第十七話:花籠は誰に贈られたのか
果たし状の代筆は断った。
それでも、帳面には花籠の二文字が残った。
掲出名義の話なら、現物を見るのが早い。
翌日、わたしはミレナの食堂へ向かった。
途中、紅樽蔵にも年次控えの件で寄ってみた。
「祭りが終わってからにしてくれ」
昨日と同じだった。
年次の照合は、今日も進まない。
食堂の戸口には麦の束が立てかけられ、飾り紐が一巻き吊るされていた。
中では大鍋から湯気が上がっている。
前掛け姿の娘が、皿を二枚持ってこちらを振り返った。
「支局の者です。記録官のルカと申します」
「ミレナです。……支局の方が、うちに何か?」
「花籠のことで」
「ああ」
ミレナは皿を置き、前掛けで手を拭いた。
「あれ、揉めてるんですってね」
「ご存じでしたか」
「アレシュさんもボフダンさんもうちの常連ですから。二人とも、自分が一番いい籠を頼んだって、別々に言いに来るんです」
ミレナは少し笑った。
「止めはしませんでしたけど」
そう言って、わたしを表へ連れ出した。
食堂の前に、花籠が二つ並んでいた。
麦穂と乾いた草花、香草がすでに組まれている。生花は収穫祭の朝に足すらしい。
飾り紐と名札は、まだ仮止めだった。
「籠はツェネクさんのところで作ってもらいました。うちは花と飾り紐と札の位置を見て、ここに置いただけです」
「ここに?」
「お祭りの日、通りから一番よく見えるので」
帳面に書く。
籠、二つ。
食堂前に仮置き。
本掲出は収穫祭当日。
生花は当日朝。
飾り紐と名札は仮止め。
「アレシュさんとボフダンさんは、それぞれ自分がミレナさんへ贈ったものだと言っています」
「でしょうね」
ミレナは右の籠の飾り紐に触れた。
「最初はアレシュさんが一つ頼んだんです。そうしたらボフダンさんが、それより見栄えのいいものをって」
「それで、二つ」
「はい」
「お二人からの贈り物として、受け取ったんですか」
ミレナの手が止まった。
「いいえ」
「いいえ?」
「わたし、いただきますとは一度も言ってませんよ」
今度は、わたしの手が止まった。
「では、この二つは」
「収穫祭の飾りです。うちの前に置くものですから」
「ミレナさん個人への贈り物ではなく?」
「少なくとも、わたしはそういうつもりではありません」
帳面を見る。
アレシュは、贈ったつもり。
ボフダンも、贈ったつもり。
ミレナは、受け取っていない。
二つの花籠だけが、食堂の前に並んでいた。




