二文字
「雨崎くん、二文字の面白い言葉知らないかな」
はい今日も始まりました、意味のわからない話。もう振り方も雑。伝える気皆無。言葉足らずにも程がある。これは探りを入れるところから始めなければならない。
「面白いっていうのはどういうことなのかわからないよ。どんな二文字の面白い言葉を探しているのかな」
「そうだね、説明もなんにもなかったね。今朝不意に思いついたの、毎日を逆に書くと日毎だってことに。でもなんだかそれはそれで終わりだと思いましてもっと面白いものはないかなと。わたしの好奇心を刺激しうる言葉はないかなと」
「つまりはすべて栄生さんの匙加減だと」
「そうね。こんな些事ではあるもののわたしは大匙二杯を期待しているのです」
くだらないうえに意味までわからない。大匙二杯と明確な数字を出されても計るものが面白さというあやふやなもので匙では計れないものだからどうしようもない。しかも小事に朝から今まで捉われすぎているではないか。とにかく思いつく限り言ってみるとしますか。
「年中とか」
「中年ねぇ、却下」
即却下されました。え、これ意外と難しいんだけど。えーっと。
「東北」
「北東、面白くない」
辛辣。言葉数少ないほうが辛い。というかせめてどういう風なのが面白いのか方向性を示してほしいのですが。ぼくの心を砕くことが面白いのですか。二文字考えるのが難しいのに、熟考の末の叩き落としはやめていただきたい。
「栄生さんも考えているのかな」
「わたしは朝から夕方まで考えていたけれどもう諦めたの。だからこうやって雨崎くんに頼っているの」
頼るって半強制なのか。ぼくは初めて知ったよ。頼られている割には無碍にされていると思うのですが。いやはや、ぼくは認識を誤っていたようだ。信頼とは信じて頼ったふりをすることなのだと。『しんらい』と『しんらつ』は僅かな差しかないということなのだと。限りなく近しいものなのだと。・・・思えるはずがない。栄生節はぼくの図りしれないものなのだ。それが一番腑に落ちる。いや、落ちるわけがない。ただ単なる理不尽。
「月でなんかないかな。睦月、如月」
「それ。ピンときたよ、如月。月の如し」
「えっと、これだと本題から離れているような気もするんだけど。送り仮名あるし」
「そんなことはどうでもいいの。それがなんだか面白いと思ったからそうなの。いいね、雨崎くん、いいね。この流れのまま雨崎くん、一句どうぞ」
もうこれは匙加減ではないよ。レシピそのものを変えているよ、栄生さん。しかしそのことで頭を抱えている暇はない。すでに別案件を抱えさせられているのだから。抱える頭が二つあるのだから。腕は二本しかないのに。まったく、呆れることはあれども飽きることはないね。では回答をば。
「澄む空に 衣更着丸く 月の如し」
「さすがだね、雨崎くん。俳句の良し悪しはわからないけど言葉の選び方は面白いね」
栄生さんのこの物言いにこそ信頼を感じる。ぼくはご満悦な栄生さんを極力視界から外して、微笑んでいるであろう自分を隠した。




