怖い話4
「ぼくはもうだめでいいので、次は栄生さんの番だ」
「わたしね、呪われているんだ」
唐突に、おどろおどろしく話し始める栄生さん。ちょっと吹き出しそうになったけれど、口元を上手く隠しながら真剣さを装って聞くことにした。必ず落ちをつけてくるに違いない、ぼくは本能で悟った。
「わたし、前世はカナダの女の子だったと思うの。毎年部屋の大掃除をしているときに、誰かが前世のわたしを呼ぶ声が聞こえてくるんだ。きっとわたしのしていることで前世の記憶が蘇っているの。こうなったのは中学に上がってからかな。その年の大掃除に、小学生のときに大事にしていた人形をどうしようか悩んでいたの。そのころは人形供養なんて知らなかったから、親が処分する物を纏めた本と一緒にまとめて処分したのよ。そのときから毎年声が聞こえるようになったの。きっと人形の呪いなの。あのときしっかりと供養をしていたら、毎年あんな苦しい想いをしなくてすんでいたのに……」
手で顔を覆い、俯く。悲嘆にくれる仕草はまさしく嘘くさい。しかし化かし合いに負けるわけにはいかない。そう、これは呪いなのだ。彼女を苦しめる人形の忌々しい呪詛なのだ。この呪いを根幹から断ち切らねばという霊媒師の如く立ち向かう意志をもつと自分を思い込ませて、ぼくは心配そうに尋ねる。
「栄生さんはなんてその声になんて呼ばれているんだい。」
彼女は手を下げ憂いを帯びた目で、そうっと言う。
「ど…アンシャーリー…」
消え入りそうな声。ぼくが聞き返すと彼女は少し恥ずかしそうに笑う。小刻みに肩が震えたと思うと堰を切ったように笑い出した。そのまま威風堂々とこう言うのだ。
「断捨ー離ー」
「モンゴメリに怒られろ」
「仕方ないんだよ。まとめられた本の一番上にあったのが赤毛のアンだったんだもん。断捨離断捨離って心の中で言いながら掃除していたわたしを引っ張っていったんだもん。響きが似ているんだもん。断捨離はもうアンシャーリーになっちゃったんだもん。これはきっと前世からの声なんだもん」
「でも赤毛のアンはフィクションなんじゃあ」
「アンシャーリーという人はいたはずだから大丈夫」
「何が大丈夫なんだい」
「わたしの前世の話は破綻していないということ」
「いや、さっき自分で言っていたじゃあないか。自分の心の中で断捨離って言っているって。それがアンシャーリーに置き換わったって」
「はっ……つまりわたしはもう呪われていないのね。これはつまり雨崎くんが祓ってくれたのね。これはもう感謝だね。感謝の意をこのあんぱんに込めてプレゼント」
確かに冗談で霊媒師とか思っていたけどこんなことを言われるとは。というかこれ呪われてもいないよね。自分で答えを知っていたんだし。初志貫徹、演じきったということでこの話はお終いとしよう。
「このあんぱんは何かな」
「昼に買ったけど本で潰してしまったので、あげる」




