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何も起こらない日

「雨崎くんってあんまり刺激を求めていないよね」

「いやいや、それに関しては間違いだと言わせてもらうよ。栄生さんの思う刺激がどの程度を表しているかはわからないけれど、ぼくは刺激を求めているよ」

「動かざること山の如しと言わんばかりの雨崎くんがまさかまさか」

「栄生さんは甘く見ているね。確かにぼくは山の如く動かないかもしれない。でもね、それは見た目だけなんだよ。中には熱いものを秘めているんだよ」

「それってつまりは活火山ってことだよね」

 噴火したらどうなるだろう。ぼくの情熱は外に出すと冷えて固まってしまう。だから内に秘めたままのほうが良いのだ。

「ぼくが山だとしたら栄生さんは風かな。疾きことだね」

「わたしは絶対林です。行動はすべて優雅に厳かに徐ろなのです」

「思い立ったが吉日、善は急げ、石橋を叩いた反動で飛び越すのが栄生さんだと思っているのだが。ぼくのイメージは別人のものだろうか」

「それは間違いとは言わないよ。でもね、それはわたしのほんの一部なの」

「おや、ぼくには栄生さんのわずかな面しか見えていないようだ。山に登っているときは山の大きさはわからないというが、これがまさにそうかな。いや、山はぼくだ。つまりぼくは未だ自分の大きさを見誤っているのかな。ぼくはぼく自身を小さく思っているから栄生さんが大きく見えているだけなのかもしれない。目の錯覚を使うなんて栄生さんも姑息なことをしてくれるものだ」

「そんなことを言ったところでわたしの呼息は加速しないよ。雨崎くんの小手先の捻くれ発言なんて軽くいなしてあげちゃうよ。ああ、わたしってばなんて大きい人間なんでしょう」

「そうやって自分を大きく見せようとするところが嘆かわしいね。小さい子供が大人ぶっているのは可愛げがあるけれども」

「雨崎くんは本当に大人ぶっている子供を可愛いと思っているの?」

「そんなわけないよ。ぼくは小さいころ大人ぶっていたからね」

「そうだよね。とっても似合うよ」

 でしょうね。ぼくも皮肉を込めて当時のぼくに言ってあげたいよ。もっと素直に生きていたらもっと楽しいことあるかもよってね。そうしたら当時のぼくはこう言うんだ。子供だからってみんなが子供らしい楽しみがあるわけじゃあないって。・・・この子供は本当に可愛げのないことだ。

「まあぼくの小さいころのことはいいんだ。確かに周りの友達と一緒に知らない場所に行ったりすることを楽しんだことはない。小さいときはそんな刺激を求める人がいたことはわかる。しかし今だ、今栄生さんの求める刺激とはどんなものなのか」

「そうだね、理想は推理小説みたいに事件に巻き込まれて探偵に疑われたいかな」

 犯人この人だ。探偵は間違えていない。探偵に疑われたいからって犯行したんだ。快楽犯だ。ぼくの理想の犯人像だ。なんと素晴らしいことだ。しかしここは止めねばならない。

「まさか栄生さんが探偵と知恵比べをするために罪を犯そうとするなんて。それはやってはいけない」

「しないよ。一度は憧れるシチュエーションっていうだけだよ。仮に本当に巻き込まれても大体警察が来るでしょう。犯人じゃなくて余計なことしていたら証拠隠滅とかにひっかかりそうだしするわけないよ」

 憧れのシチュエーションなんだ。自分が犯人ではないことを証明するのは楽しいかもしれない。アリバイがなければなおさら。ただし行動に制限がかかるようなことも考えられるから面倒だな。ぼくにとっては却下。

「栄生さんの求める刺激はそんなに珍しいことだけなのかな。ほら、台風で学校が休みになったときとかの些細な非日常程度のことはないかな?」

「もちろんそういうのも欲しがるよ。でもそういうのは意図的につくれるんだよね。朝家を出る時間を変えたり、さっき雨崎くんが言った冒険みたいに普段行かないところに行ったり」

 確かに。引きこもり気味なぼくにはなかった発想だ。それが刺激になるなんて考えもしなかった。いや正確には知識としてはわかっていたが実際にそうしようとは思わなかった。だって毎日同じルーティンだと考えなくてよくて楽だからね。

「そういえば雨崎くんはどんな刺激を求めているのかな」

「ぼくにあるのは知識的好奇心だよ。調べたらわかることもだけど、調べる前に自分なりに考えてみたりするのも楽しいね」

 ちょっと照れるな。続けて言うのが恥ずかしい気もする。

 まあまあまあ、いつもは変だけどごく稀に良いことを言ったりもするわけで。飴と鞭も使い分け、鞭で打たれ続ければ血も出るわけで。鞭の血と言った暴行を行うソクラテスもいたかもしれないわけで。風評被害を喰らうソクラテスもいるわけで。飴が雨でぼくに対する隠喩なのではと勘繰ったりもするわけで。結論はぼくが無知だと言われていると思ったりもするわけで。

 恥ずかしさからの逃避もここまでにして、素直に言うことも大事だなわけなのです。

「栄生さんと話をするのはぼくにとって大きな刺激で、とても楽しいんだよ」

「愛いやつめ」

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