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現実的に彼がいない日々は


 ひとつ、担当医から釘を刺されたことがある。


昼寝は極力回避してという話だ。


 なぜかというと、これだけ眠れない状態での仮眠は仮眠じゃなくなってしまうから。


仮眠は短時間の睡眠で、本当に必要な睡眠の邪魔にならない程度のもののはず。定義的には。


けれど、あたしのような状態の人が仮眠を取れば、何時間か眠ってしまう。


 仮眠をするなら、せいぜい長く寝ても30分が限界。


それ以上は仮眠としては寝ないようにと、しっかり釘を刺された。


そして今回やめることになった投薬の話を、世間話のついでみたいに話してくれた。


 あたしのような病気の人が飲むことになる薬というのは、神経遮断薬に該当するものだと。


その言葉を聞き、薬を飲んでコトンと気絶したように寝落ちた自分を思い出していた。


 すこし前のめりになって話を聞こうとするあたしに、担当医がそれまでの厳しい顔つきからすこしだけ表情が和らいだ気がした。


その表情にホッとしつつ、話の続きを待つ。


 お腹が下りやすい人たちが愛用する、山吹色のパッケージに黒い丸薬。アレについてだ。


状態を改善というよりも、下ってしまう状態のスイッチをパチンとOFFにする。それが遮断だ。


お腹が下るということは、体に良くないものがあるから体外に出そうという働きがあって、そうなったはずで。


熱が出るのだって、体内で細菌と戦っているから熱が出るという話を聞いたことがある。


それと同様の話だ。


 なのに、下るな! と強制的にスイッチを切ってしまうのが例の丸薬だ。


だから、根本治療にはなっていない。


下る状態だけ止める。原因さておき、で。でもお腹を壊した人からすれば、ひとまず落ち着くために必要な薬だ。


 話を戻すと、あたしのように眠れない人には眠れない何かしらの原因がある。なのに、ひとまず眠れるようにして、眠れない状態をOFFにする。原因さておき、で。


 ただただ眠りたいだけというんじゃなく、あたしの場合は睡眠障害をどうにかしたい=治したい気持ちで訪れていた。


治したいと思っている人には、それを支える治療をすべきと担当医は考えていた。


治そうとする=自分と向き合おうとしていると捉え、自分と自力で向き合えるかどうかを観察しつつ見極めてくれていた。


 あたし自身が薬を使うのは怖いと思っていたのを担当医に伝えていたのも、判断材料の一つになっていたよう。


それでも一旦伝えなければと、行動に出ただけだったっぽい。


その前提ありきで、投薬で一時しのぎのように眠れるようにするんじゃなく、時間はかかれども意味を持つ治療の方向でと。


 最初のクリニックを訪れた時には、命の危機があったからその選択は最適解だったと思うとも担当医は言う。


三か所目のそこを訪れた時には、その状態は抜けているとも思えたので、治療方針を決める判断材料集めでいろんなことをしたんだと。


 そんな余談みたいな感じで話をして、次回の予約は無しになった。


見放されたとかじゃなく生活改善で様子見をすることにもなったので、ひとまずはそれで継続していこうと。


 様子見だけでいいと思える状態まで持っていけて、あたし自身もホッとした。


 睡眠障害含め、心の病気に完治したと見た目で判断はしにくく。


線引きをするのもかなり難しいのだろうと、素人なあたしは思った。


プロである担当医が生活改善を心がけてと患者に伝えても、本当にそれを継続するか否かは本人次第。


そのあたりも想像しつつ、担当医の表情をまっすぐ見ながら思ったこと。


あたしに指示を出すだけで様子見をと、ある意味“まかせて”くれた事実が嬉しかった。


ホッとしただけじゃなく。


そして、そこまで自分が近づけたことも。


 ブログを書くこと、小説を書くこと、その流れで編集さんに自分が書いたものを読んでもらっていろんな指摘をもらうこと。


どれもが治療につながるから、がんばって自分と向き合ってごらんね? と。


担当医は、笑う。


「いつかあなたが書いたブログを見てみたいけどね。……自分の傷や心の痛みの原因と向き合うことは、本当に痛みを伴うから嫌がるものなんだよ。みんな。でも……自ら、痛みの原因を見ようとするんだよね。あなたは」


