表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他愛ないぼくら  作者: 木彫ダイナマイト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/57

あんぱん

「栄生さんは毎日鞄にあんぱんを入れているのかな。いやわかっているんだ。あんぱんはいいね。エネルギー補給にはもってこいだ。しかも甘いものは脳をリフレッシュしてくれていると思うよ。しかも片手間に食物繊維が摂れるのもいい。腸の調子・・・」

「とうっ」

 頭頂部が痛い。そして向かいで栄生さんも痛がっている。全力で手刀をしてくるからだ。躊躇を知らないのか。たぶんぼくより栄生さんの方が痛いだろうに。

「雨崎くん、続けて何を言おうとしていたのかな」

「何って言っても、食物繊維による便・・・」

「ていっ」

 頭頂部が痛い。そして向かいで栄生さんも痛がっている。しかもちょっと涙目だ。どうして学習していないのか。どうして悪化しているのか。

「雨崎くん、ときに真実は人を傷つけるんだよ。沈黙や嘘が優しさになることもあるんだよ。それをわからないと今みたいにに言った方も言われた方も傷ついていくの」

 それは出来もしない栄生さんの暴力の果てにあったものであって、言葉には何ひとつ罪はないのだが。

「ならどうして栄生さんは聞いてきたのかがわからないのだが」

「流れや勢いって大事でしょう」

「もう少し流れを考えて発言した方がいいと思うんだ。だいたい聞く前に答えをわかっているから止めたんだろうに」

 頬を膨らます栄生さん。今回は確実にぼくが被害者なはずだ。まったく、叩かれ損だ。

「雨崎くんだってわかっているんだから濁し方とかあるでしょう。そこを考慮するのが雨崎くんのすべきことなの」

「ぼくはてっきり栄生さんの揚げ足をとるのがすべきことだと思っていたよ。まさか逆だとは気付けなかった。いや、これはまさしくぼくの失態だ。今後は栄生さんを称賛していくとするよ」

「どうしてそう極端なのかな、雨崎くんは。中庸という言葉知っているでしょう。目指せ、中庸・・・それは駄目ね。それは雨崎くんじゃない、雨崎さんになっちゃう」

 この場合は女性ではなくて距離感の話であろう。もちろん敬意や立場などでも変わったりするけれど。ぼくが雨崎さんと呼ばれたならば、たぶん建前を相手の手前に出して会話しているだろう。これはきっとぼくだけではないだろうけれど。

「じゃあ変わり者のぼくは」

「雨崎くん」

「誠実なぼくは」

「雨崎さん」

「捻くれ者ならば」

「雨崎くん」

「デリカシーがなければ」

「雨崎くん」

 ぼくは自分の良いところが思い浮かばないぞ。栄生さんにぼくの良いところでも君付けで呼ばせたいのに。あれ、本当どうしよう。ぼくの誇れるところとは何だ。頭の回転は早い方だと思うけれど、栄生さんの方が早いと思っているので違う。無駄な知識ならばどうだろう。ぼくが知っていることはだいたい栄生さんも知っている。よってこれも違う。優しさ、は論外。鬱陶しさ、これだ。違う、これもマイナスだ。いや、鬱陶しさをプラスに言い換えればいいんだ。暑苦しい、これはぼくではない。煩わしい、より悪くなっている気もする。不愉快、もう違うことがはっきりとわかる。あれ、鬱陶しいを良く言う言葉が出てこない。助けて、栄生さん。

「鬱陶しいを、良い捉え方したら何ていうのかな」

「雨崎くん」

「ちょっと待って。もしかして今までのは全部良く捉えてのことだったのかな」

「良くも悪くも雨崎くんだからね。極論雨崎くんに善悪はないよ。それが雨崎くんなんだから」

「つまりどういうことなのかな」

「雨崎くんはいつも通りでいいんだよ。ちょっと意地悪なくらいでいいんだよ。そうじゃないとわたしも色々言えないもの」

「いやぁ、そう言ってもらえると助かるよ。まあぼくも栄生さんの言葉に悪意がないことくらい見抜いているのだけれどね。軽くいなしてあげるよ」

「いっつも嬉しそうなのにしているの、知っているよ。わかりやすいんだから、雨崎くんは」

「えっと、やっぱり顔に出ているのかな」

「語るに落ちたね、雨崎くん。雨崎くんは楽しみにしているの。さあ、それをしっかりと言葉にしてわたしに伝えるの。カタルシスを得るのは今だよ、雨崎くん」

「言わないよ。何があっても言わないよ」

「もう雨崎くんったら。でも無理に言わなくてもいいよ。わたしは知っているから。雨崎くんがわたしと話すとき、心のなかでは浮ついているっていうこと、知っているから」

 ちくしょう。顔が暑い。また栄生さんに弄ばれた。栄生さんはぼくの隙をしっかりとついてくるのだが。本当些細なことで怒涛の如く進撃してくる。一気呵成に攻めてくる。ぼくを虐める事に心血を注いでいるのではないか。

「雨崎くんは可愛いなぁ。そんな雨崎くんにプレゼント。あんぱん半分食べるかな」

 そう言いながらあんぱんを取り出す栄生さん。そうだ。当初の目的を忘れていた。目の前の敵に気を取られすぎていた。

「そう、あんぱんだよ。栄生さんは毎日あんぱんを持ってきているのかな」

「毎日ではないけれど週に三日くらいは」

「食べ過ぎじゃあないかな。あと月並みな質問だけれど、こしあん派かつぶあん派、どちらなのかな。ぼくは甘いものであれば満足なのでどちらでもいいのだけれど」

「わたしはつぶあんだね」

「へぇ、理由は食感かな」

「・・・食物繊維」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