死ぬ。

この時、隼人は選択を誤ったことを知った。あの少女2人は多大な犠牲を出したかもしれないが勝てたかもしれない。

しかし、この相手はダメだ。なぜなら飛ぶことが出来ないのだから。

唯一にして最大の強みを禁じられたことで隼人は死を覚悟した。

目を閉じ、刀が身体を切り裂く瞬間を待った。

だが、いつまでたっても刃が身体を切り裂くことがないのでゆっくりと目を開く隼人。

そして、目にした光景は隼人を殺させないために必死に戦う隼と鷲だった。


「お前達…どうして…」


隼人はまだ攻撃を命じていない。飛ぶことが出来ないと知って心が折れてしまい。攻撃命令を出す前に殺されそうになっていたのだ。

隼人の前に2羽の鷲がハルバードを銜えて運んできた。

鷲の瞳を見て何を伝えたいか隼人にははっきりと理解できた。


「そうか…そうだな。飛べなくても戦うことはできる!」


隼人の身体が大きくなり始めた。180㎝程だった身長が倍に伸び、引き締まった体には肉がつき筋骨隆々の身体に変わる。そして、一番の変化は隼の顔と翼が鷲の顔と翼へと変わったこと。


「お前は…」

「俺は鷲人だ!」


信のつぶやきを途中で遮るように鷲人は鷲からハルバートを受け取って信へ襲い掛かった。

振り下ろされたハルバートを信は刀を水平にして受け止めた。


「たとえ飛べなくても俺はお前に…勝つ!」


鷲人は全身に力を入れて信を真っ二つにするつもりで押し込む。

信は驚いた。鷲人の膂力が十数m級の巨人に匹敵する力を持っていることに。

信は人を越える力は手に入れたが巨人を越える力を手に入れたわけではなかった。


(これはまずいな)


力技では勝てないと悟った信はハルバートをいなして後方へ飛んだ。

その際にスタングレネードを鷲人に向けて投擲した。


「小癪な!」


鷲人は投げられた物が何か確かめもせずにハルバートを振って真っ二つにした。


「目がああああああ」


スタングレネードの爆音と閃光を間地かで受けた鷲人はハルバートを手放し、両手で目を抑えた。


(なんとか時間は稼げたな)


着地した信も鷲人ほどではないが爆音と閃光のダメージを負っていた。

ただ、鷲人と隼、鷲からの攻撃が一時的に止んだのでその間に武器を常闇戦斧に変えて、中級ポーションを飲んだ。

中級ポーションのおかげで損傷した目と耳が治り、視覚と聴覚が元も戻った。


「これは予想以上に効果があったな」


回復した視界には目を抑えて蹲っている鷲人と意識を失っている隼と鷲が多数転がっていた。

しかし、全ての隼と鷲がスタングレネードの爆音と閃光に巻き込まれたわけではない。

被害を免れた隼と鷲が襲い掛かってくるので常闇戦斧を振るって、黒く染めていく。

そして、鷲人の目と耳が回復した時には


「な、なんだ。いったい何が起こっている!」


黒隼と黒鷲が周囲の隼と鷲を仲間にしている光景が鷲人の目に飛び込んできた。

意識を失っている隼と鷲1匹1匹に黒隼と黒鷲がくちばしを刺して黒隼と黒鷲として目覚める光景が鷲人には悪夢を見ているようだった。

鷲人が呆然としている間にも状況は進行してついには視界にいる者全てが黒隼と黒鷲になってしまった。そして、かつて自分の部下だった者達がまるで敵を見る目でこちらを見ている。


「お前達、どうした。なぜ俺にそんな目を向ける」


鷲人は部下から向けられる敵意に激しく動揺した。

夢であってほしい。そんな願いを持ちながら視線を動かすと黒隼と黒鷲の奥に先ほどまで戦っていた存在を認識した瞬間。理解した。


(そうか、こいつが…こいつが俺の部下をこんなにしたのか!)


怒りが全身に駆け巡り、沸騰しそうになりながら鷲人は信に向って駆けだした。


「黒隼、黒鷲に命じる。鷲人を…殺せ」


そんな鷲人に対して信は感情を感じさせない冷たい声で黒隼と黒鷲に命令を出した。


「やめろ!お前たちが従うのはあいつではない。俺だ!攻撃をするのを止めろ」


鷲人は必死にハルバートを振るい、攻撃してくる黒隼と黒鷲を寄せ付けないようにしている。そして、必死に元に戻るように呼び掛ける。

だが、いくら呼び掛けても元に戻ることはなく、ついには…


「俺は…俺は…くそおおおおおお」


元部下であった黒隼と黒鷲の首を刎ねて殺したことで鷲人の何かが壊れた。

次々と黒隼と黒鷲を殺し始める。

だが黒隼と黒鷲もただやられているわけではない。

死角から攻撃を繰り返し、ついには鷲人の両翼が落ちた。

鷲人は翼を失った激痛から振るっていたハルバードの握りが緩み、ハルバードは遠くへと飛んでいった。

武器を失った鷲人。


(これで終わりか)


