1-9(19-20階層)
「なかなか堅牢な城だ」
「14階層の戦いを思い出すな」
「あの時は守る側だったけど今度は攻める側ね。」
階段を降りた先、19階層は平原。
羊や牛などの動物がのどかに草を食べる中、中央に建てられた西洋の城へ侵入し、中央の部屋に20階層へ行くための階段を降りるのが正道。
しかし、俺達の目的はそれだけではない。
城の最上階にある謁見の間にいる階層主を倒す。
そのためには城を攻略するつもりで攻撃する必要がある。
19階層の魔物は武装したゴブリン。
これまでにあったゴブリンは腰布1枚の防御力が無いに等しかったがこの階層にいるゴブリンは甲冑を着ている。武器の新品のように磨かれた槍や剣を装備している。
また数もけた違いだ。4・5階層のようにはいかない。
さらにゴブリンメイジという魔術を使う特殊な個体もいる。
城も堅牢な造りをしている。石造りの城壁と城壁を囲むように作られた堀。入り口は階段を降りてまっすぐ進んだ先にある鉄門が1つだけ。
とても3人で攻城戦を仕掛けて勝てる城ではないが決して不可能ではないと思っている。
その後の話し合いの結果。俺達は階段で準備を始めた。
「信、他の服でもいいのではないか?」
「そうよ。これでないとダメなの?」
「戦車に乗るなら専用の服をつけるべきだ。2人に怪我をしてほしくないからこれは譲れない」
44口径120㎜滑空砲を搭載した戦車の影から出てきた薫と咲良は戦車用のつなぎタイプの服とボディーアーマーに着替え、さらにヘッドセットとゴーグルが組み込まれた戦闘帽を被った服装をしている。
これから戦場に行くのに万全の準備をしておきたい俺としてはいざという時に怪我をする可能性が高い服は認められなかった。
「さあ、乗り込もう」
戦車の中にご丁寧に入っていたマニュアルを読んだ後。俺達は戦車に乗り込んだ。
しばらく交代で試乗した後、城へ向かって試射しながら役割を決めた。
操縦手は運転を希望した薫が担当し、判断能力が高い咲良が車長。残った俺は砲手となった。
試射した際城壁に登っているゴブリン達が壁に穴が開いていく事に慌てて城壁の修繕をする様子が確認できたがうって出ることはなく、ゴブリンメイジの魔術が届かない距離からの砲撃を行っているためか相手からの攻撃を受けることはなかった。
「目標敵城門。撃てぇ!」
訓練をしてから薫と咲良は服に対して不満を口にすることは無くなったので「良かった」と思う反面。戦車を乗りこなしていく2人を見て、本当にこの選択は正しかったのか考える信であった。
咲良の砲撃の合図により、44口径122㎜滑腔砲から火を噴いた。
発射された徹甲弾は狙い通り鉄城門の中心に着弾した。
鉄城門の中心部分が一部損傷しているが未だ門としての機能を維持している。
爆発音が1.5㎞離れたここまで届いたが、その音が完全に消える前に自動装填された次弾が発射される。それから完全に鉄城門が機能を失うまで打ち続けた結果。
門の先にある城が見えるようになった。
次に城へ入るに際して上から攻撃されないため門の上にある城壁に向けて砲撃を開始した。
「このまま突撃してはどうだ」
「それもいいけど、城内に入ってから戦うには戦車は不利よ。着替えて行きましょう」
「それもそうだな」
戦車を降りていく薫と咲良。
信は2人が降りるのを見送りながら今回の選択を振り返る。
間違ったとは思っていない。だが、正しかったのかと言われると悩んでしまう。
この日2人の戦車乗りを生んでしまった。
最初に会った時よりも2人が普通の高校生から離れているように信には思えてならなかった。
しかし、これは信に原因があった。
先日信は好きな女性のタイプを聞かれた際にこう答えた。
「背中を預けられる女性」と。
これは信のこれまでの人生を振り返って出た願いにも似た言葉だったが、この言葉を聞いた2人は信の信頼を得るために必死に考え行動していた。
そして、現状信頼を得るためにはまずは自分に出来ることを増やして少しでも信の役に立つことに思い至り今回のようになったのだが、そんなことになっていることを気づきもしない信は2人がどうして変わってしまったのか悩むのであった。
◇
「「「「「「「グギャアアアア」」」」」」」
着替えを済ませてから、ほとんどなくなった城門をくぐると武装した赤ゴブリン達が一斉に襲い掛かってきた。
「させると思っているのかしら」
咲良が水土の薙刀の石突で地面を叩いた。
俺達を中心にして半円状に地面が陥没させて、堀を作る。
先頭を走っていた赤ゴブリン達が突然現れた堀を見て立ち止まろうとしたが後続の赤ゴブリンに押されて堀へと落ちる。
押した赤ゴブリンはさらに後ろの赤ゴブリンに押されて次々と落ちていく。
この時、自らを守るはずの甲冑が自らを殺す狂気となって赤ゴブリン達を堀の底へと引きずり込んだ。
そして溺死したゴブリンはアイテムとなって沈んでいく。
19階層のゴブリンが残すアイテムは砲弾。
赤ゴブリンは榴弾を残すが堀の底に次々と榴弾が溜まりはじめ、その内の1発が衝撃で爆発した。1発の爆発が周囲の榴弾を誘爆させたことで、爆発のエネルギーが逃げ場を求めて上へと向かう。
「そろそろだな」
薫が堀の水面を見ながらつぶやいた直後水は勢いよく上に噴きあがった。
咲良が右手を噴きあがった水柱に向けて伸ばした。
「水よ。敵を飲み込みなさい」
水柱は勢いをそのままに堀の直前でなんとは落ちるのを免れた赤ゴブリン達に襲い掛かった。
水に飲み込まれた赤ゴブリン達の中に幸い死者はいなかったが無傷の者はほとんどいない。
「咲良、堀に橋をかけてくれ」
「わかったわ」
信は堀にかかったアーチ状の橋を渡ってから常闇戦斧を負傷した赤ゴブリン達に刺し始め、次々と黒ゴブリンへ変えた。黒ゴブリン達も仲間を増やすため負傷したゴブリン達へ攻撃を始める。
信が刺したのは10匹程度。その後は2人の待っている場所まで戻った。
数時間後。城門周辺は黒ゴブリン一色になった。
黒ゴブリンたちに城内のゴブリンへの攻撃を命じると一斉に城内へ突入した。
城内へ突入・攻撃を始めた黒ゴブリンは元仲間のゴブリンを新たな仲間に加えるかアイテムに変える。
上層階に行くほどゴブリンメイジが増え始めた。
ゴブリンメイジは色によって使用できる魔術の種類が異なり、カノン砲や迫撃砲、機関砲等の大砲が手に入る。
だが、黒ゴブリンになると見た目で使える魔術の見分けがつかない。
次々と黒ゴブリンは数を増やし、階層主がいる最上階へたどり着いた。
19階層の階層主はゴブリンキング。禿げた頭に、鍛え抜かれた身体。
4mある身体に黒い鎧。3mのハンマーを武器としている。
俺達が到着した時にはすでに戦いは始まっていた。
ゴブリンキングは黒ゴブリンをハンマーで叩き潰し、または吹き飛ばしている。
ここへ来るまでに約五百体まで増えた黒ゴブリンが数百体まで数を減らされていた。
ゴブリンキングはかすり傷程度でほぼ無傷のようだ。
「もう少しかかりそうだ。ここで休憩しよう。何かリクエストはあるか?」
「観戦だからポップコーンとジュースかしら?」
「それは映画鑑賞だと思うが…それでいいのではないか」
戦いが長引きそうだったので、入り口付近に椅子とテーブルを設置してポップコーンをキャラメルと塩の2種類用意し、飲料を何種類か出して好きな物を紙コップに注ぐようにセッティングした。
◇
1匹の黒ゴブリンが目の前で散っていく仲間達を見ながら自分の心の弱さを嘆いた。
(僕はなんて弱いんだ)
勇敢な戦士達は最初にゴブリンキングに立ち向かいすでに殺された。
メイジ達が魔術攻撃をゴブリンキングにしているが、ハンマーの1振りで消されている。
すでに最初に挑んだ時の半数まで数を減らし、今も減り続ける僕らは命令にしたがい攻撃を続けている。
だが戦士達がつけたかすり傷から徐々に黒い範囲が広がっている。
このまま何もしなくても僕達は勝つことが出来る。
(でも、それでいいのか?)
多くの仲間達が戦う中で僕だけが後方にいる。
僕らの支配者は「ゴブリンキングを倒せ」とだけ命じた。
戦い方については何も指示されていない。
こうしてゴブリンキングが支配されることも実質倒したことになるからこのまま後方で待機していても命令違反ではない。
だけど、心の奥底で「それでいいのか?」と何かが僕に訴えかける。
これまで共に戦ってきた仲間が死んでいくのを見ているだけで本当にいいのだろうか?
