八
「雨崎くん、わたしたちは八という数字の可能性を見誤っていたと思うの」
この人はいつこのようなことを考えるのだろうか。本当に羨ましいとも思う。当たり前を当たり前として処理していたものを突如そこに疑問を感じる。そしてそこに自分の変な発見をしてしまうのだから。頭の体操の自給自足、自分で思った言葉だが言い得て妙だ。うん、ぼくはぼくが羨ましいと思っても構わないのではないか。・・・自画自賛とは虚しいものだ。
「栄生さんは八にどういう可能性を見出したのかな」
「まずは有名なアラビア数字の八を横にすることで」
「インフィニティだね」
「さらには日本で古来八という数字は」
「たくさんを意味するね」
「八百万、八百屋、八幡宮。八幡宮はちょっと違うかな。由来元はたくさんの意味が取られたのかもしれないから入れちゃってもいいかな」
「もしかしたら親指が霊魂の通り道だから数を数えるときに親指を使わなかったのかもしれないね。だから八は最大の数でたくさんを意味していたのかもしれない。多くの数を把握することは神様の領域みたいな民族信仰を聞いたことがある気がするから、そういうのかもしれないしね」
「なかなか面白いことを考えてくれるよね、雨崎くんは。ついに八の偉大さに気付いてくれたかな」
「どう足掻いてもそう捉えることは出来ないよ。まだ八の持つ潜在能力をぼくに伝えきれていないからね」
「雨崎くんは欲張りだなぁ。じゃあ次にいっちゃうよ。次はもう壮大だからね。人類最大の夢だからね」
大きく出たなぁ。人類史まだ叶えていないことを八で表そうというのか。インフィニティはもう出している、つまり別の切り口を見せて魅せてくれるという。しっかりと拝聴しよう。
「八といえば蜂。蜂といえばなーんだ」
「アナフィラキシーショック」
「どうしていつもそう窮地に立とうとするのかな。蜂といえば蜂蜜でしょう。蜂蜜といえば腐らないものの代名詞といってもおかしくないでしょう。そう、蜂蜜は不老不死を表してるといっていいのです。そして蜂蜜を八が三つ、八八八で表すこともできるの。おーっと、でもまだ終わりじゃあないの。八八八、これはエンジェルナンバーのひとつでもあるのよ。つまり八八八には富と不老不死の意味を持たせることができるの。始皇帝もびっくりして思考停止しちゃうんだから」
よく考えたものだと思うところだが最後の言葉は許せない。なんとくだらないジョークだ。そんな悪い子には蜂に倣って釘を刺しておかねば。
「しかし栄生さん、蜂の一刺し、八に針を突き刺すと小になってしまうんだよ。八を蜂と見做すことにぼくは反対するね」
「もう雨崎くんは器が小さいと思われちゃうよ。無限大には大きいとか小さいとかないんだよ。もうそんな次元にはいないの。比べることができないんだから」
「それにね、八つ当たり、八方美人、四苦八苦。悪いことも多いと思うんだよ」
「方角で使うことも多いからね。日本語が四字熟語より五字熟語が当たり前だったらきっと十六方美人になっていたのだから。それに四苦八苦はわりと努力しているように感じるんだよね。そもそも四苦は人として逃れられないものだし追加の四苦も人が社会で生きていく上で生じるものだからね。つまり悪い言葉ではないの。真理なのよ」
まあ確かにそうだけど。どうせぼくも思いついた言葉を並べただけだから追い詰める要素は弱いからね。まだチャンスはある。
「さらにさらに、八はね神を凌駕していることもあるんだよ。阿修羅に因んで三面六臂の言葉があるでしょう。それを超える言葉はまさしく八面六臂。まさしく八の面目躍如。八面六臂の大活躍」
「これは確かにそうだね。ぼくは今八に魅了されそうになったよ」
「というわけで最後いっちゃうよ。これはもうすごい有名なんだけど末広がり。これはもう何も言わなくてもいいよね」
「ああそれね、あれはもう日本を震撼させた恐ろしい事件だったね」
「ちょっと待って。わたしの知っている末広がりじゃあないよね」
「あれ、栄生さんは知らないのかい。普段から才色兼備を自称しているのにあの日本の文化を変化させた事件を知らないなんて」
「わたし本気で自称したことないよね。冗談ってわかっているよね。いや待って、今はそこじゃあないの。雨崎くんの頭の中には一体どんな事件が起こっていたの」
「電話帳や卒業アルバムすら無くしてしまったあの事件を知らないのかい。政府は日本の苗字制度を無くすのではとぼくは思ってしまったね。いやあ、ぼくは雨崎でよかったよ。栄生さんも栄生であったことに安堵しなかったのかな」
「まさかのスエヒロ狩り。危険な事件を捏造しないであげて」