そう、諦め膝を突いた時だった。天から降ってくるように落ちてきた1本のハルバードが鷲人の眼前を通って地面へ突き立った。


「これ…は」


突如現れたハルバートに驚いて黒隼と黒鷲が一時距離をとる。

攻撃が一時的に止まった。


「お前達は…」


鷲人前に2羽の鷲が降り立った。

鷲達は翼を広げて鳴いた。

鷲人に「これで戦え!」「まだ諦めるな」と鳴いた。


「ああ、俺はまだ戦える」


鷲人は眼前に突き立ったハルバートを握る。

自分を慕う者達が届けてくれた武器がある。

鷲人は立ち上がる。

自分を慕う者達が見ているのに負けるわけにはいかない。


「この程度の数で俺を止められると思うなよ!」


鷲人は幾万の黒隼と黒鷲が守る先にいる信に向けて駆けだした。

鷲人の瞳には怒りはなく、諦めもなかった。

ただ自らを信じる者のために戦う。その決意だけが鷲人を動かした。

鷲人はハルバートを振るった。何度も何度も腕が無くなっても口に加えて振るった。

そして、幾万の黒隼と黒鷲を倒した鷲人は信の前にたどり着いた。

無事な場所は頭だけ。

戦いの中で2度。頭に攻撃が当たりそうになった場面で鷲人にハルバードを手渡した鷲が身代わりとなった。


「見事だ」


身体のほとんどを黒く染めた鷲人は信の前に辿り着いた直後立ったまま死んだ。

信は彼らに称賛の言葉を送った。


「終わったな」

「ああ、終わった。彼とは1対1で戦いたかったよ」

「仕方ないわ。相手がそれを望んでいなかったのだから」


途中で隼と鷲が攻撃を仕掛けた時に決闘の内容の時に感じた引っ掛かりの正体が分かった。

隼と鷲は隼人の所有物だったのだ。だから武器として使った。


「決着はついた。次へ行こう」


宝石の詰まった四十トンコンテナをしまってから俺達は誰にも邪魔されることなく橋を渡った。



「はあ、早くこの階層から出たいわ」

「私も同意見だがこればっかりはどうしようも“グサッ”ない」


薫が突然現れたサソリの身体に刀を突き刺した。

降りた場所は砂漠の上に建つ遺跡の最上階。

25階層へ行くためには遺跡から出ないといけないのだがこの遺跡は紫色の毒ガスで充満している。

毒ガスの種類は神経毒のため、吸い込むと身体が動かなくなって遺跡の中で息絶えることになる。

だが運の良いことに咲良がガスマスクを持っていた。俺の持っているガスマスクと火炎放射器のガスマスクも含めれば合計3つ。全員分のガスマスクを揃えることが出来た。

毒ガスは何とかなったが次の問題は25階層の魔物だ。

毒蛇、毒蜘蛛、サソリ、毒カエルと毒を持った魔物ばかり、どの魔物も毒を持っているため攻撃を受けるとその毒でも死んでしまう。そのため、俺は神龍甲冑を着ているため問題ないが、2人には厚手で隙間の無い服を着てもらっている。

遺跡内は崩れた場所や壁の隙間から差し込む光が道を照らすだけで暗くなっている箇所が多い。魔物は毒ガスと同じ紫色をしているため、ガスマスクをつけた状態だと通してだと見わけがつかない。すでに何度か噛まれそうになったが俺は甲冑の自動防衛によって、薫は身体の表面に薄く雷の膜を作り、咲良は風をまとって撃退している。

咲良に一度風によって毒ガスを払ってもらったこともあるがすぐに元の状態に戻るため、諦めた。

いま薫が倒したサソリは黒ニンニクを残した。

25階層の魔物は飲食料品や武器、生活必需品をランダムで残す。

しかし、どれも色が黒や紫だ。さらに全て毒が含まれているか塗られている。

黒ニンニクだからと健康に良いと皮をむいた球根を食べたら最後、嘔吐・めまい・発熱によって、すぐに治療しないと死に至る。猛毒が塗られている。

これまで通ってきた階層の中で最も試練とは程遠い、悪質な階層だ。


(だが、一番嫌らしいのはこれだな)


