悩み事
「栄生さんは悩みごとがあったらどう解決するのかな」
「どうしたのどうしたの。そんな深刻な面持ちで。さてはやらかしたね。もうみなまで言わなくても大丈夫。ぜーんぶこのわたしに任せてよ。ひと肌脱いであげよう」
「脱皮は勘弁願いたいのですが」
「なんだと、人肌は脱がないよ。よしんば脱いだとしても、雨崎くんなら中に綿を詰めて大切に飾るでしょうよ」
「そんなことして本当に良いんでしょうか」
「やめて、恥ずかしい」
怒涛の喜怒哀楽、栄生さんは留まることを知らない。一足飛びで次の感情に移行する。段階すら無視する。ノンストップかつノンステップ。もうこの際栄生さんのお面を作ろう、喜怒哀楽の四種類。それらがあれば栄生さんの殻に感情をつけることも可能になる。咄嗟に出てきた案にしてはなかなか良いものだ。意外なところで、ぼくの手の届かないところで、ぼくの想像は広がっていくもの。そんなぼく自身の無意識を褒めてあげたい。
「勢いだけでそんなことを言うから恥ずかしい想いをするんだよ。そしてぼくは栄生さんはどう解決するかを聞いてみたいだけなんだ。なんだか栄生さんなら考えずに行動するという選択肢しか出てこないのではと心配すらしているんだよ」
「わたしって猪突猛進系女子なの?」
「それはそうだよ。さっきのやりとりではっきりと証明されたね」
「それは雨崎くんが誘導したからでしょう。わたし、脱皮はしていないもの。恥ずかしいし」
出来るんだ、脱皮。もう栄生さんは人間ではないと自白したようなものだ。外骨格系栄生さん、それゆえに面の皮も厚いのか。しかし恥じらいはあるので厚くはないのか。虫は恥じらうのか。アメーバかなにかはストレスを感じると聞いたことがある。ならば恥じらってもおかしくはないか。
待て、蛇など爬虫類も脱皮をする。外骨格に囚われてはだめだ。まさにこの観点が目から鱗になり得るかもしれない。殻を破るとは人間的成長を表すこともできる。今確認できる限り栄生さんは人型である。よってそちらの意味でもあるのかもしれない。もしくはダブルミーニング、両方ともということもある。これは今世紀最大の謎かもしれない。八十年後に期待しよう。
「勢いに任せて出来もしないことを言うのはやめたほうがいいよ。本気にしたりあらぬ勘繰りをする人もいるからね。栄生さんの抜け殻を探し求める人まで出てくるかもしれない」
「どうしてわたしの抜け殻を欲しがるのよ」
「蛇の抜け殻みたいに幸運のアイテムとふれ回る輩がいるかもしれないからね」
「それ雨崎くんだよね」
「いやいや、どうしてぼくがそんなことをすると思うのかな」
「そうすると面白いからとか思いそうじゃない。今日帰ったら部屋をもぬけの殻にしちゃおう」
否定できない。むしろぼくが見つけて栄生さんに見せつけて遊ぶかもしれない。栄生さんの抜け殻を見つけるために栄生さんの後を尾けるぼく、絵面は完全に犯罪である。
「そうそう、それで悩みごとの解決する方法だけどちゃんと分別ある選択しているんだから。被害を考えて大したことないなら思いっきり突き進むのは否定しないけど。基本的にその行動が失敗したりしたときの被害が基準なのかな、わたしは」
意外だった。単騎駆けこそ戦の華よとか言ってそうな栄生さんがリスク管理をしているなんてありえない。そうか、武士ではなく騎士ならばあるいは。確かフランスの騎士も戦果が欲しくて我れ先にという考えだったはず。しかし日本と違うのは捕虜の待遇だ。お貴族様を捕虜にすると身代金が手に入るので、しっかりとした扱いをされるらしい。つまり捕虜になることはリスクではないのだ。そうだ、栄生さんはリスクを軽くみているのだ。だから栄生さんをしっかりと正さねば。
「栄生さん、ここはしっかりと聞いてほしい。戦争は死ぬ可能性もあるんだよ。敵軍に一人で突っ込むのは止めておくんだ」
「えーっと、雨崎くんはなにを言っているのかな。どこからわたしが戦争に行くことになって、傾奇者にまでなっちゃったのか教えてもらえるのかな」
「あれ、栄生さんが人間ではない話をしたあとに続けて話さなかったかな」
「どんな話をしたつもりなの。と言うかさっきより顔色悪くなっていないかな。とりあえず保健室に行って迎えを呼びなさい」
たぶん熱があるのか。思考と現実の区別がつかないのか。さっき褒めた無意識が調子にのってぼくを乗っ取ったのか。なかなか面白い発想もあった。覚えていたらまとめておきたいものだ。
「あと雨崎くん、次、覚えておいてね」
忘れよう。




