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宿題

「ぼくは思うんだ。ぼくたちの両親は義務教育の犠牲者だったのではないだろうか」

「今日は気分が良いから雨崎くんのまわりくどい話も全部聞いちゃうよ。さあ話すがよい」

 向かいに座る彼女は軽く手を叩く。そう、給仕を呼ぶかのように。お貴族様ですか。ここはしっかりと申し奉ってやる。

「まずこういう話を聞いたことはないかい、子供の仕事は勉強だと。まあ給与が発生しない点でこれは否である。しかしそういう刷り込みをされてきている人はいるはず。次に宿題というものがある。これは家での予習復習をやりやすくするものであるはずだ。つまり宿題をすることで、より勉学を身につけやすくなるということだ。この二点を踏まえたうえでこういう事例も枚挙に暇がない。それは、家庭を蔑ろにして仕事に励む者だ。家庭を守るための労働ではある」

 ここまでは淡々と、そしてここからが大事なのだ。ぼくの主張をしっかりと聞いてもらうのだ。声を大にして言いたいけれど声量は抑えめに。

「もちろんそれは理解している。しかしバランスが非常に悪い。なぜそうなってしまうのか。それの答えが先ほどの二点にかかってくる。そう、勉強という仕事を宿題として家に持ち帰ることを常態化されているからだ。家で仕事をするということを幼少期から慣らされているからだ。これこそが義務教育の犠牲者なのだ。さも当然のように家庭で勉強をするように言ってくる。そしてそれを不思議に思わない環境をつくりあげる。なんと恐ろしい。極めつけは長期休暇。休みと銘打っておきながらやはり宿題というものを課す。世に社畜という言葉があるが、その環境や良とする気持ちは既に作り上げられているのだ。学校は社会生活への準備だという意見もあるが悪の部分すらしっかりと教育されているのだ」

 雄弁であったとぼく自身思う。これにどのように反論してくるかな、栄生さん。真面目な彼女のことだ。宿題の定義などをついてくるに違いない。しかしこの件については中学時代から時折疑問点として自問自答してきた。ねじ伏せる。さあ来い。

「雨崎くん、子供の仕事は勉強ではないという点、間違えているよ。なぜならその仕事は完全出来高制なのです。だからお金としての利益は発生しない作業であるため、給与は発生しないの。代わりに知識という対価を受け取っているんだよ。よって子供の仕事は勉強なのです」

 意外だった。ぼくが否定した点をまさかそう肯定するなんて。しかしそれではなんにもならない。だからぼくは余裕をもったままでいられる。

「ほう、それで」

「だからね雨崎くん、さっきの話の結論に諸手をあげて賛同します。これはもう大正デモクラシーだよ。声高に掲げていくべきシュプレヒコールだよ」

「栄生さん、デモ運動はデモンストレーションだよ。絶対言いたかっただけだよね」

 まさかの賛同に仰天して普通の反応をしてしまった。栄生さんなら宿題はあって然るべきだと主張するかと思ったのに。自主性をなんたらかんたら言ってくると思ったのに。意外だった。栄生さんも普通の学生だったということか。まあそうだ。宿題なんてなくても自主性のある人は勉強するだろう。正直各々の自己責任であろう。ぼくは憧れがない。どんな職業になりたいかと問われても答えを持っていない。10年後の自分が何をしているかなんてぼくにはわからない。だから何にでもなれるようにしておいたほうが良い。何をするにしても知識は理解のショートカットになり得るのだから。

「では雨崎くん、この案を先生方に提出する嘆願書の作成を求めます。早急にまとめてわたしに提出するように」

「えっと、本当にするのかい」

「もちろんだよ。これはこれから未来を担っていく若人全員に関わってくる問題なの。行動は迅速に、なの」

「そんな大きな問題なんだ。でもさすがに無理だと思うよ。宿題をなくすなんて」

「え?」

 あれ、栄生さんが硬直した。ぼくの熱弁のなかに伝わりにくいところがあったのかな。宿題に対する不満に誤解があったとは思わないのだが。ここは意見の不一致を正さねば。宿題はいるかいらないかのwhichを。

「栄生さんも宿題に反対なんだよね」

「違うよ。宿題を授業の始めに出してもらって、授業を聞きながら解いていくんだよ。そうすることでどこがわからないかがわかりやすくなるかなって」

 ああ、真面目だなぁ。

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