分かれ道に置かれている『25階層への階段→』と書かれた立札。

毒ガスと魔物から早く逃げようと急いている者達の中で何人がこの親切そうに見える立札に疑問を持つだろうか。

この立札によって導かれる場所は25階層への階段ではない。


「咲良、この部屋の毒ガスを無くしてくれ」

「それは良いけど、見事な偽装よね」


俺達が立札に書かれている通りに進み辿り着いた部屋の中央には下の階層へ続く階段があるように見える。

もしも13階層で詳細な情報を手に入れていなければ騙されていたかもしれない。

咲良が風で毒ガスを部屋から一時的に無くしたのを確認してからグレネードランチャーを取り出し、階段に見える場所に向けて擲弾を打ち込む。

擲弾は階段の入口部分に当たって爆発した。

すると階段に見えた箇所を中心に円を描くように色が変わり、口が浮き上がった。

口が閉じられて地面から口の持ち主がはい出てくる。

黒い大きな瞳と黄色い体をしたカエル。

このカエルには有効な攻撃がほとんどない。

銃弾・砲弾はカエルの皮に滑り当たらず。

接近戦を使用にも近づいたら身体から猛毒を飛ばす。仮に猛毒を躱せたとしても身体を覆う毒液が武器を溶かしてしまう。

このカエルは外からの攻撃では倒すのは困難。だが、内部からなら方法はある。

薬瓶を5本取り出して、カエルの口に向けて投げた。

カエルの口の中は強酸性の唾液で満たされているため口に入れれば大抵の物は溶かされる。

だから目の前のカエルは口の前にある物は何でも自慢の長い舌で掴めて口の中に入れてしまうらしい。

情報通り、カエルは長い舌で薬瓶を全て掴み口の中に入れた。

そして、唾液によって瞬時に薬瓶は溶かされカエルの口の中に拡がる。


「ゲロオオオ」


カエルが口を全開にして舌を出しながら暴れだした。

薬瓶の中身は『レシニフェラトキシン(RTX)』200ml×5本。

現在カエルは辛さによる激痛と戦っている。

そして、カエルは暴れに暴れようやく痛みが和らぎ始めたのか舌を出しながら荒い息をしている。

信は自分達のことなど忘れているカエルに近づき、舌に<爆炎槍>を突き刺した。


「終わりだ」


炎はカエルの舌を渡り、本体を内部から焼いていた。


「終わったわね。そろそろ風を操るのをやめてもいいかしら」

「ああ、大丈夫だ。無理をさせてすまないな」


今回魔法を多用したことでわかったことがある。

魔力がなくても操れるがどうやら体力を消耗するようだ。

これまであまり多用することがなかったので気が付かなかったが、今後は使用について気を使う必要がある。

カエルが死んで新たにアイテムボックスに加わったのは200Lドラム缶に入った『バトラコトキシン』。

今回倒したカエルは25階層の中ボスと言った位置づけだ。


「さて、これでこの遺跡での手に入れたい物は手に入れた。外に出よう」


25階層への階段は遺跡内にはない。

そう遺跡の最上階に出るのに25階層への階段は遺跡内にはなく、遺跡を囲む砂漠の中に設置されている。

ガスマスクを持っていない者や魔物に噛まれた者にとって一分一秒でも早く階段を見つけたいだろう状況で、どれだけ遺跡を探したところで見つからないのだからこれは試練といえるのだろうか?

俺達も階層について記載された羊皮紙がなければ長い時間を遺跡内部の捜索に使っていただろう。

遺跡から外へ出ると照り付ける日差しがまぶしい。

約2㎞先に見える本物の25階層への階段。

だが、ここで油断してはいけない。ようやく見つけた階段だがその周辺には階層主が隠れている。

遺跡の入り口を出てすぐの場所に81㎜迫撃砲を設置した。


「角度調整よし、いつでもいいわよ」


咲良に射角の計算をしてもらい階段周辺へ砲撃を開始する。

着弾によって砂が飛散するが飛散した砂に赤い血が交じっている。

その後も同じ場所に向けて砲撃を繰り返すと血と肉片が飛散する。

耐え切れなくなったのか隠れていた階層主が姿を現した。

階段周辺が隆起を始め、最初に砂から出てきたのは巨大な蛇の頭。

階段の周辺を囲むように隠れていた階層主がとうとう姿を現した。

身体を巻いているため正確な大きさはわからないが全長数㎞はある大蛇。

だが、姿を現している間も砲撃はやめない。

身体が大きいので当てやすい。砲身が熱くなり始めたので新しいのに変えながら砲撃を続けた結果。蛇がこちらに気が付いて動き出きだした直後に砲撃を受けた箇所がちぎれた。「シャアアア」と鳴きながら身体がちぎれた痛みにのたうち回る蛇に射角を調整して撃ち続けてとうとう出血多量のため力尽きたようだ。階層主が姿を消してアイテムボックスに新たに『ボツリヌス毒素セット(200ml薬瓶8本バッグ付き)』が追加されている。


「しぶとい敵だったな」

「そうね。さすがに疲れたわ」

「2人ともあと少し頑張れ、25階層にはセーフティーエリアがあるからそこで休もう。ここでは体力を奪われるだけだ」


砂漠には階層主以外に魔物はいないが気温が高い。

ここで休むよりも先へ進んだ方が良いと考えて、2人に手を貸しながら階段まで歩いた。



お読みいただきありがとうございました。

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