そんな思いが心の中で膨れていく間にも仲間が次々と殺されてとうとう僕を含めて10人しか残っていない。剣を持っているのは僕だけ、他は弓兵とメイジだけだ。
その時になってようやくゴブリンキングの動きが止まった。足が全て黒く染めていることから動かせなくなったのだろう。
“ゴトリッ”腕も黒く染まったためにハンマーも持つことが出来ずに手から離れ、床に転がった。
僕は柄を強く握る。剣が僕に勇気をくれる。
(僕が決める)
これまで殺された仲間の思いを一心に背負い。僕はゴブリンキングへ向けて駆け始める。
それを後押しするように弓兵やメイジ達がゴブリンキングへ攻撃を行った。
攻撃を受けて前かがみに倒れるゴブリンキングの首に僕は剣を振るった。
◇
「グギャアアア(勝ったぞおおお)」
ゴブリンキングの首を落とした黒ゴブリンが剣を掲げて勝鬨を上げた。
それを見て他の9体の黒ゴブリンも勝鬨を上げる。
「勝てたようね」
「辛勝ではあったがな」
咲良と薫が先ほどの戦いについて批評しているのを横目に俺はゴブリンキングのアイテムを確認していた。
ゴブリンキングが残すアイテムは多連装ロケット砲(12連装)。
本来は城の中央にある巨大なエレベーターを使ってアイテムを運ぶそうだがアイテムボックスを持っているため使用することはない。
確認を終えて、生き残った黒ゴブリン達に労いの言葉を送り、希望があった肉料理を振舞った。
◇
翌日の朝。階段のある中央の部屋へたどり着いた。
部屋からは人とゴブリンの怒鳴り声と戦闘音が聞こえる。
昨日も聞こえていたので、見張りに数体黒ゴブリンを置いてゴブリンキング討伐に向かったがどうやら未だに続いているようだ。
出来るだけ音を出さないように扉を開けると部屋を埋め尽くす程の緑ゴブリンと緑ゴブリンメイジが扉とは反対の部屋の奥へ向かって攻撃していた。
奥には階段があるはずだがタワーシールドを持った重騎士達が階段を中心に半円状に並んでいるため見ることはできない。タワーシールドの間から槍を突き出しながら戦っているようだが、あまり戦果は挙げられていないように思える。
「信、なかの様子はどうなっている」
一度扉を閉じて振り返ると薫から状況説明を求められた。咲良も同様に俺の説明を待っている。
「階段周辺に騎士と緑ゴブリンが戦っている。部屋にいるのはほとんどゴブリンのようだから黒ゴブリン達を突入させようと思っている」
「グギャ(お任せください)」
説明を聞いて、昨日ゴブリンキングを打ち取った黒ゴブリンが自らの心臓辺りに右手を置くように敬礼をしながら返事をした。
昨日のゴブリンキング戦後彼が黒ゴブリン達のリーダーになっている。
「よし、では命じる。部屋の中にいるゴブリンを全て倒せ。倒した後は自決しろ」
「「「「「グギャ(お心のままに!)」」」」」
黒ゴブリン達が一斉に部屋へ突入する。
支配した魔物の生死やいる場所は離れていてもわかる。
自決すれば終わったかどうかわかるので別の場所で待っていよう。
「俺達は部屋の外で待っていよう」
「彼は昨日のゴブリンキング戦を経て勇敢になったな」
「強者との戦いが彼を強くしたのね」
最後の時まで後方で震えていた黒ゴブリンが今では先頭をかけるまでになった。
(『男子3日会わざれば刮目して見よ』というが一戦でここまで変わるとは予想外だ)
信は先ほどの黒ゴブリンの変化に感心しながら薫と咲良を連れて城の来客用の部屋で待つことにした。
◇
部屋を覆いつくす緑ゴブリンを睨みつける1人の男。彼の名は上杉隆文。
20階層にある城郭国家チャレンジングカントリーの調達軍第3騎士隊の騎士隊長をしている今年で39歳の男性騎士である。
(どうにかして砲弾と火薬を回収したいが…)
今回は砲弾と火薬の補充のために19階層へ来たのだがなかなか回収が進んでいない現状に悩んでいた。
(タワーシールドによってこちらの人的被害はほとんどない。しかし、アイテムを回収するためにはこの防御陣を崩さなければならない。それでは…)
調達軍を構成しているのは元ダンジョンに挑む者達。最近では新たに20階層へ来るものがいなくなっているため人員の補充が出来ていない。そんな中で負傷者や死者を出すことはできず、どうしても消極的な戦いをなっていることに気づいてはいたがどうしようもなかった。
緑ゴブリンが残したブドウ弾や火薬の入った箱は1日何もせずにいると消えてしまう。
すでにいくつかのアイテムが消えている。
(ここで何の成果も出せずに撤退などできない)
上杉が回収するために打って出ることを決断したまさにその時、部屋の扉が勢いよく開かれそこから黒い肌をした見たことのないゴブリンが突入してきた。
上杉は新手のゴブリンの出現にここは撤退すべきと指示しようとしたが新たに現れたゴブリンの行動を見て言葉を飲み込んだ。
新手のゴブリンはどういうわけか同じゴブリンへ攻撃をしている。
「隊長、これは一体…」
「わからない。だがこれは好機だ。ゴブリン達が混乱している間にアイテムを回収するぞ」
副隊長の20代後半の青年にアイテム回収を指示する。
重騎士が一歩前進を始め、ゴブリン達を後退させながら、重騎士の後方にいる騎士がアイテムの回収を始める。
「彼らは本当に魔物なのか」
上杉の知っている魔物はダンジョンに挑む者達を攻撃する存在だった。
仲間割れをするところをこれまで見たことがない。
「隊長、回収完了しました」
「よし、ではこれより敵ゴブリンに攻撃を仕掛ける。ただし、黒いゴブリンには攻撃されない限り攻撃は控えろ」
「はっ!」
副隊長は上杉の命令を最前線の騎士に伝えるため走り去る。
現状黒ゴブリン達の敵味方の識別ができないのであいまいな命令となったが、こちらから攻撃して敵にすることだけは避けたいと考えての命令だったが上杉の勘だと彼らは敵ではないと思っていた。
「魔物が我々の味方になる…か」
何を言っているのかと自分でも思う。そんなことが出来るのであれば20年以上20階層に留まることはなかっただろう。
考え事をしている間にも緑ゴブリンや緑ゴブリンメイジは全滅していた。
残るは我々と黒ゴブリン達のみ。彼らは我々を攻撃してこなかった。
味方かどうかは不明だが少なくとも敵ではないことはこれではっきりとした。
(それにしても当初の数よりもだいぶ増えているような……!?)
