後悔
残された和泉たちはなにも言わず結衣子と楓の背中を見送った。
食堂から出て行き、姿が見えなくなってもそのまま出口のほうをしばらく黙って見つめていたが、和泉が力なくソファに座った。そんな和泉を見て凛も静かに椅子に座った。二人は何も言わなかったが慎之介が立ったまま二人に向かって口を開いた。
「しんみりしちゃって。そんなショックだったわけ?」
「・・・。」
和泉は何も答えない。
「・・・ショックだよ、やっぱり。」
そんな和泉のかわりに凛が答えた。
「でも凛言ってたじゃん。昔も今の結衣子ちゃんも大好きーって。」
あれは嘘なわけー?と慎之介は言った。
「・・・ショックなのは、何も知らないことだよ。」
首を振りながら凛は力なく言った。
「知らない?」
慎之介は凛に聞き返した。
「なんで結衣子がああなったか、なにも知らない。」
凛は椅子に足を乗せ体育座りしながら言った。
「結衣子ちゃんなにもないって言ってたじゃん。」
慎之介が凛に言った。
「そんなはずはない。」
黙っていた和泉が口を開いた。
「僕もそう思うよ。留学に行く前の結衣子が嘘だなんて思えない。僕たちを騙していたとも思えない。」
凛は足に顔をうずめながらそう言った。
「じゃあ、洸が嘘ついてるってわけー?」
少し不機嫌そうに慎之介が言った。
「・・・いや、そうとも思えない。」
和泉は慎之介の言葉を否定した。
「でも僕はやっぱり洸の誤解じゃないか、と思うんだ。」
顔を上げ凛はそう言った。
「誤解?二人はずっとそう思ってたわけ?」
不機嫌そうな顔を不思議そうな顔に慎之介は変えた。
「ああ。だけどあの頃洸に何度もそう言ったが、洸は聞く耳を持たなかった。」
ため息をつき和泉が言った。
「しかも挙句の果て、僕らのことも疑い始めちゃうし。」
凛が困ったような顔をして言った。
「凛たちを?」
慎之介は目を丸くした。
「俺達が結衣子をかばうのは、俺達も結衣子と関係を持っていたからじゃないかって。」
「僕たちが結衣子をかばえばかばうほど、結衣子に対する洸の態度はひどくなっていったんだ。」
その時のことを思い出しているのか凛はつらそうな表情をしている。
「そんな洸にそれでも結衣子は信じてほしい、と泣きながら言っていた。だが洸は結衣子の言葉を信じなかった。」
和泉を顔をしかめ、そう言った。
「結衣子は学園を休むことが多くなった。しかも急に留学に行っちゃって。・・・僕たちにも何も言わず。」
かなしそうに凛が言った。
「二人にも留学のこと言わなかったわけ?」
慎之介は意外そうな顔をしている。
「ああ。俺達が知ったのは結衣子が留学に行ってしばらくしてからだ。休みつづける結衣子が気になって結衣子の担任に聞いたら教えてくれた。俺達が知らなかったことに驚いていたよ。」
和泉は力なく笑った。
「・・・結衣子は僕たちのこと恨んでるかも。」
ぼそっと凛がつぶやいた。
「え?」
慎之介はその声を聞き取った。
「・・・そうだな。」
「僕たち何もしてあげられなかったから。」
「でも二人は洸に誤解だ、って言ってたんでしょ?」
「それだけだ。結果それも洸にとっては逆効果だったしな。」
「それで洸に僕たちも疑われ始めたとき、結衣子は僕たちに言ったんだ。自分のことは気にしなくていいって。自分のそばにいたら余計疑われてしまうって。結衣子自身もこれ以上疑われたくない、と言って。それを鵜呑みにして僕らは結衣子のそばから離れちゃったんだ。峰家だから、他の生徒は結衣子に何もしないだろうと思った。実際そうだった。でもありもしない噂話とかそういうのはたくさんあった。結衣子も気付いてて傷ついてたと思う。」
凛はギュッと手を握った。
「・・・。」
慎之介は黙って凛の話を聞いた。
