お化けは怖いか
「ところで幽霊はどうして怖いのかな」
ぼくはふと疑問に思った。確かに無差別に呪う幽霊もいて呪われると死んでしまったり、どうなるかわからないこともある。ぼくも心霊現象だと周りの人が言うことを体験しているが、ぼくは気のせいだと思っている。というよりなぜ幽霊だと思えるのかが不思議で仕方ない。原因が自分ではないと言い切れるほど自分が正しいと思えているからか。夢や幻覚ではないのか。見間違えや聞き間違えだろうと思うことはないのか。冷静な状況や普段から身構えているのでなければ、勘違いのほうが多いと思うのだが。
「ほら、怖いことがあったら幽霊のせいにしたほうが安心じゃない。幽霊の正体見たり彼尾花。まだ幽霊と思える分こういう句を残せる余裕があるの。もう何かもわからないものをわからないまま放置しておくことこそ恐怖だから、それをマイルドで留めておくのに必要だったのが幽霊とかなんじゃないかな」
「つまりはっきりとわからないものに輪郭をつけることで怖さを和らげていると」
「そう、だから幽霊様様なんだよ。ビバ幽霊」
「栄生さんは幽霊を恐れていなさそうだけど」
「いやあ怖いよ。やっぱり暗いところとかはしたくもないのに想像しちゃうもん。なんか出るんじゃないかって」
意外と普通だ。幽霊と仲良くなりたいとか言い出すと思っていたのに。暗いと不安に感じるのは当然のことだが、彼女なら元気にシャドーボクシングして良い汗かいたって顔しながら進んでいそうだと思っていたのに。そう考えていると表情に出ていたのであろう、栄生さんが怒気を混じえて声をあげる。
「何をそんな怪訝そうな顔をしているのかしら。そんなに怯えるわたくしが不思議でして。幽霊よりわたくしの方が怖いかもしれなくてよ」
「ごめん」
笑顔が怖い。圧が怖い。なにより言葉遣いが怖い。
「でも栄生さんなら幽霊と友達になるって言っても不思議ではなかったし」
「それは相手が会話に応じて、ある程度同じ常識を有していた場合なら出来るかもとは思うよ。例えば幽霊に足の小指をぶつけた話をしても、物体に干渉しない幽霊ならわからないじゃない。いつの時代の幽霊かもわからないし。それにそもそも生前の恨みの残滓みたいなものでしょう。会話になるやら」
「やっぱり考えたことはあるんだね」
「それはそうよ。本当に幽霊と友達になれたなら歴史を超えた交流が出来るのかもしれないのよ。死んでいるけど生き証人のようなものなの。もしできたらワクワクするもの。友達になるために思考を試行錯誤はしたの。でも無理よね。まず会ったことないもの」
「やっぱり栄生さんだね。ぼくは信じていたよ。ぼくの思った通りの人だよ。しっかりと物事をよく見極めていこうとしている。でもまだ無理だと決めるのは早い。現実は小説よりも奇なりって言うじゃあないか。栄生さんの条件を満たす幽霊も現れる可能性は大いにあるんだ。そうだ。まず手始めに降霊術なんてどうだろう。これならば悪霊ではないから栄生さんのワクワクを、知的好奇心を満たせるのではないだろうか。うん。必ず満たせるよ」
「なんで急に饒舌になるの。さっきまでしおらしくしてたのに。それにわたしが降霊術をしたらいろんなこと聞けないじゃない」
「大丈夫。栄生さんのアイデンティティは幽霊に負けないよ。だから自問自答のように出来るはず」
「わたしそんなに癖強いの」
ぼくは大きく頷く。それはもう脳震盪を起こしそうなほど。きっとぼくは今すごく良い笑顔なのだろう。言葉で言うのは気が引けるのでさりげない態度で示したのだ。つまりこれでもまだ足りないくらいなのだ。栄生さんが傷つかないように気をつかうぼく。
「今は幽霊より雨崎くんの感性のほうが怖いよ。こんないたいけな少女になんたる言いようでしょう」
胸を打つ痛い気はいじらしさではなく心配からくるのだが。
それはそれでも幼気ではあるかな。目を離すとどこに行くやら、会話が。
「とにかく降霊術をするなら雨崎くんがするべきよ。そう、まさに今。ジャストナウ」
また恐ろしいことを言いなさる。しかしここは乗りかかった船、ぼくの良心を押し切ってイタコごっこを敢行するとしよう。結果はこれ、できない、のイタチごっこであろうと思うが。
「ではまず誰を降ろしてほしいのかな」
「そうね、まず話をお伺いしたい人がいるの」
有名な人であれ。ぼくが知っている人であれ。適当になんやかんやで誤魔化しきる。乗りきる。
「マザーテレサ」
はい、わからない。そしてこれはぼくがするには烏滸がましい。なんとか避けないといけない。言い訳を考えるんだ。
「・・・今日はパンの特売日でないから無理かな•••」
「雨崎くん、それも倫理観の欠如だよ」