黒ゴブリンが突入した時には十数体しかいなかったのに終わってみると数百体を超えている事を不思議に思っていると突然自決を始めた。自らの剣で首をはねる者もいれば魔術でその身を焼く者もいる。
そしてほどなくして死んだゴブリンはアイテムを残して消えたがそのアイテムも黒い穴に取り込まれて消えてしまった。
「隊長、彼らは一体何だったのでしょうか」
副隊長お質問は隊の全員が思うことだった。
突然現れ、同じゴブリンへ攻撃を始めたかと思ったら元から部屋にいたゴブリンを全滅させると自決した。
「わからない。だが、新たなゴブリンが現れるかもしれない。急いで部屋に残されているアイテムを回収するぞ」
説明することが出来ない上杉は自決したゴブリンの事よりも本来の仕事をさせることで今回の出来事を考えるのを後回しにした。
◇
「終わったみたいだ」
黒ゴブリン達が自決したことを確認した俺は城の来客用の部屋で紅茶と焼き菓子を食べながらのんびり過ごしている薫と咲良に戦いが終わったことを伝えた。
「そう、彼らは死んだのね。短い間だったけど彼らは勇敢だったわ」
「そうだな。最後の雄姿を見ることが出来なかったのは残念だ」
魔物と一緒に居るところを部屋にいた騎士達に知られると後々面倒なことになるため、こうして離れたところで待っていた。
「君たちはダンジョンに挑む者達か?久しぶりに見たよ。私も元は君達と同じ立場の者でね。今は20階層で生活している。この騎士隊の騎士隊長をしている上杉隆文だ。よろしく」
先ほどまで戦闘が行われた部屋に入ると複数の騎士達が砲弾と火薬が入った箱回収しているところだった
俺達が部屋に入ると騎士達の指揮をしていた男性騎士がこちらの存在に気が付き話しかけてきた。どうやら隊長らしい。
差し出された手を握り、握手をしてから自己紹介を終わらせると上杉さんが残っている騎士達に作業を続けるように指示してから俺達に「ついて来てくれ。少し話しておきたいことがある」と20階層へ降りていくので一度3人で顔を合わせてから頷いて上杉さんの後ろをついて行った。
「20階層の魔物は巨人だ。そして何百年もこの階層を抜けることが出来ていない。私もすでに20年間巨人と戦っている。君達からしたらもうおじさんだろうね」
20階層の魔物が巨人であることは知っていたがまさか何百年も21階層に行ったものがいないとは思わなかった。
「そのせいなのか。20階層には国が作られている。君達が国に滞在するなら国王に会って滞在許可証をもらう必要がある。嫌だとは思うけど受け入れて欲しい」
上杉さんは20階層への手前で一度立ち止まってからこちらを振り向いて告げた。
そして、俺達の返事をきかずに再び歩き出した。
階段を降りて最初に見えるのは透明な柱。柱の中には身長50mの女巨人が目を閉じた状態で立っている。しかし、柱がある場所は200㎞先だ。
20階層の特徴は幅4㎞、長さ200㎞の長い長方形の形をした平原であること。
隠れる場所の無い階層には数mから十数mの巨人が昼夜問わず多数跋扈している。
21階層への階段は女巨人の足元にある。そしてさらに厄介なのがダンジョンに挑む者が階層の中間にある100㎞を越えると女巨人が目覚めて襲い掛かってくることだ。
それらの障害を乗り越えなければ21階層へ行くことはできない。
降りてすぐ向かうにはリスクが高い。この国に短くとも数日は滞在することになるだろう。
「国王に会うことになったが2人もそれでいいか?」
振り返り後ろを歩いていた2人にも確認する。
「やむを得ないな」
「面倒事にならなければいいけど」
2人もあまり乗り気ではないがここで断ることによるデメリットを考えて同意してくれた。
俺達が降りた場所は巨塔の頂上だった。隣には巨大な城が聳えている。
「ここに立ってくれ」
上杉さんの指示に従い塔の頂上に立つと床が下に降り始めた。
「驚いただろう。塔の中央部分はエレベーターになっている。このエレベーターを使って手に入れたアイテムを下へ運んでいる。今回は大量にブドウ弾と火薬が手に入ってよかった。そういえば、黒いゴブリンを君達は知っているかな」
「黒いゴブリンですか?どんなゴブリンですか?」
「そうか。知らないならいいよ。黒いゴブリンはゴブリンを狩るゴブリンと言ったところかな。私も良くは知らないのですまない」
「そんなゴブリンもいるのですね」
肩を落とす上杉さんを見ながら後ろで薫と咲良が必死に笑うことを我慢しているのが見えたので、「絶対に笑うなよ」と目に込めて見つめると小さく咳払いをしてごまかしていた。
話をしている間に地上に到着した。
塔から出ると石造りの街並みと行き交う多くの人間の顔が見えた。
「ようこそ。城郭国家チャレンジングカントリーへ」
上杉さんが笑顔で歓迎の言葉を口にした。
「これから王にこの国の滞在許可証をもらう必要がある。城までついてきてくれ」
上杉さんの後ろを歩きながら城門をくぐり、そこで上杉さんと別れて、侍女さんに案内された先は城の来客室だった。
「何かございましたらお呼びください」
テーブルに人数分の飲み物を置いて侍女さんが出て行った後。
俺達はソファーに座りながら今後の事について話し合った。
「謁見が終わった後はこの国を見て回って、明日巨人と戦っている壁を見学に行こうと思っている」
「泊るところは確か用意してもらえるのよね。どんなところかしら」
「専用の宿泊施設があると上杉さんはいっていたな」
城へ来るまでの間に上杉さんから俺達の処遇について説明がされていた。
この国では21階層へ進もうと思っている者の行動を国は束縛してはならないとされている。ただし、国の中で殺人や窃盗などの犯罪をすれば捕まえられて罰せられる。
また、元々は俺達のような人間のために用意されていた場所のため、俺達のような人間専用の宿泊施設が存在するため、そこで寝泊まりをしてもらう事になるらしい。
「信、聞いているのか」
ここへ来るまでの会話を思い出していると薫が少し怒ったような声で話しかけられたので、顔をあげた。
「すまない。考え事をしていた。どうかしたのか?」
聞いていなかったことを謝って改めて聞くと薫は肩を落としながら話してくれた。
「もしも、戦うことになったらどうするか決めておきたい」
「城で襲われたら脱出しても幾重も城壁があるわ。そして城壁を越えた先は巨人達と戦うことになる。無策で飛び込むのは危険よ」
2人の言う通りだ。上杉さんからはそんな雰囲気を感じなかったが、この国の国王が襲う選択をするかわからない以上考えておいた方が良いだろう。
「5つある城壁は戦車かヘリを使えば問題ない。巨人は常闇戦斧の能力で支配する魔物を増やせばどうにかなるだろう」
この国には5つの城壁が存在する。元々あった城壁は1つだが、長年かけて造ったらしい。
魔物から手に入れた羊皮紙には20階層の城壁は1つしか載っていなかったので間違いない。城壁は20㎞毎に1つ造られて、門を基点にワイングラスのような形をしている。
城壁の上には等間隔で前装式大砲が並び門に群がる巨人達に十字砲火を浴びせて倒すそうだ。門の真上だけは火薬を使わずに砲弾だけを落とす専用の装置が使用されている。
そのため、戦車のように早く動く乗り物やヘリのように空を飛ぶ相手に対しての武装をしていない。
やろうと思えば強行突破は可能だ。あとは巨人だが1体支配できれば後は結界を張るなどして対処の使用はあるので何とかなるだろう。
2人からも賛同を得たので、これから行われる謁見によって戦闘に発展したとしても迷わず行動することが出来るようになったところで部屋に騎士が入ってきた。
「準備が出来た。ついてこい」
目の鋭い騎士の後ろについて案内されたのは厳かな雰囲気の扉。
案内した騎士が俺達の到着を部屋の中にいる者達に聞こえるように声を発すると扉を守るように左右に立っていた騎士がそれぞれ扉を開ける。
案内した騎士が脇にそれたので部屋に入ると
部屋の真ん中に敷かれた赤い絨毯が部屋の奥に座る王冠を被った白い髭を蓄えた初老の老人まで伸びていた。
(あれが国王か)
部屋にいる配置からあの老人が国王だとわかった。
国王の両脇を固めるように厳つい顔つきの騎士と眼光鋭い黒い長髪の文官が控えている。国王まで伸びる赤い絨毯の両端には鎧を着た騎士と上質な絹の服を着た文官がざっと見て100人程並んでいる。並んでいる騎士の中に上杉さんもいた。
「止まりなさい」
部屋の中ごろまで歩いた時に国王の隣に立つ文官が制止の言葉をかけてきた。
「膝をついて頭を垂れなさい」
文官の言葉を部屋中の者達が聞いたが本来起こる状況にならずに並んだ騎士と文官が騒ぎ始めたので、国王の隣にいる騎士が「静まれ!」と騒いでいる者達を怒鳴りつけた。
「なぜ従わないのです」
「この国では俺達を束縛しないと聞いた。俺達は滞在許可証がないとこの国に滞在できないから来ただけだ。頭を垂れるために来たのではない」
文官は鋭い目をさらに鋭くしてこちらを見たがこちらもその目をしっかりと見つめて言葉を返した。
「カント宰相、やめなさい。彼の言う通りだ」
緊迫した雰囲気を断ち切るように国王が穏やかに隣に立つカント宰相を諫めた。
カント宰相は国王に頭を下げて国王の指示に従った。
