船頭多くして舟山に上る
「船頭多くして船山に上るってすごいことだよね」
「ノアの方舟もびっくりの結果だとぼくは思うよ。今後大洪水があった際は自己顕示欲の強い船頭経験者の多いところに乗船するのがいいんじゃないかな。予め山に上っておいて押し寄せる波を回避しある程度落ち着いてから着水するのが安全だと思うんだ」
「いや、そうなんだけどそうじゃないの。思うように進まないってことが言いたかったんだろうけどどうして山に上らせようと思ったのかな」
普通に考えれば海と真逆をイメージしただけなんだろうけど栄生さんの求めているものはそうではない。別に船を沈ませてもよかったんじゃないか。違うところに辿り着いたってことでもいいんだ。なんでもいいわけじゃあなくて確実に山を上らせないといけない理由を求めている。今ぼくは試されているのだ。栄生直伝物語風解説はぼくには無理だ。やはりぼくには時間稼ぎをしながら説くほうがいいか。いざ栄生さんを説き伏せる船出のとき。
「まず最初に考えるべきは状況だ。船頭という言葉は基本小さい手漕ぎ船で使われている感がある。しかし今乗っている船は慣れていない船なのではなかろうか。どの船頭の発言も信憑性がないからこそどう動けばよいのかがわからなくなる。それに船員が少数だと一人の船頭が上手く出し抜き船の航路を決めてしまうかもしれない。よってかなり大きな船だろう。そして複数の船頭がそれに乗り込んでいる。そしてその船の船長はいない。このことからかなりの窮地ではと思うんだ、何かに追われているとか。あとは時代だ。これはことわざなのできっとエンジンのない時代だと思われる。よって帆船、櫂も併用していたかもしれない。ここまでは納得できるかな」
「そうね、船のサイズや緊迫した状況だということはイメージできたよ」
「よし、では次にいこう。船頭は皆が皆自分が正しいと考えているうえ、自分以外の船頭はこんな大きな船動かしたことないだろうと疑っているんだ。そんな人たちが集まったところで航路が決まるはずもない。話し合いで意見を煮詰めていけばいいのだがいかんせん時間がない。みんな冷静さを欠いている状況である。そんなときに一人がこう呟いた、あの鳥のように空から見ることができたら。その言葉聞いていた何人かの船頭は同じことを考えたんだ、高いところから見ればどう動くべきかわかるのではと。栄生さん、ついて来れているかな」
「うん。なんだかここからはついて行ってはいけない気がするんだけど、もう乗りかかった船、ついて行かざるを得ない状況だね」
「まったく失礼だね栄生さん。ここまでおかしい点はないはずなんだ。自然な流れできているのだから自然に流れていくだけなんだよ。ここからまさか木を切ったあとに等間隔に植林された不自然な自然のような流れになるとは思えないよ」
木が等間隔に並んでいるのを見ると違和感というか気持ち悪さを感じるのはぼくだけだろうか。あんな木を切り倒してしまいたい。実は船は山を上ったのではなく山でできたという説が作れるのではと今考えたよ。いつか使えるかもしれないが、今ではない。話を進めよう。
「複数人の船頭が山に上ることを提案した。ここで初めて意見の一致があったんだ。全員ではないけれど緊急時に何人かが同じ意見を出せば最適解なのではと思ってしまったんだろう、この案が通った。そして早くこの場を去りたいとはやる気持ちを抑えきれず船ごと山に上ることにしたんだ」
「はいはいはい、どうして船ごと上ろうと思ったのかがわからないです雨崎先生」
「それはこの次にわかるのだけれど、この船が山を上ることのできる船だと知っていたからなんだ。当然のことなのだから何も疑問に思わずそう考えたんだよ。船頭だけが山に上って確認して船に戻る、そんな猶予なんてないからね」
「まさか空を飛べるとか言わないよね」
「空を飛べるのなら航路で言い合いになんてならないよ。そんな非現実的なことさっき言った自然の流れに背いちゃうからね」
「みんなで持ち上げて上ったとか」
「大きな船だから難しいよね。枕木っていうのかな、あれも考えたんだけどもし追われている場合持ち上げたり押したりしている間に追いつかれちゃうと思うとそれも違うかな」
「山に上ろうと思いついたところまではわかったけど本当どうやって上ったの?」
「最初は海風と櫂を使って上ろうと思ったけれど櫂が船の重さに耐えられない。そもそも櫂で船を陸地を進ませるのは無理だろうね、櫂で船自体の重さを持ち上げることができるほど人の力は強くないし」
「だからどうやって上ったの、早く教えて雨崎くん」
「実はこの船、足が生えているんだ」
「気持ち悪っ」




