コウモリ
「雨崎くんは鳥と獣と蝙蝠を知っているよね」
「イソップ寓話の日和見蝙蝠の話かな」
「そうそれ。あれって鳥と獣が和解に至って蝙蝠が悪者になったけれど、実は蝙蝠は仲介をしていたかもしれないよね」
「蝙蝠は得を求めていたのではなく徳を求めていたと言うことかな」
「いや、そうなんだけどなんだか許せない」
それはきっとぼくがしたり顔だからだ。得意満面という言葉はまさに今この時のためにあると言っても過言ではない。今ぼくは誇る。正直どうでもいいことなんだけど、だからこそ誇る。全く上手いことは言えてないけれど、目を閉じれば聞こえる歓喜の声。そして向かいからは殺気の目。目を閉じているはずなのにわかる。目を開けることが出来ない。だって怖いから。ここはお茶を濁すのだ。粗茶ですが。
「まあ確かに蝙蝠が関わったことで長い争いが終わったわけだから敏腕仲介者だったのかもしれないね」
「そうだよ。きっと泣いた赤鬼に出てくる青鬼に近しい行動をしていた可能性はあるでしょう。蝙蝠は本当に両陣営の味方だったんだよ。そもそも一回裏切ったはずの陣営に再度仲間になっているんだよ。そんなことが出来るということは何かしらの情報か信頼があったと思うの。でも最後に嫌われているから信頼はないはず。だったら情報、弱点なりの情報を運んでいたんじゃないかな。きっとその弱点は親近感が湧くものだったらどう。相手は自分達と似ていると思うと敵愾心は薄れてもおかしくない。こういうことを繰り返して、両陣営が自主的に和解に至るようにしたの。あくまで自主的だから蝙蝠のおかげだと気付きにくいでしょう。恩に着せる気のない蝙蝠の行動、これって素敵じゃない」
「蝙蝠は初めから夜行性で戦争の仲介のために昼間に行動していたと。共通の敵になることでより和解しやすくしたと。戦争が終わればまた夜行性に戻るから嫌われても問題ないと」
「そうなの。さすが雨崎くんだね。意図の汲み取り上手」
なんかやだなぁ、汲み取り上手って。まあ褒められたことは存外悪くない。なので気の利いたことでも言ってダメ押しかな。
「蝙蝠いわく、夜に生きるぼくに喧騒は似合わない。どんな争いであろうと闇に溶かしてやるさ」
「人間性捨てたいの、雨崎くん」
ええ、普通に恥ずかしいでいいんじゃないかな。そんな深刻な症状が出るのか。そんな鬼気迫る空気にされても。いや、調子にのったぼくも悪いけど。ぼくの恥ずかしがることすら捨てられたよ。
「そうそう、雨崎くんに考えてほしいことがあるの」
「今日のぼくは調子が良い。なんでも聞いてくれていいよ」
「今日のあれで調子良いとか言わないほうがいいよ。今日はいつも以上に恥ずかしいから」
今日の栄生さんは辛辣だ。というかいつもぼくが恥ずかしいってことを今初めて知ったんだけど。こういうときも恥知らずって言うのか。恥ずかしくても厚かましくはないよね。いや、今しがた得で調子にのっていたではないか。あれこそまさしく厚顔無恥。でも恥知らずって卑怯な行動に使われるよね。ぼくは非難されるようなことはしてないよね。ちょっと落ち着け。冷静に冷静に。
「ぼくは恥を知っている。ただ気付かないだけだ」
「出てる出てる、声出てるよ。そんな堂々と人の尊厳まで捨てなくても」
深呼吸と一緒に言葉も吐き出しちゃった。本当蝙蝠と一緒に洞窟に隠れ住むしか無くなっちゃった。しかしぼくは人である。そんな逃げ方をすると獣になっちゃう。気を取りなおせ。
「それで栄生さん、考えてほしいこととは何かな」
「んっとね、鳥と獣の弱点ってなんだと思うかな」
そこは考えていなかったんだ。思いつかなかったのかな。鳥と獣ねぇ、それならば。
「きっと精神的な面だね。蝙蝠はこう言ったんだよ、敵は擬人化されることを恐れていると」
「まさかの鳥獣戯画。でも描かれている動物もいるよね」
「そいつらは徹底抗戦派だったから」




