怖い話3
「雨崎くん、今度こそ怖い話をしてよ」
「さっきので充分怖かったと思うんだけど」
「方向性が違うんだよ。ベクトルが違うんだよ。もっと不可解なものに恐怖させないと」
「いやいや、幽霊を出してハートフルにしてくる人とは思えないことを言ってくれる。ぼくの次は栄生さんの番だからね。同じことを期待されると思うがいいさ」
「やっぱりハートフルって気付いているんじゃない。まったくさっきはあんな捻くれた感想を言っていたのに」
ぶつぶつ言っている栄生さんをよそにぼくはしばし考える。そうしているうちに向かいの栄生さんもしばし考える。ちらちら様子を窺っていると気付いた。栄生さんは考え事をしているとき、視線が、表情が目まぐるしく変わっていく。ふと目が合うと訝しげにこちらを睨んでくる。
「なんなのさ」
「見ているとなんというか面白いというか」
「わたしの顔が面白いと。なんと無礼なことを。打首じゃ打首じゃ。ギロチンにかけておしまい」
ここは日の本仏蘭西、天守閣のある宮殿が見所だ。薔薇の咲き誇る庭園、そこを見回りをしているのはナポレオンジャケットに袴、髷を結った侍。この和洋折衷の織りなす景色は一言で言えば、すっごい雑。ぼくは自分の創造する世界に悪態をついた。うん、気にしない。
「まあまあ、そんな物騒なことを言わないで。怖い話は考えたかな。」
「なんだかいろんなことを流されている。まあいいや。こっちは準備万端だよ。雨崎くんも大丈夫かな」
「まかせてよ。それでは」
深呼吸ひとつ。空気を張り詰めて。視線を手元に落として、ぼくは物語を紡ぐのだ。
「これはとある少年の物語。…ある日少年は高熱でうなされていた。そんな少年の傍らには優しい母。少しでも熱を冷まそうと額の濡れタオルを交換している。その甲斐もあってか次の日には少年の熱はすっかり下がっていた。元気になった姿を見せようと母の部屋に行ってみると、そこには布団でうなされている母の姿が。母の額に手を当てて熱があることを確認した少年は、台所に向いボールに水と氷を入れタオルを持って母の元に行った。まさしく昨日母にしてもらったことをしようと思ったのだ。『母さんが早く良くなりますように』そう願いながら氷水で濡らしたタオルを顔にかけた。いっときすると、うなされていた母は安らかに眠っていた。それを見て少年は安堵した」
「アウトー。雨崎くんアウトー。これは駄目だよ」
「そうだね。タオルは額よりも脇とか首筋のほうが効果はあるかと」
「そうじゃないんだよ。人としての問題だよ。倫理観だよ。可哀想だよ。少年は優しさなんだよ。報われようよ。なんだか嫌だよ。途中から嫌な予感はしていたけど、本当にそれを裏切らないのは勘弁だよ。怖いよ。物語じゃなくて雨崎くんの発想が怖いよ」
「だからまだ最後の一文があるんだ」
「この話の続きは聞きたくないよ」
「それは大丈夫だよ」
そう言ってぼくは付箋に一言書いて栄生さんに見せる。
「これが本当の『加湿致死』ってね」
「雨崎くんはもう駄目だね」




