第十八話:食堂の娘と収穫祭の飾り
「受け取っていない、というのは」
わたしはもう一度確かめた。
「では、店の前の二つは、どういう扱いになるんでしょう」
「祭りの飾りです」
ミレナはあっさり言った。
「収穫祭の日って、店の前をどれだけ華やかにできるかなんですよ。籠が二つ並んでくれるなら、こっちは助かります」
「ミレナさんが、お二人に頼んだんですか」
「いいえ」
「では、何を」
「置く場所を決めただけです」
ミレナは食堂の前から広場の方を指した。
「ここが一番よく見えるんです。祭りの行列も、この通りを来ますから」
わたしも同じ方を見る。
確かに、広場から食堂の前まではよく見えた。
「二人が張り合っていることは、ご存じだったんですよね」
「ええ」
「止めなかった」
「止める理由がありませんでしたから」
ミレナは右の籠の紐を少し直した。
「お二人とも楽しそうでしたし。お祭りも華やかになる。わたし、嘘は一つも言ってませんよ」
「何を言ったんですか」
「ここが一番よく見えますよ、って」
「……それだけ?」
「それだけです」
帳面に書く。
設置、食堂前。
向き、広場側。
名札、各籠に一枚。
花籠を贈ってほしいとは頼んでいない。
自分への贈り物だとも言っていない。
よく見える場所だけは、きちんと用意した。
ミレナは、その横で飾り紐を直している。
「収穫祭が終わったら、この籠はどうするんですか」
「花は片づけます。籠はツェネクさんのところへ返すか、来年また使います」
「ミレナさんのものには?」
「なりませんよ」
やはり、贈り物ではなかった。
支局へ戻ると、リネットさんが受付の書類を揃えていた。
「それで、ミレナさんのところの花籠はどうでした?」
「ミレナさんは受け取っていませんでした」
「何を?」
「贈り物を」
リネットさんの手が止まった。
「……なるほど」
「何か?」
「いえ。あのお店、祭りの前は昔から少し賑やかになるんです」
奥で紙をめくっていたマルクさんが言った。
「祭りが近いからな」
「?」
「気にするな。今回は書類になった。それだけだ」
何の話だろう。
「それで、あの二人は何を競ってるんです?」
「食堂の前に出す祭礼飾りです」
「……それ、二人とも買わされたんじゃないですか」
「いや、買わされてはいないんです。ミレナさんは何も売りつけていません」
「場所だけ用意して、勝手に張り合わせて、店の前を二人の見栄で飾ってもらったんでしょう」
リネットさんは書類の端を揃えた。
「じゅうぶん商売ですよ」
「そういうものですか」
「そういうものです」
「なるほど」
「で、その二人は、自分がミレナさんに贈り物をしたつもりでいる」
「そうです」
「気の毒に」
まるで気の毒そうではなかった。
わたしは帳面を開いた。
花籠。
食堂前。
名札。
広場から見える向き。
二人が争っているのは、誰がミレナさんに贈ったかではない。
祭礼飾りを、誰の名で出すか。
それなら、支局で扱える。




