依頼1-2
留守番!? とばあさんは目を丸くした。
「そう、留守番」
オレは米粒を口一杯に含んだまま答える。
「留守番を他人に金まで払って頼むなんて変わったお人もいるもんだねェ」
そう言ってばあさんはタクアンを口に放り込んだ。
歳はいっているが意外に歯は丈夫だ。
気づいてないようだけど、とオレは笑う。
「ばあさんだって同じじゃねェか。他人のオレをロハで住まわせて、飯食わせて、おまけに店番までさせて」
オレがそう言うと、そうだったわねェ、と口元を押さえた。
オレはこの家で暮らし始めて六年になる。
名ばかりの大学に通うためオレはこの町にきた。
なるべく大学に近い所で安い物件はないかと不動産屋巡りをしている途中でこの名も無き駄菓子屋へ立ち寄ったのがきっかけだ。。
ジュースを買って咽喉を潤しているとばあさんが気さくに話しかけてきた。
オレが部屋を探しているのを知ると、それならちょうどいい、と二階の空き部屋を唐突に紹介された。
ばあさんは旦那と娘二人と暮らしていたが、旦那に先立たれ、娘二人も無事嫁ぎ、ひとりで暮らすようになった。
長女に家を売って一緒に住まないか、と誘われたらしいが、旦那とともに愛した駄菓子屋を閉めるのは忍びない、と断ったとオレに語った。
口にこそ出さなかったが、ひとりの生活に不安と寂しさを感じていたのだろう。
娘二人に同意を求めることなくオレに半ば強引に話を勧めてきた。
オレは番犬代わりになるのに躊躇したが、結局ばあさんが提示した格安の家賃と、八畳二間を自由に使用してもいい、という言葉に惹きつけられ、ここで暮らすと決めた。
ただ、ここ二年間、大学を卒業して『なんでも屋』を開業してからは、家賃も払ってなければ、タダ飯も食わさしてもらっている。
今ではオレの恩人だ。
「たださァ、変な注文つけてきたンだよなァ」
どんな? と、ばあさんは興味深そうに聞く。
「留守番している間は音を立てず、なるべく静かに過ごしてくれ……とさ」
「テレビもダメってこと? そりゃァ~時間潰すの大変ねェ」
「先方も本でも持ってきてくれ、って言ってたよ。まァ、退屈かもしンないけどさ、ゴロゴロしてりゃァ仕事になるンだからさ」
オレはそう言って箸を置いて横になったが、ばあさんにここではそうはさせないよ、と風呂掃除を命じられた。