「よく来てくれた。この国は元々君達と同じダンジョンに挑む者達が作った国だ。私は君たちを歓迎する。滞在許可証も渡すゆえ安心してほしい。カント宰相、後の説明はそなたに任せる」
国王はそれだけ言うとカント宰相に後の説明を任せた。
カント宰相はその意を受けて信達に再び鋭い目を向けながら説明を始める
「この国は21階層へ進もうとする者達を出来るだけ助ける決まりになっている。そのため専用の宿泊施設がある。後ほど案内役をつける。その者から詳しい説明を聞け。また、この国は決して裕福ではない。国民でも無い者に施しをすることは出来ない。よってお前たちが食料などこの国にある物を手に入れたい場合は全て物々交換となっている。それと滞在許可証は常に身に付けておけ、警備員などに提示を求められた際はすぐに提示するように。もしも提示できない又は従わない場合はこの国の法に基づき罰することになる。最悪国外退去及び入国禁止処分となり、処分に従わない場合は実力行使もあるので注意するように。以上」
「うむ。カント宰相の説明に付け加えるとすれば、国の中では自由に過ごしてもらって構わん。もしも協力を求めるときは城に来なさい。出来る範囲で協力しよう」
国王のこの言葉に俺達が頷いたことで、謁見は終了となった。
退室後、再び来客室へ連れて行かれてそこで「案内役が来るまで待つように」と言われた。
しばらくすると「お待たせ」と上杉さんが入室した。
「先ほどは陛下に膝をつかないからヒヤッとしたが、まあ、無事に終わってよかった。宿泊施設に案内する。話は歩きながらしよう」
上杉さんに連れられて城から少し離れた場所にある5階建ての石造りのホテルが何棟も並んでいる場所へ連れてこられた。
「ここが君達に泊まってもらう宿泊施設だ。見た目は立派だが電気ガス水道などのライフラインは一切ないからもし必要な物があったら街に行って手に入れることになる。そういえば君達はほとんど物を持っていないが交換できるものはあるのか?なければこの国で使われている通貨を貸すが…」
「お気遣いありがとうございます。ですが、交換できるものはありますのでご心配には及びません」
上杉さんの気遣いに感謝をしながら、貸してくれる申し出は断った。
アイテムボックスの中に物はたくさん入っているし、あまりこの国の人間とつながりを持つのは避けたいと考えたからだ。
並んでいるホテルの中で一番街に近いホテルへ案内されて中に入ったがなかは暗く、歩くと埃が舞う状況だった。
「汚れていてすまないな。1年前までは人がいたのだが、全員この国の国民になってしまった。いまホテル暮らしの者は1人もいない。だから好きな部屋を使ってくれ。各部屋にキッチンや風呂場もあるが火や水がないから使いたいなら自前で用意する必要がある。換気扇や排水機構はしっかりした物があるのにひどい話だ」
上杉さんは当時の事を思い出しているのか少しの間物思いにふけっていたが、まだ話していないことがあったのか慌てて木製のカードを3枚。懐から取り出した。
「これが滞在許可証だ。カント宰相が言っていたが必ず身に付けておいてくれ。たまに警備員が見知らぬ者を見たら声を掛けることがある。その時に提示すればいい。宰相が言っていたことは本当だからくれぐれも無くさないように。仮に無くしたらすぐに城へ来てくれ」
カードを渡すと上杉さんは「まだ仕事が残っているから」と城へ帰っていった。
上杉さんをホテルの玄関まで送ってからホテル内を見て回った。
エレベーターがないので2階の3LDKの部屋を使わせてもらう。
薫に同意を得て光魔術:ライトと闇魔術:ダークを付与した照明器具を各部屋の天井に取り付け、リモコンで操作できるようにした。
ベッドやソファーなどの家具の設置が終わってようやく一息ついたところで休憩を入れる。
「それで、今から街へ行くの?」
「そのつもりだ。遠目から見た限りだと余りいい物は置いていないようだったが一応見ておきたい」
「交換には何を出すのか決めっているのか?」
「硬貨が使えればそれを、次は生活用品、それでもだめなら食料品を出そうと思う」
ダンジョンを進む間に必要な物はなるべく交換する対象から外しておきたい。
金貨や白金貨を幾ら持っていても腹は膨れないからな。
こちらが交換のために出す物を決めて街へ出かけた。
「結局何も交換しなかったな」
「欲しい物は何もなかったわね」
街へ出かけたはいいが特に欲しい物はなかったので早々にホテルへ戻ってきていた。
「でも、すごい人だったわね。人口が20万と聞いた時は驚いたわ」
「人口20万と言っても第1城壁の内側が最も多いらしいから、明日行く第5城壁の内側は農作地が多く、人は少ないみたいだ」
「巨人に壁を突破されることを考えているのだろうな」
街に人は多かったがあまり物は並んでいなかった。
カント宰相の言っていた「裕福ではない」というのは本当のようだ。
ここで新たに得られるものはなさそうなので明日第5城壁を確認してから21階層へ向けて出発しよう。
◇
時は少し遡り信達が来客室で案内役を待っていた頃。
執務室に戻った国王は専用の柔らかい椅子に腰かけて侍女が入れてくれた少し温かいお湯加減のお茶を一口飲んで「ふう―」と一息入れた。
侍女が退室後。執務室の前に立っている騎士団総長と宰相へ目を向け「どう思った」と訊ねた。
騎士団総長と宰相はお互いを見て、先に騎士団長が感想を述べる。
「あの者達全員が相当な腕前と見受けました。恐らく彼らは21階層へ行こうとするでしょう」
騎士団総長の意見を聞いて宰相が「ふん」と鼻で笑った。
「あの巨人たちがいる平原にたった3人で向かうのですか?すぐに食べられるだけでしょう。自殺行為です。しかし、一歩でも100㎞地点。境界線を越えられるとこの国は大惨事に見舞われます。国民がほとんど死ぬことになる。なんとしても留めなければなりません」
宰相は過去の記録からあの柱の中で眠っている女巨人が目覚めれば国存亡の危機が訪れることを知っている。国民の生命を優先する選択を王に進言する。
「出来るだけ歓待し、自ら永住を希望してもらうように努めるように国民に伝えておきますが、もしも無理やりにでも行こうとするなら止めるための武力行使を国王にはご許可頂きたい」
「国王陛下。俺も宰相と同意見です。この国の国民を守る騎士団総長として、国民の生命と財産を脅かすことは回避すべきです」
宰相の言葉に騎士団総長も相槌を打った。
「お主達の言いたいこともわかる。しかしそれはこの国の存在意義を歪めることになる。それもまた災厄をもたらすとわかっておるな?」
国王の言葉に騎士団総長は真剣な表情で頷き、宰相は不服そうな顔をしているが王の言葉に頷いてからそれぞれの仕事を終わらせるために執務室を後にした。
1人執務室に残った国王は椅子から立ち上がり、窓の傍によると窓の先に見える街や城壁を見つめる。
この国は呪われている。先へ進もうとする彼らを認めれば国は壊され、阻んでも壊される。国が壊されることを防ぐために先へ進もうとする彼らの心を、勇気を壊すのは真に正しいことなのか。
国王という立場を考えればそんなこと考えるまでもない。だが、国王の母は先へ進もうとする心を壊され泣いていた。当時の父によって。
自分も同じことをしようとしている。
国王ではなく、1人の人間としては彼らが先へ進もうとする心を尊重したいと思っていた。
だが、1人の国王、1人の人間としてできれば砲撃音を聞く事の無い日常を子供たちに知ってもらえたらと切に願うのだった。
◇
20階層2日目 朝
「気持ちぃ~」
「こういう移動もいいものだな」
「2人とも人にぶつからないように気をつけろよ」
ロードバイクに跨り、前を走る咲良と薫に事故しないように注意をしながら最前線の城壁へ移動している
全身甲冑を着た男がロードバイクに乗っているのが珍しいのかすれ違う人全員が奇異な目でこちらを見ていた。
ホテルから第5城壁までの間に建設されている城壁が関所のような役割を果たしているため、その都度止まって滞在許可証を提示しなければならなかった。
車で移動することも考えたが目立ちすぎることを理由に諦めた。
城壁を越える度に砲撃の音が大きくなり、第5城壁に到着した時にはうるさいくらいだった。第5城壁に到着すると綿の軍服を着た青年に呼び止められた。
「止まれ!ここは最前線の城壁だ。これ以上は危険だから引き返しなさい」
「俺達は城壁の上から巨人を見たいのだが通してもらえるか」
青年に滞在許可証を見せながら用件を伝える。
滞在許可証を確認した青年は「上の者に確認するので待っていてくれ」とその場を離れた。
青年がいない間にロードバイクをしまって待っていると30分ほどして汗だくの青年が戻ってきた。
「待たせてすまない。案内するからついてきてくれ」
青年の先導で案内されたのは城壁内にある司令官室と書かれた部屋だった。
「件の者達をお連れしました!」
青年は部屋の扉をノックしてから用件を部屋の中の者に伝えるため大声を出した。
部屋の中から「入りたまえ」と聞こえたので青年が扉をかけて中に入っていく。
扉が開いたままなのでこのまま入れということか。
青年に続いて部屋に入ると青年は扉が閉まらないように押さえていた。
