幽霊なんて
「栄生さんの期待を裏切るようなことを言うけれど幽霊ってわりと少ないんじゃないかな」
栄生さんはぼくの言葉に驚いたようで、視線を揺るがすことなくこちらを見てくる。あれだけ怖い話をしたがるし幽霊がいればいいなってくらいに思ってるはずなのに、どうやら的外れだったか。幽霊がいるという前提で話したのが失敗だった。
「雨崎くん、どうしてそんなことを言うの。友達が少ない雨崎くんのお友達の数を自ら減らそうとするなんて、なんて邪な鬼のようなことを。この天邪鬼」
言われ慣れているけれどどうしてわざわざそんな周りくどい言い方を。それに何故心配から説教につながったのか。ぼくには全く身に覚えのないことなのに。
「それに二人で幽霊についていっぱい話したじゃない。あんなに盛り上がったのにもう忘れちゃったの」
「何度か怖い話はしたけれど幽霊が出てきたのは栄生さんの一回だけだよね。別に幽霊について盛り上がったことはないんじゃないかな。というか幽霊と友達になったことすらないよ。信じてもいない幽霊と友達になるっていうのはどういうことか教えてほしいくらいだよ。友達になりたがっていたのは栄生さんだろう」
「雨崎くんがなんか数学でよく使われる文言で友達になったって言っていたよね。あの、ここに幽霊がいると仮定すると、みたいな。雨崎くんの家庭には幽霊がいるということだよね」
「ぼくはそんな仮定をしないし、うちもそんな家庭ではないんだよ。そんな仮定をするような過程を経ていたなら、ぼくは幽霊がいないとわかっていながら幽霊に話しかけるという奇々怪々な人間になってしまう。栄生さん、想像してみてよ」
「そうだねぇ、急に雨崎くんが誰かに話しかけるでしょう。そうなるとわたしは、誰に話しかけているのって聞くよね。そうしたら雨崎くんは、誰にも話しかけていないよ、ってなっちゃうわけだ。こうなると雨崎くんは正しい認知をしているけれど誰もいない誰かに話しかけている。つまり解答を求めていないことを話しているのではないか。謎は謎のままでいいのだけれど誰かに話したい、解決したくない面白い謎を抱えているのかな。さあどうかな」
「さあどうかなっていうかただ変な人ってことで終わるはずなのだが。なんでそんな理知的な考え方をしているのかな」
「ほら、雨崎くんってあんまり余計なことしたがらないよね。だからかな、きっと理由があると思っちゃうんだよ」
「いやいや、ぼくが実際にしているわけではなくてこれこそ仮定の話なんだよ。仮定の話の仮定は頭こんがらがってくるからシンプルな答えでいいんだよ。というか一番の前提のぼくが幽霊と友達という話すらありえないんだよ」
「なーんだ。雨崎くんならわたしにできないこともやってくれるって思ったのに」
「それは敬意によるものではなく特異による期待過剰だよね」
「あらら、ばれちゃいましたか」
期待過剰ってプラスがマイナスになると思っていたのにマイナスからさらにマイナスに使えるのか。恐るべし栄生さん。
「そういえば幽霊が少ないってどういう理由でそんなことを言い出したのかな」
「そうそう、日本の気候などを考えるとなかなか幽霊も生きづらい環境なのではと思ったからだよ」
「どうしてさ」
「塩がわりと多いんじゃないかなって思うんだ」
「海に囲まれているからかな。でもそれくらいなら山も多くあって防いじゃうからそんなに影響ないんじゃないかな」
「ぼくもそう考えたんだけど台風がその範囲を広げたりもしているんだ。それに夏の暑さもだね。汗に含まれる塩分もあったりするよね。学校のグラウンドなんて誰も知らないうちに塩を撒いている状態なんじゃあないかな」
「雨崎くんもなかなか考えているのね。でも内陸側は汗のみだから影響は少ないよね」
「そこは冬に補うことができるんだよ、そう特に雪の多い地域は。そう凍結防止の塩化カルシウムだよ」
「すごいじゃない。それなら車に付着して色々なところまで運ばれちゃうかもしれないわね。すごいよ雨崎くん。よく考えられた理屈だね。ただ一点、大事なことを見逃しているの」
なんだというんだ。塩で除霊という点から日本における幽霊の分布図を考えた。今までの理由からかなり生息地域を減らせると思うのだが。ぼくはまた栄生さんに負けてしまうのか。
「ぼくが見逃している点、是非ご教授願いたいね」
「雨崎くんが見逃している点、それはね、塩で除霊するのは神道のみなのよ。もし幽霊が仏教徒だと効果がないのよ」
「幽霊にも宗派があるのか」
「それはそうよ。病は気から。幽霊だって自分は塩に弱いって思い込んじゃっているから除霊されちゃうんだよ」
「除霊って病気なのか」




