仕返し 2
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
藤林は笑った。しかしそれは『仕返し』を出来たことを喜んでいるのではなく『殺し』を楽しめたことによる笑いだった。既に殺しの快楽を手に入れてしまったことによって彼の理性と自我は崩壊していた。
『モット…コロシタイ』
そんな思いを満足させるため校舎に残っている生徒、教師を殺そうと階段に向かって歩き出す。
「可哀想に…」
不意に後ろから声が聞こえ振り返る。先程まで生きている人間は誰もいなかった場所に他校の制服を着た少女が立っていた。ふと藤林は少女と目があった。その目は強い意志を秘めた金色をしていた。
「人は追い詰められると妄想を創り、閉じ籠る。自分だけならいい。でも他人を妄想に巻き込むのを現実は許さない。だから現実はそれを裁く。それが私達代行者の役割」
かろうじて人の姿を保っている藤林に少女は諭す様に話しかける。
「う…ァァぁ?」
言葉もまともに発することも出来ない、醜い姿で藤林は引きずる様にして少女に近づく。
「安心して。現実は決して美しくないけど歪んではいない」
少女は目の前に来た彼を優しく抱きしめた。
「ガァァ…」
「…っ」不意に少女が痛みに耐える様に顔を軽くしかめた。見れば藤林はそんな少女の肩に牙を突き立てていた。だがその目には涙が浮かんでいた。
「怖くないよ」
少女は痛みに耐えながら少年の頭を優しく撫でた。すると彼の牙は少しずつ緩む。
「辛かったんだね。寂しかったんだね」
数秒後、藤林は元に戻っており心地よさそうに少女の腕の中で目の端に涙をうかべながら幸せそうに寝ていた。そのことを確認すると少女は周りを見渡した。辺りにはかつて人だったモノがバラバラになって散らばりコンクリートの床を紅く染めていた。
「…また間に合わなかったなぁ」
そう呟く顔はひどく悲しそうだった。
屋上に続く扉を後ろ手で閉めると少女は深い溜め息を一度つく。途端に彼女の目は輝きを失い金色から黒目に代わった。それから伊達眼鏡をつけ長い髪を髪留めで後ろに一つにまとめ、橋本郁恵に戻った。
「うん」
戻って一呼吸すると携帯電話を取り出し登録されているメモリから『世界』と表示されている番号へ電話をかけた。数秒後、相手に繋がった事を確認してから携帯電話を耳に近づけ話し始める。
「…うん、まだ初期発症だったから簡単に済んだよ。…回収?ちゃんとしたよ。何でそんなこと訊くの?…酷いなぁ、いくら私でもそれくらいは忘れずにやるよ」普通の女子と同じように表情を変わり笑うがふと陰りが出る。
「…また間に合わなかったよ。また助けられなかったよ」
暗い表情のまま話す少女に電話の相手は「しかたない」と言葉をかける。
「分かってる。分かってるけど…うん…うん、分かった。じゃあまたね」