部屋には髪の無いつるりとした頭と綺麗に揃えられた髭をした50代後半の男性が奥に置かれた執務机に座っていた。
部屋には壮年の男性が2人。執務机に座る男性の後ろに控えるように立っている。
服装は青年と同じ軍服だが意匠が少し異なる。
彼らが青年よりも階級が上だと一目でわかった。
「よく来たね。ここへ軍人以外が来るのは1年ぶりだ。ようこそ城郭国家チャレンジングカントリーへ。私は城壁守備軍総司令官のリックマイアーだ」
50代後半の男性リックマイアーは俺達の姿を見て席を立ち、正面まで来ると手を差し出した。その手を握り、こちらの自己紹介を聞いてから「案内しよう。ついてきたまえ」と言って部屋を出て行った。
後を追いかけると辿り着いたのは城壁の上。
今まさに巨人と戦っている最前線だった。
「どうだ。凄い眺めだろう」
城門の真上に位置する場所から見る光景は想像していたよりもはるかに迫力があった。
人よりも遥かに巨大な人がこちらへ歩いてくる。そして、城門まで来ると自らの拳が潰れるのを気にすることなく殴り続ける。
全く痛がる様子がない。彼らには痛覚がないようだ。
彼らを殺すにはゾンビ同様頭を潰すか首を刈るしか方法はない。
今も手足が無くなった巨人が這って門に近づこうとして他の巨人に頭を踏み潰されて消えた。
城壁の上に並べられた大砲からブドウ弾を発射され、巨人の頭部を吹き飛ばし、城門の真上から落とされた岩やブドウ弾は巨人の頭を潰している。
巨人は何も残さない。クリアしたらボーナスが増えるだけの存在。
「我々はこんな無益な戦いをずっと続けてきた。それはこの国の国民を守るためだ」
リックマイアー氏は巨人を睨みつけながら語るのは自分たちが戦う意味。
「あそこに線があるのがわかるか。あれが境界線だ」
指さした先には横に1本白い線が引かれている。
「あれを越えればあの柱の中にいる女巨人が動き出す。何百年も前に目覚めた時は第1城壁以外全ての城壁が破壊された。そして、多くの者達が命を落とした」
こちらに語り掛けるように話すリックマイアー氏。彼の伝えたいことはわかる。
俺達があの境界線を越えれば女巨人が目覚める。そして、多くの者達が死ぬと伝えようとしている。
その覚悟があるのかと。
だが、俺達がここまで進んできたのはダンジョンクリアをするためだ。
ここで暮したいのなら暮せばいい。それは個人の自由。他人が口を挟むことではない。
だから、俺達の進みたいと思う気持ちも誰にも邪魔をさせるつもりはない。
「そうですか。その時境界線を越えた者は先へ進もうと、未来を摘まもうとしたのですね」
俺は何百年前にもダンジョンをクリアしてもう一度人生をやり直したいと足を踏み出した者達がいた事を知って、彼らは無事ダンジョンをクリアすることが出来たのだろうかと思いを馳せる。
「君は行くことを選ぶか」
「はい」
リックマイアー氏は信の答えを聞いて1度目を閉じてから再び開いた時には微笑みを浮かべながら踵を返した。
「城門は開くことはできない。だが、君達が降りる時に支援砲撃はしよう。行くときは声を掛けたまえ」
それだけ言うと城壁の案内役として青年軍人を1人残して司令官室へ帰っていった。
青年軍人の案内により城壁の各所を案内してもらってからホテルへの帰路に着いた。
◇
ホテルに戻った時にはすでに日が暮れていた。
ホテルの入口には文官1人とその後ろに2人の騎士が立っている。
どうもきな臭い。
俺達はホテルの手前でロードバイクをアイテムボックスに入れてから入口に到着すると文官が声を掛けてきた。
「私は三等書記官のマンサー・ヘブンと申します。カント宰相が城に参上せよと仰せです。ついてきなさい」
ヘブン三等書記官はそれだけ告げると歩き出した。
どうやら城へ向かうようだが俺達がその命令に従う理由はないので無視してホテルへ入ろうとしたら2人の騎士が立ち塞がった。
「大人しくついて行った方が身のためだ」
「ここで死にたくはないだろう」
剣に手を掛けた状態で脅してくるので、こちらも武器を取り出し臨戦態勢をとった。
「なぜついてこない。カント宰相がお呼びだと言っているでしょう。早くついてきなさい!」
ヘブン三等書記官は眉間にしわを寄せて顔を真赤にしながら戻ってきた。
高慢な態度で命令してくるヘブン三等書記官に辟易しながら国王の言葉を盾に反論する
「国王から国の中では自由にしてよいと言われている。先になぜ呼ばれるのか説明するのが筋ではないか?」
「それはカント宰相が直接申されます。あなた達は黙って従えばいいのです」
「宰相は国王よりも立場が上なのか?理由が言えないなら俺達は自由にさせてもらう」
「そうですか。従わないというのですね。ではこちらも実力行使をさせて頂きましょう」
嫌らしい笑みを浮かべたヘブン三等書記官が右手を上げる。
立ち塞がっていた騎士の1人が笛を吹いた。
するとどこに隠れていたのかホテル周辺から50人近い騎士が現れて俺達を包囲した。
包囲した騎士は全員剣を抜き、いつでも飛びかかれるに構えをとっている。
薫と咲良はそれぞれ持っている次元刀と水土の薙刀を強く握った。
だが俺は特に構えることなく、常闇戦斧を立てたままヘブン三等書記官を見つめていた。
「なぜあなたは武器を構えないのですか?」
「ひとつ聞きたいことがある。いましている行為がダンジョンに挑む者を妨害する行為だとわかっているのか?」
「なにをいっているのですか。この国にとってあなた方は邪魔な存在です。あなた方に境界線を越えられるわけにはいかないのですよ」
ヘブン三等書記官は右腕を横に振り、断言した。
「……そうか。残念だ」
本当に残念だ。このヘブン三等書記官は言ってはいけないことを言ってしまった。
ヘブン三等書記官は自らの言葉で国を壊す結果を引き起こした。
―ウオオオオォォォォォォォォォォォ
200㎞先からここまで聞こえる雄叫び。それはこの国へ絶望を告げる叫び。
「な…何が……」
突然聞こえた雄叫びにヘブン三等書記官だけでなく包囲していた騎士たちも戸惑いを感じた。
ここまでは巨人はやってこないことを知っているので俺達は戸惑って動けないでいる騎士たちの間を抜けて部屋へ戻った。
翌日の朝。一頭の馬に乗った軍人が城に駆けこんできた。
◇
時を少し遡る。
信達と別れたリックマイアー城壁守備軍総司令官は執務室に戻ってくるなり大きなため息をついた。
先ほどの会話の内容を上質な羊皮紙に書き、急ぎ城へ届けるようにと副官の1人に手紙を渡した。
もう1人の副官が入れてくれたコーヒーを飲みながら、先ほど話した信という少年のことを思い出した。
(出来ればやめて欲しいが…)
リックマイアーは届いた手紙を読んで王たちがあの信達を穏便に思いとどまらせることを願った。
無理やり止めようとしてはいけない。それはこの国の滅亡に繋がる。
王家には代々伝わる石板が存在する。それは初代国王が残した石板。
石板の存在を知る者は国の重鎮の一部のみ。
そこに書かれている内容を城壁守備軍総司令官に就任したときに拝見した。
『この城と城壁は試練に挑む者達のためにある。試練に挑む者達よ。ここで身体を休め、また挑むが良い。この場所で挑むことを諦めた哀れな者達よ。この城と城壁の中でならば、死ぬことを許そう。しかし、決して挑む者達の邪魔をしてはならない。哀れな者達よ。邪魔をするならば粛清しなければならない』
過去の記録に境界線を越えさせないために武力で取り押さえたことがあった。
その時柱が割れてあの女巨人が動き出した。
女巨人は元々あった第1城壁だけを残して後の城壁を全て破壊した。
城と最後の城壁の中には逃げてきた多くの国民がいたがそのすべてを養える土地がなく、上の階層では十分な食料は手に入らなかった。
その結果、多くの者達を城壁の外へ出して全滅を免れた。
当時の人口が10分の1になったと記録されている。
悲劇を繰り返すわけにはいかない。
だからこそ、至急対策を取ってもらうために早馬を出した。
だがリックマイアーは内心諦めていた。
(彼の意思は固い。どうすることもできないだろう)
彼の目にこれまで見てきた者にはない信念が見えた。
(彼らは再びここへ来るだろう。それまでにあの女巨人と戦う準備をしておかなければ)
時間はあまり残されていない。
案内役の部下には出来るだけ長引かせろと指示をしていた。
俺に出来るのはここまでだ。後は王たちに任せるしかない。
コーヒーを飲み干して短い休憩を終えて、目の前の書類を手に取った。
日が暮れた頃。ようやく仕事に一区切りが出来たので休憩しようと席を立ったリックマイアーの耳に耳を覆うほどの雄叫びが聞こえた。
その雄叫びを聞いた時、リックマイアーは最悪の事態を想像した。
間違いであって欲しい。そんな願いは部屋に飛び込んできた副官の表情を見て叶わなかったことを悟った
顔を真っ青にした副官が叫ぶように報告する。
「も、申し上げます!柱が、女巨人が目を覚ましました!」
副官の言葉は最悪の事態が現実になったことを知らせる内容だった。
リックマイアーはしばしの間。目を瞑り、天を仰いだ。
そして再び目を開いた時、矢継ぎ早に各所へ指示を飛ばす。
副官を走らせるだけでなく、自らも動きながらこれから起こる最悪の事態に対抗するため、準備を始める。
(なんということをしてくれた!)
