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消せない  作者: ココ
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悪女の安眠剤

「・・・。」

教室の留守番を頼まれた一条は神崎を待っている間何をして暇をつぶそうか考えていた。ノートを届けに来ただけの為、勉強道具など持ってきていない。机の上に本が置かれていたため手に取る。神崎のものだろうが読むくらいいいだろうと思い借りて読むことにした。寝ている生徒のソファの向かいの椅子に座った。生徒は反対側を向いているため、顔は見えないがすぅすぅと寝息が聞こえる。特に気にせず、一条は本を開き読み始めた。


「・・・?」

しばらく集中して読んでいると苦しそうな声が聞こえたため顔を上げる。目の前の生徒がうなされているようだ。あまりにもくるしそうな声のため一条は心配になり生徒の眠るソファに近寄った。


「うう・・・」

生徒の顔を覗き込もうとするが長い髪で顔が隠れていてよく見えない。


「おい。大丈夫か?」

とりあえず起こしてしまった方が良いだろうと一条は声を掛けた。


「うう、いや・・」

生徒は苦しそうに体をひねらせた。

その為、今まで見えなかった生徒の顔があらわになった。


「・・・!!」

一条は目を見開いた。目の前で苦しそうにうなされている生徒が峰結衣子だったからだ。


「うう、うぅ。たすけ・・・て」

結衣子はまだうなされている。あまりにもくるしそうな声と表情に一条は困惑してその場から離れることが出来ない。もしただ寝ているだけであったなら一条は即座に教室から出て行っていたであろう。


「やあ・・・いや・・・・・・」


「・・・お、おい」

ひどく苦しそうな結衣子の声に一条は迷いながらも声をかけた。


「うう、助けて・・・。」


「・・・おい、起きろ。」

悪夢のせいか、身をひねり何かから逃れようとしている結衣子の肩を掴みゆする一条。


一条が肩に触れた途端、びくっと身体を震わせ動きを止める結衣子。その反応を見た一条は拒絶されたと思い、結衣子の肩から手をはずした。


「・・・洸?」

その声はか細く、とても小さなものだったが一条にははっきりと聞こえた。起きたのかと思ったが、結衣子の目は遠くを映している。それを見て一条はまだ結衣子が夢から覚めていないことがわかった。


「・・・洸?・・・洸?・・・洸!!」

一条が何も返さなかったからか、結衣子は不安げに一条の名前を何度も呼んだ。結衣子は見ているこっちの胸が痛くなるほどに悲痛な表情をしている。今にも泣き出しそうで置いて行かれた子供のようだった。


「・・・。」

そんな結衣子に一条は信じられない思いだった。今の目の前にいるこの女は本当に峰結衣子なのか。こんなに心細そうにしかも自分の名を呼んでいる。ありえない出来事に一条が固まっている間も結衣子はまだ自分の名前を呼んでいる。探しているのだ、自分を。結衣子が自分のことを。そして結衣子に名前をよばれるたび、ありえないほど動揺している自分に、一条はさらに信じられない思いだった。


一条がそんな風に信じられない思いで結衣子を見て固まっていると

狭いソファでもがき続けていたためか、態勢を崩し結衣子の身体が急にぐらりと揺れソファから落ちそうになった。


「っ!?お、おい!!」

慌てて一条は結衣子の身体を支えた。抱きしめるような体制にまたも動揺してしまう。だが結衣子の身体の軽さに一条は目を見開いた。腰なんて折れてしまいそうなほどだった。留学に行く前はこれほど痩せてはいなかった。以前が太っていたわけでなく、むしろ以前だって痩せていたはず。きちんと食べているのか、と思わず心配してしまう。


「・・・洸?洸・・・。」

そんな一条に結衣子は不安げにまた名前を呼んだ。


「・・・そうだ。」

結衣子の身体が震えていることに気付き、一条はためらいながらも返事をした。


「・・・洸。洸・・・やっと来てくれた。やっと助けにきてくれた・・・。やっと、やっと・・・!」

結衣子は目から大粒の涙を流した。子供のようにひゃくりをあげなら一条の胸にすがりつきひっくひっくと肩を揺らす。


「・・・結衣子。」

結衣子の身体はまだ震えている。涙のせいで化粧が落ち目の下の隈があらわれた。それを見て一条はまさか毎晩毎晩こんな風にうなされて自分のことを呼んでいたのかと思った。そう思うといてもたってもいられず一条は結衣子の身体を抱きしめた。子供をあやすように背中をなでたり頭をなでたりした。


「・・・洸。」


「どうした?」


「・・・やっと、信じて・・・くれ、たの」

結衣子は言い終わる前に泣き疲れたのか寝てしまった。自分の胸ですぅすぅと先ほどとは大違いのおだやかな安心しきった顔で眠っている。だが、その頬の涙の跡と泣き過ぎた目の腫れを見て一条は思わず・・・


「君は・・・俺を裏切ったんじゃ、ないのか?」

思わずそう呟いた。自分の呟きにハッとして否定しようとするが自分の胸で寝ている結衣子を見ると、もう以前のようには否定できない自分がいることに気が付いた。

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