休日
「雨崎くんって休みの日は何をしているの」
「おっとぼくほど多忙な人間に対してそんな具体性のない質問は解答に困ってしまうのだよ。わかってもらえるかな。一般的な休みの土日ももう二年先まで予約が埋まっているからね。過去も少なくとも五年はぼくの自由な時間はなかったね。そんなぼくに休日なんていう蜃気楼のようなものの話をしてほしいと。いやあそこにあるようでそこにないものと上手く例えたものだね、ぼくも。ちなみに楼は建物を表すんだ。蜃気楼は建物とは限らないけれどね」
「そうだね、雨崎くんは多忙だからね。じゃあもう一度、だけ、聞くけれど休みの日は何をしているの」
笑顔である。素敵ではなく索敵だ。敵だと認識されると直ちに攻撃されるのであろう。栄生緊急迎撃システムを刺激をしないように立ち回らねば。いや立ち回るも普通に話せばいいのだが。でもやってみたいのは大立ち回り。栄生さんの問いかけを千切っては投げをしてみたい。キャベツのように細く均一に。
「あと数回許していただけないでしょうか」
これはね、下手に出ることで相手は優位性を感じ許しやすい環境をつくるんだ。そこから行う下剋上、それはまさしく極上。さあ栄生さん、ぼくを許せ。
「だーめ」
許されませんでした。わかっていたことでした。ぼくはこれに逆らえない。きっと本能で危険を察知しているのかもしれない。蛇ににらまれた蛙のごとく二進も三進もいかないのだ。素直に話すことがただひとつの許された道なのだ。
「予定のない休みはわりと長いこと寝ているよ。二度寝三度寝もなんのそのだね。寝ることに全力を尽くすことが多いよ。寝る子は育つを体現すべく生きているよ」
「布団から巣立ちなさいよ」
「でも寝ながらする読書は何事にも代えがたい」
「普通に代わるものいっぱいあると思うんだけど。例えば散歩しながら本を読むとか」
「危険が所狭しと蔓延るこの時代にそんなことできないよ。二宮尊徳が現代に生まれたらたぶん車に轢かれているからね」
「そう思うと歩きスマホは勤勉の証になっちゃうよね。本を読んでましたも通じるわけだし。つまり今となっては二宮尊徳の像は反面教師なのかな」
「まだ残っている像の横に車を置いておくのが良いと思うんだ。飛び出し注意の看板と一緒に」
「それは教育委員会に怒られちゃうよ」
二宮尊徳の少年の像は徐々に撤去されているらしい。理由は子供に勤労はどうかということもあるらしいが。そんな時代があったことは事実だ。それに比べたら恵まれているということを伝えるためにあったほうが良いと思うのは浅慮だろうか。
「まあそれはさておき布団で読書に勝ることを考えようじゃないか」
「忘れていたよ。雨崎くんが巣立つためにするべきことを考えなくちゃだね」
栄生さんは本題を忘れていたのか。このままこの話を終わらせればよかった。戻してしまったがためにぼくの安息日が脅かされることになるかもしれない。失敗した。
「図書館まで歩いていってから本を読むのは」
「ぼくは人がいると集中力が散漫になるんだ。ほら、近くにいる人が急に暴れ出したらどうしようとか考えないかな」
「もう雨崎くんは生きていくことが困難なんじゃないかな」
それはそうだ。でも本当たまに考えることはあるんだけど。別にぼくが狙われているとは思わないけれど偶然巻き込まれてしまうんじゃないかなと。他人に無関心な世の中だからぼくがどうなろうとどうでもいいんだろうから。世も末だなぁ。ぼくの頭の中だけの事件なんだけど。
「むー、ならボディガードがいたならばいいよね」
「そんな人を雇うことができないよ。それにお金で雇った人は信頼できないね」
「じゃあわたしがボディガードをしよう」
「いやいやいや、どうしてぼくが栄生さんに守られないといけないのかな。それに周りを警戒するならぼくのほうが向いているよね。人を疑ってかかるのはぼくの気質だよ」
あれ、なんだか話が変な方向にいっていないか。ぼくは休みを平穏に過ごすことを望んでいる。そういう話のはずがなぜボディガードなどという不穏な話になっているんだ。しかもぼくがガードする側になろうとしている。自主的な意思はないのに自主的に発言をしている。なんと恐ろしい誘導尋問か。敵は常に身近にいたのだ。敵は懐に潜り込むのだ。信頼を得たところで本性を表す。しかし今ならまだ間に合う。しっかりと意識を保ち敵に立ち向かうのだ。
「じゃあ今度雨崎くんにボディガードを頼もうかな」
「そうだね。みんなを栄生さんから守るのがぼくのすべきことだ」
「なんだとこのやろー」




