↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他愛ないぼくら  作者: 木彫ダイナマイト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/57

曇りのち晴れ

「雨崎くん、天気の話をしようよ」

 相変わらずの栄生さんの挨拶だ。適当に話を振っておき、あとは野となれ山となれ。そしてうなだれ共倒れ。最後に残るは成れの果て。行き着く先を知らない、ゴールもない会話を始めることはもう日常である。その日常にお互いの矜持をぶつけ合うことで、切磋琢磨出来るのである。これを喧嘩と表現した栄生さんの感性には脱帽する。今日の喧嘩のお題は天気だそうだ。正直子供の喧嘩より内容の薄いところではあるが、それを受け止めてこそ高みを目指せるのであろう。栄生さんを見下してやるのだ。

「いいじゃあないか。英国紳士はまず人の懐に入るために天気の話をするというのを聞いたことがある。まあ正直英国紳士でなくても、同じ場所に居合わせているのだから天気は共通であろう。つまり共感を得られやすいということだ」

「うん、これで雨崎くんが天気の話題から人と仲良くなれないことが証明されたね。まだ話題に入ってすらいないのに、人を拒絶するなんてほんと雨崎くんらしいよ」

 なかなかな攻撃をしてくるじゃあないか。だがこの程度で倒れるぼくではない。

「いやいや、あれのどこが拒絶だと言うのかい。ただぼくの推察を言ったに過ぎない。むしろそこから話を広げようとすることもできるはずだ」

「今から天気の話をしようとした矢先にあんなことを言われたら、警戒しているぞ、そっちの思惑にはのらないぞ、って言っているようなものだよね」

「それは過剰反応だと思うんだ。ぼくが述べたことは十全とした事実ではない。あくまで憶測なんだ。ぼくはこう言っているんだよ、天気の話なんかよりもこちらで話を広げたほうがぼくは心を開くのだと。ほら、ぼくは心身共に紳士なんだよ。それにぼくとの会話することが何かのきっかけになり、その人が後に新進気鋭の何者かになるかもしれない」

「そうだね、それが雨崎くん同士の会話ならそうなる可能性もあるよね。違うかな、ないよね。雨崎くん同士なら会話始まらないから。というかそれはもう仲良くなってからでいいんじゃないかな。結果としてやっぱりあれは拒絶だと思うの」

「栄生さんみたいな人もいるんじゃあないかな」 

「わたしも最初がこうだったらさすがに踏み込まないよ。今じゃもう土足で踏み込めるけど」

「栄生さんの場合は土足でもないよ。リラックスするために裸足だよね。浜辺を歩いて足を洗わずに、そのままぼくの領域に踏み込んできているよ」

「そこまで踏み込んでいるのかぁ。でも雨崎くんも注意しないっていうことは、それを受け入れてくれているっていうことでしょう」

 ノックアウト。こうなるとぼくは素直になるべきか思考してしまい反論できなくなってしまう。それでは負けたことになってしまうので、ぼくはぼく自身に言い訳をしようじゃあないか。ぼくは実際栄生さんを見下すなんて失礼なこと考えていないからね。紳士だからね。大人の余裕があるんだ。実るほど首を垂れる稲穂かな、それくらいの度量を持ち合わせているからね。負けたふりをしてあげることで、栄生さんも自信がつく。ぼくの威厳なんて二の次、ひとつ前の独白なんてどうでもいいんだ。

「さすが栄生さんだ。今回はぼくの負けだね。今後はぼくが栄生さんに勝つのは難しいかもしれない。その著しい成長には目を見張る思いだよ。もうぼくには見栄を張る余裕もなくなってしまうかな。ぼくを超えていく栄生さんを見送るのは、嬉しくもある。これが親心か」

「こんな回りくどい親、嫌だよ」

 ストレート。もう起き上がることもできないのは、間違いなくぼくだ。

「そんなことはさておき、見てごらんよ栄生さん。午前の曇天模様がまるでなかったような夕日だよ。今日ぼくが天丼を昼に食べたのが効いたかな。天丼を食べて曇天がなくなったとさ、はっはっはっ」

「なんで雨崎くんそんなに追い込まれているのよ。ついに面白くもない説明をし始めるなんて。それで紳士と思うのかな。それで共感を得られると思っているのかな」

「はっはっはっ、無理だろうね」

「雨崎くんの想像する紳士の笑い方はすごく浅ましいよね」

「気をつけます。そして栄生さんに天気の会話のお手本をお願いします」

「仕方ないなぁ」

 そう言って咳払いひとつ。

 「やあ少年、今日はずっとこっちにいたのかね。朝の天気が嘘のように晴れ渡っているじゃあないか。雨が降ると思って持ってきた傘がステッキになってしまったよ、はっはっはっ。わたしとしては雨が降らなくてよかったと思うが、少年はどっちかな」

 自分の意見を明確に示しつつ、相手の意見がどっちであれ嫌な印象を与えないように発言を求める。これならつい自分の意見を言ってしまいそうだ。遠くから来たばかりでも、どこから来たのかと話を繋げられる。雨が降って欲しいならその理由を求められる。雨が降らなくてよかったといえば、わたしと同じだと共感を得られる。なんという包囲網だ。そしてなにより、紳士だ。ステッキという紳士ジョークすら完備している。今の栄生さんはまさしく英国紳士だ。

「栄生さん、今ぼくの心は晴れ渡っているよ」

「よかった。勉強になったかな」

「ぼくの笑い方には爽やかさが足りなかったようだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。