乗り物
「白馬の王子様が迎えにくるってあるけれど、日本の公道で馬に乗るのって問題ないのよね?」
そんな話をぼくにされても。比喩表現を事実として受け取るのは面白い言葉遊びだけど、この例えはもう使い古されているであろう。だからさっさと終わらせるに限る。
「そうだね。馬は軽車両として扱われるから警察に不審者報告しても動いてはくれないだろうね」
「軽車両なんだ。自転車とかと同じなのね」
「そう、だから迎えにきて二人乗りした瞬間に警察に通報したらいいんだよ。ああ、これはもしかしたらだけれどヘルメットは着用義務があるかもしれないね。パレードで馬に乗っている人はどうだったかな。そこは実際に見たら警察に確認をお勧めするよ。王冠がヘルメットとして扱われてしまったらどうしようもないかもしれないけれど」
「王冠って頭を保護するようにできていないよね」
「ぼくは本物の王冠を見たことがないからね。もしかしたら中にはしっかりとクッション材が入っていて、顎紐で固定できるようになっているかもしれない」
「絶対そんなこと思っていないよね。頭の上に載せるだけみたいな形状でクッション材意味ないってわかって言っているよね」
「時代は変わっていくんだよ、栄生さん。最近の王冠はそういう点も考慮されているかもしれない」
「たとえそうだとしても威厳は失われていそうだよ」
「しかし栄生さんも白馬の王子に憧れがあるのかな」
「昔はね。迎えには来なくていいけど見た目として華があるじゃない。でもね、タイが王国と知ったときに想像して、アジア人だとなんだか違和感を覚えちゃって」
知識に理想を壊されてしまったようだ。なんて失礼な人だ、栄生さんは。まあ想像したのは自分だからしょうがないのだが。ぼくが手を下すまでもなかった。素晴らしい、さすが栄生さんだ。抜け目がない。
「それで雨崎くんは自分がどんな乗り物に乗ったら絵になるって思うかな?」
自分が乗ったら似合うものなんぞ考えたことすらないのだが。というか絵になるってなんだ。格好のいいものを探せと。それともしっくりくるものか。ぼくにそんなものがあるか。栄生さんは悪魔か。ここはまず栄生さんに答えてもらおう。
「人の名前を聞く前にまず名乗る、この礼儀を無視して栄生さんはまずぼくに答えを求めようというのかな。そんなことを、仁義礼知信全てを兼ね備えた栄生さんがするはずはないよね」
「うわぁ、雨崎くんがいっぱいいっぱいだ。いまさら名前を名乗りあうわけじゃないんだから、その礼儀はいらないでしょう」
「親しき仲にも礼儀あり、そうだろう」
「雨崎くんに返しが貧弱になっちゃっているから先に言うね。わたしは牛車がいいなぁ。のーんびり田舎道をとことこしていたいんだ」
逃げた。栄生さんは無難に逃げた。牛車だって。そのまま月まで帰ってしまえばいいのだ。いや、それだと栄生さんが姫ということになってしまう。そういえば口の軽い人を口から生まれたと揶揄することがある。つまり竹から生まれたかぐや姫は体内のどこかに竹があるのかもしれない、そう考えることもできるか。しかしなぜ竹なのか。月では竹が高額取引されているとしよう。それなら普通に竹を売ってくれと言われれば日本は売ったのでは。いや、最難関があるか。竹取の翁、竹をその名に冠しようとするやつだ。竹を売るとなると、わしのアイデンティティが、とか言って取引をやめさせたのかもしれない。竹とはいったいなんなのだ。平安時代に使われていた隠語かもしれない。今となってはわからない。しかしかぐや姫は姫ではなく単なる密輸入するやつだったのかもしれない。そのための身分詐称か。よしこれで栄生さんを姫扱いする必要はない。
「雨崎くん、かなり考え込んでいるみたいね。そんなに難しいかな」
「いや、これはかなり難しい問題だよ。とりあえず栄生さんことかぐやを月に強制送還させることにしたんだ」
「牛車から竹取物語はわかるけれど、かぐや姫はどんな悪いことをしたのよ」
「竹を密輸入」
「竹で強制送還なのね。それで雨崎くんの乗り物は」
「まだその問題まで辿り着いていないんだ」
「どうして一歩踏み出すだけの状態から迷子になれるのかな。世界最高峰の才能だよ、無駄な方向で」
これが才能ならぼくもいらない。しかしぼくに似合う乗り物か。
「栄生さん、何か乗り物のキーワードをください。本気で考えつかないです」
「すごい簡単なはずなのに。じゃあ空」
「高所恐怖症かもしれないんだ。高い橋を渡るだけでも心拍数があがる」
「じゃあ海」
「泳げないから怖いんだ。あと揺れで酔う」
「車は」
「酔う」
「電車も」
「酔う」
「人力車なら」
「人を使うということは会話をしないといけないじゃあないか」
「駕籠も一緒か。エスカレーターなら」
「それだ。それならぼくに似合うはずだ」
「やったね、雨崎くん。これで大きな問題が解決しちゃったね」
「そうだね、これも栄生さんのおかげだね」
「次の候補は自転車だったんだけど」
「すごい身近すぎて思い出せなかった」




