怖い話2
「ならば栄生さん、ここはお手本を見せてよ。栄生さんならさぞ鳥肌を立たせて背筋に氷を這わせるほどの話をしてくれるよね」
ぼくは煽る。そんなこともなんのその、栄生さんも誇らしげな表情で笑む。これは期待してもいいのか。
「もちろんだよ雨崎くん。わたしの霊に対する敬意はなかなかのものよ。雨崎くんなんて身震いをして椅子から落ちちゃうんだからね。さあ恐れ慄いちゃいなさい」
栄生さんは目を閉じたと思うと不意に見開く。これもう笑わせにきてるんじゃないのか。栄生さんの怖いの感覚がずれているのではと心配になった。今ぼくがしている不審そうな表情を恐怖で引き攣っているって勘違いしていないよね。そんな心配を置いてけぼりにして彼女は語りだした。
「とある町の、とある学校でのお話。この学校では昔、月に一度誰かの靴の右側がなくなるということがあったの。正確には、なくなったと思われた靴がひと月後に違う靴のところで入れ替わりで発見されるの。最初にこの現象が起きたときは、みんながイジメなのだろうと考えた。靴の片側がなくなっていたのだから当然だ。しかし三度目にはその考えもなくなっていた。誰も目撃していないこと、靴が返ってきていること、学年もバラバラであったからだ。そこで子供達はこれを都市伝説に紐付けてカシマさんやテケテケの類いであり、いつか誰かの右足がなくなるのでは、とまことしやかに囁かれていた。先生達は、どこかから変質者が入り込んでいるのでは、と警戒を強めていた。しかし警戒を強めたところで外部から入ってくる者などいなく、事件は続いた」
話し始めるときに感じたぼくの不安は杞憂だったようだ。怖くはないが笑わせにきている様子はない。栄生さんは話し続ける。
「七回目の事件の際、ある少女が自分の靴箱にこう書いた紙を貼った。『あなたのさがしているくつはこれですか?』そこには、お気に入りだったけど、サイズが合わなくて履けなくなってしまった靴を置いていた。するとどうだろう。ちゃんとその靴がなくなっていた。そしてそこに前回の靴が返ってきていた。それを見て少女は先生にこう言ったのだ。『わたしの靴を持っていってくれたよ。気に入ってくれるといいな』それは嬉しそうに。その少女が学校での靴の話を曽祖母にしたとき、聞いた話があった」
栄生さんは微笑んでいる。いや、怖い話をしようと言った人の表情ではないのですけれど。もう目的を忘れた彼女の話を聞くしかないようだ。
「戦後混乱期、まだ人に構っている余裕もない頃に、同じ年頃の女の子が瓦礫の合間を何か探してまわっているのを見かけたらしい。その子はうわ言のように『お母さんがくれた靴』と言っていたようだ。周りの人も自分で精一杯だったので一緒に探してくれる人はいなかった。頭巾を被っていたから、その子がどんな子かもわからなかったけど。曽祖母は続けて言う。きっとその子が亡くなって、心残りだけがここに来たのかもしれないね。と。その後、この学校には、小さな下駄箱が設けられた。そこにはたくさんの色とりどりな靴が並べられていて、大きな文字で、『あなたのくつはこちらですか?』と書かれている。そのうちのひとつには、『次はりょうほうとももっていっていいよ』とメモ書きしてあったそうだ」
これを語り終えた栄生さんは非常に満足気である。これはこれは、ぼくを試しているのだな。いや、そんなつもりがないのはわかってはいるのだが。しかしぼくは、ぼくを試しているのだ。
「この話を通して栄生さんが伝えたいことは、人は自分に無害であるならば危険かもしれない存在を放置する、というエゴの怖さかな」
「雨崎くんはどうしてそんな受け取り方をするの」
「だって恐怖が目的なんだから」




