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都合の良すぎる古文書は、だいたい偽物です。~新米記録官ルカの地方支局事件簿~  作者: 音平つむぎ
第四案件 果たし状を代筆してほしいと言われましても、それは正式な申立書ではありません。

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第十六話:果たし状を書いてくれ

 収穫祭が近いと、支局にも普段とは違う相談が増える。

 祭りが終われば、商家の年次取引控えを台帳と照合して締めなければならない。紅樽蔵なら醸造量と仕入れ材料、藍染亭なら染料と布地。どちらも当主か番頭の判が要る。

 今朝のうちに両家へ寄ってみた。

 紅樽蔵では、

「今は無理だ。祭りが終わってからにしてくれ」

 と追い返され、藍染亭でも、

「また来てくれ」

 で終わった。

 年次の照合は、一行も進まなかった。


 支局へ戻って、控えの写しに向き直る。

 その合間にも、井戸の使用順を決めたいという相談が一件。貸した荷車が返ってこないという相談が一件。 順番を決める。

 誰のものか確かめる。

 どちらも支局で扱える。

 

 午後の最初の客は、少し違った。

「果たし状を書いてくれ!」

 戸を開けるなり、そう言った。

 背が高く、肩幅のある若者だった。髪は赤茶けている。

 声が大きい。

 たぶん本人に大きいつもりはない。

「……支局の業務をご説明いたします」

 わたしは帳面を閉じた。

「果たし状は、正式な申立書ではありません」

「だから、ちゃんとしたやつを書いてほしいんだ。お前のところ、代筆をやってるだろう」

「代筆はします。申立書、譲渡証、覚書。記録に残せる文書なら」

「果たし状は残せないのか」

「残せます」

 若者の顔が少し明るくなった。

「ただし、果たし状が一通あった、という記録になるだけです。相手を呼び出すことも、あなたを勝たせることもできません」

「……ただの紙か」

「はい」

 若者は口を閉じた。

「お名前を伺っても」

「アレシュ。紅樽蔵の」

 今朝、追い返された造り酒屋だった。

「お歳は」

「二十二」

 帳面に書く。

「アレシュさん。果たし状で、相手に何を伝えたいのですか」

「あいつに、思い知らせたい」

「『思い知らせたい』を、記録できる言葉に直すと?」

「……は?」

 アレシュは何度か瞬きをして、口元を引き締めた。

 左右の人差し指を立てる。

「あいつが勝手に並べたんだ。俺の名前を、あいつの名前の横に」

 立てた指を二つ並べた。

「収穫祭の、花籠だ」

 花籠。

 わたしはその二文字を帳面の隅に書いた。

 果たし状と花籠が、同じ相談に並んだ。

「花籠がどう関わるのでしょう」

「贈ったんだよ。俺が。ミレナさんに」

 ミレナの店なら分かる。

 広場に面した、酒も出す食堂だ。祭り前の届け出や場所の覚書で、店の名は何度か見ている。

 その名も書く。

「それが、あいつのと並べられた。二人で出したみたいに」

「その『あいつ』、とは?」


 戸が開いた。


 入ってきたのは、アレシュより細い若者だった。

 布地のいい上着に、青い帯。髪もきちんと整えている。

「やはりここにいたか」

 若者は静かに言った。

「アレシュ。先に駆け込むとは、ずいぶん急いだな」

「ボフダン!」

「どうも、藍染亭のボフダンです」

 若者はそう名乗った。

 今年二十一になる、布と染め物の家の者だという。

「記録官どの。この男が何を書かせに来たかは見当がつきます。果たし状でしょう」

「お前こそ、何をしに来た」

「わたしは申し立てに来た」

 ボフダンはアレシュを見ずに言った。

「花籠の札に紅樽蔵の名が先に出ている。あれはわたしが先に頼んだものだ。順序が違う」

 二人が同時に喋り出した。

 片方は声が大きい。

 もう片方は、言葉が細かい。

 どちらも同じ花籠について怒っている。

 わたしは帳面を見た。


 果たし状。

 花籠。

 掲出。

 順序。

 二つの名前。


 どうやら、果たし状を書いている場合ではなさそうだった。

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