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バロック  作者: 呉武鈴
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仕返し 1

「ゴミがあったらこんなかに入れてくれよな」

髪を茶色に染めた男子(便宜上以下〈不良〉)数人が学校指定の通学鞄を手にクラスの生徒一人一人の所を周りゴミを入れるように促している。クラスの生徒達も苦笑、無表情、嘲りを含んだ笑みで鞄に様々なゴミを入れていく。数人はゴミを入れずに無視するか「ない」と言って断るが不良達は「ノリが悪い」やら「つまんねぇヤツ」など知的センスの欠片もない言葉を吐き捨てる。鞄にゴミが溜ったのを確認して本来の持ち主の元に返す為に鞄を持っている不良が自分達のリーダーに目で合図をする。その合図を受けて数人を顎で促して一人の生徒の所に歩きだす。

「ほれ藤林。貧乏人のお前の為にゴミを集めてやったぜ」

「あ、ありがとう」

藤林と呼ばれた生徒は不良達相手にオドオドしながら一応礼を言った。

「気持ちがこもってねぇなぁ。地面に頭を付けながら言えよ」

リーダーの言葉に周りの不良達が下卑な笑いをする。その時チャイムがなるが不良達の笑いは止まらなかった。


次の日

「あれ?」

体育の授業が終わり更衣室に戻ってきた藤林の制服一式がなくなっていた。間違いなく自分の番号のロッカーに入れたのを覚えているのでなくなることはない。結論から誰かに盗られたのだ。

「おい藤林」

どうしたものかと考えていると後ろに不良達がにやつきながら集まっていた。

「お前の制服汚かったから洗濯してやったよ」

そう言いながらびしょ濡れになった制服を藤林に投げつける。彼は半分泣きそうになりながらも制服を着始めた。


教室に帰ると次の授業のために教科書を取り出すために鞄を開く。しかし中には教科書は一冊も入っていなかった。代わりにバラバラにされて内臓が剥き出しになっている猫の死骸が押し込まれていた。


「今日はいくら持ち合わせてるのかなぁ、藤林ちゃ〜ん?」

LSTが終わった直後に藤林は不良達によって半分引きずられるように屋上に連れ出された。

「な〜に。俺達も鬼じゃない。身ぐるみ全部剥ぐわけじゃない。財布さえくれればいいんだよ」

月の始めに必ず恐喝と言う名の『おねだり』をするが下手すれば財布だけでなく売れば金になりそうなモノまで盗られてしまう。そうじゃなくても制服の下に新しい痣ができるのは確実だろう。

「…はい」

だが下手に逆らって怪我を増やすのは嫌なため藤林は財布を不良達にさしだした。

「よしよしいい子だ…ってたったこんだけかよ」

そういって財布を受け取った不良が周りの奴らに財布の中身を見せる。中には100玉が数枚入っているだけだった。

「てめぇ…金入ったら俺らに寄越せって言ってんだろうが!」

予想外の少なさに苛立ちながら一人が藤林の腹を思い切り蹴りとばす。

「ぐぇ!」

情けない声と共に藤林の体が折れ曲がる。そのまま膝をつくとそのまま胸を蹴られる。

「ナメてんじゃねぇぞゴラァ!」

その台詞を合図に一斉に不良達は藤林の体を蹴り始める。面白半分に軽く蹴るもの、自分より弱いヤツにナメられたことによって半ば本気で蹴るもの、ただストレス解消のために力一杯蹴るもの。不良達一人一人が様々なことを考えながら蹴るが全員の結論は決まっていた。

『俺達に逆らえないように痛みつける』


(どうしてこんな目に会うんだ)

朦朧としてきた意識の中で藤林は思った。中学の時にいじめられてた彼は中学の同級生が誰も進学しないようなこの学校を選んだ。しかし入学早々、不良達に目をつけられ半年以上このような生活は続いている。

(自分達がこんな目に合ったことがないから出来るんだ)

そう思うと仕返ししてやりたくなった。


トクンッ


体の底で何かが動いた。

(傷ついてみればわかる)


トクンッ…トクンッ


それは少しずつ大きくなっていく。

(傷つけるだけじゃダメだ)

トクンットクンットクンットクンッ


思考が『仕返し』から離れなくなる。今自分を傷ついている奴らに自分以上の痛みを、苦しみを与えることしか考えなくなった。

(コロシテモ、ダレモ、キニシナイ。コロサレテ、トウゼン、ナンダカラ)


ドクンッ!


それは悪意、害意、敵意、そして殺意の塊だった。



「ハハ…」

「あん?何笑ってんだよ!」不良が蹴ろうとするがその足は藤林に当たらなかった。それどころか足だけ遠くに飛んでいった。

「…は?」

何が起きたか分からない不良だがバランスを崩し倒れると同時に飛んでいった自分の足から赤黒い液体が吹き出しているのを見て自身に何が起こったか理解した。

「ギャアァァァアア!?」

その叫びによって異常に気付いたのか不良達はたじろぐ。

「同じイタミを…それ以上のクルシミを…」

「うるせぇ!!」

そう言いながら立つ藤林に一人が掴みかかろうとした。だがその手は彼に届かず潰れた。

「おい見ろよ…!」

一人が他の奴らに回りを見るように促す。

「なんだこれ!?」

屋上は黒いモヤに包まれ外界と分離されていた。

「キミタチも…アジワッテゴラン」

その言葉に不良達は初めてこの状況に恐怖を抱いた。

「う…うわぁぁぁぁ!?」

校舎に続く扉に一番近い不良が逃げようとするが足が折れる。それでも這いつきばりながら進もうとするが手が捻れる。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

次々と潰れ、千切れ、捻れ、折れ曲がっていく不良達を見て彼は今まで誰にも見せたことも聞かせたこともないほど笑った。

そのうち彼の体に変化が現れた。まず初めに口が大きく裂け始め収まりきらないほど大きい牙が見え始める。そのまま髪が伸び薄い茶色から夜よりも深い闇色に代わる。腕は太く伸びダランと垂らすと手の平が地に着きそうになる。かろうじて人型をとっているが異形と化した藤林を見るのは仲間が死体になっていくのを無傷で見守っていたリーダーしかいなかった。

「キミはチョクセツ、ツブシタイ」

「ひっ…!」

逃げようとするが恐怖を抱き無様に尻餅をついてしまう。必死に距離をとろうとするが上手く下がれず、狭まっていくばかり。

遂に目の前に来た藤林を見上げ、恐怖のため失神してしまった。しかし彼は幸運だった。


痛みに気付かずに逝けるのだから。


そして藤林は気を失った彼の頭を掴むと何の躊躇もなく握り潰した。


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