悪女の悪事
「でも結衣子本当に変わったね。」
皆で楽しく食事していると急に凛が結衣子に言った。
「ああ、正直俺も驚いた。」
和泉も同じことを思っていたらしい。
「ふふ、そうかしら?」
結衣子は微笑みながらそう言った。
「なになにどうゆうことー?」
慎之介は身を乗り出して聞いてきた。
楓も内心興味があるようだ。凛と和泉の方を見て興味深々な顔をしている。
「だって前はすっごく恥ずかしがり屋で、とてもじゃないけどさっきみたいに大人数の前で自分の意見を言ったりなんか出来ない子だったでしょ?清楚で清純なまさにお嬢様って感じだったよね。」
だからさっきは本当に驚いたと笑った。
「そうだな。俺達も最初は目も合わせてもらえなかったしな。洸の後ろにずっと隠れてたよな。だんだん慣れてきたのか目を合わして話してくれるようになっていったけど。」
和泉は結衣子の方を向いて笑いながら言った。
「え?!超意外!!」
慎之介は目を丸くさせ驚いた。
「ゆ、結衣子ちゃんが?」
楓も想像が出来ないのか混乱した顏をしている。
「あらあら、恥ずかしいわね。」
皆に注目され結衣子は笑ってそう言った。
「でも僕は昔の結衣子も今の結衣子もどっちも大好きだけどね。」
凛はえっへんと胸をはった。
「留学でなにか心境の変化でもあったのか?」
和泉は留学でなにかあったのかと思いそう聞いた。
「わ、私も気になる!」
楓は胸の前で両手をグーにし、興奮して顔を輝かせた。
「期待しているところ悪いけれど、これといって特に何もないわ。」
結衣子は申し訳なさそうに言った。
「ふーん。よくわかんないけど、結衣子の中でなにか変化はあったんだろうね。」
「まあ、別になにもかも全部変わったわけじゃないしな。」
「でもさー、性格ってそんな簡単に変わるもんなわけー?」
慎之介はあごに手をあてて言った。
「慎之介?」
凛が不思議そうな顔をして続きをうながした。
「あー、あと気になってたんだけどさー、他の男と寝たせいで洸との婚約解消されたって本当?」
あ、これ洸からきいたんだけどねーと笑いながら慎之介は言った。
「「慎之介!!」」
凛も和泉も思わず大きな声で咎めた。
「だって、俺思うんだけどさー。結衣子ちゃんは変わったんじゃなくてもともとそういう子だったんじゃないのー?」
「もともと?」
眉を潜めつつ凛が言った。
「どういう意味だ?」
和泉は慎之介を睨みながら低い声で聞いた。
「こわい顏しないでよー。二人だって心の中じゃそう思ってたんじゃないのー?結衣子ちゃんはもともと男好きでー洸や自分たちの前では、しおらしい清純な女の子のふりをしてただけなんじゃないかって。」
足を組みなおして慎之介は言った。
「慎之介!怒るよ!!」
さすがの凛もこれには顔をしかめた。
「いい加減にしろ!冗談でもそれ以上結衣子を侮辱するな!」
和泉は怒り大きな声で怒鳴った。
「み、皆さん落ち着いてください!」
楓も頑張って言い争いを止めようと大きな声で言った。
「・・・。」
結衣子は何も言わず、ただ静かに聞いている。
「俺は別に結衣子ちゃんが嫌いとか憎くて言ってるわけじゃないよ。俺結衣子ちゃんみたいな子超タイプだし。」
そう言いつつ結衣子にウィンクをした。
「だったら、なんでそんなこと言うのさ!」
凛は慎之介がなにをしたいのかわからなかった。
「事実そうだと思ったから言ったんだよ。俺は洸が嘘をついてるとは思わない。二人だって知ってるだろ?それに今日結衣子ちゃんと話してみて正直そういうこと簡単にしそうな子だなって思ったし。」
凛と和泉とは対照的に慎之介は冷静な声でそう言った。
「そ、そういうことって?」
楓が気になりそう聞いた。
「婚約者がいたって、他の男と簡単に寝たりしそうってことだよ。そんな子が恥ずかしがり屋で清純なわけがないじゃん。だからもともとそういう性格だったんじゃない?って俺は言っただけ。」
楓の質問に慎之介は丁寧に答えた。
「お前!!」
和泉は興奮して、椅子から立ち上がり怒鳴った。
「和泉!・・・慎之介はなにを根拠にそんなこと言ってるわけ?いくらなんでも、失礼だよ。結衣子に謝って!」
慎之介に殴り掛かりそうな和泉を止め、凛は冷静にそう言った。
「根拠ねー、根拠は今日結衣子ちゃんと会って話した時の結衣子ちゃんの態度かな?」
結衣子に意味深な目線を向けつつ答えた。
「話したって・・・、結衣子と慎之介が会ったのは今日が初めてだろ!今日初めて会って少し話したくらいでなにがわかる!!」
