神様
「雨崎くんってさ、神様はいるって思う?」
今日はかなり攻めた質問を飛ばしてきたな。宗教に関わる大きなところだからね。もしぼくが敬虔なキリスト教徒だったらどうするのだろう。神の愛について余す所なく語っていたかもしれない。お昼に礼拝をしてないことは周知の事実なのでイスラム教ではないとはわかるか。あと可能性があるのは、フライングスパゲッティモンスター教か。教育に宗教を持ち込まれていることに対して作られた宗教らしい。なかなか真っ当でユーモアのある教義らしいが。まあぼくは宗教に対しては浅い知識しかない。そんなぼくの解答はこうだ。
「ぼくは神がいようがいまいがどっちでもいいと思っているんだよ。神を否定も肯定もできないと思うんだ」
「あらあら、完全否定派という可能性もあったけれどそっちかぁ。じゃあどうしてそう考えたのかな」
なぜか楽しそうな栄生さんだ。そんなに大事な話ではないはずだと思うんだが。まあぼくはぼくの考えを伝えるだけである。
「まずよく科学と神を相反するものとすることは多いけれどそもそもそれが違うんじゃあないかと思うんだ。天地創造から神話時代に自然現象などを神によって起こされたものだとしてきたけれど、それは全て科学で説明がつくからってことでそうなってしまったのだろうとは考えられるのはわかる。けれど神が説明つくようにこの世界を作ったって言ってしまえばこの考え方は全部終わっちゃうんだよね。神なんだから自分の存在を悟られないようにすることも容易いだろうし。だから科学と神は共存できるんだ」
楽しそうに頷いてくれる栄生さん。ぼくもなんだか気分が良い。栄生さんも同じ考えなのだろうか。そう思いつつもぼくは続ける。
「それに人の考え方っていうのかな。龍とか人魚とか、違いはあれど同じ言葉で括れるものが世界各地の神話や伝承にあったりするよね。神話自体にも相似点もあったりするらしいし。人間の根幹が同じなんじゃあないかなって考えることもあるんだ。例えば同じ神が人間という同じものを色々な場所に作って、環境の違う場所に置いたとか。そういう考え方もできると思うんだ」
「面白いね、雨崎くん。でも今までの話だとわりと神様を肯定的にみているよね」
「そうだね、別に否定する理由はないからね。でも最初に言ったように、神がいようがいまいが関係ないんだと思っているよ」
突き放すような言葉だけれど別段他意はない。口調も淡々としているいつものぼくだと栄生さんにも伝わっている。
「どうしてかな、どうしてかな」
だからいつものように、茶化すように、ぼくに聞いてきた。彼女の二度同じことを言う癖は、正直ぼくには心地よくもっと会話をしたいと思わせる。絶対に本人には言ってやらないけれど。
「ほら、神が人間に知恵を与えたって言うじゃあないか。つまりは自分のことは自分で考えろということだと思うんだ。さっきの言い方だとぼくが神を突き放した風に思うだろうけれど、逆なんだよ。神が人間を突き放していると思うんだ。だからもう神は人間に関与しないんだろうって考えているよ」
「それならどちらにしても雨崎くんの生活に全く影響しないよね。神様に対しても雨崎くんは無関心を貫いているところなんて雨崎くんらしいね。じゃあじゃあ、どうやったら神様のいるいないを証明できると思うかな」
また無茶をいう。そんなことぼくにわかるのであれば既に誰かに証明されているよ。そんな人がいれば既に照明の当たる場所にいるんだよ。その人は正真正銘の天才だよ。
「そうだね。遠い未来人間が宇宙を創って、太陽を創って、地球を創ることができたときに科学とは別のアプローチで証明できるかもしれないかな。科学は神の領域かもしれないからね。隠すことも容易いと思うんだ」
「雨崎くんでも無理かぁ。じゃあ私たちが生きているうちには無理だね」
どうしてぼくにそれを証明できると思ったのか。絶対無理だと思っているよね。その点については触れないでおこう。嫌な予感がする。だからぼくが聞くことはただひとつ。
「栄生さんは神がいると思っているのかい」
「わたしもどっちとも言えないよ。でもね、雨崎くんの話を聞いて神様がいてもいいんじゃあないかなって思ったの」
ぼくの話からどうしてそう思えるのかがわからない。いてもいなくても僕たちには一切関わらないような神なのに。
「わたしの想像する神様はずっと一人でいて、例えば初詣の度に、去年のことを感謝すれば今年もお願いして許されると思っているのかって、人間に悪態ついちゃってる感じだったの。人間の傲慢さに辟易してそうで、まるで雨崎くんみたいだね」
ぼくのイメージで神を定着させないでください。というかそれでぼくに証明の仕方を求めてきたのか。
「でもね、雨崎くんの神様は不干渉でしょう。だから初詣も他人事なんだよね。勝手に話しかけてきて自分の秘密を暴露していく人もいるんだよ。それに人間を自立させたからあとは観察していてもいいんだよね。なんだか性格悪そうに思えるけれど、ひとりぼっちの、寂しがり屋の神様のちょっとした楽しみになるよね」
ぼくは神に感情はあるかどうかという言葉を投げようと思ったが思い止まる。あどけない栄生さんの答えを汚したくなかった。
「栄生さんの神はまだ善悪の区別はないのかな」
「そんなの人間基準だもの」
ぼくのささやかな皮肉を彼女は笑いながら流していく。