 なんて言いながら、面白いものか意外なものを見たような表情をしてた。


 カウンセリングがもうすぐ終わる頃合いに、前回の号泣以降で起きていた生活の変化について報告漏れがあったので話した。


 彼が障害者になって、書類やいろんなサポートの一部をやっていたことのその後の話だ。


 こちらがかかわらなきゃ回せないことはかなり減っていたこともあり、施設の方や長女にも若干の協力をお願いして、あたしが出なきゃいけない回数を極端な程に減らせた。


連絡も、本当に必要なことのみ。電話じゃなく、ラインなどのツールで文字が基本。


どうしても必要にかられて代理で役所などに出向くものがあれば、施設の方と相談をして分担。


 ラインなどのツールでの連絡も、お知らせがチラッと見えたら急ぎかどうかの判断をして、場合によっては時間をずらして返信。


即レスすると相手をしてくれると思われて、いつまでも送ってくるのが分かったからだ。


 身動きが取れなくなったことで、交友関係もかなり狭くなってしまい、誰かと話すことが減った彼。


施設の職員と話すことがあっても、同じ施設にいる他の人と積極的にコミュニケーションを取るような性格ではない。


 それまでもあたしを介して誰かと繋がることが少なくなかったほど、人と話すキッカケの場を自力で作れない彼。


話さないと、舌の動きが鈍くなりがちになるので、脳の障害を抱えている彼には会話は実は重要。


だから、電話に付き合うとかもした方がいいと知ってても、施設の方に丸投げをした。


 施設の方にも入居時の手続きの際に、彼とは距離を置くことを決めていると伝えて協力を仰いでいたのもあってか、コッチにその類の用事で電話が来ないようになってきていた。



 彼のことを愛しているんだよと言われ、第三者の担当医に思いきり心を揺さぶられたあの日。

愛してなんかいないと、泣きながら訴えたあたし。


ダラダラと向こうの願いだけを叶えるがために電話だラインだと付き合い続けるのは、眠れないままでいいと言ってるようなものだった。


原因にいつまでも関わろうとしているのだから。


 眠れるようになりたい、助けて。


そう言っておきながら、原因はそばに置いたままでもいいですか? と言ってるようなもんだ。


いわゆる、矛盾でしかない。あべこべだ。


それを自分の中でも反芻した。


「彼が生活の中にいないようになって、生活は変わったかい」


 担当医にそう聞かれて、視線を右上に向けて考えて。


「彼がいなくても生きられるなぁ、と。便秘も劇的に改善されて、以前よりも出るようになりました。それと笑う回数が増えた気がします。眠れていないのは変わらないんですけど、これまでになかったものがあるようになりました。彼がそばにいたらゆっくり見られなかったテレビを見たり、好きな本を読みたいタイミングで読んだり。子どもたちと好きなアニメや芸能人のことで、きゃっきゃ騒いだり。以前なら、そんなことをしている傍には彼がいて、彼の反応を気にしながら会話したりしていた部分があったので。気兼ねなく見たいものを見て、話したいことを話す。すごく……楽です」


 大きな子どものような彼を、可愛いとか思える時期はとうに過ぎてて。


自分を助けてほしいと、これ以上、傷つけないでと訴えても、彼には日本語が通じなかった。何語で話せばいいのかわからなかった。


 彼が言う、好きだからこう思う、こうする、だからそれを見て俺の気持ちを理解してというモノは、ただの押しつけでしかなかった。


 恋愛も結婚も、一人では出来ない。


片方だけの感情で成立しても、片方しか満たされない可能性がある。


片方だけが幸せになっているところを見て満たされる人も、もしかしたらいるかもしれないけれど、それもごく一部。


 独り善がりな付き合いには、もう……かかわりたくない。


そう思ったのも、彼と本当に距離を置こうと動けた理由の一つだ。


 おかしな方向性の母性本能を発揮して、甲斐甲斐しくあれもこれも手を出し、お世話をし。


その結果、嫁に甘えるのが当然な大人が出来上がってしまった。


それに、母性本能だけじゃなく、頼られたり甘えられる自分がいなきゃ怖かった部分もあっただろう。


ある意味、共依存だったんじゃないだろうか。


 そこから抜け出なきゃ、いつになっても彼の幻から逃げられない。


そこまでの状態に持っていけたことを、あたし以上に担当医が喜んでくれ褒めまくってくれた。


 その環境こそが、睡眠負債を減らし、睡眠の質をあげるのには必要な最低条件でもあったから、なおのこと。


 褒められながら終わった、四回目のカウンセリング。


次回の予約は、再確認しても無しのまま。


前回とは違って、顔をしっかり上げてクリニックを出た。


 その後は二度ほどクリニックを訪れて、状況報告をして、軽く談笑する感じで終わり。


睡眠障害の中でナルコレプシーというものがあり、その病気について治療をするなら他の病院にという話があがった。


プラス、マイナンバーカード云々の関係で、そのカードを持ち合わせていないあたしは他の病院に転院を勧められる流れに。クリニックのシステムの都合で、転院を勧められた格好だ。


 投薬する状態はとうに抜け、生活改善の最中。ただ、ナルコレプシーという病気の疑いが残っていることもあり、他へとなっただけの話。


 ナルコレプシーという病気の疑いがあったのは、例のその辺で寝ちゃう案件。


自転車にまたがったままとか、配達をしている最中にとか。


担当医と話し合いをし、ちゃんと検査をした方がいいよという話になりました。


 担当医がナルコレプシーについて結果的に後回しにしていたところはありますが、眠れない原因に向き合うのが先決となったのでこれまでの流れだった。


 ナルコレプシーという病気は、過眠症と言われるものの一つなんだとか。


寝ちゃいけない場面でも、抗えずに眠ってしまったり。


よく聞く話だと、まわりからいい印象を抱かれないことが多い病気で。だらしないだの、寝不足だなんて体調管理できてないんじゃないだの、不真面目だの言われがちらしい。


 別に寝たくて寝ているわけじゃないのに。コントロールしたくても出来ないのに。それを理解してもらうまでが、なかなかに骨が折れると書かれていたのを見ました。


 その状態が就活に大きく影響を与えていることもあり、ここまで生活改善の準備段階に入れたのなら、今度はそっちの治療をという話でもありました。


市内にあるクリニックで、その検査が可能な場所宛ての紹介状を書いてもらいました。



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