部下が傍に居る手前。内心で毒づくことしかできないが、国王たちがした行動は想像できた。
彼らの行動を妨害した。なぜこの国が彼らの行動を束縛しないようにしているのか。
それは彼らが先へ進むことを妨げたとダンジョンが思った瞬間女巨人が動き出すからだ。
それがわかっていながらなぜそのようなことをしたのか見当もつかない。
(国王ではない。恐らく宰相と騎士団総長が仕出かしたことだろう)
国王は信達のような者達の気持ちがわかっている。だから妨害するようなことはしない。
リックマイアーは城の方角を睨みながら対応を誤った宰相と騎士団総長に対して一言「あの無能ども!」と怨み言を吐いた。
周囲にいた部下たちは自分たちに言われているのかと委縮したがすぐに「お前達の事ではない」とリックマイアーが言ったことで、士気には影響しなかった。
◇
王城会議室
女巨人の雄叫びが聞こえた日の翌朝。最前線から早馬が城へ駆けこんだ。
雄叫びから緊急招集をかけられていた会議室では早馬がもたらした報告を加味して会議が再開された。
会議室の円卓には5人の人物が座っていた。
国王、カント宰相、ガントレ騎士団総長、マハティ農林畜大臣、アサヒナ調達軍総司令官。
いずれもこの国を支える重要な役職の者達。
彼らの表情は皆険しい。
それは今回の事態の深刻さがわかっているからこそ険しくならざるを得ない。
「それで、現在どのような対応を取っておるのだ」
「現在第5城壁にて当時駐在していた兵士及び待機していた兵士1万が決死隊となり防衛に当たる予定です。他の城壁にいる兵士5千は第5城壁が突破された場合を考え、第3城壁にて防衛準備中です。第2~第5区画の住民は現在第1区画に向けて非難しております」「第1区画だけで20万人近くの国民を養っていくなど不可能です!」
国王は宰相へ現状の対応について説明を求め、宰相の説明を聞いて、マハティ農林畜大臣が恰幅の良い身体を揺らし、悲鳴にも似た声を出しながら立ち上がった。
「現在城の蔵に貯蔵されている食料を全て吐き出したとしてももって1ヶ月。第1区画の生産量では1万人を養うのが精一杯です。それ以上ですとゴブリンがいる上の階層を支配できない限り多数の餓死者が出ます」
食糧生産のトップである為、正確な数字を即座にはじき出した。
「アサヒナ調達軍総司令官は上の階層を支配できそうかね」
国王の言葉にアサヒナ調達軍総司令官が肩をすくめながら答える。
彼女はこの中で一番若く今年で30歳になったばかりだ。
10年前に21階層へ進むのを諦め、調達軍に入隊。
戦術眼が優れているためこの国に来て10年で総司令官に任命された。
「一時的には可能でしょう。現在の調査で理由はわかりませんが城にはゴブリンキングがいないことが判明しました。しかし、お忘れではありませんか?階段を移動できるのは調達軍だけなのですよ?」
会議室は静寂に包まれた。
ここは試練のダンジョン。故に試練を受ける資格を持った者以外は階層を移動することはできない。そのため、ダンジョンで生まれた者は生まれた階層で人生を終える。
それはこの国で生まれた国民にとって情け容赦のない言葉だった。
「そもそもなぜこのような事態になったのですか?私の所には先日来た者達が境界線を越えたという報告は来ていませんが」
アサヒナは不思議でならなかった。
境界線を越えたら柱の中で眠る巨人が目を覚ますと聞いていた。
しかし、そのような報告はない。
会議場を見渡すと国王と宰相、騎士団総長が下を向いていることに気がついた。
「なにかご存知なのですか?」
「王家にはある石板が残されておる。その石板には試練に挑む者達の邪魔をしてはならないとある」
「それが今回の事とどうかかわってくるのです」
「石板には邪魔をした時、邪魔した者達を粛正すると書いてある」
「付け加えさせて頂きますと、過去の記録に境界線を越えようとした者に対して武力を持って止めようとしたときに今回と同じことが起こりました」
国王がため息をつきながら、宰相は苦虫を噛み潰したような表情で語る。
「つまり、誰かが彼らに対して邪魔をしたということですか?そういえば、騎士団の者が50人程動いていたと聞いています。それと何か関係があるのですか?」
アサヒナはこの国にある石板や過去の記録を初めて聞いた。
恐らくこの国の生まれでない者には教えていないのだろう。
昨日報告を受けた騎士団の不可解な行動を思い出し、騎士団総長に訊ねた。
「俺はカントから依頼を受けて派遣しただけだ」
騎士団総長の言葉を受けてカント宰相を見ると絞り出すように昨日起こった部下の失態を説明した。
それを聞いてマハティ農林畜大臣が激怒する。
「なんと、何ということをしてくれたのですか!あなた方の軽率な行動がこの事態を招いたということですか!そのせいで20万人の国民が危機に面しているのですよ。国民にどう納得できる説明をなさるおつもりか!」
マハティ農林畜大臣は感情を爆発させたように叫び、言い切った後はぜえぜえと荒い息をしている。が気持ちはわかる。
ただ呼び出すだけで50人も騎士を引き連れて拒否したからと騎士に剣を抜かせたのだ。
派遣された文官も悪いがそれを指示した宰相の犯した罪は重い。
気の弱い者ならば、それで通じただろうが、相手をよく調べずに命令を下した宰相と小隊規模の騎士の移動について何の調べもせずに許可をした騎士団総長。
そして、2人の管理監督を怠った国王にも責任がある。
理由は分かった。責任追及はあとにして今はこの事態をどうやって乗り切るかを考えよう。
「理由はわかりました。責任の所在はあとにして、いまは目の前の巨人に対して対策を考えましょう。あの巨人についてわかっていることがあれば教えて頂きたい」
アサヒナも無意識とは言え、言葉に怒気を含ませていた。
他にも何か隠していそうな3人を順番に見る。
「巨人は第2城壁までしか壊さぬ。それゆえ、第1区画内であれば大丈夫じゃ。巨人の倒し方は他の巨人と変わらず頭を失えば巨人は消える」
国王の話した内容から最悪第2区画までは失うことはわかった。そして、巨人の倒し方も。しかし、遠目からでもわかるあの大きな頭を全て吹き飛ばすなどできるのだろうか?
