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憎しみの連鎖

「憎しみの連鎖を断ち切るって言葉を聞くことが、ごく稀にあるけど、無理だよね。」

 訝しげにぼくは言い放つ。向かいには、きょとん顔でぼくを見てくる女子がいた。

「どうしたの、雨崎くん。いつも以上に唐突に。」

「昨日、ファンタジーのライトノベルを読んでいたんだ。それで最終決戦を前に主人公が言っていたから、ちょっと考えていたんだ。」

 栄生さんは、何を言っているんだ、って顔をしている。さっきのぼくより訝しげな表情だ。

「いやいや、だって違和感を感じないかな。連鎖を断ち切るって言いながら戦うんだよ。今回見たのはよくあるファンタジーもので、人間と魔族が争っているんだ。それで最後に主人公が魔王を倒すのだけれど、ただそれだけだと、連鎖は続くわけじゃないか。そこで連鎖を止めるにはどうしたらいいのかなと。もう個人対個人の話じゃないから、余程のことをしない限り止まらないんだよね。色々と考えてぼくが行き着く結論は、3つ。」

 ここで指を3本立てた手を栄生さんの前に出す。……あれ、なんだか呆れ顔じゃないか。これ、なんだかすごく恥ずかしいんだけど。でもここまできて引く訳にはいかない。強気で押し切るしかないじゃないか。いくぞ。

「ひとつめ、これが最もあり得そうな方法。魔族を一人残らず殲滅する。魔王の周辺を倒すだけ終わるかなと思ったけど、その倒した相手の周辺もって考えていたら、絶滅させないといけなくなるんだよね。」

 ぼくは、さも当然と言った顔で話す。向かいでは先程と変わらない表情で、蔑むようにこちらを見てくる。いや、まだ負けてはだめだ。必ず言い切ってやる。

「ふたつめ、これはなかなか考えつかなかった。憎しみの対象である人間を絶滅すること。もちろん主人公を含めてだね。規模が完全に人間対魔族になっているから、人間全員を対象にするしかなくなったんだ。主人公は自分以外の滅ぼしたあと、魔族を集めて自害するんだ。この時に『憎しみの連鎖を断ち切る』と言えば説得力はあると思うんだ。このふたつは各種族同士の諍いは知らないけど、人間対魔族は綺麗に終わるんじゃないかと。」

「それってひとつめとなんら変わりないんじゃない」

 あれ、呆れ顔になっていますよ。ぼくの熱弁は届いていますか。いや、分かっています。届いているから呆れ顔なんですよね。

「全然違うよ。まず魔王を倒すことで人間側の憎しみがなんと8割減。はっきりとした責任者がいる場合なのでそれを倒すことで精神的負担はかなり軽減されると思うんだ。大概魔王を倒すことで世界はひとまず平和になったりするじゃあないか。けれど人間側が明確に頂点いることが少ないから、最後に主人公が人の業を負って…自殺よりなぶり殺されたほうが良いのかな。どうせ人間がいなくなるなら出来るだけすっきりしたほうがより良し。」

 ちょっと主人公は可哀想だが、自分の言葉に責任をもつべきなので仕方ない。だが最後はちゃんと平和的な意見なのでご清聴お願いします。

「みっつめ。これは確実ではないが、上手くできればいいなという感じで。それは、主人公による法の整備。魔族の政治に関わること。魔王を倒す過程で強い魔族をたくさん倒しているので、恐怖政治っぽく開始できるのではないか。そこで善政を布き、人間との間に条約を結ぶという方法。問題は基本が恐怖政治であり、広く監視ができないこと、あと長く続けていられるかということかな。」

 よし、言い切った。さぁ、どうだ。この選択肢以外に何かあるのか。なかろう。ぼくは得意げに栄生さんに聞く。

「どれが一番良い選択だと思う?」

 栄生さんはため息ひとつ、深くしっかりとついて、こう返してきた。

「単なる決め台詞に意味を求めちゃうのは野暮じゃないかな。」

 確かにそうではあるが、あまりに矛盾しているので流石に気になってしまうのだ。そう思うぼくの不服そうな顔に気づいたのか彼女は続けてこう言う。

「きっと主人公は、毎日毎日生死の境に生きていたんだよ。そして最後の戦いになるのだと思う高揚感と、今回は駄目かもしれないという諦念を持ちつつ自分を鼓舞するために言った言葉だから。そうだね、簡単に言うと……ストレス発散……かな。」

 なんだそれ。ぼくは少し唖然としていた。僅かな沈黙に締まらなさを感じたのか、栄生さんが少し拗ねたようでもあり恥ずかしそうでもあり。それを少し見ていると微かに笑ってしまった。

「そうだね。いろんなプレッシャーもあるし、ストレス発散には大声を出すのが良いからね。うん、うん。」

 ぼく揶揄うように言うと、さらに拗ねたような表情をした。楽しい。それに、ほんの少しだけど手を伸ばしそうになった。撫でてみたいという欲求を、生まれて初めて抱いた。動物を飼う人の気持ちがわかった。

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