「俺達は、結衣子が留学に行ってしまってから後悔した。もっとなにかできたんじゃないかって・・・。」
「だからね、結衣子が帰ってきたら全力で守ってあげようって。出来ることはなんでもしようって・・・。でも結衣子は僕たちをもう信頼してくれてない。」
無理矢理作った笑顔で凛は言った。
「別にそんなことはないんじゃないの?」
慎之介はそう言ったが、二人は否定した。
「いや、現になにも俺達には言ってくれなかっただろ。俺達には何も話してくれない。」
「・・・情けないな本当。大切なのになにもできない。」
「ふーん。俺は結衣子ちゃんに今日会ったばっかで信頼もなにもされてないだろうけどさー、うざいくらい絡み続けて本音聞けるくらい仲良くなっちゃう予定だけどねー。」
慎之介はへらへら笑いそう言った。
「・・・。」
和泉は顔を顰めた。
「・・・無理だよ。」
凛は慎之介から顔をそらした。
「出来るよ。してみせる。本気でタイプなんだよねー結衣子ちゃん。一目惚れかもー。」
自信満々にそう言った。そんな態度が気に食わなかったのか二人とも慎之介を睨んだ。
「・・・簡単に言うな。軽い気持ちで結衣子を傷つけてみろ。絶対ゆるさねぇぞ。」
低い声で和泉は言った。
「僕も同じだ。結衣子を傷つけたら慎之介でもゆるさない。」
「だから本気って言ってんじゃん。二人ともそう言うけどさ、結局またなにもしないんじゃないの?」
慎之介は馬鹿にするように言った。
「っ!黙れ!!」
和泉は慎之介に掴みかかった。
「・・・だってしょうがないでしょ!僕らには何も言ってくれないんだ!」
凛も泣きそうな顔をしてそう言った。
「だったら、聞けばいいじゃん。教えてくれないなら教えてくれるまで聞けばいい。嫌われたって、しつこく聞けばいい。どうせ恨まれてるって思ってんでしょ?嫌われるくらいもう大したことじゃないでしょ。」
和泉に胸元をつかまれながら慎之介は冷静に言った。
「・・・お前になにがわかる!簡単に言うな!」
「別にじゃあいいんじゃない?何もしなきゃ。俺はどうでもいいし。」
ため息をつき呆れたように言った。
「・・・。」
凛は黙って二人を見ていた。
「ていうかさー、またここがどこか忘れてるでしょ。大声だしてさー、聞かれてるよ。」
周り見てみなって、と慎之介が和泉の手を叩きながら言った。
もうあまり食堂に残っている生徒はいないが、それでもちらほら残っていた。
「・・・チッ!」
和泉が慎之介を離し、舌打ちをして乱暴に食堂から出て行った。
「そろそろ俺も戻ろうかなー。あれ?凛は戻んないの?」
掴まれたせいでしわになっている制服を伸ばしながらそう言った。
「・・・慎之介は結衣子に嫌われるのがこわくないの?結衣子の本音聞いて守りきれなかったらって、思わないの?」
凛は小さな声で言った。
「別にー。たぶん今結衣子ちゃんの中で俺ってどうでもいい存在なんだと思うんだよねー。俺を誘ってきたのもたぶん洸の名前だしてからだし。それまでまったく俺に興味なさそうだったし。でー、結衣子ちゃんに好かれようと媚びうったり当たり障りないこと言ってたってどうでもいい人の枠からは出られないと思うんだよねー。だからいっそのこと嫌われる覚悟で聞かれたくないことも踏み込まれたくないとこも遠慮しない。守りきれなかったらとかそんなことまで考えてない。」
凛を横目で見ながら慎之介は言った。
「・・・そんなのって」
凛は顔を上げ、文句を言おうとした。
「無責任?なにも出来ないよりはマシだと思うけどね、俺は。」
凛と向き合い、そう言った。
「・・・。」
凛は何も言い返せなかった。
「終わり?じゃあ、俺もう戻るから。じゃーねー。」
手を振り慎之介は軽やかに階段をおり食堂から出て行った。
「・・・わかんないよ。」
残された凛は弱弱しくつぶやいた。