どうやって倒すか考えていると騎士がノックもせずに飛び込んできた。
全力疾走をしてきたのか肩で息をしている。
騎士は一度唾を飲み込み、報告する。
「申し上げます!先ほど第5城壁が巨人に突破されました。総司令官は突破される前に脱出され、現在第3城壁で指揮を執っておられます。第4及び第5区画の住民の避難は無事完了しておりますが、第5城壁にいた1万人の生存は絶望的です」
「巨人はどうしている」
「50m級巨人についてはゆっくりと前進しております。情報がこちらに来た時間を考えますと現在第4城壁に到達したころだと思います。城壁守備軍の決死の戦いにより巨人の頭の一部を破壊したと報告があったのですが………」
巨人に傷を負わしたと報告してから騎士が次の言葉を紡ぐことを躊躇う。
「どうした。報告を続けろ」
アサヒナが続きを促すと騎士は覚悟を決めたのか。
表情を引き締め報告した。
「巨人の頭に中に無数の人間が確認されました」
ガタッと騎士団総長が驚きで椅子が後ろに倒れるほどの勢いで立ち上がる。
会議室にいた全員が目を見開いて驚いた。
「人間…だと。ではこれまで人間を殺していたのか?」
騎士団総長のつぶやきは会議室にいる全員が思うところであった。
50m巨人が例外ではないのならこれまで殺してきた巨人の頭にも人が入っていたことになる。
確かに巨人の頭は人間と比較して身体に対して大きかった。
巨人の頭を吹き飛ばした際に人間の身体の一部が飛んでいたと報告書にはあったがそれはないだろうと思っていた。いや、思いたかった。
「なんと…それではこれまで人間を殺していたということか」
国王は頭を抱えてこれまで殺してきた巨人たちの事を思った。
「陛下。巨人の頭に人間が入っていようがいまいがやることは変わりません。今も我が国を破壊している巨人は殲滅すべきなのです」
宰相は感情のない冷静な口調で王に進言する。
報告に来た騎士は立ったままでいるため、宰相は続きを促す。
「それで他に報告はあるか」
「はっ。確かに先ほどの報告で兵の一部に動揺が見られましたが、リックマイアー総司令官の鼓舞により現在は士気に影響はございません。兵士は皆、国民を守るために奮起しております。報告は以上です」
「そうか。では下がれ」
騎士が部屋を後にしてから今後の事について話し合いを再開し、騎士団及び調達軍から第3城壁への増援。第2区画から出来る限り食糧の回収を行うことになった。
詳細は各責任者が話し合いで決めることで話がまとまり、解散することになった
「宰相。彼らは今どうしている」
アサヒナは気になることがあったので会議室を出る直前宰相に訊ねた。
アサヒナのいう彼らとは信達の事であると察した宰相は現在自分のところに来ている報告をそのまま伝えた。
「巨人の雄叫びが聞こえた後はホテルから出ていない」
「そうか」
アサヒナはこれ以上余計なことをして不測の事態が起こることはないようなので安心した。
そして、宰相と別れ、早速増援部隊の編成に取り掛かるために会議室を後にした。
(いやな仕事だ)
部下たちに死んでくれといいに行くような仕事に志願する者等ほとんどいない。
その者達に「行け」と強制する必要がある。
なぜ総司令官に指名された時に断らなかったのだろうとため息をついてから、調達軍本部へ向かった。
◇
「人が増えてきたわね」
咲良がホテルの窓からホテルの外で寝泊まりしている人々を見つめている。
雄叫びが聞こえた翌朝。俺達はホテルでのんびり過ごしていた。
練習用の武器を使った鍛錬や2人の作る料理に舌鼓を打ち、休憩の時は10階層で手に入れた書籍を読みながら久しく経験のなかった平穏無事な生活を満喫していた。
「そろそろではないか?」
薫は窓から見える光景から視線をソファーで本を読んでいる信へ移し、昨夜決めた通り、そろそろ行動を起こすべきではないかと聞いた。
昨夜から第1城壁内(第1区画)に避難民が続々と移動を始めた。
俺達がいるホテルはこの階層で生まれた者達は入れないのでホテル内は静かだが、ホテル周辺は人で溢れて移動するのも困難になっている。そろそろ動かないと身動きが取れなくなるのでその前にここを出ることにしていた。
「よし、準備をしていくとしようか」
読みかけの本に小冊子を挟み、アイテムボックスに入れてから準備を始める。
薫と咲良も信が立ち上がったのを見て準備を始めた。
ホテルを出た時にはすでに人で埋め尽くされていた。
そして未だに避難してきた人々が座る場所を確保しようと空いている場所を探し、時に殴り合いのけんかにまで発展している。
そんな彼らの間を縫うように進み、弾1城壁に辿り着いた時、城門で入る者のチャックをしていた騎士が出ようとする俺達を見て驚きを露わにした。
「お待ちください。現在第3城壁付近まで50m級巨人が近づいています。危険ですのでお戻りください」
「第3城壁まで…そうですか。教えて頂きありがとうございます」
情報をくれた騎士にお礼を言ってから滞在許可証を見せた
滞在許可証を見た騎士は俺達の行動を止める権限の無いことを理解し、「お気をつけて」とだけ言って通してくれた。
並んでいる避難民たちの横を歩きながら第2城壁へ向かう道を進む。
歩きながら避難民の警備に当たっている騎士達の話に耳を傾けていると現在の状況について詳しい内容を知ることが出来た。
第5城壁はすでに突破されて、第4城壁は放棄、第3城壁にて防衛準備中。
第3城壁には正規兵1万と臨時徴兵された兵3万の計4万の兵によって巨人を迎え撃つ予定のようだ。
国民全員が第1区画へ避難完了するまでは最後の1兵まで戦うと指揮を執っているリックマイアー城壁守備軍総司令官が言っているらしい。
また不確定ながら巨人の頭の中に人間が確認された。
(よく頑張っていると思うが、恐らく城壁にある装備では巨人を倒すことはできないだろう)
前装式カノン砲が巨人を倒すための武装だとするなら身長50mの女巨人を倒すことは不可能に近い。なぜなら女巨人には再生能力がある。再生速度はそれほど早くないが次弾争点に時間のかかる前装式カノン砲では次を撃つ間に再生が終わっている可能性が高い。
それに女巨人は巨人を生み出す。
数m~十数mの新たに生み出された巨人が無限に近い形で増え続けるため、女巨人を倒さない限り、巨人の脅威は増すばかりだ。
「第3城壁の状況を確認しよう」
第2城壁に到着したが城門が閉じられていた。
それを見て、少しでも避難民が逃げられる時間を稼ぐという第3城壁に残る兵士の決意の表れのように思えた。
誰もいない第2城壁を登ると第3城壁が見えた。
「まだ戦っているみたいね」
「信、私達はここで迎え撃つのか?」
「そうだ。折角城壁には誰もいないのだから利用させてもらう」
ここへ来るまでは第2又は第3城壁の内側で女巨人をやり過ごしてからヘリで21階層まで移動する予定だった。
しかし、誰にも邪魔をされずに使える城壁があるなら倒す方法はある。
“ドカンッ”砲撃音とは異なる破壊音が聞こえた。
「城門が破壊されたか」
50m巨人の蹴りによって城門が吹き飛んだ。
開いた城門に巨人達が突入する。
城門から突入してきた巨人に対して扇状に並べられた大砲が一斉に火を噴いた。
その後突撃が行われたがいつまで持つか。
城壁の上に設置された大砲は女巨人が次々と破壊して無力化する。
生き残っている大砲から女巨人へ砲撃するが散発的でとてもではないが有効打にはなっていない。
必死の抵抗空しく、城壁の上にあった大砲は全て沈黙した。
そして、女巨人は城門周辺の壁を破壊して、自らが通れるスペースを作るとこちらへ向かってきた。女巨人の足元には懸命に戦う兵士と兵士の身体を掴み頭から食べる巨人がいた。
◇
第3城壁が破壊されてからしばらくして、女巨人が第2城壁目前まで迫っていた。
「やっと来たか」
第2城壁の上で夜を明かしてようやくやってきた女巨人。
近くで見ると一層迫力を感じる。女巨人からしたら俺達は大した脅威には映っていないだろう。悠然と歩いてくる女巨人にその傲慢な考えに対する代償を払ってもらうとするか。
「薫、頼んだ」
「わかった」
隣に立っていた薫が一歩前に出ながら天光剣を抜く。
右足を引き、身体を斜めに向けて、剣を右脇に取り、剣先を後ろに下げた。
脇構えの型を取った薫は天光剣の能力を発動する。
そして、光の剣を数百m先の女巨人の首に向けて振るった。
「咲良!」
「わかってるわ」
切断された首が重力に従い、地上へ落ちたところで咲良に呼びかける。
咲良は女巨人の首に右手をかざすと50m巨人の首は厚い土壁に囲われた。
これで他の巨人に邪魔されることは無くなった。
女巨人は未だに生きている。他の巨人と違い女巨人は首を刎ねられたとしても死ぬことはない。再び首を元の位置に戻せば元通りだ。
唯一倒す方法は頭を修復不可能な状態にすること。
そのために俺は爆炎槍を持って第2城壁を飛んだ。
重力を操ることで普通では考えられない飛距離を出して女巨人の首がある土の首桶の中に飛び込む。
眼下に見える女巨人の顔は大きな目をさらに大きく見開きこちらを見つめている。
「これで…終わりだ!」
女巨人の額に爆炎槍を突き刺し、能力を発動する
「―――――――――――」
女巨人の頭の中を炎が蹂躙し、目・鼻・耳・口。全ての穴から炎を噴きだす。
断末魔を叫ぶこともできずに灰と化した女巨人の首はその後ダンジョンに取り込まれて消えた。
女巨人が死んだことを示すように女巨人の身体も消えていく。
「さて、やろうか!」
