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都合の良すぎる古文書は、だいたい偽物です。~新米記録官ルカの地方支局事件簿~  作者: 音平つむぎ
第四案件 果たし状を代筆してほしいと言われましても、それは正式な申立書ではありません。

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第十七話:花籠は誰に贈られたのか

 果たし状の代筆は断った。

 それでも、帳面には花籠の二文字が残った。

 掲出名義の話なら、現物を見るのが早い。

 翌日、わたしはミレナの食堂へ向かった。

 途中、紅樽蔵にも年次控えの件で寄ってみた。

「祭りが終わってからにしてくれ」

 昨日と同じだった。

 年次の照合は、今日も進まない。


 食堂の戸口には麦の束が立てかけられ、飾り紐が一巻き吊るされていた。

 中では大鍋から湯気が上がっている。

 前掛け姿の娘が、皿を二枚持ってこちらを振り返った。

「支局の者です。記録官のルカと申します」

「ミレナです。……支局の方が、うちに何か?」

「花籠のことで」

「ああ」

 ミレナは皿を置き、前掛けで手を拭いた。

「あれ、揉めてるんですってね」

「ご存じでしたか」

「アレシュさんもボフダンさんもうちの常連ですから。二人とも、自分が一番いい籠を頼んだって、別々に言いに来るんです」

 ミレナは少し笑った。

「止めはしませんでしたけど」

 そう言って、わたしを表へ連れ出した。


 食堂の前に、花籠が二つ並んでいた。

 麦穂と乾いた草花、香草がすでに組まれている。生花は収穫祭の朝に足すらしい。

 飾り紐と名札は、まだ仮止めだった。

「籠はツェネクさんのところで作ってもらいました。うちは花と飾り紐と札の位置を見て、ここに置いただけです」

「ここに?」

「お祭りの日、通りから一番よく見えるので」

 帳面に書く。


 籠、二つ。

 食堂前に仮置き。

 本掲出は収穫祭当日。

 生花は当日朝。

 飾り紐と名札は仮止め。


「アレシュさんとボフダンさんは、それぞれ自分がミレナさんへ贈ったものだと言っています」

「でしょうね」

 ミレナは右の籠の飾り紐に触れた。

「最初はアレシュさんが一つ頼んだんです。そうしたらボフダンさんが、それより見栄えのいいものをって」

「それで、二つ」

「はい」

「お二人からの贈り物として、受け取ったんですか」

 ミレナの手が止まった。

「いいえ」

「いいえ?」

「わたし、いただきますとは一度も言ってませんよ」

 今度は、わたしの手が止まった。

「では、この二つは」

「収穫祭の飾りです。うちの前に置くものですから」

「ミレナさん個人への贈り物ではなく?」

「少なくとも、わたしはそういうつもりではありません」


 帳面を見る。


 アレシュは、贈ったつもり。

 ボフダンも、贈ったつもり。

 ミレナは、受け取っていない。


 二つの花籠だけが、食堂の前に並んでいた。

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