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他愛ないぼくら  作者: 木彫ダイナマイト


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悪いひと

「栄生さん、今日は思考実験と洒落込もうじゃあないか」

「おっと、わたしの知恵と美貌が必要になったのかな。仕方ないなぁ、そういうことなら喜んで貸し出ししちゃうよ。新作なので440円」

「美貌はもう常に裏に控えていてください。そして知恵に関しては成功報酬としよう。ぼくの望む答えが出ることを期待しているよ」

「思考実験に望む結果を出すようにしてはだめなんじゃないかな。出た結果から考えるべきであって」

 それはそうだ。まさしくそうだ。ぐうの音も出ない。ぎゃふんと言わされた。ぐうは出ないのに。

「よって報酬はこの実験の終了を条件とします」

「えっと、本当にお金取る気だったの?」

「いや、もちろん勢いで言っているだけだよ。本気にしないでいいよ雨崎くん」

 あまりの熱弁に本気にしそうだった。まあいつもの栄生さんである。この勢いを維持しつつ本題に移行。

「では考えてほしいことを話そう。今から職員室にテストの問題を収集しに行くとしたら」

「雨崎くん、ゴーゴーゴー」

 だめだった、勢いに乗った栄生さんを甘くみていた。人の話も聞き終えることなく答えてしまった。一旦栄生さんには勢いから降りていただかなければならない。勢いだけどこかに行ってもらおう。

「えーまず思考実験で思考の放棄をするのはやめていただきたいのです。そしてまだ状況の説明も終わっていません。よって話を聞いてください」

「失礼ね。ちゃんと思考した結果だよ。状況をわたしが知る必要はないの。雨崎くんがわかっていればあとは大丈夫よ。そう、これは紛れもなく信頼。信じて頼っているの。信じて用いているわけではないの。ちゃんと懇願しているの」

「命令形で?」

「命令形で」

 言い切った。懇願とはなんだったのか。誠意は一切合切なかろうよ。

「まあ続けるよ。状況としては職員室に先生三人いる。そして僕たち以外の生徒は図書室に、えーっと七人くらいかな、いるくらいかな。それ以外はもう誰もいない状況。これで栄生さんはどう動くかな」

「そうね、最終的に先生三人を職員室から追い出すことを目的にすればいいのよね」

 徐ろに紙とペンを取り出して四角と丸を書いていく。四角は部屋、丸は人を表しているようだ。

「ちょっと聞きたいんだけどわたしは雨崎くんを使うことは可能なのかな」

「もちろん」

「仮に雨崎くんが失敗して先生に捕まったとき、わたしを共犯だと言う?」

「そうだね。しっかりと調べればわかるだろうから傷の浅いうちに言うだろうね」

「つまりわたしは雨崎くんをかかえている状態なわけね」

 なにやら栄生さんは本気だ。どうしよう、もう少し簡単に考えてくれてよかったんだけど。どこかに行き去った勢いに帰ってきて欲しくなってきた。

「また聞くんだけど、テストの問題はデータとしてデスクトップにわかりやすく保存してあるって状態にしてもいいかな」

「ある程度栄生さんの都合のいいようにするよ」

「いいね。ちょっと調子にのっちゃうけど他の先生に確認してもらうためUSBメモリに入っているとしましょう。持ち運べるものに仕事のデータ入れちゃうのはだめかもしれないけれど思考実験だからね」

 思った以上に栄生さんが楽しそうなんだけれど。こういう法に触れそうなことだからもう少し渋々で普通に想像できるくらいの解答かと思っていたのに。なんだか真剣にかつ楽しそうに考える栄生さんが格好良く見えてきた。頼りになりそうだ。

「うん、決めた。確実に出来るかどうかはわからないけど。先生三人はなかなか難しいよね。だから失敗したときにわたしたちが怪しまれないことが重要なの。確率の問題だから試行回数がものをいうからね」

 ぼくの想像以上の解答が展開されそうなのですが。どうしよう、ぼくもワクワクしてきた。今のぼくは栄生さんの言うままに動いちゃうよ。もう忠実な僕と化しているよ。きっとオルレアンの乙女と並んでも見劣りしないだろう、今の栄生さんは。

「じゃあいくよ、雨崎くん。まずわたしは事前にどの先生のメモリに目当てのものが入っているかを調べていた。そして職員室に行って今いる先生を確認するの。ちょっと聞きたいことがとか言ってね。そのあとに図書室に行って、言い方は悪いけれど、あまりテストが得意でなさそうで魔が差しそうな人の近くで勉強する。そのときに独り言を言うわ、テストのデータをあんな風に保存しちゃって、今三人しかいないのに盗まれちゃったらどうするのって。そうしたら雨崎くんが図書室に入ってくるの。入り口近くで勉強してね。そうしたらわたしがトイレなりで一旦図書室を出る、このときに念の為今いる先生の名前を書いたメモを渡すね」

 今ぼくは手に汗を握っている。栄生さんの言葉に魅了されている。そんなことは知らないであろう栄生さんの話をただ聞くだけである。

 「図書室を出たらわたし火災報知器を鳴らして倒れるから、報知器のベルが鳴ったら、いの一番に職員室に向かってね。そうして先生を呼んできて。そのときに誰か倒れましたと言うのがいいかな。報知器とわたしの関係を言わないほうがいいの。一人先生が図書室近くに来るから報知器もここが原因だってわかると思うの、たぶん。来た先生はわたしか報知器に係るから雨崎くんは先生についてきてここですかさず、他の先生も呼んできますって言って先生の解答を待たずに走ってね。慌てているという感じをしっかり出せたらいいね。職員室に入ったら、できれば先生の名前を二人とも呼んで、図書室近くの報知器前でもう一人の先生が呼んでいますって言ってみて。これで残りの二人も来てくれたらいいんだけど。一人しか動かなかったらこれで負けだね。それでね、もしこの行動の裏でさっき図書室でわたしが近くに座った人が動いていてくれているかも確認してほしいな。その人が火事場泥棒をするかどうかで雨崎くんが実行犯になるかどうかがかわっちゃうからね」

 栄生さんは一息つく。思った以上に具体的に考えていることにぼくは感嘆した。運がよければ実行犯にならないようにしているのが恐ろしくもある。自分たちに疑いの目が向くことを避けられるなら避けようとしている。栄生さんは呼吸が落ち着いたからか続きを始める。

「もし火事場泥棒に行ったなら追いかけて職員室出てちょっとしたところで思いっきりぶつかって。倒れるくらい。そうしたら雨崎くんはこう言って。そのUSBは先生のって。向こうは後ろめたいだろうから、返しておいてあげようかと言えば差し出してくれるかも。これをするならデータコピーできるものを持ってきていてもいいよね。あとは先生に返すだけ、できれば先生に手渡しで。さっきの騒ぎのあと適当な場所で拾いましたってね。まあ一度盗まれたテストをそのまま使うことはないでしょうけど。これでどう、雨崎くん」

「どこまでもついていきます、栄生の姉御」

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