女巨人を倒したことを確認した咲良が土壁を無くして元の状態に戻した。
そのため、周囲には多数の巨人が跋扈していた。
信は爆炎槍から常闇戦斧に持ち替えて巨人達へ襲い掛かった。
その後ほどなくして信は第2城壁へ戻ってきた。
「お帰えり。怪我はしてないか?」
「ただいま。大丈夫、どこも怪我はしてないよ」
「お帰りなさい。これからどうするの?」
「ただいま。一度ホテルに戻ってこの階層の巨人が全ていなくなってから、21階層へ行こうと思っている」
10体ほどを黒巨人に変えた。
あとは彼らがこの階層の巨人を全て片付けることを待てばいい。
「だったら当分時間があるわね。今度はどんな料理を作ろうかしら」
「私は作りかけのマフラーでも完成させるか」
時間が出来るので2人は自分のしたいことについて予定を立てているようだ。
(俺は読書でもしようか。いや、もっと鍛錬に割く時間を増やすべきか)
信達は思い思いの時間の過ごし方を考えながらホテルへ戻っていった。
◇
王城会議室。
前回と同じ顔ぶれが座る会議室で、カント宰相は先ほどもたらされた報告を伝えた。
「先ほど届いた報告ですが第2城壁へ偵察に向かわせた者達の報告では50m級巨人及び普通の巨人の姿も確認できませんでした。そのため、志願者を募り、第3城壁へ向かわせた部隊の報告によりますとリックマイアー城壁守備軍総司令官及び第3城壁にいた兵士に生存者は確認できませんでした。依然捜索中ではありますが絶望的な状況です。また遺体の損傷が激しく、身元の確認ができていない遺体は腐敗も始まっておりましたので焼却処分しました。現在第2城壁に防衛戦力を集中し、巨人の襲撃に備えております。以上」
報告を聞き終えた面々はこの不可解な状況に頭を悩ませていた。
「ま、まあこれで当面の危機が無くなったわけですからよかったではありませんか」
マハティ農林畜大臣は「これで餓死者を出さなくてよくなった」とふっくらとしたお腹を撫でながら安堵の息をついた。
「そうですね。まだ安心はできませんが第2区画までは住民を戻しても良いのではないですか?現在の第1区画の状況はあまりよくない。少しでも家に帰すべきです」
アサヒナ調達軍総司令官の言葉に国王は「許可する」と言おうとしたが、カント宰相が待ったをかけた。
「お待ちください。第3城壁に生存者がいないにもかかわらず、巨人が居なくなったということはいったい誰が巨人を殺したというのですか。それがわからない状況で国民の一部を返すことは危険です」
「カント、お主の言いたいこともわかるが、50m級巨人が居なければ城壁を越えられる可能性は低い。第2区画までならば返しても良かろう」
国王の言葉にカント宰相も渋々ではあったが「承知しました」頷いたことで、避難していた第2区画に住む国民を戻すことが決定した。
第3城壁より先の偵察については再び志願者を募り、行かせることで話がまとまった。
これで会議は終わり。
出席者は立ち上がって会議室を出ようとしたとき会議室にある報告を携えた騎士が入室許可を求めた。
「何があった」
再び席に着くことになった国王は騎士に言葉を投げかける。
騎士はまだ入隊して間もないのか緊張した面持ちで口を開いた。
「報告します。上の階層にて挑戦者の集団と遭遇。数は100を超えると調達軍から報告がありました。現在調達軍が先導しながら、この城に向けて移動しております」
「わかった。その者達はいくつかの待合室に分けこちらの準備が整うまで待機させなさい。それと謁見は代表者及び供を3名まで許可すると伝えるように」
カント宰相の指示を受け「はっ」と騎士は敬礼をして出て行った。
「またか…」
国王は50m級巨人の雄叫びを聞いた時より一睡もせずに対応に勤めた。
そしてようやく緊張から解放されて、部屋に入って寝る予定であった。
まさか数日の間に2度謁見をすることなるとは想像していなかった国王は老いた身体に鞭を打って謁見の準備のため部屋に戻った。
◇
「どうやら上の階層から人が来たようだ」
薫がカーテンの隙間から外を見ていた。
「ざっと見て100人はいる。ほとんどが私達と同じ未成年。一部大人も混じっているが、少年がリーダーのようだ」
未だにこの階層には支配できていない巨人が居る。
もうしばらくここへ留まる予定なので、トラブルを起こさないためにも出来るだけ接触しないように行動する。
もしも争いになれば、逃げればいい。すぐに出られるように準備だけはしておこう。
そこまで考えたところで部屋の扉がノックされた。
(面倒事にならないと良いが…)
玄関ののぞき窓からノックをした人物を確認すると見覚えのある少年だった。
(あれは正義君か?)
印象深い少年だったので信は覚えていた。
「初めまして、今日この階層についた『踏破する者達』の団長をしている望月健志です」
扉を開けると、間違いない正義君だ。
どうやらこちらの事は覚えていないようなので、このまま初対面として話をしよう。
最後に見かけた時は奴隷のような待遇を受けていたがいまは団長か。
以前の顔色はあまり良くなかったが今は健康そうだい。
頬に傷がある男が団長だったはずだが途中で死んだのか。それとも逃げたのだろう。
(だが、だいぶ顔つきが変わったな)
甘さが抜けて戦士の顔つきになっている。
辛い日々を乗り越えて、成長を遂げた望月少年は信に交渉を持ちかけた。
「突然訪ねたことお詫びします。この国の騎士からあなた方の話を聞いたので是非お会いしたかったのです。少しお話しできませんか?」
「手短に頼む」
「では単刀直入にお聞きします。この国では何かあったのですか?ここまで連れてきてくれた騎士は何も答えてくれませんでした。国民の方々も同じです。もちろん対価はお支払いします。
「わかった。何から聞きたい」
その後この国で起こった出来事について、一部女巨人を誰が倒したか等については伏せたがそれ以外は知っていること話した。
対価として剣や槍を提示されたので応じた。
それにしても情報の大切さや何かに対して対価を支払うという発想が出来るようになっているとは思わなかった。
「ありがとうございました。大所帯なので騒がしいかもしれませんがご容赦ください」
丁寧に頭を下げて部屋を後にした望月少年を見送って部屋に戻り、ソファーに座ると目の前に珈琲が入ったコップが差し出された。
「どんな人だったの?」
「以前救急セットを差しだした少年がいただろう。彼が団長になっていた」
「ありがとう」と言ってから陶器製のコップを受け取り、一口飲んでから咲良の質問に答えた。
「あの少年か。以前見たときは100人を越える集団のトップになれるような人物には思えなかったぞ」
「以前とは別人と言っていい。あれから色々な経験をして変わったのだろう」
薫が思い出した望月少年であればとてもではないがトップを任せられる人物ではない。
だが、彼は変わっていた。それはダンジョンを生き抜くことを考えるとよい傾向と言える。
話の途中で彼が団長を務める集団について話を聞いたら、どうやら望月少年が以前のトップ(恐らく頬に傷のある男)を殺害して、新しく自分で作ったのが今の集団らしい。
11階層の海を魔物に襲われることなくわたり、途中の階層でもほとんど魔物に出会わなかったことで一人も脱落者を出さずにここまでこられたと誇らしげに語っていた。
さて、彼らのことを考えるのはここまでだ。
これからの事を考えないといけない。
「彼らは明日21階層に向けて出発すると言っていた。恐らく徒歩での移動だろう。俺達が巨人の掃討後に車で移動していたら見られる可能性がある。それに巨人の掃討に時間がかかれば彼らと一緒に21階層へ降りることになる。21階層の特徴を考えるとそれは避けたい。だから出発を1ヶ月延期しよう」
ここから21階層へ続く階段までの距離と移動速度などを加味して余裕を持たせて1ヶ月後の出発を提案した。
「わかった。では、その間何をするか決めないといけないな」
「そうね。今度は何を作ろうかしら」
信の提案に賛成した薫と咲良は席を立ち、思い思いの事を始めたので、信も読みかけの本を取り出して、読み始めるのであった。
◇
翌朝。望月少年を先頭に『踏破する者達』が21階層に向けて出発した。
出発前に部屋に訪れて「情報をありがとうございました」と言われたが「対価は貰っているので気にするな」と短い会話を終えて別れた。
21階層からこれまでとは違う本当の試練が待ち受けている。
最終層にあの100人のうち何人がたどり着き、クリアできるだろうか。
21階層は一定時間に入った人数により難易度が変わる。数人であれば最も楽な階層だが、人数が増えるごとに難易度が恐ろしく上がる。そして、入った人間が全員階段に辿り着くか死なないと難易度はクリアされない。
彼らがまだいる時に入ると最高難易度の階層に挑むことになる。
21階層は別名『試練の階層』。試練のダンジョン30階層の中で心身ともに最も過酷な階層だ。
数人であれば試練は1つだが、100人であれば10の試練を受けなければならない。
この階層には時空の魔術が使われている。1つの試験の制限時間は1日。それまでにクリアできなければ全員死ぬ。あの集団のうち何人が22階層に進めるか。
「信、ご飯が出来たわよ」
朝食の準備が出来たことを知らせに咲良が呼びに来たのでリビングへ向かう。
今はこの一時の平穏な生活を満喫しよう。
お読みいただきありがとうございました。
少し長くなりすぎたため、20階層部分の一部を分けております。




