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他愛ないぼくら  作者: 木彫ダイナマイト


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個性 語り部は栄生さん

「個性がわたしを作っているのかな」

 わたしは不意に言葉を放つ。独り言のようで独り言ではないその言葉は、きっと心の底に沈んだ澱みが、そよ風が吹いた、その程度の刺激で浮いてくるから。答えがほしい、でも正しくなくていいの。納得がしたいだけ。あやふやでいいの。そういう不燃物が溜まった心はいったいどれだけ汚れているのかな。そう考えると、そんなわたし自身を信じられない。だから自分で出した答えを信じられない、燃やせないの。でもね。

「また急に人間の大きな課題を投げつけてくるね、栄生さんは。しかしそれはぼくがもうずっと前に通った道だ。さあぼくに教えを乞うといいよ」

 この声が、この言葉がわたしの考えもつかない点から新しい道を教えてくれる。言い方は素直じゃないけれど、この人はきっと素直じゃなくても人に好かれるのだろうな。たぶん自分を持つ意思が綺麗だから。純粋だから。

「じゃあ雨崎くんの歩んできた栄光の道を是非聞かせていただくわ」

「はい、お嬢さま。ご清聴のほど、よろしくお願いします」

 わたしも引っ張られてついつい調子にのったことを言っちゃう。でも勢いだけじゃない。わたしが意図して考えて言っていること。それでも雨崎くんは答えてくれる。拒絶されない。雨崎くんの世界は自由なんだと感じる。どんな振る舞いをしてもそのまま受け止めてくれる。どんな言葉も淀むことなく響いてくれる。

「では栄生お嬢さま、この問題について考えるために歴史というか衣服がわかりやすいかと思われます。あとちょっと面倒なのでこの話し方をやめてもよろしいでしょうか」

「面倒って、よろしくてよ」

「よし、ではいこうか。着物って結構独特だと思うんだ。それって日本の個性なのではないかな」

「確か中国の呉から伝わってきたものを、日本に合うように改良されたから呉服なんだよね。漢服に感服しちゃうね。つまり元はなんであれ、自分に合うように変えれば個性ということなのかな」

「そうだね。しかし容易な言葉遊びは許されない。事前に用意もなく言葉遊びをすることは真剣な雰囲気を崩す要因となってしまう」

 許されませんでした。拒絶されちゃいました。さらに仕返しまでおまけで。ちょっと、さっきのわたしの嘘つき。

「そうそうそれでだ、文明開化以降徐々に着物は廃れていっただろう。まあ環境の変化による動きやすさとかが要因らしいけど。そうなると着物という個性は薄れていったけれど、洋服の着こなしで個性を表したと思うんだ」

「女性は可愛らしく、男性は結構中性的なのが多いよね。というか雨崎くんって流行を意識しているのかな」

「ぼくがそんなものを気にするはずがないよ。外に出ないのだから。でも明治初期の和洋折衷はいいものだ。個性を模索しているときと同じだよ。行灯袴のように改良したっていいんだし」

 個性ってなにか聞くと『らしさ』って言われることがある。そういう人はわかりやすいと思っているのかな。それならきっとその人は自分らしさが持っているのよね。でもその人たちに投げつけたい言葉があるの、嫌いな自分も個性で片付くのかなって。そういうところもあなたらしいよねって。言えないけど。

 でも雨崎くんは答えるの。環境などで変化するのは当たり前で、なにより自分で作ってしまえばいいんだってね。自分で自分を変えようとしている人の言葉だと思う。

「雨崎くんは女装してみたいのかな」

「違う違う。女性の行灯袴にブーツって格好いいと思っているだけだよ」

「きっと雨崎くんは女装して飛ぶくらい気分が高揚しちゃうんだろうね」

「いまさら最初の意趣返ししてくるなんて」

「違うよ、きっと似合うんじゃないかなって褒めているんだよ」

「絶対思ってないよね」

 雨崎くんも覚えていてくれているんだね。まあ雨崎くんにとってもわたしは変な人だろうし。

「まあぼくの言いたいことは、個性は今自分が内包している全てを含んだ自分自身だと思うんだ」

「もちろん自分の嫌いなところも、それを嫌っている自分もだよね」

「そうだね」

「つまり雨崎くんが変わり者で捻くれ者で女装趣味ということもだよね」

「女装趣味はないからね」

「つまりわたしが傾国の美女ということもだよね」

「虚偽は個性に入らないからね。どこぞの渓谷に一人でわたしは美女と言っているのであれば、遠慮なくぼくが栄生さんに変わり者の個性を贈与するよ」

「それは雨崎くんの特権だから後生大事にしてね」

 個性に外からも決まるものもある。個性的な容姿ってあるもんね。つまりわたしの個性も見る人が変われば個性も変わるんだ。なんていい加減な言葉なんでしょう。こんなあやふやなものでわたしの心を乱していたなんて。

 個性なんて変わり続けるもの。環境、努力、情緒、感受、変化させるものが多すぎると思う。結局は個性なんて自分の成長の後にできるものなんだ。わたしはいつも通りでいいんだ。個性があってわたしがあるわけじゃない、わたしがいて個性があるの。何よ、よく聞く個性を伸ばすって。わたしを伸ばしてよ。

 雨崎くんは思考の角度を変えてくれる。ちょっと周り道も多いけど。だから楽しい。ううん、ただ楽しいだけ。会話が楽しい。それだけかな。それだけでいいの。

「雨崎くんから見るわたしの個性って何」

「まさしく狂乱」

「落ち着いて大人っぽいってことね。そんなに捻くれなくても素直に言っていいんだよ」

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