怖い話1
「雨崎くん、怖い話をしよう」
「おっと、これは急なお誘いだね。いや困った。ぼくは怖い話が苦手でね。もう想像するだけで身の毛もよだつほどだよ。そんなぼくが栄生さんの恐怖の与奪権を握ろうというんだ。本当は拒否したいところだけれど、ここはぼくの成長のため、そして栄生さんの好奇心を満たすために受けて立とうじゃあないか」
本音、それはぼくの得意なところだ。今までぼくが思考実験をしてきたなかにもちろん自信作があるのだ。
「雨崎くんは結構周りくどい言い回しをするんだね。なかなかの曲者とみた。でもでも、ここまでの人はなかなかいないよね。これはとっても楽しみだよ」
これはこれは、栄生さんは余裕綽々なようだ。ならばこちらは粛々と語るのみだ。姿勢を正してぼくは語り始める。
「これはある少年のお話。その少年は素直で真面目な子でした。両親は躾に厳しく色々と言ってきますが、少年は素直に従っていました。少年が小学ニ年生になる頃、車の事故で両親は死んでしまいました。少年は運良く生き残っています。そしておばあちゃんに引き取られて二人で暮らしていくことになりました。おばあちゃんは躾に関して、両親ほどやかましく言ってきません。強く言ってくることはたった二つ、あまり他人に迷惑をかけるな、食べ物は命をいただくということだから粗末にするな、ということでした。うるさく言ってくる両親のことはあまり好きではなかったのですが、ある程度自由にさせてくれるおばあちゃんのことは大好きでした」
ここでぼくは一息つき栄生さんの表情を窺う。まだ興味が強い表情だ。この表情を恐怖に変えることがぼくの今の使命だ。そしてそれをぼくに指名した栄生さんを後悔させるのだ。そう思いながらぼくは続ける。
「少年が小学四年生になった頃、ある日おばあちゃんは病床に伏せてしまいました。少年は近所の人を頼ったり、見様見真似で看護にあたっていました。しかし、一向に良くなる気配はありません。おばあちゃんは最後に優しく、好き嫌いせずに大きく育つんだよ、と言って息を引き取りました。それから二日後、近所の人が少年もおばあちゃんも見かけないので心配になり、おばあちゃんの家を訪れます。しかし返事もなく鍵はかかったまま。不安に思った近所の人は警察を頼ります。状況が状況だけに警察もすぐに動いてくれました」
あと少しだ。さあ栄生さんは今どういう感情かな。彼女のほうを見ると、これって嫌悪かな。もう答えに辿り着いちゃったのか。かなり聡い人だ。ではここはひとまずこの話を締めてしまおう。
「これは後日聞いた話なのですが、警察がその家に行った時には中には誰も見当たらなかったそうです。そして少年は掘り起こされた両親のお墓の前で、意識不明の状態で発見されたのです」
「雨崎くん、これはね人を選ぶお話というか話す人を選んでね。怖いのは怖いけれど、どうしてこれをわたしに話したのかな」
「ぼくの持つ秘蔵の怖い話だったから」
「この話の少年となんら変わらないじゃない」