和泉はますます怒りそう怒鳴った。
「そうだよ!」
凛も和泉につづきそう言った。
「み、皆さ・・・」
ヒートアップする彼らに楓は止めようと声をかけるが興奮する彼らに楓の声は届かないらしい。
「だからだよ。今日初めて会って初めて話した。そのとき俺は結衣子ちゃんに誘われたの。」
ねー、結衣子ちゃん!と慎之介は笑顔で言った。
「・・・誘われた?」
凛は呆然とそう言った。
「何に?とか馬鹿なこと聞かないでよー?つまり結衣子ちゃんは会って間もない人間とでも簡単にそういうことができちゃうわけ。まあ、実際はおあずけくらってんだけどね。」
慎之介はへらへらと笑いながら言った。
「嘘だよ。そんなこと結衣子が・・・。」
凛は信じられないといった顔をした。
「・・・くだらない嘘をつくな慎之介!」
和泉は慎之介が嘘を言っていると思い怒った。
「だーかーらー、嘘じゃ・・・」
慎之介は本当だ、と二人に言おうとしたがそれは結衣子によってさえぎられた。
「事実よ。」
結衣子は顔色ひとつ変えずそう言った。
「ゆ、結衣子ちゃん?」
楓も目を見開いた。
「・・・結衣子?」
凛はこわばった顔で結衣子の方を向いた。
「事実と言ったの。慎之介さんは嘘を言ってないわ。」
結衣子は淡々と言った。
「ほーらね。言ったでしょ?」
慎之介は得意げな顏をした。
「ちょっと・・・待ってよ結衣子。洸は?洸のことはもう好きじゃないの?」
凛は焦ったように結衣子に詰め寄った。
「・・・。」
和泉は黙って結衣子の答えを待った。
「どうして彼がでてくるのかしら?彼は元婚約者よ。今は関係ないわ。」
少し微笑んで結衣子が詰め寄ってきた凛にそう言った。
「そ、そうだけど!でも!」
凛は必死に言った。
「・・・なにがあったんだ、結衣子。」
和泉はやはり留学でなにかあったんじゃないか思い結衣子に聞いた。
「だから何もないってさっきも言ったでしょう。」
何度も言わせるな、と言いたげな顔だった。
「お前はそんなやつじゃなかっただろ!」
そんな態度も以前の和泉の知っている結衣子と違い和泉は混乱した。
「あ、あの!!!」
楓は突然大きな声を出した。
「どーしたの、楓ちゃん。」
慎之介は不思議そうに聞いた。
「ここがどこか忘れていませんか?大きな声で話すと下の生徒にも聞こえてしまいます・・・。」
皆から一斉に注目を浴び、おどおどしながらもそう言った。
楓の言葉でようやく皆周りのことを思い出した。下の階を見るとやはりまる聞こえだったらしく気まずそうな顏をする生徒や興味津々に聞き耳をたてている生徒、生徒同士でこそこそと話すものと、さまざまだった。
「・・・悪い。」
ばつが悪くなり和泉は顔をしかめつつ謝った。
「僕もごめん。ちょっと混乱しちゃって・・・。」
頭をかきつつ申し訳なさそうに凛も謝った。
「ふふ。」
結衣子が急に笑った。
「結衣子ちゃん?」
楓が不思議そうに結衣子の顔を見た。
「あら、ごめんなさい。・・・そろそろ戻りましょうか。楓。」
口に手をあて謝り、ちらりと時計を見ると結衣子は楓に言った。
「え、あ・・・う、うん。」
こんな状況のまま帰るのかと楓は思ったが、このままここにいても仕方がないかとも思い素直にうなずいた。
「えー?もう戻っちゃうの?」
慎之介は結衣子達に言った。
「十分たくさんお話ししましたでしょう?」
結衣子は微笑んだ。
「えー、足りないよー。」
慎之介は不満そうな顔をした。
「じゃあ、今度は二人きりで慎之介さんが満足いくまで・・・。」
結衣子は慎之介にスッと近寄り慎之介の手を握り言った。
「絶対だよー!もうおあずけは嫌だからねー?」
握られた手を顔に寄せ結衣子の手にくちづけて慎之介は笑って言った。
「わかりましたわ。それではお先に失礼しますわ。楓行きましょう。」
頷き、慎之介の手を離し結衣子は背を向けて階段を降りようとした。
「待て。」
黙って慎之介と結衣子のやり取りを見ていた和泉は帰ろうとする結衣子に声をかけた。
「何かしら、和泉?」
結衣子は振り向いた。
「・・・本当に洸のことはもう好きじゃないのか?」
和泉は静かに結衣子に聞いた。
「ええ、もちろん。」
当たり前のように結衣子は答えた。
「・・・そうか。」
そう答えた結衣子に和泉は顔を歪めて頷いた。
凛は悲しそうな泣き出しそうな顔をしていた。
そんな二人になにも言わず、結衣子は階段をおり食堂を出て行った。
楓も慌てて結衣子のあとを追っていった。




